では本編をどうぞ。
大通りでナイトパレードが始まるのを見ながら浅葱は溜息をついた。
彼女がいるのはファミレスのボックス席だ。
浅葱の正面には先程の幼女がいる。
「お待たせしました。期間限定ブリリアント・ハロウィン・ハンバーグプレート、ライス大盛とお子様パンケーキセットです」
店員が大量の皿を持ってくると、幼女は目を輝かせる。
「ごゆっくりどうぞ」
店員が立ち去ると幼女は浅葱の方を見る。
浅葱は苦笑すると、ナイフとフォークを渡す。
幼女はそれを受けとると、パンケーキを切り分けて次々に口に運んでいく。
「おいしい?」
浅葱が自分のハンバーグを切り分けながら聞くと、幼女は勢いよく首肯く。
浅葱はそれを見ると微笑んで、そのまま溜息をつく。
(なんでこんなことになってるんだろ……)
正直なところ、この子は全く知らない。
なのに自分はその子を放っておけず面倒をみている。
きっと古城は今頃祭を満喫しているのだろう。
そんなことを考えていると、幼女が浅葱に聞く。
「ママ、怒ってる?」
浅葱はしまった、と反省する。
子供は他人の気持ちに敏感なのだ。
「ううん、怒ってないわよ。ちょっと考え事してただけ」
浅葱は笑顔で答える。
そして、ここに来るまで何度もした質問をしてみる。
「ねぇ、何か思い出した?どんな小さな事でもいいから」
しかし、幼女は首を横に振る。
何も覚えていないというと記憶喪失かもしれないと思い、最後にもう一つ聞いてみる。
「じゃあ、お母さんの名前は?」
「あいばあさぎ」
「……どうしてこうなった……」
浅葱は脱力する。
どんなに聞いてもこの返答だけは変わらないのだ。
そして、まじまじと幼女の顔を見るととある人物に似ている事に気付いた。
「ねぇ、南宮那月って名前、聞いたことない?」
幼女はまるで那月をそのまま小さく―元から小さいが―したような見ためなのだ。
幼女は浅葱を見て、呟く。
「みなみや、なつき……」
すると、幼女の目から急に涙が零れる。
「え!?ちょ、ちょっとどうしたの?」
「わからない……」
幼女は涙を流している理由が自分でもわからないらしい。
しかし、これで幼女が那月になんらかの形で関わっているのはほぼ間違いないだろう。
に、しても彼女は南宮那月に似すぎている。
(まるで幼い那月ちゃんね……幼い那月ちゃん、略してサナちゃん……あ、これいいかも)
浅葱も、ちょうど呼び方に困っていたので採用するとしよう。
「じゃあ、あなたの名前は今からサナちゃんね」
「サナ……」
「そう。名前がわからないと、呼ぶときに困るでしょ?だから、あなたが本当の名前を思い出すまでの仮の名前ね」
浅葱がそう言うと、幼女の顔に小さな笑みが浮かぶ。
それにしても、どうしたものか。
この子を自宅につれていく訳にもいかず、警察も恐らく先程の騒ぎでほとんど機能していないだろう。
(モグワイを使うわけにもなぁ……)
浅葱が悩んでいると、サナが時折パレードを見ている事に気付く。
「パレード、見に行く?」
浅葱が聞くと、サナは嬉しそうな表情をして、パンケーキを食べ終わらせようと慌てて頬張る。
そんなサナを見て、浅葱は肩をすくめる。
「まあ、可愛いしいっか……」
同時刻、MAR。
霊斗達は研究所の敷地内を歩いていき、円筒形のビルの前に着く。
「アスタルテ、抱っこ」
「はいはい。霊斗さんは甘えん坊ですね」
アスタルテが霊斗を抱き上げ、霊斗が静脈認証のパネルに手を触れる。
すると、玄関の鍵が開く。
「アスタルテ、開けてくれ」
「今開けますね」
「霊斗がどんどん幼児化していくな……」
古城の一言に睨みで返すと、霊斗は玄関の中に入っていく。
「先輩と霊斗さんのお母様に会うんですか……」
「な、なんか緊張するわね……」
「なんでお前らが緊張してんだ?」
「「き、緊張なんてしてないと思った!」」
「思った?」
「やけに客観的だな」
古城と霊斗に指摘されて真っ赤になる雪菜と紗矢華。
そして、エレベーターに乗り、目的の階に着くととある一室の前に行く。
そして霊斗は呼び鈴を鳴らす(アスタルテに抱かれて)。
『はいはーい、暁でーす』
「やけに若作りした声はいいから開けてくれ」
『あ、霊斗君?今開けるねー』
すると、ドアの向こうで慌ただしく走り回る音がした後、鍵が開く。
霊斗が警戒しながらドアを開くと、巨大なジャックオランタンが飛び出してきた。
「ばあっ!」
「「きゃぁぁぁ!?」」
「おらぁっ!」
「きゃっ!?霊斗君!なにするの!」
霊斗がカボチャを殴り割ると、中から童顔の女性が現れる。
「もう、霊斗君のせいで台無しじゃない」
「あんた何歳だよ」
「私だって波浪院フェスタ行きたかったーっ!」
「あーはいはいわかったわかった」
「わかってないじゃない!」
霊斗に適当にあしらわれた深森は古城の方を見る。
「あら?古城君、その子達は?」
深森は古城に邪悪なほどの笑みで聞く。
古城は冷や汗をダラダラとかきながら答える。
「ああ、こっちは凪沙の友達の姫柊で、こっちは霊斗の仕事仲間の煌坂」
「なに?古城君二人とも貰っちゃうの!?もう(自主規制)とか(放送事故)とかしちゃったの!?私おばあちゃんになっちゃう?」
「そっちの言葉を覚えたばっかでやけに使いたがる小学生かっ!」
霊斗が深森の頭をはたく。
すると、部屋の奥から凪沙が現れる。
「あれ?古城君に雪菜ちゃんにアスタルテちゃん?」
「ああ凪沙よ、ついには兄の片割れを無視するのかい?反抗期かい?」
「え!?霊斗君!?なんでちっさいの!?」
さらに凪沙の質問攻めが炸裂する。
「ってユウちゃん!?血まみれじゃん!あれ!?その人前に会ったことある!?」
凪沙が紗矢華に詰め寄る。
「あなた、古城君とどういう関係なんですか?」
まあ、そりゃそうなるよね。
「紗矢華、凪沙を頼む」
「ちょ、霊斗!?あんたっ!覚えてなさいよーっ!」
凪沙が紗矢華を引きずって行く。
「まあ、きれいさっぱり忘れるけどな」
「それでいいのか」
清々しく笑う霊斗にツッコミを入れる古城。
しかし、霊斗は真剣な顔で深森に言う。
「優麻を診てやってくれないか。優麻は魔女で、母親に守護者を奪われた」
「応急手当てはしてみるわ。雪菜ちゃん、研究所の方に運ぶのを手伝ってちょうだい?」
「あ、はい」
深森が雪菜を連れて優麻を運んでいく。
だが、途中で振り返り、言う。
「クローゼットの奥に救急箱があるから。治療しちゃいなさい」
古城は一瞬驚いたような表情をしたが、首肯く。
霊斗達はリビングに取り残された。
「古城、包帯くらい巻いとけよ」
「ああ。わかってる」
古城の胸元は、自身の鮮血でべっとりと濡れていた。
課題やだぁぁ!
まあ、がんばりますよ……。
ではまた次回!