ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~   作:緋月霊斗

56 / 127
今回からまたメインストーリーに戻っていきます。
では本編をどうぞ。


観測者の宴編
観測者の宴編Ⅰ


藍羽浅葱はキーストーンゲートの隔壁を潜った。

「はぁ……疲れた……」

つい先程まで、この建物の屋上にはメイヤー姉妹がいて厳重に警備されていたのだが、何者かによって飛ばされてきたのを特区警備隊が確保したらしい。

安堵する浅葱にスマホからモグワイが話し掛けてくる。

『サンキューな嬢ちゃん。助かったぜ。それでよ、もう少し公社に残ってかねぇか?』

「はぁ?なんでよ。そんな面倒な事のために貴重な祭の一日をまた潰せっていうの?」

『そこをなんとか。なんかやべー気がするんだ。北に未確認の島が出現してやがる』

「なにそれ。あんたコンピューターのアバターなんだからもっとしっかり調べてから人に物を頼みなさいよ」

そう言って浅葱はスマホの電源を切った。

その後自宅に戻ろうと思い、駅に向かったのだが。

「うわぁ……メチャメチャ混んでるじゃない……」

先程までモノレールが止まっていた影響なのか、長蛇の列ができていた。

そこで、飲み物を買うついでに店員に聞いてみる。

「あの、モノレールってまだ動いてないんですか?」

「いや、南と東の間は運転を再開したみたいだけどねぇ。北はもうちょっと時間がかかると思うよ」

「そうですか……」

「あんた、監獄結界って聞いたことあるかい?」

「ええ、名前だけは」

「そいつが出たらしいわよ」

店員はそう言って肩を震わせた。

そこで浅葱はモグワイが言っていた事を思い出した。

まさか、その島が監獄結界だということはないだろうと思うが。

そんな浅葱に店員がペットボトルを渡してくる。

「はい毎度。あとこれ、おまけ」

店員はペットボトルと共に飴玉を渡してきた。

しかし、その量がやけに多い。

「混んでるから娘さんとはぐれないようにね」

「は?娘?」

浅葱は首を傾げ、周りを見る。

すると、足元に小さな女の子が立っていた。

その子は浅葱の袖口を掴むと、弱々しい声で言った。

「ママ!」

その一瞬、浅葱の思考が停止する。

店員はなぜか全てを悟ったかのような顔で首肯く。

浅葱はそのまま空を仰ぎ、絶叫した。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

古城達の目の前で監獄結界が崩れていく。

なぜ自分はあの中にいないのだろう。

考える古城の後ろで何かが倒れる音がした。

古城が振り替えると、優麻が倒れていた。

「ユウマ!なんでこんな無茶を!?」

「大丈夫だ、霊斗と空隙の魔女が力を貸してくれた」

「そうだ!那月ちゃんは!?」

那月を探して辺りを見渡すが、そこには別の衝撃的な光景しかなかった。

「アスタルテ、誰だ?その子……」

「恐らく霊斗さんだと思います」

「マジか……」

霊斗が幼児化していたのだ。

恐らく四~五歳くらいだろう。

「俺達と会ったばかりの頃に戻っちまってるじゃねぇか……」

そう言って辺りを見渡す古城。

その視線の先には監獄としか形容できない島があった。

「あれが監獄結界……か?じゃあさっきまでの建物は……!?」

戸惑う古城。

その疑問に答える声があった。

「同じ物だ。あれは監獄結界が那月の夢の中にある時の姿……」

それは火眼の魔女だった。

「だが、監獄結界は那月の夢から現出した。そうすれば我ならば抜け出すのは造作もない」

そんな魔女を見て声をあげたのは優麻だった。

「お母さま……?」

「こいつが……ユウマの母親だと……!?」

「優麻さんと同じ顔……」

「そうだ。その娘は我の細胞から造り出した複製品(コピー)だ。つまりは同一の存在だ。だから……」

「ぐあぁぁぁ!」

「ユウマ!?」

魔女――阿夜が優麻を指差すと、優麻の守護者が現れ、黒く変色していく。

「魔女の守護者を!」

「我が貸し与えた力、返してもらうぞ」

阿夜がそう言うのと同時に、守護者の鎧が真っ黒に染まる。

「あぁぁぁぁぁっ!」

優麻が絶叫し、黒い守護者が阿夜の背後へと移動する。

「ユウマっ!」

古城が優麻を抱き抱えるが、優麻の呼吸は弱く、瞳は焦点があっていない。

「なんてことを……」

雪菜が阿夜に向けて槍を構える。

アスタルテも背後に眷獣を出現させる。

それを見て阿夜が目を細める。

「獅子王機関の剣巫に、第五真祖の従者か……。その娘は我が造り出した人形だ。どうしようと我の勝手だろう?」

阿夜がそう言うと、古城が静かに立ち上がる。

「ふざけんな……俺の親友をこんな目に遭わせて……言いたいことはそれだけか……」

古城の全身から、膨大な魔力が吹き出す。

「っ!」

阿夜が短く息を飲む。

しかし、古城の魔力が眷獣を形作ることはなかった。

古城は胸を押さえて激しく吐血する。

怒りによって、先程の傷が開いたのだ。

「そうか。七式突撃降魔機槍で傷を負っていたのだったな」

阿夜が笑う。

が、その表情が固まる。

別の場所からさらに強大な魔力を感じたのだ。

「……起きたばかりで何があったのかわからないんだがな……」

響いたのは幼いながらも聞きなれた口調。

「仙夜木阿夜……てめーをブッ潰す」

そこには幼くなった霊斗が立っていた。

「霊斗!?大丈夫なのか!?」

「ああ。どうやら固有堆積時間(パーソナルヒストリー)操作系の魔導書にやられたみたいだが、身体が幼くなっただけみたいだな」

「そうなのか。なら戦えるな」

「それがな……天音、出てこい」

霊斗が天音を喚ぶ。

すると、幼い少女が現れた。

「あー、れ~く~ん!……なんかふんいきかわった?」

「ご覧の有り様でな……」

「納得だわ……」

どうやら霊斗の眷獣まで幼くなってしまったようだ。

「ふっ……第五真祖もまともには闘えないようだな……」

「いや、力の加減が効かないんだが」

「……」

「本気で放ったら監獄結界まで吹っ飛んじゃうからなぁ……」

「第五真祖よ……汝はどれだけ規格外なのだ……」

「あれ?呆れられてる?」

「だが、結界の破壊を望んでいる連中もいるようだがな」

阿夜がそう言うと、監獄結界の壁の上に新たな人影が現れた。

その人数は六人。

「監獄結界の……脱獄囚か……」

「最悪じゃねーか……」

古城と幼い霊斗が呻く。

宴の夜は始まったばかりだ。




なんとなく、霊斗を幼くしたかった。
後悔はしていない。
お気に入り、高評価お願いします。
ではまた次回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。