クリスマス当日の話になります。
では本編をどうぞ。
十二月二十五日。
霊斗は昔からその日が嫌いだった。
いや、正確には苦手だった。
街中がリア充で一杯になり、一人で出歩くと周りから哀れみの目を向けられる。
毎年そうだった。
(そのたびに自分は神に呪われた存在だから仕方ないと言い聞かせてきたもんだが……)
しかし、今年は違った。
「霊斗さん、考え事ですか?」
「あ、ああ。どこに行こうかと思ってな」
今年は一人では無かった。
(まさか自分がリア充側の仲間入りをすることになるとは……)
アスタルテが隣にいるのだ。
「それで、どこに行きますか?」
「そうだな……ブルエリ行くか」
「え?まだプレオープン期間なのでは?」
「中に入れる魔法の呪文があるんだ」
「???」
ブルーエリジアム。
先日、色々あって世界最強の魔獣を撃退したばかりだ。
そこにモノレールで移動する。
夕方なので、モノレールは少し混んでいたが、この後はもっと混むだろう。
「よし、行くか」
「はい」
霊斗達は入場ゲートに向かう。
「二人だ」
「チケットはございますか?」
「あ、矢瀬基樹を呼んでください」
「承知しました」
受付がどこかに連絡すると、しばらくして矢瀬がやって来た。
「よう基樹。中に入れてくれ」
「霊斗!?いや、入れてくれっていわれてもな……」
「じゃあ古城にばらすか」
「え?」
「お前が古城のことを監視してるって事だよ」
「わかった!入れてやるから!ってか気付いてたのかよ!?」
「そうだな。オイスタッハの事件の後、獅子王機関の式神に報告してただろ?」
「だいぶ昔だな!」
「ま、いいや。これで入って大丈夫だよな」
「ああ。まあ、後は好きに遊んでくれ」
「言われなくてもそうするさ」
霊斗が言うと、矢瀬はふて腐れたような表情で去っていった。
「さて、アスタルテ。どこに行きたい?この前はバイトに来たようなもんだからな」
「じゃあ、ジェットコースターに乗りましょう」
「え……あ、ああ。いいぞ」
霊斗はアスタルテを連れてジェットコースターへと向かった。
「うぷっ……気持ち悪い……」
「大丈夫ですか?」
「少し休めば……」
「それにしても意外でした。霊斗さんが絶叫系苦手だったなんて」
「昔、ジェットコースターに乗りすぎて〇〇してな……」
「うわぁ……トラウマ物ですね……」
「全くだ」
しばらく休み、次に霊斗達が来たのは観覧車だ。
「…………」
「霊斗さん、真っ青ですけど大丈夫ですか?」
「だ、だだ、だいじょばない……」
ガタガタ震える霊斗を引っ張って観覧車に乗るアスタルテ。
観覧車が動き出した瞬間に硬直する霊斗。
「霊斗さん、大丈夫ですから、外見てください。いい景色ですよ」
「お、おう。イイケシキ……」
ロボットのようにぎこちなく動く霊斗。
「むぅ……つまらないですね……(ぎゅむっ)」
「はぅあっ!?な、何を!?」
「見てわからないんですか?」
アスタルテは霊斗に正面から抱きついた。
「ほら、大丈夫ですから。私がついてます」
「アスタルテ……」
霊斗はアスタルテを抱き寄せる。
「アスタルテ、ずっと俺のそばにいてくれるか?」
「勿論です。だって私は第五真祖の……いえ、霊斗さんの血の伴侶なんですから」
「そうか……じゃあ、俺とアスタルテは今この時から婚約者だ」
「はい……指輪、買ってくださいね?」
「あまり高いのじゃなきゃな」
「それでもいいです。所で霊斗さん、もうすぐ頂上ですけど」
そこからは夕暮れの絃神島が。
「うん?頂上?ああ……なんか平気だ。絃神島が一望出来るんだな……」
「そうですね……。こうしてみると、面白い島ですよね」
「ああ……。アスタルテ……聞きたい事があるんだが……」
「なんですか?」
「俺は……いや、俺と古城はこの島を自分達の領地にするべきなのかな……」
「……そんなのわかりませんよ。いつか、支配したい、する覚悟ができた時に決めればいいと思います」
「そうか……そうだよな。その時に決めよう」
「はい。あ、もうすぐ下に着きます」
霊斗とアスタルテは観覧車を降り、出口に向かう。
「もう帰るんですか?」
「なに言ってんだ。指輪。買いにいくんだろ?」
霊斗がそう言うと、アスタルテは瞳を輝かせて抱きついてくる。
「霊斗さん!大好きです!」
「ちょ!?アスタルテ!待って!めっちゃ人が見てるから!」
「嫌です!離しません!」
「頼むから!帰ったらいくらでも一緒にいてやるから!」
「絶対ですよ?」
「あ、ああ(やべー、自爆した……)」
「うふふ……楽しみです」
「よ、よし。じゃあ行くか!」
霊斗はアスタルテを連れてモノレールに乗る。
しばらくして降りると、絃神島中央部にある指輪店に入る。
「どれにする?」
「うーん……あっ!これがいいです!」
アスタルテが選んだのは、サファイアの付いた指輪だった。
「お、いいんじゃないか?さて値段は……ひゃ、百三十一万!?これを二つだと……二百六十二万……」
「だめですか……?」
「いや!駄目じゃない!買うぞ!すいません!これ二つください‼」
「お買い上げありがとうございます。包装等いかがしますか?」
「あ、箱だけでいいです。もう付けてっちゃうんで」
「かしこまりました。……二つで二百六十二万円になります」
「あ、クレジットカードでお願いします」
「ありがとうございます」
霊斗は買った指輪をそのままアスタルテの指に嵌めてやる。
「ふふっ……ありがとうございます」
「じゃあ、帰るか」
「はい」
霊斗達はモノレールに乗って帰った。
夜。
結局アスタルテが寝るまでずっと抱きつかれていた霊斗。
すっかり寝入ってしまったアスタルテをベッドに寝かせてリビングに戻る霊斗。
「お、霊斗。やっと解放されたか」
「なんだ、古城も寝れねぇのか?」
「まあな……で、その指輪どうしたんだ?」
「買ったんだよ。高かったんだからな」
「アスタルテとペアでか?まるで婚約者だな」
「!?貴様いまなんと言った?」
「え?婚約者みたいだなって」
「誰から聞いた。俺とアスタルテが婚約したって……矢瀬か?」
「なに言って……ってマジで婚約したの?」
「え?もしかして適当に言った?」
「ああ」
「……(墓穴掘った……)」
「その……なんだ。幸せにな」
「うぅ……頑張るよ……」
「ところで、それってサファイアか?」
「ああ。そうだが」
「サファイアか……確か、「誠実」「慈愛」だったか?あと一途な想いを貫くだとかなんとか聞いた覚えが……」
「その手の話題だと、浅葱じゃないか?」
「ああ、そうだ。あいつにピアス買わされた時に聞いたんだ」
「そうか、浅葱は本当に記憶力とかいいからな」
「そうだな……ふぁ……もう寝るわ、おやすみ」
「ああ。おやすみ」
古城は自室へ戻っていった。
霊斗は自分の手の指輪を見つめ、呟いた。
「一途な想いを貫く……か」
自分にはぴったりだと思いながら、霊斗は眠りについた。
これはとある吸血鬼のクリスマスの物語。
真祖とその伴侶の愛の物語だ。
ってなわけで年末までおやすみです。
お気にいり、評価お願いいたします。
ではまた次回!