ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~   作:緋月霊斗

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今回で終わるはず。
本編をどうぞ。


天使炎上編ⅩⅥ

古城達は近づいて来る船を睨み付ける。

「ロウ・キリシマ……てめぇ……」

「なんだよ第四真祖の兄ちゃん、そんな怖い顔すんなよ」

古城がキリシマを睨み付けるが、キリシマは飄々とした態度でうけながす。

隣では霊斗がベアトリスを睨んでいた。

「お前は……あの時飛行船を襲ってきた吸血鬼か……」

「ああ、あんたあの時のクソガキ?この前は邪魔されたけど今度はそう上手くいかないわよ」

「はっ、ほざいてろ。お前みたいな若い世代の吸血鬼程度には負けねぇよ」

そして霊斗に庇われるようにして立っているラ・フォリアはもう一人の男に話しかける。

「賢生、久しぶりですね」

「お久しぶりです王女。昔よりさらにお綺麗になられて」

「黙りなさい。叶瀬夏音はどこです?」

「あなたに教えて私にメリットがあるのですか?」

「それは力ずくで聞き出せと言うことで良いのですね?」

「そう思って頂いて構いません」

ラ・フォリアはこれ以上の話は無駄だと思ったのか、古城達に呼び掛ける。

「古城、霊斗、雪菜、アスタルテ。手を貸してください」

「ああ!」

「言われなくてもそのつもりだ」

「わかりました!――雪霞狼!」

「了解しました」

それぞれ答えると戦闘体制に入る。

「はぁ……ダル……。あんた達の相手はこいつよ――賢生、頼んだわ」

「わかっている。XDA-7、起動しろ」

賢生がそう言うと、船の中の棺桶の様なものの蓋がはずれ、中から人が起き上がる。

「あれは……仮面憑きか?」

「いいえ、あれは模造天使(エンジェル・フオウ)です」

「模造天使?」

「アルディギアの宮廷に伝わる魔術です。人間の霊的中枢を人為的に外から増やすことによって選定者を天使化する術式です」

「だが、飛行船を襲ったやつとは明らかに神気の質が違うぞ」

「何を驚いている少年。君が絃神島にいない間にXDA-7は完全な天使になったのだ」

「つーことは、俺達が止められなきゃあいつは消滅するって事か……」

「はぁ!?霊斗、どういう事だよ!?」

「天使は殲滅すべき敵を倒すと昇天するんだ。つまり、俺達が全滅したらあの模造天使は消えちまうんだ」

「そんな……」

「ばか、俺達があいつを助けてやりゃいいんだ。それに、あれに対向する方法に心当たりがあるしな」

「本当か!?」

「ああ。だから、とりあえず戦うしかない」

霊斗の説明を聞いて古城は安心したように笑う。

そして霊斗は賢生に言う。

「悪いなオッサン。そういうことだから」

「愚かな。精々足掻くがいい」

「じゃあそうさせて貰おう」

賢生の挑発も軽く受け流す霊斗。

しかし、古城はそんな霊斗に少し恐怖していた。

これまででも霊斗がこんなに静かなのは久しぶりだ。

それはなぜか。

霊斗がここまで静かなのは、本気でキレている時の合図だ。

「さて、ラ・フォリア。お前にはあの獣人を任せていいか?」

「わかりました。存分に叩きのめしてやりますわ」

「頼んだ。雪菜はあの吸血鬼を殺ってくれ」

「はい」

「で、俺とアスタルテと古城で天使を殺る」

「いや、殺さねぇけどな」

「霊斗さん、策はあるのですか?」

「ん?ない」

「ないんですか!?」

「効きそうなのを片っ端から試す」

「わかりました、霊斗さんらしいです」

そして、それぞれが敵に向かって走る。

最初に仕掛けたのは雪菜だった。

「雪霞狼!」

しかし、ベアトリスは眷獣を召喚した。

彼女の眷獣は槍の眷獣。

蛇紅羅(ジャグラ)!串刺しにしな!」

「はあぁぁーっ!」

雪菜は気合いと共に槍を一閃する。

「なっ!?」

ベアトリスの槍が曲がり、背後から襲いかかったのだ。

「まさか……意思を持つ武器(インテリジェントウエポン)!?」

「そうさ、あんたの槍の攻撃範囲外から攻撃することだってできる!」

「くっ……!」

ベアトリスのラッシュに防戦一方になる雪菜。

そこから少し離れた所ではラ・フォリアがキリシマと対峙していた。

「さて、大人しく捕まって貰えると助かるんだがな」

「汚らわしい獣の手に堕ちるのはお断りです」

そう言ってラ・フォリアは拳銃を取り出し連射する。

しかし、キリシマは弾丸をすべて素手で掴み取った。

「残念だったな。9ミリ弾なんか効かねえよ」

キリシマが余裕な表情で言う。

そして、身体が膨らんでいき、人狼の姿になる。

「さぁて、どうする?王女様」

キリシマが裂けた口で笑う。

そして、霊斗達は模造天使に向かっていた。

「古城‼攻撃だ!」

「任せろ!獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

古城は雷光の獅子を召喚し、模造天使に攻撃する。

しかし、攻撃は模造天使の身体をすり抜ける。

「駄目か!」

そこに、模造天使の光の剣が飛来する。

実行せよ(エクスキュート)、''薔薇の指先(ロドダクテュロス)''」

それをアスタルテが背中から生やした腕で打ち落とす。

「霊斗さん、神格振動波なら防げます」

「わかった!なら――氷牙狼!」

霊斗が空間転移で槍を呼び出す。

そして跳び 、模造天使に斬りかかる。

しかし、見えない壁の様なものに阻まれる。

「くっ!」

それを見て、賢生が言う。

「紛い物の神気で本物の神の遣いを傷つけられるわけがなかろう」

「ちっ、なら!」

霊斗は左手を前に突き出す。

そこから鮮血の様な霧が吹き出す。

「降臨せよ!''天照大御神(アマテラス)''!」

そして、呼び出したのは太陽神だ。

「神ならどうだ!」

しかし、アマテラスの攻撃は天使に当たらない。

速すぎて空振りしてしまうのだ。

「大人しく……しろっての!」

アマテラスが炎剣を勢い良く降り下ろす。

しかし、それは翼に少しかすっただけだった。

だが、それだけで模造天使に霊斗達を敵と認識させるには十分だった。

「kyriiiiiiiiiiiiiiiiiiii!」

模造天使が咆哮し、翼が光る。

「不味いっ!」

そして、翼から光剣を無数に発射する。

「うぉぁぁぁぁ!?」

「先輩っ!」

「きゃぁぁ!」

「うわあっ!」

ベアトリスが離れ、自由になった雪菜が古城に駆け寄る。

アスタルテ、霊斗は光剣を避けながらラ・フォリアを保護する。

しかし、古城の胸を光剣が貫いた。

「がはっ!」

「先輩!」

雪菜が叫ぶ。

そして、古城を貫いた光剣はそのまま直進し

「ぐっ!」

「アスタルテ!?」

アスタルテの右脇腹を抉った。

「先輩っ!先輩!」

雪菜が古城を揺さぶるが古城は目を開けない。

「そんな……アスタルテ……」

霊斗は言葉を失う。

だが、異変が起きた。

「OAaaaaaaaa!」

模造天使が叫び、周りが凍り出す。

「くっ!雪霞狼!」

雪菜が結界を張る。

おかげでなんとか氷に呑まれずにすんだ。

だが、古城もアスタルテも目覚めないままだ。

「先輩……」

「アスタルテ……」

雪菜も霊斗も茫然自失になっている。

それを一喝したのはラ・フォリアだった。

「あなた達!いつまでそうしているつもりですか!」

「ラ・フォリア?」

「でも……先輩は……」

「助ける方法の一つや二つあるでしょう!」

「そうでした……。でも、先輩にどうやって血を……」

「雪菜、古城にまず少し血を飲ませろ。そうすれば吸血鬼の本能で身体が勝手に動く」

「わかりました。やってみます」

雪菜は少し離れた所で古城の救命行為をし始めた。

「さて、霊斗。あなたはどうするのですか?」

アスタルテの傷は深い。

しかも天使につけられた傷は、旧き世代の吸血鬼でも致命傷になりかねない。

だが、直す方法がある。

それは、真祖の体の部位を移植すること。

つまり、完全な血の伴侶となること。

だが

(アスタルテはそれで良いのか……)

確かに今でもアスタルテは霊斗の血の従者だ。

だが、それは吸血行為によって精製された霊的経路を通じているだけに過ぎない。

だから、なって日が浅ければ血の従者から開放されることも出来る。

霊斗はアスタルテの手を握った。

「アスタルテ、いいか?」

そう聞くと、アスタルテは僅かに頷いた。

それを見て霊斗は笑い――

自らの右脇腹を抉った。

「ぐっ……」

そして、アスタルテの失った部分と同じ肋骨を折る。

右の、一番下。

そこに、眷獣を一体宿して、アスタルテの肋骨に繋げる。

さらに、その部位の神気を氷牙狼で消す。

すると、みるみるうちに傷が塞がり、アスタルテが目を開く。

「霊斗……さん……」

「アスタルテ!気がついたか!」

「霊斗さん、傷が……」

「大丈夫だ。だけど、少しだけ血を吸わせてくれ」

「はい。どうぞ」

「悪いな、いつも」

「いえ、大丈夫です」

アスタルテは微笑んで答える。

「私は、霊斗さんの血の伴侶ですから」

それを聞いて霊斗は顔を赤くしながら、アスタルテの首すじに牙を立てる。

そして、血を吸い終わると、霊斗はいつの間にか復活してい古城に向かって言う。

「準備万端みたいだな」

「お前もな」

二人は笑うと、眷獣を召喚する。

緋色の双角獣と、逞しい肉体をした海神。

その攻撃が氷の壁をぶち破る。

外に出ると、賢生達が驚いた顔でこちらを見ている。

それをみて古城は告げる。

「あんた達が叶瀬やラ・フォリアを使って何をしようとしてるかなんて興味ない。だけどな、叶瀬もラ・フォリアも普通の女の子だろ!それをぞんざいに扱うなんて俺は許さない!ここから先は第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

そこに模造天使の光剣が飛来する。

しかし、銀の槍がそれを打ち落とす。

「いいえ先輩、私たちの聖戦(ケンカ)です!」

そこにベアトリスの槍の眷獣が攻撃してくる。

だが、薄水色の槍がそれを阻む。

第五真祖とその伴侶(おれたち)も忘れんなよ」

「みんなで勝ちましょう」

それを聞いたベアトリスが気だるげに溜息をつく。

「ハァ……面倒くさいわねぇ……」

そして、眷獣を振るう。

「さっさと死になさい!」

「させません!」

だが、雪菜の槍に阻まれる。

「剣巫ィ!あんたの攻撃はあたしには通らな――がっ!?」

雪菜のひじ打ちがベアトリスの腹にめり込む。

そのまま追撃の掌打を側頭部に入れる。

「響よ!」

ベアトリスは意識を失って倒れる。

キリシマはそれを見て舌打ちする。

「ちっ、駄目じゃねぇか……。だが俺はきっちり仕事はするぜ」

そんなキリシマにラ・フォリアは呪式銃を向ける。

だが、弾丸は入っていない。

「残念だったな。弾丸の入っていない呪式銃なんざ怖くねえぜ……ぐふっ!」

最初は余裕をかましていたキリシマだったが、苦悶の表情に変わる。

「ははっ、なんだよ、それ……擬似聖剣なんて聞いてねぇぜ……」

そのまま倒れ、意識を失う。

ラ・フォリアは冷ややかにキリシマを見下ろすと、古城達の方を向く。

「後は任せましたよ……」

古城達はちょうど模造天使と対峙していた。

「苦しいか、叶瀬」

古城は模造天使――叶瀬夏音に話しかける。

「待ってろ、俺達が今からお前を助けてやる!」

古城は右腕を頭上に掲げる。

そして、眷獣を召喚する。

「焔光の夜伯の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷を解き放つ!」

召喚されるのは銀色の双頭龍。

疾く在れ(きやがれ)!三番目の眷獣、 ''龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)''!」

続いて霊斗も召喚を開始する。

「前略!降臨せよ!十番目の眷獣、''須佐之男命(スサノオ)''!」

召喚されるのは荒ぶる海の神。

さらに、アスタルテも召喚する。

「第五の真祖、亡霊の吸血鬼(ロストブラッド)の魂を宿し者、暁霊斗の血の伴侶が汝を天界より呼び起こす!」

現れるのは細身の女性のような眷獣。

持っている剣の色は青。

「降臨せよ!九番目の眷獣、''神産巣日神(カミムスヒノカミ)''!」

その名は男女のムスビを意味する。

すなわち、真祖と伴侶の絆の強さによって強さが変わる眷獣。

「いくぞ!スサノオ!''海神斬裂波''!」

海神の振るう剣――草薙剣の衝撃波が模造天使の身体を揺らす。

「追撃です!カミムスヒノカミ! ''結之証・最大''!」

ムスビの神の剣が模造天使の翼を貫く。

「古城!今だ!」

「ああ!龍蛇の水銀!」

銀色の双頭龍が模造天使を覆っていた光の膜を食い破る。

「姫柊!霊斗!」

「はい!」

「おう!」

そこに、二つの神格振動波で、叶瀬夏音の天使化を解呪する。

そして、抜け落ちた翼を銀色の双頭龍が食らい付くす。

あとには静寂が残った。

すべてが終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談。

古城はあのあと迎えに来た浅葱の前でラ・フォリアにキスされ、キレられていた。

叶瀬夏音は、検査が必用だが命に関わるようなこともないようだ。

そして霊斗とアスタルテは、疲れはてて船室で眠っていた。

もちろん、二人で一緒に。




なんとかおわった……って日付け変わってるし。
まあ、また次回!

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