ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~   作:緋月霊斗

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今回で聖者の右腕は完結です。
では、本編をどうぞ。


聖者の右腕編 ⅩⅡ

しばらく気を失っていたらしい。

床に倒れていたのだろうか、腕や背中に硬い感触がある。

しかし、頭だけは暖かい。

まるで晴れた日に干した布団のような―

そこで霊斗は違和感に気づいた。

晴れた日。

太陽。

そう、あいつは太陽の神の名を持つ眷獣ではなかったか…。

そこまで考えて、霊斗は目を開けた。

「おはよー、霊君」

「なんで人が魔力を使い切ってるときに出てんだテメェは」

「いや、私だって苦労したんだからね?霊君魔力使い切っちゃうから、実体化してられないし、援護出来ないし」

「う…。すまん」

「まあ、霊君の体力が回復したから実体化して傷とか治せたし」

「お前、そんな能力無かっただろ」

「いや、能力じゃなくて、消毒とか。ここ、製薬会社だからいっぱいあったよ」

「そうか…。って違う!古城は!?」

「ほら、向こうに居るよ」

そこには、雪菜に膝枕された古城の姿が

「ほぁちゃーっ!!!」

「ぐぼぁっ!?霊斗!?殺す気か!?」

古城が必死の形相で叫ぶ。

古城も傷は治っていた。

「さて、古城」

「何事も無かったかのように話し出すのやめないか?」

「傷も治った。オッサン達の居場所も大体見当がついた。どうする?」

「スルーかよ…。まあいい、その前に、オッサン達が探していたものはなんだ。教えてくれ」

「わかった。でも、その前にそのメールどうにかしろ」

「うお!?なんだ?矢瀬に、築島?……な!?浅葱が居たキーストーンゲートが襲撃された!?」

「何!?浅葱が!?古城‼電話だ!」

 

 

 

 

古城と霊斗が気を失っている時。

場所はキーストーンゲート。

浅葱はバイトでパソコンを弄っていた。

と、その時。

強烈な揺れがキーストーンゲートを襲った。

「な、なに?モグワイ、何が起きてるの?」

『嬢ちゃん、侵入者だぜ。……こいつは…』

「侵入者?まさか、テロリスト?それとも夜の帝国の軍隊?」

『いや、侵入者は二人。ただの人間と、人工生命体の二人組だ』

また、揺れが襲った。

すると、廊下から激しい銃撃音、続いて何かを殴るような音、悲鳴が聞こえた。

浅葱は廊下に飛び出す。

そこを表現するのに、必要な単語は一つ。

地獄。

それ以外に表現しようが無い状況だった。

そして、侵入者―オイスタッハが浅葱を見る。

しかし、興味が無いといったように次の隔壁へと向かう。

浅葱は床に座り込む。

と、その時。

電話がなった。

画面を見ると、そこには浅葱が想いを寄せる少年、暁古城の名前が表示されていた。

浅葱は通話ボタンを押すと、携帯を耳に当てる。

『浅葱!無事か?』

「全然無事じゃないわよ!なんなのよ!あいつら!」

『侵入者はガタイの良いオッサンに人工生命体が一人だな?』

「そうだけど…、まさか古城!あいつらに襲われたりしたの!?」

『ああ、そいつらのせいで、俺も霊斗も死にかけた』

「死にかけたって、霊斗は吸血鬼だから大丈夫だと思うけど、あんたは大丈夫なの!?」

『とりあえずな、今は生きてる。それより、オッサン達はどこに向かった?』

「下。最下層の方ね」

『そこには何かあるのか?』

「ないわよ。無駄に丈夫なアンカーしかないもの」

『じゃあ、オッサンが言ってた至宝ってのは一体…』

「至宝?ちょっと待って、調べてみるわ…。って何よこれ!?軍事機密並のプロテクトじゃない!モグワイ!ぶち破りなさい!」

『やれやれ、俺はこいつに手出し出来ないんだがな…、まあ、相棒の頼みとあっちゃぁしかたねぇな。……後悔するなよ』

そう言うとモグワイはプロテクトを破る。

そこに映し出されたカメラの映像を見た浅葱は息を飲む。

「何よ……これ……」

 

 

 

古城は浅葱との通話を切る。

「そう言う……事か……」

古城はそう呟き、俯く。

「先輩!早く行きましょう!でないと、藍羽先輩が!」

「行ってどうする?」

「え?」

「浅葱も助ける、島の人も俺の手の届く範囲の人は逃がす。でも、俺に出来るのはそこまでだ。」

「古城……」

「俺にはあのオッサン達を止めることは出来ない。俺はそれを選んじゃいけないんだよ!」

「先輩……」

「古城。歯を食いしばれ」

「え?」

バキィッ!

「ぐぁっ!」

「何腑抜けたこと言ってやがんだテメェ‼なんでもかんでも自分で背負い込もうとすんじゃねぇ!」

「霊斗……」

すると、雪菜が槍で自分の首筋を薄く切る。

「ひ、姫柊?」

「先輩。私の血を吸って下さい」

「なにゆえっ!?」

「先輩が眷獣を使えないのは血を吸ったことが無いからだと聞きました。だったら、私の血を吸って下さい。いつか、その力を使わなかった事を後悔しないように」

「いや、別に俺はあのオッサン達を止めようだなんて……」

「古城。雪菜の血を貰え。お前が行きたいか行きたくないかじゃない。お前は行かなくちゃいけないんだ。第四の真祖として!」

「霊斗……」

「じゃ、俺と天音は向こうに行ってるから。早く済ませろよ」

「拒否権なしかよ!?」

「先輩……。私では駄目ですか?」

「いや、姫柊は魅力的だけど……」

「じゃあ、どうぞ。吸って下さい」

「はあ、わかったよ。後悔するなよ?」

 

 

 

研究所の外。

「はあ、古城のやつ、苦労させやがって」

「霊君はどうする?」

「ばーか、自分の眷獣から血を吸っても、変わらないだろ」

「おっと、ばれちゃったか~。っと、古城君の眷獣が覚醒したっぽいね。行こっか!」

「ああ、キーストーンゲート最下層までの最短ルートを調べて置いてくれ」

「オッケー」

 

 

 

 

キーストーンゲート最下層。

隔壁が段々破壊されていく。

そこから現れたのは薔薇の指先だった。

「命令完了。目標を確認しました」

「ご苦労様です、アスタルテ」

続いて現れたオイスタッハが要石に向けて歩きだす。

そして、要石の前に来ると膝を付き涙を流す。

「おお、我らが教会より簒奪されし不朽体。ついに我らの手に取り戻す時が来ました。アスタルテ!最早我らの前に敵は無し!不朽体を取り戻しなさい!」

「命令認識。ただし、前提条件に誤謬があります。故に命令の再選択を要求します」

「なに!?」

そこで、オイスタッハは新たに現れた三人に気づく。

「悪いな、オッサン。その命令はキャンセルしてもらうぜ」

「第四真祖、第五真祖、剣巫…。まだ邪魔をするつもりですか!」

「ああ、真祖には自らの国の民を守る義務があるんでな」

「あなたはまだ、自らの国など持ってはいないではありませんか!」

「馬鹿か、この島が俺達の国だ」

「まあ、将来の話だけどな」

「くっ!最早言葉は無益のようです。アスタルテ!やりなさい!」

「命令受諾、実行せよ、''薔薇の指先''」

「貴方の相手は私です!」

「さて、オッサン」

「俺達はあんたにぼこぼこにされた借りがあるんだぜ?それの決着をつけようぜ!ここから先は第四真祖(オレ)の戦争(ケンカ)だ!」

「いいえ、先輩!私達の聖戦(ケンカ)です!」

「第五真祖(オレ)も忘れんなよ‼」

そう、口々に言うと、雪菜はアスタルテに、古城と霊斗はオイスタッハに向かって行った。

「霊斗!」

「おうよ!」

古城と霊斗は見事なチームワークで雷球をパスし、オイスタッハにぶつける。

「ぬ!やはり貴方達は侮れませんね。では、私も本気で相手を致しましょう!」

そう言うと、オイスタッハの鎧が光り輝きはじめる。

オイスタッハの攻撃は速く、重くなり、防戦一方となる。

「くそ、汚いぞ!オッサン、まだそんな切り札を隠し持っていやがったのかよ!だったら、俺達もこいつらを使うぜ‼」

「天音!」

「はいよー」

霊斗が声をかけると、天音が眷獣形態になる。

「焔光の夜伯の血脈を継ぎし者、暁古城が汝の枷を解き放つ!」

古城の右腕から血のような霧が吹き出す。

「疾く在れ(きやがれ)!五番目の眷獣''獅子の黄金(レグルス・アウルム)''」

それは雷光の獅子だった。

「ぬぅ、これほどの力をこの密閉された空間で使うとは。愚かな!」

しかし、獅子の爪がかすっただけでオイスタッハは吹き飛ぶ。

「くっ!アスタルテ!」

アスタルテがオイスタッハを守ろうと、オイスタッハの前に立ちはだかる。

ぶつかったレグルス・アウルムの雷が天井を破壊する。

「うぉぉぉ!?」

「きゃぁぁぁ!」

「馬鹿やろー!」

古城達は回避する。

「悪い、姫柊、霊斗。あいつには勝てないかもしれない」

「「いいえ(いや)、先輩(古城)、私(俺)達の勝ちです(だ)」」

そう言うと、二人は槍を構える。

「雪霞狼!」

「氷牙狼!」

「「獅子の神子たる高神の剣巫(剣凰)が願い奉る!」」

「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせたまえ!」

「暁の火炎、神滅の壊氷、氷牙の鋭利なる刃にて、我に敵を殲滅させたまえ!」

祝詞と共に放たれた槍はアスタルテの眷獣の結界を貫通し、眷獣の肉体に突き刺さる。

「先輩!」

「やれ!獅子の黄金!」

眷獣が消滅し、アスタルテが床に倒れる。

そして、三人はオイスタッハの目前に空間転移で移動。

「「終わりだ‼オッサン!」」

古城と霊斗、二人の拳がオイスタッハの顔面に突き刺さる。

「若雷!」

そして、止めに雪菜の掌打がオイスタッハに叩き込まれる。

オイスタッハは最後に不朽体に向けて手を伸ばし、崩れ落ちる。

「終わった……のか?」

「はい、先輩」

二人が安堵している隣では霊斗がアスタルテに歩み寄る。

「霊斗?」

「よいしょっと」

霊斗はアスタルテを抱き起こす。

そして、牙を首筋に突き立てた。

少し経ち、霊斗が

「よし、オッケー」

「何がだよ」

「いや、こいつの眷獣を俺の支配下におけば、こいつは今よりずっと長く生きられる。だから、血を吸って霊的経路を精製したってわけ」

「ふーん」

「さて、帰るか」

「そうだな」

「帰って、ご飯にしましょう」

そう言うと三人は歩きだす。

 

後日

「ふぁ、那月ちゃん、話ってなんすか?」

「うむ、1発殴るか?」

「サーセン。で、本題は?」

「この前の事件の人工生命体がいただろう、あれが保護観察処分になったらしくてな、お前を保護者に任命する」

「拒否権は?」

「あるわけがなかろう」

「デスヨネー」

「もし、やらないと言うなら……」

「やらせて頂きます」

こうして、アスタルテは暁家の一員になった。




よし、最後に伏線もはれた。
これで聖者の右腕編は完結です。
次回、戦王の使者編。
お楽しみに。
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