ここからまた早めの投稿ができるといいなと思っております。
では、今回はオリジナルです。
特別編~イベントにご用心~
とある春の1日。
とはいえ、熱帯に位置する常夏の島には当然春など感じられない。
そんな絃神島のとあるマンションの前。
「暑ぃ……灰になっちまう……」
そう言って地面に座り込んだ古城が呻く。
「なんなんだよこの日差し……吸血鬼を殺す気かよ……」
「吸血鬼だってみんながみんな日光が苦手って訳でもないだろ……」
そう言って汗を拭った霊斗が古城にタオルを投げつける。
古城はそれを受けとると、霊斗の方をぼんやりと見て言う。
「そういや、霊斗って女装とか似合いそうだような」
「いや、中性的とか言われるけどそこまででもないだろ」
しかし、小、中学時代はよく女子と間違えられていたのも事実である。
他にも、少年のような女子が居たりと、古城の周囲には中性的な人物が多い。
「なあ霊斗、このチラシ見ろよ」
「なんだよ……」
古城が指差した先にはイベントのチラシが貼られている。
「なになに……キーストーンゲート主催、女装コンテスト?」
誰得かわからないイベントである。
霊斗は少し頬をひきつらせながら古城に聞く。
「これに出ろと?馬鹿なの?」
「いや、いい線行きそうだろ?なあアスタルテ」
「素晴らしいと思います。出るべきです」
「うおっ、いつのまに戻ってきてたんだ」
「たった今です」
そう言って霊斗たちの横にしゃがみこむアスタルテ。
「ところで、那月ちゃんの用って何だったんだ?」
「それがですね、件の女装コンテストの警備の依頼なんです。黒死皇派の残党がまだ居て、キーストーンゲート主催のイベントを潰しに来るかもしれない、と那月ちゃん教官が」
「そうか……どうでもいいけど那月ちゃんの呼び方すごいことになってんな」
霊斗はそう言って立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
古城が聞くと、霊斗は呆れたように言う。
「雪菜の所だよ、警備なんて俺たちだけでできるわけないだろ」
「え、特区警備隊はいないのか?」
「馬鹿か、那月ちゃんが直接言ってきてる時点で特区警備隊の方は当てにできないだろ」
そう言って霊斗は目の前にゲートを開く。
「古城、早くしろ」
「え、俺も行くのか?」
「当たり前だ」
そう言ってゲートを潜る霊斗。
古城はため息をついてゲートを潜った。
「では、誰が女装しますか?」
雪菜の一言でその場の空気が凍った。
「あのー、雪菜さん?俺たちの目的は警備であって、イベントに出ることじゃぁ……」
「はい。ですから、控え室やステージ上にも戦力をおいた方が良いかと思いまして」
「いやいや、普通の格好でも警備できるでしょ」
そう言う霊斗に雪菜が反論する。
「では参加者や運営側に残党が紛れ込んでいたらどうするんですか?それに、参加者でもない一般人が控え室に居たら怪しいですよね?」
「いや、警備って説明すればいいんじゃ……」
「一般の参加者の方に不安を感じさせるわけにはいきませんよね」
「ぬぐぐ……」
そう言って唸る霊斗に、雪菜がにこやかに言う。
「では霊斗さん、控え室の警備、よろしくお願いしますね」
「やっぱりそうなるのかよ!?」
「はい。先輩に女装させても……控え目に言ってキモチワルイですし、霊斗さんが適任かと」
「姫柊、全然控え目じゃない」
少し傷ついたように肩をおとす古城。
そんな古城を尻目に、雪菜が追い討ちをかける。
「それに、霊斗さんの女装を望んでいる人もいますので」
「霊斗さんの女装……」
そこには幸せそうな表情で鼻血を流すアスタルテの姿があった。
「はっ!いけません、少々トんでしまっていたようです」
「かなりヤヴァイ感じだったな」
そう言った霊斗の腕を掴むアスタルテ。
「では早速、着替えましょう!」
「まてまてまて!!俺はまだ出るなんて一言も……」
「何か言いましたか?(笑顔)」
「ナンデモナイデス」
霊斗がそう言うと、アスタルテは頷き、そのままどこかへ去っていった。
「あれ、大丈夫か?」
「大丈夫……だと思います」
そう言って疲れきった表情の二人はため息をついた。
当日。
道行く人々が集まっていく。
「霊斗さん、最高です(ダクダク)」
「いや、鼻血……」
そこには濃密に絡み合う二人の美少女が。
「なんで会場の外でまでこんな格好を……」
「大丈夫です、どこからどう見ても普通の女の子です」
「全然嬉しくない……」
そう言って肩をおとす霊斗。
「ってやべ、もう時間」
ふと時計を見るともう控え室に向かう時間だった。
「はぁ、行くか……」
「霊斗さん、ため息つくと幸せが逃げますよ?」
「現在進行形で超絶不幸だからいいよ……」
「私は超絶幸せですが」
「……不幸だわ(裏声)」
控え室には、出演者とコーディネーターがセットで居るようになっている。
周囲を見る限り、怪しい人物はいない。
「にしても、やっぱり男女ペアが多いな」
「そうでしょう、男同士って……いいと思います」
「あちゃー、君は容認派だったかー」
そんな他愛ない会話をしていると、とうとう霊斗の番となった。
「それではエントリーNo.5、暁霊斗さんです!」
司会者の紹介の後、霊斗がステージ上に出ると、会場を歓声が覆った。
「これは……本当に女装なのでしょうか!?あまりの可愛さに私も驚いております!」
司会者はそのように感想を言うと、霊斗にマイクを手渡す。
どうやら自己紹介をしろと言うことらしい。
「あ、えっと、暁霊斗です」
霊斗が自己紹介をすると、再び会場が沸く。
「はい、暁さん、今回はなぜこのコンテストにエントリーを?」
司会者がそう質問をする。
(ここは無難な回答でいこう)
そう考えた霊斗は小さめのボリュームで答える。
「友人の悪ふざけです」
そして、その後もいくつか質問が続く。
「ご趣味は?」
「特にこれというのはないですけど、強いて言えばゲームですかね」
「なるほど、では現在交際している方などは……」
「いますけど……ってこの質問必要ですか?」
「ええ、とっても大事です」
「えぇ…… 」
「では最後に、会場のみなさんにアピールをお願いします」
「あ、アピール?」
突然のフリに焦りつつ、霊斗はこう思った。
(なんか、もうどうでもいいわ……)
「か、会場のみんなー!ぼ、ボクにぜひ投票してくださーい!(裏声)」
一瞬、会場が静まる。
しかし、つぎの瞬間、会場を倒壊させかねないレベルの歓声が響き渡った。
「で、結局優勝しちまったと」
「圧倒的でしたね」
「死にたい……」
そう言って霊斗は地面に寝転がる。
空は既に暗くなり始めている。
「ふふふ……これは永久保存ですね」
そう言ってビデオカメラを操作するアスタルテ。
その背中に霊斗が声をかける。
「ところで、黒死皇派はどうなったんだよ」
「那月ちゃん教官が全員捕まえたそうです。昨日の時点で」
それを聞いて、霊斗はほっと一安心――できなかった。
「ちょっと待て、いつ捕まえたって?」
「昨日のお昼頃にファミレスでいざこざを起こしたのを捕まえたらしいですよ」
「ってことは……」
コンテストにでる必要はなかった、ということ。
霊斗はアスタルテの頬を横に引っ張る。
「じゃあなんだ?ただただ俺の女装が見たいってだけの理由であんなことをやらせたのか!?」
「へいほひゃん、いひゃいへふ」
「俺の心の方が痛いわぁ!!」
そう言ってさらに引き伸ばす霊斗。
「いぃぃぃ!ひひへひゃいはふぅ!!」
「なに言ってるかわかんねぇよ!?」
そこで手を離す。
「うぅ……霊斗さんはSすぎます……DVです……」
「当然の報いだ」
「なんて慈悲のない……」
そう言って涙を流すアスタルテ。
その手からビデオカメラを奪い、今日のデータを消していく。
「あぁぁぁ!!なんてことを!?」
「よし、完全に消えたな。ほら」
「ほ、本当に消しましたね……あなたは悪魔ですか!?」
「いや、吸血鬼だけど」
「うわ、ムカツク返しですね」
そんなコントのようなやり取りをしている二人に古城が声をかける。
「なあ、そろそろ帰ろうぜ」
「そうだな、腹も減ったしな……」
霊斗がそう言い、四人は帰路についた。
「ま、PCにすでにバックアップしてあるんですがね」
「無駄に用意周到だな……削除っと」
「あぁぁぁぁ!?」
次回からは黒の剣巫編です。
ではまた。