そろそろ終わらせないと……。
では本編どうぞ。
困惑の表情を浮かべる古城を見て、”原初 ”が笑う。
「『感謝するぞ少年。我が元に新たな人形を連れて来てくれるとはな』」
そう言って”原初”は魔力で紡がれた翼を広げる。
その先には9体の「
それぞれの心臓に突き立った翼には血管のようなものが浮かび上がり、ドクドクと脈打つ。
「やめろ!」
”原初”のしようとしていることに気付いた霊斗が叫ぶが、既に”原初”はそこに居た祖体を全て吸収し終わった後だった。
「『あとはお前だ、
そう言ってアヴローラに手を差し出す”原初”。
しかし、アヴローラは”原初”を睨み付けると、古城の服の袖を一層強く掴む。
それを見た古城は”原初”を挑発するように笑う。
「アヴローラはお前のところに戻る気は無いみたいだぞ」
それを聞いた”原初”の顔が怒りに歪む。
「『人形の分際で宿主たる我に逆らうか……!』」
そう言って”原初”は翼を古城達に向けて振るう。
しかし、それは二人に当たる前に動きが止まる。
「『なにっ!?』」
驚く”原初”の前に霊斗が立ちはだかる。
「元々その身体は俺の眷獣だ。だったら俺が動きを止められてもおかしくないだろ?」
「『く……未完成の真祖が我に楯突くか……』」
「お前だって未完成だろうが―――古城!アヴローラ!今のうちに逃げるぞ!」
そう言って霊斗は空間転移のためのゲートを開く。
「『覚えていろ……”失敗作”……』」
”原初”の声に背を向けて、霊斗はゲートを閉じた。
そのうちの小柄な影が肩を揺らして笑いだした。
その様子を見て長身な影が口を開く。
「なにがそんなに面白いのですか?ジャーダ陛下」
目尻に浮いた涙を拭いながらジャーダが答える。
「なにが面白いかだと?ヴァトラー、本気で聞いているのか?」
「ええ。自分には何が面白いのかさっぱり」
そう不機嫌そうに答えるヴァトラー。
そんなヴァトラーの様子を見て再び笑いだすジャーダ。
「それもそうか。なにせ放し飼いにしていた祖体に逃げられた挙げ句第四真祖に吸収されたのだからな、
そう言って笑い続けるジャーダに背を向けると、ヴァトラーは黄金の霧に変化して消えていった。
「ふふ、奴にも可愛いところがあるではないか」
そう言ってジャーダは虚空に姿を消した。
霊斗たちが転移したのは自宅の玄関だった。
そこでゲートを閉じると、霊斗は膝を着いた。
「霊斗!?大丈夫か!」
古城が慌てて肩を貸し、リビングのソファに霊斗を寝かせる。
「悪いな、古城……」
そう言って目を閉じる霊斗。
慌てて古城が脈を測ると、弱いがしっかりと脈はあった。
「なんだ……気絶しただけか……」
安心してへたり込む古城の耳に、ゆっくりとドアが開く音が聞こえる。
音の方へと向くと、控えめに開けられたドアの隙間から凪沙がこちらの様子を伺っている。
「……凪沙?何してるんだ?」
古城が声をかけると凪沙は恐る恐るドアを開け、古城たちの元へと歩いてきた。
「古城君、私……」
そう言って凪沙は古城の前に座る。
「私、アヴローラさんと、天音ちゃんに謝らないといけないの……だから……わたしを、旧南東地区に連れていって」
「凪沙……お前、なに言って」
困惑する古城を尻目に、凪沙はアヴローラの手を掴む。
「アヴローラさん、あの時はひどいこと言っちゃってごめんなさい……」
凪沙はそう言ってポロポロと涙を溢す。
そんな凪沙の涙を拭い、アヴローラはその手を握り返す。
「汝に罪は無し。責められるべきは我……我が罪に、今一度許しを……」
アヴローラのその言葉を聞いた凪沙はアヴローラを抱き締めた。
その光景を見ていた古城は居心地悪そうに目をそらしながら言う。
「あー……そんで、天音に謝りたいってのは?」
凪沙は古城の方に向き直ると、ゆっくりと話し出す。
「この間、私がアヴローラさんから逃げちゃったとき、天音ちゃんが追いかけてきてくれて……その時に、私がずっと持ってた”原初の呪い”を代わりに……」
凪沙がそこまで言うと、それまで目を閉じていた霊斗が口を開く。
「そうか……あの事件のときに凪沙が封印した”原初の呪い”を自分の中に……だからあいつは第四真祖になれた……」
霊斗はそう言うと起き上がり、凪沙の方を向く。
「凪沙」
霊斗はそれだけ言うと、凪沙の肩を掴む。
「えっ……霊斗君?」
戸惑う凪沙を真正面から見据えると、霊斗は聞く。
「”原初の呪い”が無くなったってことはまた霊能力が使えるようになったのか?」
「う、うん。まだそんな強いのは使えないけど……」
凪沙がそう答えると、霊斗は古城に言う。
「悪い、古城。アヴローラと一緒に自分の部屋にいてくれ」
「あ、ああ……なにするんだ?」
古城が戸惑いながら聞くと、霊斗は意地悪く笑い一言。
「魔術儀式」
古城とアヴローラが部屋に行くと、霊斗は凪沙に言う。
「凪沙、お前の血をくれ」
「え……」
凪沙は一瞬固まると、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ば、馬鹿っ!霊斗君のスケベ!変態!シスコン!」
「違うわ!ただ単純に血が足りてないから補給させてくれってことだよ!」
霊斗はそう言って凪沙を抱き寄せる。
「頼む。今の俺じゃ天音を助けられない」
「霊斗君……」
弱々しい声で凪沙が聞く。
「私たち、兄妹なんだよ?」
「血は繋がってないだろ?」
そう言って霊斗は凪沙の頭を撫でる。
「……んぅ……」
くすぐったそうにする凪沙にもう一度霊斗が言う。
「頼む。俺に血をくれ」
「……うん」
そう言って頷いた凪沙の頬はほんのりと赤く染まっている。
霊斗はそんな凪沙の首筋にゆっくりと牙を突き立てた。
「あ……」
首筋に走る痛みに、凪沙の口から息が漏れる。
強い霊媒の血に、霊斗の身体が活性化する。
「霊斗……君……」
凪沙の声が二人きりの部屋の中へと溶けてゆく―――。
今回はここまでです。
次回辺りで恐らくこの章も終わると思います……終わるといいなぁ……。
ではまた次回。