ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~   作:緋月霊斗

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お久しぶりの投稿です。
では、どうぞ。


愚者と暴君編ⅩⅥ

霊斗は自宅の前に転移すると、古城に言う。

「古城、ちょっと中に凪沙が居るか確認していてくれ。そのあと、できればアヴローラを連れてキーストーンゲートに行ってくれ。あそこが一番安全なはずだ」

「キーストーンゲートに行けって……お前はどうするんだよ!?」

「MARの研究所に行く」

霊斗はそれだけ言うと、再び空間転移のゲートを開きその中に飛び込んでいった。

取り残された古城はため息をつくと自宅へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間転移した霊斗は旧南東地区の沿岸部にいた。

その視線の先には凪沙ともう一人別の女性の姿があった。

「あの人は……たしか、獅子王機関(ウチ)の……」

そこまで呟くと、霊斗はため息をついた。

そしてゆっくり深呼吸をする。

「……天音」

「はいはい……どうするの?」

霊斗の背後に表れた天音がそう聞くと、霊斗は穏やかに頬笑みながら答える。

「宴を、壊す」

その答えを聞いた天音は頷き、姿を消す。

天音が消えると、霊斗は騒がしくなり始めた旧南東地区を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、古城はアヴローラを連れてキーストーンゲートを訪れていた。

「アヴローラ、大丈夫か?」

古城が聞くと、アヴローラは控えめに首肯く。

そんな怯えた小動物のような仕草に苦笑しつつ、古城は言う。

「なあ、アヴローラ。霊斗が来るまで展望台にでも行くか?」

古城がそう聞くと、アヴローラは目を輝かせて何度も首肯く。

これに耳と尻尾でもついてたら本当に小動物だな、等と考えながら、古城は展望台のチケットを購入する。

そして、アヴローラを連れてエレベーターに乗り込むと、アヴローラは興奮した様子で階層表示をみている。

「ほら、着いたぞ」

古城が言うと同時にエレベーターの扉が開き、巨大なガラス張りの展望台が視界に飛び込んでくる。

「おおおおおお!!!」

その景色にさらに興奮したのか、怪鳥のような声を上げながら走っていくアヴローラ。

「こじょう!海が見える!」

「いや、結構いろんなとこから見えるだろ……まあ、喜んでくれたんなら良かったよ」

「おおお……これがこじょう達が住んでいる街……」

感慨深げに呟くアヴローラ。

そんなアヴローラの頭を撫でながら古城は言う。

「お前も住んでるだろ?それに、もうすぐお前も登録魔族になって正式な市民だ」

「ずっとこの街にいられる?」

「そうだよ、学校だって行けるぞ」

「学校!こじょうと一緒に行く!」

「さすがに学年は一緒にはできないけどな?でも那月ちゃんが中等部に入れるように手を回してくれるってさ」

古城はそう言って、来るときに持ってきていた紙袋をアヴローラに渡す。

中には新品の彩海学園の制服が。

「こじょう、着たい」

「え……じゃ、じゃあそこのトイレのなかで着替えてこい」

古城がそう言うと、アヴローラは頷いてトイレへと消えていく。

その姿が見えなくなったとき、古城はふと展望台のテレビを見た。

「なっ……」

そこには、旧南東地区で大規模感染が発生した事を知らせるニュースが流れていた。

そして、映し出される感染者の姿。

最後に、割れる感染者の波と――霊斗の姿が。

そこで画面はスタジオに切り替わり、キャスターが何か言っている。

「なんで……あいつが旧南東地区にいるんだ……」

古城が呟くと後ろから、声がした。

「こじょうが来る、少し前……あまねが来た。私たちが、全部終わらせるからって、言って……」

「アヴローラ……」

泣き出しそうな表情で古城のパーカーの裾を掴むアヴローラ。

その制服の前はボタンが外れて下着が見えている。

「……」

古城はアヴローラの発言と格好のどちらを気にするか迷った末、ボタンを留めながら話を聞くことにした。

「なあ、アヴローラ。霊斗があそこにいるって事は、凪沙もそこにいるってことだよな?」

「そう……でも、凪沙はもう、器、違う」

「器?どういうことだ?」

古城が聞くと、アヴローラは古城にすがり付きながら言う。

「凪沙、宴と関係ない!でも、向こうにいたら巻き込まれる!」

「わ、わかった!わかったから落ち着け!」

古城はアヴローラを落ち着かせると、立ち上がった。

「こじょう?」

「アヴローラ、ここにいてくれ」

古城はそう言うと、エレベーターに向かって歩き出そうとする。

しかし、その手をアヴローラが掴む。

「我も行く」

「駄目だ。お前は安全なところに……」

「こじょう」

「……わかったよ。でも、絶対俺から離れるなよ?」

「うん」

そう言うとアヴローラは古城の手を握り直す。

その手が微かに震えているのに気付き、古城はその手を少し強く握り返す。

「よし、行こう」

「うん」

古城はアヴローラとともに再びエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧南東地区、その中央にそびえ立つクォーツゲート。

無人の廃墟の中に、若い女のこえが響く。

「ザハリアス卿、お待たせしました」

女――遠山美和の傍らには凪沙の姿がある。

「これはこれは、ミス遠山に暁凪沙さん、よくぞ来てくださいました」

廃墟の奥から表れたのは、痩せこけた中年の男、ザハリアス。

「さて、早速ですが本題に入りましょう。暁凪沙さん、あなたにやって頂きたいことがあるのです」

「わたしに?」

警戒した様子で凪沙がザハリアスを見る。

「あなたには、過去を再現していただきたい――死者の蘇生を」

「なにを言って――」

凪沙がそういった瞬間、轟音が鳴り響いた。

音の発生源はザハリアスの立っていたところ。

そこに、巨大な火柱が発生していた。

そして、突然の事に戸惑う凪沙と遠山の背後から、新たな人影が歩いてくる。

「はぁ……人の妹を勝手に利用しようとしやがって」

凪沙の肩に置かれたのは少し華奢ではあるが、決してひ弱ではない手。

「れ、霊斗君……」

「おう、凪沙。無事か?」

「う、うん」

それを聞いた霊斗は安心したように息を吐くと、空間転移のゲートを開いた。

「凪沙、先に帰ってろ。ここは俺がなんとかする」

凪沙は頷くと、ゲートの中に姿を消した。

それを見届けてから、霊斗は遠山の方を向く。

「獅子王機関の人間がなぜ凪沙を利用しようと?」

「我々は、第四真祖を魔族特区の中に隔離しようと考えました」

「それで、凪沙を第四真祖にして、ここに置いておこうとしたってことか」

「ええ。第五真祖――あなたがいるこの街ならば、第四真祖も確保しておけると」

そう言って遠山は目を伏せる。

「そうか……なら、俺が第四真祖の素体を全部破壊すれば――」

そこまで言った霊斗の顔が苦痛に歪む。

その腹部には鋭いダイヤモンドが突き刺さっていた。

「か……はっ、ザハリアス……てめぇ……」

崩れ落ちる霊斗の背後には巨大な大角羊と、若返ったザハリアスの姿があった。

「第四真祖の……血の従者……」

そう言った遠山を一瞥すると、ザハリアスは静かに言う。

「ええ……私は一番目の血の従者です。そして、第四真祖の器ならば、同じように人工的に産み出された第五真祖の器でも代用は可能。後は原初(ルート)の魂さえあれば――宴は終幕を迎える」

ザハリアスはそう言うと、クォーツゲートの奥へと姿を消した。

 

 




あと何話かで、この章も終わりですね。
では、また次回。

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