絃神市立大学の敷地内にある古いビル。
その一角にある研究室で、暁牙城は過去の文献を読みふけっていた。
「ここにも載ってないか……」
牙城はそう呟いて本を閉じた。
そのまま椅子に深くもたれ掛かると、長いため息をついた。
「クソッ、どれもこれも役に立ちゃしねぇ……」
そう言って牙城が目を瞑った時、唐突にドアが開き二人の人物が入ってきた。
「父さん、邪魔するよ」
「お邪魔しまーす」
部屋に入ってきた霊斗と天音は積み上げられた文献の山を掻き分けながら牙城の元にたどり着く。
その二人に向き直りつつ、牙城は口を開く。
「何か用か、お二人さん」
「絃神島での焔光の宴の基点が分かった」
「……どこだ」
牙城が聞くと霊斗は一枚の地図を差し出す。
その地図には一点を中心として大きな赤丸がついていた。
「中心地点は旧南東地区のクォーツゲート。範囲は予測だけど……できればその辺りに特区警備隊を配置しておいて欲しい」
「分かった、那月ちゃん先生と掛け合っとく」
「よろしくお願い。じゃあ、俺たちは行くよ」
そう言って部屋を出ようとする霊斗の背中に牙城が声を掛ける。
「霊斗」
「なに――うわっ!?」
振り向いた霊斗に牙城が箱を投げつける。
「これは……?」
「真祖殺しの聖槍の刻印を一部刻んだ銀イリジウム弾だ。いざという時に使え」
「……分かった。ありがとう、父さん」
「霊斗」
「なに?」
「本当に行くんだな?」
「……俺以外に誰がザハリアスを止められるってのさ」
「……死ぬなよ」
「うん」
そう言って頷くと、霊斗は部屋を後にした。
「はぁ……誰に似たんだか……」
「わかってるくせに」
「はは、こいつは手厳しい」
牙城はそう言って天音の方を向く。
「これからどうするんだい、弟くんの危機だぜ」
「そんなの決まってる。あの子の能力だけは使わせない」
そう言ってドアの方をみる天音。
その肩に手を置きながら牙城が言う。
「無理はするなよ」
「うん、気を付けるよ」
そう言って少し悲しげに笑った天音は立ちあがり、ドアの方に向かう。
そして、牙城に手を振ってから部屋の外に出ていった。
「ったく、世話のかかる奴等だ」
そう言って牙城は使い古したコートを羽織った。
「どういうことだよ!なにが起きてんだ!?」
古城は携帯を握りしめたまま叫ぶ。
両親には連絡が着かない。
霊斗は学校に来ていない。
「仕方ねぇ……やっぱりアヴローラのところに行くしかねぇな。念のため凪沙も連れてくか……まぁ、しっかり説明すればわかってくれるだろ……」
思い立ったが吉日とばかりに帰り支度を始める古城。
そんな古城に浅葱が声を掛ける。
「ねえ古城、なにかあったの?」
「いや、ちょっとな……あ、俺もう帰るからさ。なんとか誤魔化しといてくれ」
古城はそう言って教室を出る。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!まさかアヴローラに何か……!」
そう言って古城の肩を掴む浅葱。
古城は渋々立ち止まると、首を横に振る。
「大丈夫だ。アヴローラには何もない。あってたまるか」
古城がそう言って再び歩き出そうとしたときだった。
「古城!急いできてくれ!」
「霊斗!?」
突然表れた霊斗は息を切らせながら言う。
「凪沙がつれてかれた……、さっき遠山さんが迎えに来たらしい」
「はぁ!?それって不味いんじゃねえのか!?」
「だから急げって言ってるだろ!」
霊斗はそう言うと、目の前にゲートを開いた。
「え、なにそれ」
「空間転移術式だ。那月ちゃんに教えてもらったんだ。これでクォーツゲートまで一発だ!急げ!」
「あ、ああ」
呆然とする浅葱の前で、二人の姿は消え去った。
そして次の瞬間、浅葱の怒りの声が学園中に響き渡った。
「ふざけんじゃないわよぉぉぉぉ!!!」
「さぁ、最後の準備をしましょう……我が主よ」
今回はいつもより短めです(いつもも短いですが)。
ではではまた次回!