「……入りたくねぇ」
浅葱たちと合流したあと、霊斗が発した第一声である。
場所はティティスモールの女性服売場、その一角にあるランジェリーショップ。
「ほら、お金出すのはあんたなんだから大人しく着いてきなさい」
浅葱がそう言いつつ霊斗の腕を捻り上げる。
「うがぁっ!?ちょ、肘の関節外れる……!」
苦しむ霊斗を見ながら古城が苦笑いを浮かべる。
その隣では矢瀬が笑いを堪えている。
「まぁ霊斗、諦めて頑張ってこいよ……プックク……」
「なに言ってんの?あんたたちも来るのよ」
「は!?」
浅葱の台詞に驚愕する矢瀬。
「まぁ予想はしてた」
そう言ってアヴローラの手を握る古城。
それを見た浅葱が微妙な表情を浮かべる。
「なんか、それ見てると親子みたいよね」
「親子って……母親誰だよ」
そう呟いた古城の肩に腕を回しつつ矢瀬が茶化す。
「なーに言ってんだ古城、この場でお前とお似合いの女なんて浅葱しかいねーだろ」
矢瀬がそう言うと、浅葱が顔を真っ赤にしながら言う。
「な、ななな、なに言って……」
すると、照れる浅葱をみた霊斗が意地の悪い笑みを浮かべながら言う。
「じゃあ俺は浅葱のことを姉貴って呼べばいいのか?」
「だ、誰が姉貴よ!?だいたい付きあってもいないのに夫婦とか無理があるでしょ!?」
顔を真っ赤にしたまま叫ぶ浅葱の後ろから肩を叩く霊斗。
そして、そっと囁く。
「将来の予行演習と思ってがんばれよ」
「!?!?」
霊斗が少し離れると、浅葱は深呼吸して言う。
「し、仕方ないわね!古城だけじゃその子の面倒を見きれないって言うなら……て、手伝ってあげてもいいわよ!」
そして浅葱が反対側のアヴローラの手を取ろうとする。
しかし、アヴローラはその手をはね除ける。
「「「え?」」」
古城、矢瀬、浅葱が同時に声をあげ、霊斗がやってしまったという表情を浮かべる。
いち早く立ち直った古城がアヴローラに声をかける。
「お、おいアヴローラ?」
「むー……こじょう、渡さない」
そう言って浅葱を睨み付けるアヴローラ。
その目を真正面から睨み返して浅葱が挑発的に言う。
「ふん、古城があんたみたいな幼児体型に誘惑されるわけないでしょ」
しかし、アヴローラも負けじと言い返す。
「そんなことない!こじょうは我が裸体に欲情して鼻血を出した!」
「んなっ、古城あんた!」
「待て!それは誤解だ!あれは不可抗力というかなんというか!」
浅葱に睨まれて必死に弁明する古城。
その足元には得意気に胸を張るアヴローラがいた。
そして、とうとう痺れを切らした霊斗が溜め息をついて言う。
「なぁ、いい加減買い物しようぜ」
「くうぅ……俺の財布の中身が……」
「お疲れさん」
悲痛な面持ちで財布の中を見る霊斗の肩に手を置き、苦笑いを浮かべる古城。
そんな古城を恨めしそうに見ながら霊斗が言う。
「第一お前のせいで買うものが増えたんだろうが」
「うっ、悪い」
霊斗はため息を付きつつ浅葱を見る。
その手には小さめな紙袋が。
「……ったく、なーにが『このピアス、浅葱に似合いそうだな(キリッ)』だよ、金出すのは俺なのによ……」
「いや、キリッは言ってねえし」
そう突っ込む古城の袖をアヴローラが引く。
「こじょう、おなかすいた」
「あぁ、もうそんな時間か……じゃああれだな、ヴェルさんがバイトしてるって言う喫茶店でもいくか」
「そうだな……浅葱と基樹もそれでいいな?」
霊斗がそう聞くと二人は無言で首肯く。
「よし、決まりだな」
目的地に到着した霊斗はドアを開けて店内に入る。
すると唐突に悪役っぽい声で店員が迎える。
というか、ヴェルディアナその人だった。
「フハハハハ!哀れなる仔羊どもよ、恐怖に彩られた惨劇の館へようこそ!って……え?」
「よ、ようヴェルディアナ……」
ひきつった笑顔のまま霊斗は片手を上げる。
その瞬間、ヴェルディアナは脱兎の如く厨房へと駆け込んでいった。
「あ、あれ……案内は?」
「ごめんなさいね、霊斗さん。妹がご迷惑を」
「あ、リアナさん、お久し振りです」
霊斗がそう言うとリアナは微笑み、霊斗たちを席へと案内した。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言ってリアナは優雅に歩き去っていった。
その後、霊斗が人数分のドリンクバーとポテトを頼むと、古城はアヴローラを引き連れてドリンクバーへと向かっていった。
「……ガキだな」
霊斗がそう呟くと、浅葱が頷きつつ言う。
「まったくね。あれが世界最強の吸血鬼の素体って……未だに信じられないわ」
浅葱の視線の先では、古城と一緒になってドリンクを混ぜるアヴローラの姿が。
そんな浅葱を励ますように矢瀬が言う。
「大丈夫だ、胸のでかさじゃ負けてないぜ」
「あんたねぇ……」
頬をひきつらせながら浅葱が矢瀬を睨む。
矢瀬は気まずそうに目をそらすと、無言で古城たちの方に歩いていった。
「馬鹿だな、あいつは」
「昔からそうよ……ところで霊斗」
「なんだ?」
霊斗が浅葱の方を向くと、浅葱は真剣な表情で言う。
「古城って巨乳と貧乳どっちが好きなの?」
「知らねーよ」
霊斗は呆れつつ追加注文したコーヒーを飲む。
すると浅葱は再び霊斗に聞く。
「じゃあ霊斗はどっちがいいの?」
「!?」
予想していなかった質問に盛大にむせる霊斗。
「ごほっごほっ!な、なんで俺の好みの話になるんだよ!?」
すると、浅葱は少し考えてから答える。
「ほら、兄弟とかって似るんじゃないかなって」
「いやいやいや、血繋がってねぇし」
霊斗がそう言った次の瞬間、隣の席から声がした。
「霊君は胸の大きさなんて気にしないよ」
「なっ、天音!?なんでいるんだよ!?」
霊斗がそう言うと、天音は堂々と言い放つ。
「一人だと寂しいからこっそり着いてきたのさ!」
堂々と言うわりに理由はどうしようもなかったが。
霊斗が天音の台詞に呆れ、ため息をついたとき、今度はドリンクバーの方からアヴローラの悲鳴が聞こえた。
今度は何事かと思った霊斗が声の方を向くと、アヴローラのグラスから泡が溢れだしている。
「ふぇぇ、こじょう~」
「落ち着けって、ほらグラス置け」
騒がしい二人の方を見ながら、後でヴェルディアナに文句をいわれるだろうな、などと考えていた霊斗は、天井を見ながら呟いた。
「勘弁してくれ」
今回はここまで!
因みにカットしてあるところは基本的に原作と同じだと考えていただければいいです。
ではまた次回!