MAR前、古城は突然の事に声をあげる事もできなかった。
怯えたアヴローラが古城の服を掴んだことで我に返った古城は、反射的にアヴローラを抱き抱えていた。
「ぐうっ……狙撃か……」
「霊斗!大丈夫か!?」
古城が声を掛けると、霊斗は足を押さえながら立ち上り答える。
「このぐらいの傷、すぐに塞がる。それよりも今は逃げる方が優先だ」
霊斗はそう言うと右の拳を握る。
そしてその拳を真っ直ぐ前に突き出すと何かを唱え始める。
「亡霊の吸血鬼の魂を継ぎし者、暁霊斗が汝を天界より呼び起こす」
霊斗の身体から膨大な魔力が溢れだし、人の形を造る。
「降臨せよ、十二番目の眷獣、"天照大御神"!」
霊斗がそう叫んだ瞬間、魔力の人形が炎に包まれる。
そして現れたのは一人の少女だった。
「え?」
あまりの失望感に古城は間抜けな声をあげる。
しかし霊斗はその少女に平然と声を掛ける。
「そっちで来たのかよ……まあいいや、天音」
「はいよー、認識阻害の結界でしょ――えいっ」
天音と呼ばれた少女が可愛らしく掛け声をあげると、古城たちの周囲を半透明の紅い壁が囲う。
「霊斗、なんだよこれ」
古城が聞くと、霊斗は何でもないかのように――実際霊斗にとっては何でもないのだろう――答える。
「認識阻害の結界だ。この中にいる限りは誰にも気付かれない」
「すげー便利だな」
古城が感心しながら言うと、ここまで空気だったヴェルディアナがやっと口を開く。
「こんな便利なものがあるんなら狙撃される前に使ってれば良かったじゃない」
ふて腐れたように言うヴェルディアナだが、古城の位置から見える横顔は心配している<恋する乙女>の顔にしか見えなかった。
しかし、霊斗はそんなことに気づかずに平然と返す。
「いや、この結界は座標固定式だからな。移動しようとしてる時には使えないんだよ」
「ふーん……」
そこまで朗らかに話をしていた霊斗だったが、急にその表情が引き締まる。
その視線の先には数人の男たちがいる。
「おかしいですねえ。ここで仕留めたはずですが……空間転移でもしましたか……」
悔しそうに呟く男の顔を睨み付けながら、ヴェルディアナが声を絞り出す。
「ザハリアス……」
それを聞いた霊斗が興味深そうに呟く。
「そうか、奴がバルタザール・ザハリアスか……天音、頼む」
霊斗はそう言うと、結界の外に向かって歩き出す。
「霊斗?」
「ちょっと話をしてくる」
「は!?」
驚愕する古城を無視して、霊斗は結界の外に出た。
「よう、あんたがザハリアスか」
「驚きました、これはこれは……今のは空間制御術式ですか?」
「まあ、そんなところだな」
霊斗が答えると、ザハリアスはにやりと笑って話を始めた。
「ところで第五真祖殿。あなたが十二番目の封印を解いたのでしょう?そこで少々お話をさせていただきたいのですが」
「いいぜ。俺もあんたと話したいと思ってたところだぜ」
霊斗の不敵な笑みを見たザハリアスは再び笑みを浮かべると、不意に札束を取り出す。
「早速本題に入りましょう。あなたが目覚めさせた十二番目を売っていただきたいのです」
そう言うとザハリアスは人の良さそうな笑みを浮かべる。
しかし霊斗はその商談をたったの一言で破談にした。
「断る」
そして次の瞬間にザハリアスの後ろにいた男が二人、腕があった場所から鮮血を撒き散らしながら倒れた。
「な……!?」
「攻撃の体勢に入ったのが見えたんでな。先手必勝ってな」
そう言って頬の返り血を拭う霊斗。
ザハリアスは恐怖に顔をひきつらせながら言う。
「わかりました、交渉は決裂ですね。気分を害したこと、お詫び申し上げます」
そんなザハリアスを無表情に見ると、霊斗は何かに気づいたように呟く。
「そうか……さっきから感じる魔力……ザハリアス、お前は……」
そこまで言うと霊斗は軽く手を振って言う。
「まあいい、これ以上攻撃されたくなければさっさと消えろ」
「では失礼します、第五真祖」
そう言ってザハリアスは去っていった。
その背が完全に見えなくなったのを確認すると、霊斗は近くの草むらに向けて声を掛ける。
「んで、いつまで隠れてるつもり?」
そう言いつつ結界を解除する霊斗。
すると草むらから一人の男が立ち上がる。
ヨレヨレのコートを身に纏い、顔には不精髭が目立つ。
そして、その顔は古城のよく知る人物のものだった。
「よ、元気にしてたか?霊斗」
「おかげさまでね」
霊斗の皮肉げな返しに笑うと、男は古城の方を向く。
「なんだ、こっちは相変わらず府抜けた面構えしてやがるじゃねえか」
その失礼な物言いに耐えきれなくなった古城が叫ぶ。
「なんでテメェがここにいやがる!このクソ親父!」
古城の叫びを聞き流し、男――暁牙城は言った。
「久しぶりだな、クソ息子よ」
大幅カットぉ……ですかねぇ。
じゃ、また次回!