ストライク・ザ・ブラッド~幻の第五真祖~   作:緋月霊斗

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書きます。


愚者と暴君編Ⅵ

頬に当たる暖かい感触。

霊斗はそれを確かめようとして、目を開いた。

その瞬間視界に飛び込んできたのは一面の()

「ここは……?」

声をあげると、その声は普段よりも高い。

おかしいと思い、咳払いをしたときだった。

「あ、目が覚めた?」

聞こえてきたのは、聞き慣れているはずなのに聞いたことの無い声。

「おはよう、気分はどう?」

「……天音?」

霊斗が顔を上に向けると、不満そうに頬を膨らませたいつもより幼い顔立ちの彼女がこちらを覗き込んでいた。

「天音姉ちゃんでしょ?お姉ちゃんを呼び捨てにするなんて悪い子だなぁ」

「え……?」

今、彼女は何と言った?

お姉ちゃん?

自分に姉はいないはず。

その時、霊斗の脳裏に監獄結界での桃華とのやり取りが浮かぶ。

「そうか……ここは……」

霊斗がそう言うと、天音は微笑みながら彼に問いかける。

「思い出した?」

「ああ、何とかな」

そう言って立ち上がった彼の身体はいつもより二回り以上小さい。

「ここは……あの時に抜け落ちた俺の記憶……か?」

「そう。正確には、第五真祖の魂に取り込まれていた部分

だね」

そう言って天音は霊斗の手を取る。

「ねえ、君はあの時をやり直したいと思う?」

その瞳には不安と、僅かな期待が込められている。

しかし、彼は首を横に振る。

「どんなにやり直したって結果は変わらない。そうだろ?」

「そうだね。そこで起きることはすべて必要だから起きる。だから誰にも変えることは出来ない」

そう言って天音は彼の頬に手を添える。

「でも、君の能力(チカラ)なら……」

「変えることが出来るかもしれない?」

彼に聞き返されて、天音は息を呑む。

そんな天音の瞳を真っ直ぐに見つめながら、彼は続ける。

「あの時能力を使ったって何も変わらなかったさ。あの時の俺は能力を制御出来てなかった。みんなまとめてドカンだ」

そう言って笑う彼の身体が段々と淡い光に包まれていく。

もうすぐこの記憶の世界は閉じる。

光が強さを増していく中、彼は最後に笑いながら言った。

「俺はもう忘れない。だからさ、一番近くでずっと見守っててくれよ」

天音の瞳から涙が溢れる。

消え行く世界の中、彼の声が聞こえた。

――またな、姉ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスタルテは、うなされている霊斗の汗を拭った。

因みに膝枕状態である。

すると、霊斗がうっすらと目を開いた。

「霊斗さん!大丈夫ですか!?」

アスタルテが抱き起こすと、霊斗は軽く頭を振って座る。

「悪いな、アスタルテ。重かっただろ?」

「いえ、ほんの少しでしたから」

「そうか……」

霊斗はそう言うと、何か悩むように目を泳がせる。

そして、何かを決めたように頷くとアスタルテに向き直った。

「アスタルテ、聞いてほしい事があるんだ」

霊斗がそう言うと、アスタルテも霊斗に言った。

「私も霊斗さんに聞きたいことがあります」

「え?……じゃあ、どうぞ?」

霊斗が戸惑いながら促すと、アスタルテは頷いて言った。

「霊斗さんの話を、聞かせてください。今回思い出した、まだ聞いていない話です。私は、昔の霊斗さんをもっと知りたいです!」

それを聞いた霊斗は少しの間きょとんとしていたが、急に笑いだした。

「な、何ですか!好きな人の事を知りたいと思うことがそんなにおかしいですか!?」

アスタルテが少し拗ねながらそう言うと、霊斗はアスタルテの頭を撫でながら言った。

「違う違う。俺が話そうとしたことをお前が聞いてきたのが面白かっただけだよ」

霊斗はひとしきり笑ったあと、アスタルテを抱き寄せた。

「まあ、そこまで想われてて話さないわけにはいかないな」

そう言って霊斗は話し始める。

「そうだな、この前話した所も色々変わってるんだけど、まずは……そうだな、俺の昔の名前からいくか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔の名前とは言っても今とあんまり変わんないんだよな。

とりあえず、名前は紅零牙。

な?あんまり変わらないだろ?

そして俺には弟と妹と……姉がいた。

そして、俺の家系は代々真祖の魂を封じ続けていた。

理由としては、先祖の代からずっと強力な霊能力者ばかりが産まれていたからだ。

そしてその真祖の魂は第一子が受け継ぐことになっていた。

つまりは俺の姉だ。

俺と姉は四歳違いだった。

でも、姉は本当に俺によくしてくれた。

そんな姉が真祖の魂を受け継いだのは五歳の時。

俺が産まれる一年前だ。

でも姉は俺の前で能力を使ったことはなかった。

そんなある日、あの事件が起きた 。

祭壇に捕まった俺はもうだめだと思っていた。

だけど、そこに姉が来てくれたんだ。

姉は神父の目を盗んで俺を解放してくれた。

だけど、それに気づいた神父が姉を拳銃で撃った。

いくら真祖といえど、銃で撃たれれば痛い。

苦しむ姉を見て、俺は何も考えられなくなった。

そして、気がついたときにはもう、神父は死んでいた。

これは前にも話した通り、俺の霊能力の暴走が原因だ。

姉も、本来なら致命傷になるような傷で倒れていた。

俺自身も霊力が空っぽになって、息も絶え絶えだった。

そんな俺に、姉は近づいてきたんだ。

そしてこう言った。

『私の力をあげる。だから、私のぶんも生きて』

俺は指の一本も動かせないまま、姉から力を受け継いだ。

そして姉は治りきっていなかった傷が原因で死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さん、いい人ですね」

「ああ。俺は昔から、誰にでも優しい姉が大好きだったんだ」

「シスコンですね」

「シスコンで結構。んで、この話には続きがある」

「続き?ここから牙城さんに拾われるところに続くんじゃないんですか?」

「違うんだな、そこまでの間にもうひとつあるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

代々、真祖の眷獣は十一体だった。

日本神話の様々な神々の名を冠した眷獣たち。

その中でも重要な三柱の神、スサノオ、ツクヨミ、アマテラス。

その内、アマテラスだけは欠けていた。

だけど、姉の魂がアマテラスの名を冠した眷獣に変化した。

こうして、俺の使う眷獣は十二体になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことは、霊斗さんのお姉さんって」

「天音だな」

「優……しい?」

「頭んなかが眷獣化したときで止まってるんだろ」

「えぇ……」

「さてと、こんなもんで粗方話したか。んじゃ、那月ちゃんの所に戻るか」

「そうですね……あの」

「なんだ?」

「これから、時々零牙さんって呼んでいいですか?」

「だめ」

「何でですか?」

「紅零牙は、俺が第五真祖になったときに死んだんだ。今の俺は暁霊斗だ」

「そうですか。霊斗さんがそういうなら、諦めます」

「そうしてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ……照れちゃって、可愛いなぁ」

あの娘に昔の名前で呼ばれるのを恥ずかしがる姿はなんだか新鮮だ。

「私が呼んだら怒るかな?」

きっと彼は恥ずかしがりながら怒るだろう。

でも、そのあとに小さな声で姉ちゃんと呼んでくれるのだ。

私はもう、彼の姉ではないのに。

彼の姉である私は、とっくの昔に死んでいる。

だから、私には彼の姉として振る舞う権利はないのだ。

「わかってても……」

わかっている。それが叶わない事くらい。

それに、私に残された時間はもう少ない。

ならば最後まで、彼の眷獣として戦うだけだ。

その決意だけは揺るがない。

「にしても……能力のほうは結局思い出せず……か」

だめだなぁ、あの子は。

最後の詰めが甘いのは子供の頃から変わらない。

じゃあ、そんな彼が思い出すその時まで。

今は

「おやすみ、零牙」




今回で大方霊斗の過去には触れました。
次回からは本編に戻っていきます。
では次回。

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