監獄結界。
椅子に縛り付けられた古城と浅葱が眠っている。
その様子を見守っていた霊斗に雪菜が声をかける。
「霊斗さん、少しいいですか。アスタルテさんも」
「ああ、いいけど……」
「はい」
雪菜が霊斗たちを連れて向かった先は隣のもう一つ部屋だった。
「ここは?」
霊斗が聞くと、雪菜は真剣な表情で答える。
「会ってもらいたい人が居ます」
「は?会ってもらいたい人?」
霊斗は首を傾げながら雪菜についていく。
すると部屋の中央に二つの影があった。
その二人は霊斗を見るとこちらに向かってきた。
そして――
「お兄ちゃぁぁぁん!」
「⁉」
そのうちの一人――少女だった――が霊斗に勢いよく抱きついた。
「えっ?なに?ドッキリ?」
慌てふためく霊斗にもう一人――こちらは少年――が笑顔で言う。
「ドッキリだったら良かったね、兄さん」
霊斗は少年の顔を見る。
そして恐る恐る呟く。
「蒼牙……?」
「そうだよ。十年振り位かな?久しぶり、兄さん」
それを聞いた霊斗は次に少女の方を見て言う。
「桃華?」
「うん……久しぶりお兄ちゃん……会いたかった……」
霊斗に名前を呼ばれていっそう強く抱き締める桃華。
「痛い痛い……背骨折れるって」
さすがに身の危険を察した霊斗がそっと桃華を引き離す。
桃華は一瞬不満そうな表情になったが、すぐに蒼牙の隣に戻る。
それを確認して、霊斗は二人に聞く。
「なんでお前らがここにいるんだ?」
霊斗の問いに蒼牙が答える。
「なんでって……そんなの決まってるでしょ?」
そこで一呼吸おいて、続ける。
「兄さんの失った記憶を取り戻すためだよ」
「ぐうっ……」
「霊斗さん!」
蒼牙の言葉を聞いた霊斗が頭を抱えて踞り、アスタルテが駆け寄る。
「やっぱりね。兄さんにも第四真祖と似たようなことが起きてるんだよ」
「古城と同じ……?」
霊斗が息を荒げながら聞き返す。
その瞳は暗い赤色に染まっている。
「そう、真祖になった影響で記憶を失っているんだよ」
蒼牙がそう説明し、続けて桃華が霊斗に聞く。
「お兄ちゃんは昔の自分の名前、覚えてる?」
「それは……うぐぁっ!?」
桃華に聞かれ、思い出そうとした霊斗の表情が苦痛に歪む。
「霊斗さん……」
「大丈夫だ。ありがとな、アスタルテ」
心配そうに覗き込むアスタルテの頭を撫でながら、霊斗は笑って見せる。
そんな霊斗を見て面白くなさそうに頬を膨らませた桃華がさらに聞く。
「じゃあ、お姉ちゃんのことは?」
「姉?俺に姉なんて――――いな……い……」
そこまで言ったとき、霊斗の顔から一気に血の気が引く。
その表情がなにかを思い出したかのように歪む。
「あ……ああ」
「思い出した?」
桃華に聞かれ、ゆっくりと首肯く霊斗。
そして霊斗は意識を失った。
「霊斗さん……?」
アスタルテが不安そうに霊斗の顔を覗き込む。
そんなアスタルテに蒼牙が言う。
「大丈夫、脳に普通より大きな負荷が掛かったせいで疲れて眠っているだけです」
「このまま起きないなんてことは……」
不安げに聞くアスタルテ微笑みかけながら蒼牙は言う。
「それはないですよ。だから、兄さんが目を覚ますまで一緒にいてあげてください」
「わかりました」
アスタルテの力強い返事に、蒼牙が首肯く。
「じゃあ兄さんのこと、よろしくお願いします、アスタルテさん」
蒼牙はそう言うと、桃華をつれて監獄結界の外に向かった。
途中で雪菜に声をかける。
「じゃあまたね、雪姉」
「うん、蒼君と桃ちゃんも気を付けてね」
雪菜はそう言って二人の頭を撫でる。
そして蒼牙は那月を呼ぶ。
「南宮先生、ありがとうございました」
「構わん、教え子の記憶が無いなど教師として見過ごせん」
いつもと変わらない那月の態度をみて、蒼牙が呟く。
「……本当は兄さんのこと、気になってるくせに」
「んなっ!?そんなわけがあるか!?」
「因みに、僕らは読心術は得意なので」
「~~~~っ!……誰にも言うなよ……」
蒼牙が得意気に胸を張ると、那月は顔を背ける。
そんな那月に桃華が追い打ちをかける。
「南宮先生って意外と可愛いのね。だからみんなに那月ちゃんとか呼ばれるのよ」
「う、うるさい!!用がすんだなら帰れ!」
桃華の容赦ない一言に涙目になりなが那月が怒鳴る。
那月に怒鳴られた二人は肩をすくめながら監獄結界の外へと歩いていった。
二人が出ていったのを確認して、那月は再び古城たちの所へと戻る。
その頬は微かに赤く染まっていた。
はぁー、かいたかいた。
ではまた次回。