biohazard cordname”NT”   作:ナッツガン

37 / 45
終わる命
始まる命
守る命
どれも大切な命

これは悲劇の話


始まりの終わり

 イドニア共和国の市庁舎周辺を制圧すると、俺とジルは周辺の調査を続けていた。

 しかし、一向に情報の一つも手に入らない。

 長い道を真直ぐ進みながら、綺麗な街並みに関心していた。

「こうして見れば綺麗なものね」

「ああ、町はあれだけ荒れているって言うのに」

「でも、それがこの町のいい所なのかもね」

「そうかもしれないな」

 この辺はまだある程度綺麗な方だ、少なくとも市庁舎前とは大違いだ。

 市庁舎を離れて数分が経っていると、俺達は情報収集を行っていた。

 未だにウイルス提供者の情報が手に入らない。

 人が生活していたという状況だけが、この周辺の状況を見れば把握できる。

 長い道を進んで曲がり角に差し掛かった時、俺達の前に傷だらけの反政府ゲリラが出てきた。

「ジュアヴォじゃない?」

 俺達は傷だらけの男に歩みよると、彼に話しかけた。

「どうしたんだ!?」

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 男は呼吸を整えていると、俺達は男の状況を把握した。

 ジュアヴォと違って傷の治らない所を見ると、彼は感染していないようだ。

「女が…女が…仲間に」

「女が仲間に?」

「仲間に…栄養剤を…渡して…みんながそれを…そしたら…」

「みんなジュアヴォに?」

 男は黙って頷くと、俺は男の女の名前を尋ねた。

「そいつの名前は言っていたか?」

「……ネオアンブレラの…エイ…」

「エイ?」

「エイダ・ウォン」

「エイダ…ウォン?」

 エイダ…エイダが今回の主犯格?

 まさか…そんなはず…無い

「本当にそう言ったのか!?エイダ・ウォンと!」

 男は黙って頷くと、静かに息を引き取った。

 俺は完全に動揺していた、エイダが主犯だと聞いたからだ。

 そんなはずないと頭で言い訳をしては見るが、それが絶対だという理由もない。

 俺が1人で悩んでいると、ジルが俺に話かけてきた。

「確かめましょ!それが一番いいわ」

「…ありがとう」

 俺達はその場から移動すると、市庁舎の前にたどり着いた。

 市庁舎の前では、BSAAの兵が制圧戦を行っていた。

 情報を手に入れたが、彼らのアジトの場所を把握しているわけではない。

 自称エイダを探すためにはこの町を探して回らなくてはならない。

 俺は市庁舎の方を見た時、市庁舎の異変に気づいた。

「?銃撃音が聞こえる?気のせいか?」

 耳を傾けると、確かに市庁舎の方から銃撃音が響いている。

 ジルも同じように銃撃音が聞こえてきたらしく、異変に気づいたようだ。

 俺達はBSAAの隊員を連れて行くと、市庁舎まで急いだ。

 市庁舎の中に入ると、中では新種のBOWが多く徘徊していた。

 姿は一種のゴリラのようにも見れて、体を堅い何かで覆われている。

「全員銃を構えろ!」

 俺自身もハンドガンを撃っているが、体が硬くて中々攻撃が通らない。

 俺は武器をショットガンに切り替えると、BOWの体に向けた。

 BOWの体の一部が剥げて、肉体が露わになった。

 みんな化物の対処方法が分かったようで、何とか建物の柱なんかを利用して攻撃していた。

 最後の一体が倒された時、上階の壁が突如壊れて先ほどのBOWが現れた。

 一体が大きくジャンプしてくると、俺達は転がって回避した。

 その時、俺は何かの声を聞いた。

『…だ…い…ひょ…う…こ…ろ…し…て』

 俺はショットガンを使ってBOWを殺すと、体から出てきた何かを見つけた。

 俺はそれを拾いあげて確認すると、それはBSAA隊員の配られたドッグダックだった。

 ドッグダッグに書かれていた名前には『フィン・マコーレー』と書かれていた。

「アルファーチームの新人の名前だな」

 そう言った所で俺は恐ろしい事を想像していた。

 俺はBOWの見回すと、嫌な想像をしてしまった。

「まさか…このBOW…全部アルファーチームじゃないよな?」

「嘘!」

 ジルも俺と同じ予感にたどり着いたようで、死んだBOWから出てきたドッグダックを拾い、なまえを確認した。

 みんなで確認していると、二人ほどドッグダッグが確認できなかった。

「クリス隊長とピアーズ隊員がいません!」

 壊れた壁の奥から銃撃音が聞こえてくる。

「行くぞ!」

 俺達は走って奥に行くと、通路で必死になってBOWを撃退するピアーズがいた。

「ピアーズ!」

「代表!?」

「状況は!?」

「…隊長と俺を残してアルファーチームは…全滅です」

 俺の中にある何かが徐々に上がって行く。

「誰が…誰が…そんな事を?」

「エイダ・ウォンと名乗る女が…仲間に…」

 そこまで言った所で、俺の怒りは限界を超えようとしていた。

「そいつはどこに行った?」

「…多分裏口から」

 そう言うと俺は振り返って、全員に指示を出した。

「クリスとピアーズは撤退だ。ここにいる隊員は市庁舎内のBOWの撃退。新型の確保だ」

 そう言うと俺は歩いて行く、後ろからの声が聞こえても耳に入らない。

「なんか…代表、やけに落ち着いてますね?」

「そう?私には怒りが今にも爆発しそうな人間にしか見えないけど」

 ジルも同じようについてくる。

 入り口まで走って行くと、回り込んで裏口に急いだ。

「許さん…絶対に」

 あの時聞こえた声は…多分…フィンの声だったに違いない。

 俺は体にあるウイルスがかろうじてフィンの意識を俺に伝えたと信じたい。

「許さん!絶対に!」

 裏口にたどり着くと、1人の女性が出てくる所だった。

 俺はハンドガンを使って女をけん制した。

「そこまでだ!」

 俺とジルはハンドガンを構えて、女に照準を向けた。

 女は後ろ姿しか見えない為、誰かは分からない。

「黙ってこっちを向け!」

 女は黙ってこちらを向くと、俺はその顔を見て驚きを隠せ無い。

 確かにそこに居たのは…エイダだった。

 俺はそれを見ると、小さくつぶやいた。

「……誰だ?お前は…誰だ?」

「エイダ・ウォン」

「違う…お前はエイダじゃない。お前は本当に…」

 俺は先程から感じていた疑問をそのままぶつける事にした。

「…お前は本当に…人間か?」

 偽エイダは黙っていると、何も言わないで腕から何かを落とした。

 煙が上がって行くと、偽エイダはその場から離れて行く。

「ジル!追いかけるぞ!」

 俺達はまたイドニアの町を駆けて行く。

 長い道を追いかけて行くと、すぐに偽エイダを見つける事が出来た。

 そこまで行くと、彼女が偽物だと判断出来た。

 エイダはこんな方法を取らない。

「誰なんだ!?」

「しつこいわね?しつこい男は嫌われるわよ」

「エイダの真似をしている女が今更!」

「どうしてそう思うのかしら!」

「お前は俺を見ていない!俺はエイダの事を知っている!少なくともお前以上にな!それに、お前は人間じゃない!」

 彼女の体からウイルスを感じる。

 マシンガンを撃ちながら、偽エイダの足を狙うが、偽エイダは曲り角を曲がるとジュアヴォの用意した車に乗った。

「クソ!」

 俺達の足では追いつけそうにない。

 そうしていると、更にもう一台の車がやってきた。

「二人とも乗ってください!」

 そこに居たのはピアーズで、俺達は車に乗り込んだ。

「クリスは?」

「治療班に任せてきました!摑まっていてください!」

 ピアーズは前の車にあっという間に追いつくと、ジルが後ろの機関銃を使って偽エイダに攻撃を仕掛けた。

 その間に俺はエイダに連絡を取ることにした。

 エイダに電話を掛けると、すぐに連絡がついた。

「エイダ!聞きたい事がある」

『何かしら?』

「お前今どこだ?」

『ビーチでバカンス中よ』

 嘘は言っていないだろう、少なくとも後ろから波の音が聞こえてくる。

「すまないな」

 そう言うと俺は電話を切って目の前の偽エイダに集中することにした。

「間違いない!あれは偽物だ!」

 川沿いにたどり着くと、偽エイダはボートに乗り換えてそのまま逃げて行った。

 俺達は車から降りると、ボートに乗り換えた。

「急ぎます!」

「頼む!」

 俺達はハンドガンやマシンガンを使って偽エイダの乗っているボートを攻撃した。

 ピアーズは運転がある為、攻撃が出来ない。

 揺れるボートの上では、中々攻撃が当たらない。

「待て!偽エイダ!目的はなんだ!?」

「さあね?想像してみて?」

「はぐらかすな!」

 答えが返ってくるとも思っていない、足止めになればと思って行って見た。

 ボートは確実に町の外に走って行く。

「町の外に行かれると厄介だ!」

「それまでには!」

 偽エイダは再びボートから降りると、そのまま逃げて行った。

 俺達も再び偽エイダを追って行くと、広い広場に出た。

 そうしていると、上にやってきたヘリから機関銃の攻撃が降ってくる。

 俺達は物陰に隠れると、偽エイダの声が聞こえてきた。

「じゃあね」

「待て!」

 偽エイダはヘリに乗り込むと、そのまま山奥に逃げて行った。

「追いますか?」

「無理だろうな」

俺はポーチからフィンと書かれたドッグダッグを持つと、死んだ者達を思い浮かべた。

 忘れないでおこう…

 彼らがいたことを…

 彼らが闘った事を…

 みんながこの戦いで犠牲になった…

 この戦いの犠牲者を無駄にしないためにも…

「ベル?」

「忘れないでおこう…この戦いで犠牲者がいた事を…」

「そうね…」

「この戦いの悲劇を」

「フィン…」

 俺達はこの時、確かにそう誓ったんだ。

 これが始まりの物語




 北米支部の代表室では、今まさに通信会議が行われていた。
 国連のトップと各国の首脳と俺との間で。
 内容は既に決まっていた。
 数日前に失踪したクリスの処置をどうするかだ。
 そして、今処置が決定した。
 俺は代表室の前でたむろっているメンバーに告げることにした。
「たった今クリスの処置を決定した」
 メンバーはピアーズやパーカーを初めとする、クリスに面識のある人間たちだ。
「クリスは戦死扱いとする。以上だ」
 そう言うと、予想通りの反応が返ってくる。
「待てくれ!死んだわけじゃないのに戦死は…」
「病院から逃げ出した人間をいまさら捕まえたところで役には立たない」
「しかし!」
「それにこれは国連の決定だ」
「お前はそれでいいのか!?」
「ああ、俺はこれが妥当だと思う」
 そう言うと全員があきらめた顔をしていた。
 すると、ピアーズは俺に提案を持ちかけた。
「待ってください!期限を!少しだけ待ってください!俺が隊長を連れてきます!この時に隊長がやる気を取り戻していたら、復帰を許してください!」
 みんなからも俺もと声が聞こえてくる。
「……いいだろう」
 そう言うと全員の表情が変わった。
「ただし!」
 俺は大きな声で条件を追加した。
「捜索はアルファーチームが行う事。それ以外の人間の捜索は認めない。その間、アルファーチームの隊長はピアーズが取る事。そして期限は半年だ。それ以上は認めない」
 ピアーズは少し考えていると、黙って頷いだ。
 俺は再び代表室に戻ると、黙って椅子に座った。
「お疲れ様」
 ジルはコーヒーを俺に対して出してくれた。
「どうして本当の事を言わなかったの?」
「話しておくべきじゃないと考えたんだ」
 本当の事…。
 本当はクリスの捜索は既に終わっている。
 どこに居るのかも分かっていた。
 しかし、それ以上に俺はクリスが記憶を取り戻した時の事を恐れた。
 もしクリスが復讐をしようとすれば、それは隊全員に被害が行く。
 だからクリスは失踪したと公表した。
「もし、クリスが復讐を果たそうとすれば?」
「その時は……ピアーズに任せるさ」
「それでいいんじゃない」
 夜が明けるにはまだ時間が掛かりそうだ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。