biohazard cordname”NT”   作:ナッツガン

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約束をした
絶対に守ると
彼女に
だから…守る


約束は絶対に守る

 アサルトライフルの音が周囲に響いている。

 大きなオフィスのあるこの部屋では今まさにマジニとの戦闘中であった。

 エルはグレネードランチャーを構えて、マジニに向けて引き金を引いた。

 俺はハンドガンで交戦しているが、中々数が減らない。

 上からの応援もやってこないというのはどういう事だ?

「1人やられました!」

「もう少しの我慢だ!耐えろ!」

 そしてエルが放った最後のグレネードランチャーの弾が着弾した時ようやくマジニも全滅した。

 俺達は全員立ち上がると、その場で弾の補充を行った。

 俺達の後ろでは、常に補充できるようにと補充要員が常に傍にいる。

 俺自身もハンドガンの補充を済ませると、現在のフロアのチェックをしていた。

 俺達は今地下7階に来ており、この下は三つのエリアに分かれている。

 バロクはおそらくこの地下8階にいるのだろう。

 この地下8階では地下鉄が走っているのが確認できた。

「補充できました!」

 隊員の一人が俺の元に説明しにくると、俺達はようやく地下8階に到着しようとしていた。

 俺達が地下への階段を下りると、大きな部屋に出てきた。

 三つの道があり、ここで隊を三つに分けなくてはならないだろう。

「パーカーの隊は右に、エルの隊は左、俺の隊は中央だ!

『了解!』

 そう言うとエルとパーカーはそれぞれの道に消えて行った。

 俺は周囲に注意を向けていると、俺達が進んでいた道ではマジニが多く待ち構えていた。

 マジニを倒しながら奥に進んで行くと、隊員の一人が報告に現れた。

「代表!この奥に小さな研究室があることが分かりました!」

「よし!まずはそこから抑える!」

 そう言いながら俺達はその小さな研究室に入って行く。

 1人の隊員はパソコンの電源を付けると、パソコンからデータを入手しようとしていた。

 俺は周囲に警戒を向けながら、そのデータが手に入るのを待っていた。

 すると、マジニが三体現れて俺達を襲撃した。

 俺はハンドガンを使って交戦すると、あっという間にマジニを殲滅した。

「なんでこんなに的確に襲撃できるんだ?」

 隊員の一人が小さな声で呟くと、俺は周囲を見回した。

 俺は天井を見た時、バロクがどうやって俺達の位置を掴んでいるか理解した。

「監視カメラを使って俺達のやり取りを見ているんだろう。

 俺は天井に付いている監視カメラを掴むと、カメラを天井からはがしてカメラの付いているコードを切った。

 俺達が用意したパソコンを使って監視カメラの逆探知を始めた。

 そこから分かった事は、バロクはついさっきまでこの監視カメラを利用していたわけではない事だ。

 あくまで利用していたのはマジニ達で、バロクは別行動をとっていたようだ。

 俺達がそうしていると、ようやくパソコンからデータを入手することに成功した。

 俺がそのデータを確認すると、そこに在った内容を見て俺は確信を得る事が出来た。

『“cordnameNT”…この計画は“Tウイルス”の開発の途中経過で生まれた“NTウイルス”を完全なものにする為のものだ。完全感染者には脅威的な力を与え、どんなウイルスにも感染しないという、完全免疫力を手に入れる。免疫力というより、ウイルスを喰って新しい力に進化させると言った方がいいだろう。しかし、手に入れた当初に分かった事だが、このウイルスは感染した者は生きる事さえできない。このウイルスに感染して生きている者を私はいまだかつて二人しか知らない。しかし、その内の一人であるウェスカーは完全な感染ではない。力が大きすぎる為、コントロールがうまくできないのだ。感染してから今までコントロールできずにいるのだから。そしてもう一人が、本計画において重要な人物だ。この“NTウイルス”の生まれ元であり、完全適合者でもあるベルトウェイ・シュターナー。本来なら私がラクーンシティの壊滅に乗じて彼を回収するつもりだったが、あの研究所の所長に一手先を越されてしまった。しかも、彼が自分の意思を持ち続けながら生きているのだから不思議だ。私の見解では、“NTウイルス”に完全感染していながら、何も問題なく生きられる事は無い。少なくとも普通の生活は送れないと確信していた。しかし、彼は普通の人間として生きていて、ウイルスも問題なく適合している。そこから私は本計画“cordnameNT”を承認することにした。“NTウイルス”を完全なものにした時は、本計画は“cordname”の名を撤廃し、“truthname”になる事だろう。私がこのウイルスを完全なものにする為に必要だったのが、ウェスカーだ。彼の持っているウイルスに対する完全な免疫力を利用して、ウイルスの毒性を抑える事が出来た。しかし、それでも強すぎる毒性は感染者を徐々に死に向かわせる。他の感染者で試してみたが、数日以内に死んでしまう者ばかりだ。そこで私が目を付けたのが、プラーガという寄生虫だ。プラーガに毒性が弱まった“NTウイルス”を感染させることで誰でも強い力を得る事が出来ると考えた。しかし、その期待さえも軽く超えてしまっていた。“NTウイルス”はプラーガに感染すると、逆にプラーガを喰っていたのだ。数時間後プラーガは完全にウイルスに喰われてしまった。どうやらこれが強すぎる毒性の元になっているようだ。そこで私は“NTウイルス”に人間のDNAを植え付ける事で、徐々に人間に適合されることに成功した。しかし、それでも完全に感染できるわけではない。これから徐々に完全なものにする事が必要だろう』

 そこまで読むと俺はパソコンから目を離した。

 バロクはこれをわざと消さずにいたのだろう。

 バロクはこの計画を俺に教えたかったのだ。

「データは持っておけ、他の隊員も他の部屋を調べて回れ!」

 俺はそう言うと、バロクがいそうな部屋を目指して進んでいた。

 バロクはこのフロアの奥に在る列車に乗って逃げようとしているのだろう。

 俺はそこに向けて歩いていると、列車への道の途中でようやくバロクを発見した。

「バロク!動くな!」

「意外と速かったね。もう少しくらい時間が掛かるかと思ったけど…」

 バロクはエルがいた方の研究所から出てきた。

 このフロアは最終的に一つの道に出る事が出来る。

 バロクは先程までエルの居る研究所に居たようだ。

「何を企んでいる!?」

「さあ?聞くんだったら、後ろの人物にでも聞いてみたらどうだい?」

 俺はゆっくり後ろを向くと、そこにはジルが肩で息をしながら立っていた。

「ベル!このフロアの研究所の一つで大量のウイルスが!」

「バロク!貴様!」

「当初の予定では両方の研究所のウイルスを流す予定だったのだが…。どうやら時間が無いようだし、私はここで失礼させてもらうよ」

 バロクは道の奥に向かって進もうとしていた。

 そこでようやくパーカーが現れて、俺達はどうするべきか考えていた。

 すると、大きな地震が周りに響くとバロクが大きな声で言った。

「そうだ、ここの自爆装置を起動しているから。まあ、頑張りたまえ」

 俺は通信機をオンにすると、エルに通信してみた。

「エル!応答しろ!」

『…………』

「エル!エル!」

『…だい…もう…』

「エル!?エル!」

『……代表…もう…ここは…ダメです』

「何が在った!?」

 エルの声から以上事態が起きた事は間違いが無いようだ。

『ウイルスの漏えいだけは防ぎました。だけど、もう…』

「そこから逃げるんだ!」

『ダメです…。足をやられちゃって…動けないんです』

「なんだと!?」

『私にかまわずバロクを追ってください。夢をあきらめちゃダメです』

「…エル」

 エルからの通信が完全に途切れてしまった。

 しかし、俺の覚悟は既に決まっていた。

 

 

 

 大きな研究室では多くの隊員とマジニの死体が転がっている。

 マジニと交戦しながら、ウイルスに中和剤を使って中和していた。

 結果ウイルスを中和する事には成功した。

 本来なら私は逃げなくてはいけないのだが、私は足をけがしていて歩く事さえできなかった。

 先ほどの代表にはここの事を説明しておいた。

 助ける事は代表でもできないだろう。

 既にこの階が崩れ始めていて、助ける事は出来ない。

 しかし、私は後悔など無かった。

 BSAAとして誇らしく死ぬことが出来るのだから。

 ウイルス漏えいを許せば、この周囲の村や町で大きなバイオハザードが起きる事だろう。

 それだけはBSAAとして阻止をしなければならなかった。

 だからこそそれが達成できたからこそ、私は誇らしい。

 代表の夢の先を見てみたかったけど、それでも代表の邪魔だけはしたくない。

 たとえそれが私の死だとしても、私はそれを良しとできる。

 代表が私を好きでいてくれなくても…

 好きで…いてくれ…

 おかしいな…覚悟が出来ていたのに…

 涙があふれてくる…

 覚悟をしていたはずなのに…死ぬことが分かっていたはずなのに…

 今になってこんなに…死ぬことが怖くなっている…

 泣いてもだれも助けに来てはくれない…

 周囲も多くの瓦礫で埋まろうとしていた。

 そして私の頭上から一つの大きな瓦礫が降ってこようとしていた。

 私は目を瞑り小さな声で呟いた。

「誰か…助けて…」

 自分でも情けないと思う…覚悟が出来ていたのに…

 それでも誰かに助けを求めてしまっている自分が…

 しかし、瓦礫が私を押しつぶす事は無かった。

 涙でぬれた目をゆっくり開けると、そこに居た人物に私は驚いた。

「…代…表?」

「助けに来たぞ」

 そこに居たのは代表だった。

 

 

 

 数分前

 俺はエルからの通信後すぐに次の指示を出した。

「パーカー!お前はバロクを追え!俺はエルの救出に向かう!」

「私もパーカーに付いて行くわ!」

「ジルは代表について行かなくていいのか?」

「付いて行っても足手まといにしかならないし…。それに彼が決めた事よ」

「すまないな…ジル」

「いいの…。その代り絶対に助けるのよ」

「ああ」

 そう言うと俺は走ってその場から移動していった。

 自分が出せる限界の速度で、エルが居るであろう部屋まで。

 天井がちょっとずつ崩れて行った。

 それでも、目の前で仲間が死のうとしているのを黙って見ていられない。

 意外と早く目的の場所についた俺は、部屋の中に入って行く。

 エルは部屋の片隅で小さく座り込んでいた。

 そして今まさにエルに瓦礫が落ちようとしていた。

 俺はダッシュでエルの元に駆けつけると、瓦礫を体で受け止めた。

 瓦礫を横に投げると、エルはゆっくり目を開けながら小さな声で呟いた。

「…代…表?」

 その声を聞くと俺はようやく声を出した。

「助けに来たぞ」

 エルの目からあふれるほどの涙が流れている。

 怖かったのだろう…そしてうれしいのだろう…

「俺はここにいるぞ…」

「どうして?」

「…約束したろ。絶対に!助けるって」

 俺は絶対を強調しながら言うと、エルをお姫様抱っこした。

「もう少しの辛抱だ」

 そう言うと俺は部屋を飛び出していった。

 この研究施設からの脱出を果たした。




 研究施設から無事脱出すると、俺達は仮設テントの中に入って行く。
「エルを頼む」
 そう言って俺はエルを治療班に任せた。
 俺はジル達が脱出したであろう場所まで移動すると、ちょっとした丘の上まで来ていた。
 丘の上から研究所が丸見えで、研究所では今まさに火を噴いていた。
 すると、研究所の方からジルが現れた。
「エルは?」
「助けたよ」
 そう言うとジルは少し安心した。
 どうやらパーカーは別行動をとっているようだ。
「…ジル…話があるんだ」
「?如何したの?」
 俺は少しの間中々言えずもじもじしていたが、覚悟を決めて告白をすることにした。
「ジル!俺と付き合ってくれないか!」
 俺は目を瞑って頭を下げた。
 ジルは少しの間黙っていると、ようやく声を出した。
「ベル…目を瞑ってガスマスクを外して」
 俺はジルに言われるままにガスマスクを外した。
 ジルは俺の頭を触ると、俺の唇に何かが触れた。
 ゆっくり目を開けると、そこにはジルの顔が在った。
 そのまま再び目を瞑った。

 俺達は物陰からジル達の様子を窺っていた。
「いいのかクリス、お前はジルが…」
「いいんだよ…。これでジルが幸せになれるなら」
 パーカーは黙ってその場から離れて行った。
 俺はキスをしているジルを見ると、その場から離れて行った。
 そして、小さな声で祝福をした。
「おめでとう…ジル」

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