コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第96話 「大宦官VS…」

 中華連邦の象徴であった歴代の天子達を祭る陵墓―――【天帝八十八陵】。

 ごつごつとした山肌を晒し、正面には浮遊航空艦がギリギリ入れるほどの入り口が設けられている。

 

 神聖ブリタニア帝国第一皇子座乗艦ペーネロペーは高度を上げて天帝八十八陵上空で待機している。

 見下ろす形で戦況を眺めているレイラ・マルカルは、黒の騎士団の動向を注視していた。

 

 

 天子を攫った黒の騎士団は中華連邦の追撃隊より逃げ延び、天帝八十八陵に籠城した。

 歴代の天子を祭っている事から中華連邦にとっては聖域の一つであり、正面入り口以外は強固な山肌にて自然の防御壁に利用できるので精神的にも物理的にも強固な守りとなる。

 攫う云々はさておき、圧倒的に不利な状況かつ逃げ切れないとなると降伏か籠城策しかなくなる。すでに天子という中華連邦の象徴を攫った時点で降伏したところで死罪かそれに近しい罪に問われて二度と表に出て来ることは無くなる。となれば籠城策。籠城する場所としてはかなりの好条件の場所に立て籠もったものだが、援軍がなく逆転する手が無ければこのまま終わってしまう。

 

 堅固な籠城先を手に入れた黒の騎士団の戦力は月下の改良型であろう新型ナイトメアで、性能的には中華連邦の鋼髏を優に勝る。パイロットたちの練度や技量にしても黒の騎士団が優れているのは明白。

 これならブリタニアの協力がない状態での中華連邦追撃隊は返り討ちに出来る―――筈だったろうに…。

 

 大宦官は先の一戦にて痛手を被った事により、急ぎ近場の軍を動員。

 元の規模の約三倍もの大軍勢を揃えたのだ。

 

 神虎の試作量産機である朱厭を含んだ御家部隊に護られている中華連邦の地上戦艦竜胆を後方に正面に第一軍、左右に第二、第三軍を配置して天帝八十八陵に立て籠もっている黒の騎士団の斑鳩を包囲する形で布陣。さらに第一軍の先には黎 星刻と共に大宦官に牙を剥いた部隊が集められている。戦力としてではなく後に処刑する為に…護ろうとしていた天子の死にざまを見せつける為に最前列で銃口を突きつけられているのだ。

 圧倒的数で包囲された上にブリタニアは援軍を要請され、シュナイゼル宰相が乗るアヴァロンより枢木 スザク、ジノ・ヴァインベルグ、アーニャ・アールストレイムとラウンズ三名が参戦。

 さらには大宦官は今の天子を斬り捨て、天帝八十八陵ごと潰さんと火力を集中させている。

 

 席に付いているオデュッセウス殿下へ視線を向けると険しい表情で睨むようにモニターを見つめている。

 今にも飛び出しかねない殿下にはらはらしていたが、どうも傍観に徹するようだ。

 ブリタニア皇族である殿下がここで動くわけにはいかない。

 それは中華連邦を敵に回すことを意味している。たった一人の少女を助ける為に大国を敵に回すか、大きな戦を回避する為に少女を見捨てるか…。大局的に物事を見なければならない殿下は後者を選ばなければならない。

 

 握り締める拳に力が籠る。

 こんな非道な行いを眼前で見ている事しか出来ない歯痒さに、殿下らしからぬ行動に対する不安が胸中に広がる。

 

 竜胆の主砲や左右に分かれた鋼髏部隊の集中砲火により天帝八十八陵が削れ、入り口の天井が徐々に崩れ今はまだ小さいが崩落を始めている。

 斑鳩の甲板上にはブレイズルミナスが展開されていたが、エネルギー不足かダメージを負ったか解除された。

 その甲板上を一人の少女……天子が駆けだし何かを叫んでいる。

 

 天子に狙いを定めた一斉掃射が行われる中、戦列を飛び出した神虎が一斉射を受け止め護る。

 ブレイズルミナスと異なる防御機構が備わっているのだろうが防ぎきる事は不可能で、徐々に機体に傷が増えていく。

 いつ撃破されてもおかしくない機体の前で天子は泣きながら何かを叫んでいる。音声は届かないが何を言っているかはだいたい想像がつく。

 

 アキトはいつも通りの無表情で状況を冷静に見つめ、リョウは気に入らないとばかりに睨みを利かせている。

 それはラウンズであるノネットも同様であった。

 アヴァロンが合流した際に殿下の護衛に付くという事でこちらに移ったのだが現状に…殿下が動かない事に納得がいかないらしい。

 

 「ねぇ!なんで助けに行ったらダメなのよ!!」

 「いやいや、無理でしょ。殿下には皇族としての立場が…ってか立場云々の前にあの大軍の前に援軍も何もないって」

 「けど納得出来ないよ!」

 

 アヤノは殿下に食って掛かるもクラウス大佐が落ち着かせようと遮る。

 二人が話している間にも状況は一変。

 黒の新型ナイトメアが現れると周囲にブレイズルミナスを展開して天子も星刻も護ってみせた。

 

 「良し!行くか!!」

 「「―――はい?」」

 

 突然の一言にクラウス大佐と言葉が重なった。

 まさか本気で行く気ではないでしょうと聞く前に、レイラは振り返った状態で固まった。

 

 ――笑っている。

 ただ目だけは完全に笑っていない。

 瞳から怒気が溢れ出ているのを感覚的に察する。

 

 「これは強制する作戦ではない。正直私が我慢できないから行くだけだ。後々問題になる行為である。ドローンは連れて行くがパイロットの参加は―――」

 「俺は行くぜ!あの大宦官とかいう奴ら…気に入らねぇ!!」

 「私も行くよ絶対に!」

 「面白そうだし僕も行くよ」

 「殿下。私は勿論付いて行きますよ。付いて来るなと言われてもラウンズの権限を行使してでも行きますよ」

 「―――あー…自由参加にしますか」

 

 やる気満々の面子に視線を送るが止まる気配は微塵もない。

 相手は大軍だし、後の事を考えると頭が痛くなりそう。でも笑みが零れる。

 

 やっぱり殿下は殿下でした。

 不安をかき消すほどの安堵感を覚えながらレイラもアキトと共に格納庫へと向かう。

 

 

 

 

 「中華連邦及びブリタニアに告げる。まだこの私と――ゼロと戦うつもりだろうか」

 

 天子と星刻を護るように新型ナイトメアフレーム蜃気楼に搭乗したゼロは自信満々にオープンチャンネルで呼びかける。

 だが、実際はルルーシュはゼロの仮面を被ってて目では見えないが、状況の悪さに冷や汗を掻いている。

 完全に包囲され、絶体絶命の状況をひっくり返すために前もって計画していた作戦を下方修正して実行した。

 

 元々行うように手筈していたクーデターに合わせた人民蜂起。

 人民を無視した不平等条約の締結に中華連邦の象徴を私利私欲の為に道具のように扱った事、さらには戦闘中に行った通信記録。

 

 『天子などただのシステム』

 『代わりなどいくらでもいる』

 『残された人民はどうなる!?』 

 『ゼロ、道を歩くとき蟻を踏まない様に気を付けて歩くのかい?』

 『主や民など幾らでも湧いて来る』

 『蟲のようにな』

 

 このような会話に怯える幼い天子に容赦ない攻撃を続ける様子を合わせれば効果は絶大だ。 

 上海、寿県、ビルマ、北京、ジャカルタ、イスラマバート、その他十四か所同時多発的に暴動が発生。

 シュナイゼル兄上とオデュッセウス兄上の事を考えると二人がこの状況でまだ攻めてくることは無い。

 戦闘が終了した後には天子を護った事で星刻と交渉がし易くなり、黒の騎士団と中華連邦が手を取り合う事も可能だろう。

 

 ただ状況が状況だ。

 中華連邦―――大宦官の軍勢と比べればこちらはあまりに少なすぎる。

 機体性能やパイロットの技術で勝ろうとも数で押されれば一溜りもない。

 

 戦局を左右するのは戦術ではなく戦略。

 カレンが居ないのはかなり痛いが、向こうに居た星刻はすでにこちら側。

 自分に並ぶ有能な指揮官が居なくなっただけまだましか。

 

 『一斉放火で叩き潰せ!!』

 「それが大宦官の解答か」

 

 こちらに放たれる弾丸をブレイズルミナスを展開して防ぎ、撃ってくる敵機を自動マーキングする。

 正面に居る最前線の部隊がこちらに撃っては来ない。星刻があのあたりから来たことを考えれば星刻の仲間と考えるべき。

 その一団をターゲットから外し、胸部より菱形のレンズを発射。続いて撃ち出したレンズに向けて貫通能力にたけた高出力レーザーを照射。反射角を計算してターゲットのみに乱反射させたレーザーが降り注ぐ。

 

 世界最高峰の防御力とラクシャータが謳った蜃気楼の独自の防衛機構【絶対守護領域】に胸部に内蔵された蜃気楼の新兵器【拡散構造相転移砲】。どちらもガウェインより回収した高性能電子解析システム【ドルイドシステム】あっての兵器。

 性能テストにしても戦果は十分すぎる。

 なん十機もの鋼髏をレーザーで貫いたり、切り裂いたりして撃破した。

 が、依然として数が多い。

 

 「―――全ナイトメア出撃!斑鳩は前進後にハドロン銃砲で――」

 『ゼロ!上よりブリタニアの降下部隊多数接近中です!!』

 「なに!?」

 

 言われるがまま見上げると確かに20…30…いや、一個大隊クラスのナイトメアが降下してきている。

 空気抵抗を減らすように機体を可変させ、翼のようなものを付けて滑空してくるナイトメアの機体データは該当なし。

 ブリタニアの新型と考えるべきだろう。

 それを量産して保持できるほどの人物と言えば一人しか思い当たらなかった。

 

 (何故オデュッセウス兄上が!?)

 

 驚き、混乱するルルーシュはどう指示を出すべきか一瞬躊躇う。

 先頭を進むオレンジ色の機体が可変して人型になり、ナイトメアフレーム用の狙撃ライフルを構える。

 トリガーに指はかかっており、すでに狙いは定まっている。

 

 銃口より閃光が発生し、放たれた弾丸は吸い込まれるように直撃した。

 

 

 

 蜃気楼目掛けて飛来していた竜胆主砲の砲弾に。

 

 『ルr――――ゼロ!戦闘中に気を抜かない!後ろには天子ちゃんが居るんだから』

 「な!?最前線に出て来たのか?それに今のは…」

 『ゼロ!先ほどの問いに神聖ブリタニア帝国第一皇子、オデュッセウス・ウ・ブリタニアがブリタニアを代表して答えよう!答えは君達とは今は戦わない』

 

 斑鳩の甲板上に着陸したオレンジの機体にルルーシュは微笑みかける。

 戦いに参加はしない。

 ブリタニアの皇族としてそうするだろうと思っていたのに、呆気なくこうして出て来たことに納得する。

 

 オデュッセウスの機体―――アレクサンダ・ブケファラス・ドゥリンダナは範囲内にエネルギーシールドを展開するプルマ・リベールラ六枚を展開し、防御能力を高めつつ狙撃ライフルで大宦官側へと銃口を向ける。

 

 『中央の部隊が動きを止めている理由は分かるかい?』

 「――あぁ…それは星刻の仲間だと…」

 『了解した。なら中央は黒の騎士団と星刻君たちに任せる。レイラ!右翼を抑えてくれ!!援護はする!!』

 『イエス・ユア・ハイネス!黒の騎士団の甲板上と不安な事は変わりありませんが決して前線に出てこないで下さいね』

 

 四つん這いで着陸したナイトメア部隊はそのまま姿勢を低くしたまま右翼へと突っ込んで行く。

 アレクサンダ・ブケファラス・ドゥリンダナを強化、指揮官型にしたレイラのアレクサンダ・ドゥリンダナとタワーシールドを構えた部隊を先頭に突き進み、一気に接近戦に持ち込んでいた。

 その光景を眺めたルルーシュは感心して息を漏らす。

 現場指揮官が有能なのだろうか敵の陣形や動きに対して迅速に処理している。それに一機一機の動きが恐ろしく俊敏で、中でも専用機らしい四機の動きは凄まじかった。まるで四機で一機のように…四人の搭乗者が通じ合っているかのような連携を見せつけていた。

 中には青いランスロットタイプのナイトメアも紛れており、一騎当千の戦いを見せている。

 

 右翼は抑えきるどころか制圧仕切れるんじゃないだろうか…。

 

 「良し!黒の騎士団全機出撃!!敵は中華連邦大宦官率いる軍勢!ブリタニア軍には構うな!!」

 

 待機していた暁隊に藤堂達の空戦可能なナイトメア部隊が全機正面へとなだれ込む。勿論星刻の部隊は黒の騎士団の動きに合わせて反転、大宦官へと攻撃を開始した。

 部隊を差し向けていない左翼はどう対処すれば良いのか混乱して動きが鈍い。これなら押し切れる!

 おかげで圧倒的不利から一気に大逆転だ。

 

 『おおおおお、オデュッセウス殿下!!これはどういうことですかな!?』

 

 オープンチャンネルで大宦官の声が響き渡る。

 

 『我々はブリタニアの貴族となる――』

 『国とは領土でも体制でもない。人だ。民衆の支持を失った大宦官に中華連邦の代表として我が国に入る資格なし!!』

 『ヒィイイ!?』

 『……ってシュナイゼルは言うんだろうけどね』

 

 一喝すると大宦官の悲鳴らしきものが挙がった。

 聞いているだけでもかなりの圧があったのだ。向けられた本人にはたまったもんじゃない。

 されどどうやらそれが理由ではないらしい。

 出て来た理由ではあるっぽいが…。

 

 『現状ブリタニアは中華連邦に支援要請を受けている。だから民衆を見限り、民衆により見捨てられた君達大宦官を代表とは見なさず、天子を護るべく私は君達に銃口を向ける。あっちが代表だと私は思う事にしたんだ』

 『何を血迷った事を!法的に我々大宦官こそが――』

 『それにさぁ…君らが行って来た私腹を肥やすための行為。民をゴミ同然に扱い捨てる見下げた精神。あんな幼子であろうと容赦なく切り捨てる鬼畜さ…なにより…なにより…』

 

 コクピット以外を撃ち抜いたり、飛んできた砲弾を撃ち落としたり、撃つたびにすぐさま狙いを定めたりと忙しなく動いているアレクサンダ・ブケファラス・ドゥリンダナが制止した…。

 

 

 『なにより私はお前たち大宦官が大っ嫌いなんだよ!!』

 

 

 最後の発言でルルーシュはたまらず吹き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 『なにより私はお前たち大宦官が大っ嫌いなんだよ!!』

 

 

 「ふはっ!!ハハハハハハ」

 「で、殿下?」

 

 あまりに可笑しくて笑ってしまった。

 やはり兄上は兄上でしたか。

 

 私腹を肥やすためには他者に犠牲を強いる大宦官。

 ブリタニアに有利過ぎる中華連邦との不平等条約。

 政治の為とは言え相手の意志も気にせずに行われようとしていた政略結婚。

 

 どれをとっても兄上らしからぬ行為。

 ここに来てすべてが繋がった。

 

 「兄上はこれを狙っていたのだな」

 「これを…オデュッセウス殿下が…ですか?」

 

 星刻達が大義名分を得やすい状況を創り出し、クーデターの混乱に乗じて黒の騎士団が参戦することを見越して、自らが汚名を被る事を望んだ。

 だが、この展開はデメリットが大きすぎる。

 無傷で掌握できるはずだった中華連邦を大宦官を排する為に切り崩さねばならないのだから。

 

 「でも黒の騎士団を助けても何の利もないのに」

 「兄上は利益だけを考えて動かないからね。昔から…」

 

 ニーナの一言にしみじみ思い出す。

 まだ日本がエリア11と呼ばれる前に兄上から頼まれて弟妹のほとんどが動いたあの事件を思い出す。

 大なり小なり昔からたまに無茶をするんだ。

 思い出していたら笑みが零れる。

 

 「アヴァロンを敵左翼へ。大宦官の勢力左翼側を抑える」

 「宜しいのですか殿下?それは中華連邦と敵対することを意味します」

 「すでに兄上がそのように動いている。それに彼らに協力し、何もせずに撤退するよりも、大宦官を否定するほうが後々民衆を味方に付けやすい」

 

 大宦官を討てば確実に中華連邦は荒れに荒れる。

 そこを私ならば話し合いで半分は切り取れる。兄上はその事まで考えに入れておられるのだろうな。ならば少しでも有利な条件を揃えておいた方が得策と言うもの。

 

 中央を黒の騎士団と星刻達が斬り込み、右翼をオデュッセウスの親衛隊が、左翼をシュナイゼルと共に行動しているラウンズが抑え込む。

 倍以上の大軍と言えどこの面子を止める事は出来ず、大宦官が引き連れた軍勢は掻き乱され、一時間と経たぬ間に大宦官が星刻により討ち取られた事により降伏。

 アヴァロンとペーネロペーは戦域を離脱。

 その際にオデュッセウス殿下より朱厭を鹵獲したと報告が届いたアヴァロン艦橋はテンションがハイになったロイドにより騒がしくなった。

 数秒もしない内にセシルによって鎮圧されたのは言うまでもないだろう。


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