コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 投稿遅れて申し訳ありません…。

 前回の投稿内容でライの機体を紅蓮弐式改と最初に表記していたのですが、カレンの紅蓮と被る上に青色なのに赤を彷彿とさせる紅蓮では色々問題が発生するとご指摘もあり、蒼穹弐式改と名前を改めました。


第90話 「閃光」

 ナナリーは目は見えず、歩けない。さぞ同情を引くことが出来るだろう。それを狙っての着任なのだろう…。

 

 最初はそう思っていたが、あり得ないと断言する。

 皇帝が命じたにせよ、大貴族の過半数が押した案でもあの男――オデュッセウス・ウ・ブリタニアが黙っている筈がない。

 

 「お兄様のやり方は間違っていると思うのです」

 

 この一言を投げられた時にしてやられたと思ってしまった。

 オデュッセウス兄上ならゼロの正体が俺だという事を知っているし、ゼロが本当は処刑されていない事も…。

 ゼロが復活したからこそナナリーを総督にしたのかと。

 確かにナナリーが敵として立ちはだかるのなら手出しは出来ない。俺にとっては最悪の一手でブリタニアにとっては最善の一手だ。

 

 「オデュッセウス兄上から聞いたのか」

 

 ナナリーには嘘は付けない。

 ゼロの仮面を外してルルーシュとして対面する。

 カメラがある以上この会話が、映像が録音されている可能性がある為に撤退する前に監視室に向かう必要が出来たが…。

 ルルーシュの問いにナナリーは首を横に振る。

 

 「一言も」

 「なに?」

 「でもお兄様の事やゼロの事を他の方と話しているのを聞いてもしかしたらそうなのかと。それに足音でわかりました」

 「フッ、ナナリーの前では隠し事は出来ないな――――ナナリー、総督になったのは自分の意志か?それとも兄上の策略か?」

 「私の意志です」

 

 これで連れ出すために考えていた説得の数々が瓦解した。

 意志を尊重するならばここは引くべきだ。だが置いて行ける筈もない。

 

 

 「どうするつもりなんだ。エリア11がどのような状況かは聞いているんだろう?」

 「はい」

 「エリア11の反ブリタニア勢力は他のエリアに比べても根強い。今やゼロが復活した事でさらに激しくなるだろう。対して力で抑え込むことはしない―――どうするつもりなんだい?」

 「私は………私はユフィ姉様の意志を継いでもう一度行政特区日本を――」

 「開催すると言うのか!?」

 「オデュッセウスお兄様に最初は反対されましたけどね」

 

 それはそうだ。

 特区日本で日本人の大虐殺が行われた事実がある限り集まる者はいない。それどころか大虐殺により家族や友人を失った者らがテロを起こす可能性の方が高い。なにせ会場に皇族が来るのだ。相手が十代の少女だろうがブリタニア皇族に恨みを持つ者なら蛮行に及びかねない。

 それを分かっていて兄上は反対したのだ。

 なのに最初はと言う事は最終的に許可を出したと……………あぁ、そういう事か。

 

 ルルーシュは納得し、軽く頭を抱えた。

 どうしてユフィもナナリーも意図せずに好手を打ってくるのか。

 

 ユフィの時はブリタニアが日本を認める事実に黒の騎士団が参加しない訳にはいかず、自分たちの活躍でブリタニアが折れたと騎士団員の中からも参加しようとした者が大勢いた。参加しようとも参加せずとも黒の騎士団は潰れる。シュナイゼル兄上でも思いつかなかった一手。いや、あれはユフィだからこそ打てた一手だ。

 

 では今回のナナリーの一手はどうだ? 

 不完全で実行性がなく、危険が伴い過ぎる悪手。これがナナリー以外の者が行うのであれば無視、もしくはギアスを使って操り黒の騎士団が作戦を行える理由作りを行うところだ。

 しかし相手がナナリーで、行えば危険が伴うこの計画に俺が手を打たない筈がない。

 日本人に英雄視されているゼロが参加を表明すれば会場で暴挙に出ようとする勢力は完全に抑えられるだろう。そこまで考え最終的には折れたのだろう。

 が、前に大虐殺があった特区日本に懲りずに参加すれば黒の騎士団へ対する評価は落ち、そこで黒の騎士団は詰む。ナナリーの為の黒の騎士団だから潰れても良い………なんてことはない。ナナリーを守りつつ、ブリタニアをぶっ壊すにはどうしても力は必要だ。

  

 「お兄様、いえ、ゼロも特区日本へ参加してくださいませんか」

 「ナナリー…」

 「やり直せるはずです。人は―――だからお兄様も」

 

 即答で答えられない。

 瞬時に色々な事を考えては否定し、答えを口にすることが出来ない。

 参加しない訳にはいかない。かといって黒の騎士団を潰さずに現状を維持する方法…。

 

 「良いだろう。後日話し合いの場を設けさせてもらおうナナリー皇女殿下」

 「…はい。ではまた後日に」

 

 ルルーシュはゼロとして答えた。

 まだ自身のやるべきことを思い浮かべ、ガーデンスペースより離れる。

 

 

 

 

 

 

 一対二となって劣勢になったトリスタンにモルドレッドが協力して攻撃してくるのかと思ったら、選手交代のようにトリスタンが下がって、モルドレッド一機で戦う動きにライは疑問を覚えた。

 傲りではないが自身も千葉もかなりの腕前だ。機体のスペック的にもラウンズ機に劣るとも思えない。そんな相手に二機も相手をしようとは到底思えない。

 

 蒼穹弐式改――。

 予備パーツで組み上げ、青色に塗った紅蓮弐式にラクシャータがさらなる改造を加えたナイトメアフレーム。

 メインウェポンは紅蓮弐式と同じく輻射波動機構であるが、威力は紅蓮弐式を超えている。先端の三つ爪の手はワイヤーが繋がって腕より飛ばすことが可能。その為紅蓮弐式の輻射波動機構と比べて肥大化している。左腕にはサブウェポンとして折り畳みナイフのような武装が収納されており、展開すると根本と刃先が開いてメーザーバイブレーションソードの刃が現れる。

 単独飛行が可能なようにラクシャータが設計したフロートユニット【飛翔滑走翼】を装備している。

 

 月影――。

 鹵獲した月下【千葉機】をオデュッセウスの下で改修されたナイトメアフレーム。

 機動力と小回りを重視した機体で武装は収納可能、もしくは空気抵抗が少なくなるように取り付けられている。

 左腕内蔵型ハンドガン、内蔵式機銃二基、三連装小型ミサイルポッド、飛苦無型投擲用鉄鋼榴弾など多彩な射撃武器に、制動刃吶喊衝角刀という最新鋭の刀を所持している。

 防御力を高める為に装甲はシュロッター鋼を使用し、単独飛行能力を得る為にスモークグレネード発射筒を六つ付けているフロートユニットを装備している。

 

 すでに射撃兵装を使い果たしている月影と元々近接武器しか持たない蒼穹弐式改の戦い方は近接戦闘しかない。

 蒼穹弐式改の右腕部よりワイヤー付きの右手がモルドレッドを掴もうと放たれる。ワイヤーに沿って月影が斬り込みに行く。

 

 モルドレッドは重厚なボディと全面に張れるブレイズルミナスにより防御力は優れ、元々のパワー性能もナイトメアを握り潰せるほど高い。砲撃戦仕様なので火力も絶大という機体ではあるが、その分機動力は落ち、グロースターと同等程である。それでも現行のナイトメアでは早い部類ではあるが目の前の二機を含めた次世代のナイトメアフレームに比べると遅い。

 

 一目で理解したアーニャ―――否、マリアンヌはニタリと笑みを浮かべてペダルを踏みこむ。

 

 ライと千葉にとってそれは脅威足りえるとは到底思えない程の速度。

 このまま手で握りつぶせる、もしくは簡単にブレイズルミナスごと掴めるのではないかと思える程だった。

 

 

 

 ―――ゾクリ…。

 

 

 

 それが何を意味しているのかは理解できない。

 だが、直感的に二人ともが感じた。

 コイツはヤバいと…。

 

 速度の遅い機体は減速すれば元の速度に戻るまで時間が掛かる。

 例え数十秒とは言え戦場では命とりになる事が多い。特にエースと呼ばれる凄腕の戦士同士の戦いなら尚更だ。

 

 だったら速度を落とさなければ良い。

 遅くなったら遠心力でも作用反作用でも何でもいいから利用して速度を上げれば良い。

 理想的な軌道で減速を最低限に減らせば良い。

 ペダルを踏み続けていれば良い。

 

 迫る右手に対してペダルを踏み込み、速度を維持したまま身体を捻って、掴まんとする指に触れるか触れないかの位置をすり抜けて行く。

 体勢も崩さずに完璧すぎる回避を見せたモルドレッドに千葉は冷や汗を流す。

 それでも突っ込み刀を振り上げる。

 制動刃吶喊衝角刀のブーストを用いた素早い一刀をスピンしながら避け、月影の横を抜けて行く。その時に腰にあたる部位に肘打ちを喰らわせ月影の体勢を崩すと同時に反動でほんの僅かながら速度を上げてきた。

 慌てながらナイフを展開させ突き出したライの一撃は呆気なく片手で払われた。

 

 「嘘…だろ…」

 『動きが単調ね。もうちょっと工夫をした方が良いわよ』

 

 アドバイスと思われる言葉が投げかけられると強い衝撃がライを襲う。

 重量級のモードレッドが速度を乗せた状態でタックルを決めたのだ。衝撃に耐えれず蒼穹弐式改は機体を揺らしながら吹っ飛ばされた。

 

 『貰ったぁあああ!!』

 『そうねぇ…新兵なら斬れたんじゃないかしら?』

 

 無理やりスラスターで体勢を立て直し、背後に迫った千葉は一刀両断にしようと刀を振るう。

 くすくすと笑いながら振り向きざまに振り下ろされる腕を掴んで紅蓮弐式改が吹っ飛んでいった方向へと投げ飛ばす。振り回された事で生じた予測しなかった加速に耐え、モルドレッドを視界に捉えようとした千葉に巨大な足が迫る。

 対応不可能なほどの動きで蹴りをかまされ、月影の元まで吹っ飛ばされる。先に吹っ飛ばされた蒼穹弐式改が月影を支える。

 

 「大丈夫ですか千葉中尉!?」

 『あぁ、まだやれる!貴様はどうだ?』

 「機体も俺も行けます!!」

 『アハハ、そうなのね。だったら飽きさせない様に頑張って頂戴ね』

 

 絶望が二人の視線の先にあった。

 両肩のバインダーを正面で展開し終え、四連ハドロン砲【シュタルケハドロン】が放たれようとしていた。

 

 このタイミングで放たれれば二機とも回避不能で撃破。もし月影を支えずに回避運動に入っていたらライは助かったかも知れないが千葉は確実に死んでいる。

 

 「千葉中尉!俺の後ろに!!」

 『なにを!?』

 

 後ろへ投げると同時に自動で戻って来た右手を確認し、輻射波動機構を起動させる。

 すでに四連ハドロン砲の銃口が赤黒く輝いて今にも発射されようとされている。

 ライはただただ祈るように右手のエネルギーゲージを睨む。

 

 四連ハドロン砲が放たれると、ライはリミッター解除のスイッチを押し込む。

 蒼穹弐式改の輻射波動機構にはリミッターが設けられている。強力になった輻射波動機能の最大出力は敵を大地を抉るほどの力を誇るが右腕部に対するダメージも相当なものになる。下手をすれば右腕部が爆散する恐れだってある。

 その輻射波動のリミッターを解除したのだ。

 

 「リミットブレイクゥウウウウウウウウ!!」

 

 右手より放たれた大規模な輻射波動がシュタルケハドロンの砲撃に拮抗するように耐える。

 隠れるように背後に居る千葉はその光景を見つめる。

 ただ負けるなと祈りながら。

 

 徐々に爪が溶解し、右腕部にダメージが蓄積する。左手で支えてスラスターを吹かして耐えようとするが、機体の軋みは増すばかり。

 

 「耐えろ!耐えてくれ蒼穹!!」

 

 神楽耶がライにはこの色が似あうとリクエストしてくれた蒼の装甲がひび割れる。

 機体が押され始め、背後の千葉も負けるなと押す。

 願いが通じたのか右腕部が爆散する前にシュタルケハドロンの砲撃は止んだ。

 

 

 

 輻射波動とシュタルケハドロンが消え去ったモニターに無数の小型ミサイル群が二機を覆うように迫っていた。

 

 

 

 モルドレッドがシュタルケハドロンの砲撃が止む直前に、全身に多数内蔵された小型ミサイルを撃ち出した。

 普段のアーニャなら周りに撒き散らす程度の使用法なのだがマリアンヌは瞬時に座標を撃ち込んで囲むように斉射したのだ。もはや人間業ではない。

 

 絶望を肌で感じながらライは右腕部を盾にする形で構えた。

 避けようとも思ったが背後には千葉が居る。避ける訳にはいかない。

 そう思って構えたのだが、月影が前に出て蒼穹弐式改の盾になったのだ。

 二機に小型ミサイル群が直撃し、爆煙で覆われる。

 ゆっくりと晴れて行った煙より姿を現した二機は何とか動いているもののズタボロであった。

 

 「…大…丈夫ですか…」

 『あぁ、なんとかな』

 「なんで…」

 『足手まとい扱いされて居ては四聖剣の名折れ。それにこの機体は防御面でも優れている。お前だけやらせるわけにはいかない』 

 「…助かりました。けれど…」

 

 すでに二機とも戦闘継続は不可能。

 眼前のモルドレッドはエネルギーを消費したもののダメージはない。

 

 が、千葉もライも命を狩られる事は無かった。

 

 漫画のようにヒーローたる存在が現れ二人の窮地を救った訳でも、都合よくモルドレッドが不具合を起こして撤退せざる負えない状況になった訳でも、上より戦闘中止命令を下された訳でもない。

 

 ただただ飽きたのだ。

 もはや羽虫程の抵抗も出来ない相手に対して興が覚めた。

 満足感はない。暇つぶしにはなった程度の感想持ち得ない。

 

 「そろそろかしら、ね――――――え?」

 

 マリアンヌはアーニャの意識の奥へと身を潜め、突如呼び起こされたアーニャは目を覚ます。

 突然消え、意識が戻ったことで戸惑う。辺りを見渡せば先ほどいた場所よりかなり座標がずれている。眼前には敵機が二機いるがどちらもすでに戦闘不能状態。

 いったい何が起きて何があったのか全く理解し難い。

 

 理解する前に頭上から何かに蹴り飛ばされ落下した。

 

 

 

 

 紅月 カレンは目の前の状況に絶望した。

 ゼロの指示通りに作戦は展開し、あとはナナリーを連れて逃げるだけだった。

 作戦に参加した全ての黒の騎士団ナイトメアフレームは紅蓮を残して全滅。ゼロとは連絡が取れず、目の前にはラウンズが二機戦闘態勢を取っている。

 

 『終わりだカレン』

 「またアンタは高いところから偉そうに!!」

 

 ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグとトリスタン。

 ナイトオブセブン、枢木 スザクとランスロット・コンクエスター。

 

 見下ろされる形で向かい合うカレンの紅蓮弐式には、すでに勝ち目など存在しなかった。

 そもそも射撃装備の少ない紅蓮が飛行能力を相手に戦うのは分が悪すぎた。接近戦に持ち込もうともランスロットのフロートユニットに取り付けられた強化機構と接続して放たれたハドロンブラスターにより、輻射機構は大破して使い物にならない。

 

 『アーニャが代わってなんて頼んできたから代わったけどやっぱりあっちの相手をするべきだったかな』

 『油断大敵だよジノ』

 『あぁ、分かってるって』

 

 操縦桿を握り締めるも打つ手なしのこの状況。

 もはやここまでかと諦めが心を過る。

 

 『カレン、飛び降りろ!!』

 「ゼロ!?どうし――」

 『良いから飛ぶんだ!!』

 

 通信が繋がったと思った矢先の命令。

 理解する時間も予想する暇もないが、ここは信じて飛ぶしかなかった。

 

 飛行能力の持たない紅蓮が跳んだ瞬間、スザクもジノも自決する気かと考えた。

 逃げるだけなら脱出機構を起動させればいい。だが、紅蓮はそのまま飛び降りた。だから疑問が浮かび動きが遅れた。

 

 「ゼロ!これからどうすれば…」

 『後はこっちが指示するわ』

 「ラクシャータさん!?」

 

 中華連邦に居ると聞いていたラクシャータの声に戸惑う。

 しかし突然現れた紅蓮弐式の色違いらしき機体が出て来たのだ。一緒に来ていたとしてもおかしくはない。

 機体にデータが送られそれに目を通す。

 

 『教本の予習はちゃんとやってた?』

 「大丈夫です」

 『じゃあ、本番行ってみようか』

 『基本誘導はこちらでやりますね。ゼロ様――それとライの救出をお願いします』

 「あ…ふふ、分かりましたっと!」

 

 ぼそっとライの名を口にした神楽耶の反応に思わず笑みが零れた。

 あとで色々聞かないといけないかな。

 降下する紅蓮は月影と蒼穹弐式改と向き合っていたモルドレッドに蹴りを入れる形で一撃をかました。

 搭乗していたアーニャは困惑していた上に頭上の警戒はしていなかったので、不意の一撃を対処するどころか反応すら出来ない。その隙を逃さないようにライが機能を停止している右腕部で思いっきりフロートユニットを殴りつけた。

 飛行能力を失ったモルドレッドは落ちるしかなく、慌ててランスロットとトリスタンがカバーに入る。

 それを見計らったように浮上していたラクシャータ達が乗っている潜水艦の上部発射管が開く。

 

 『三番垂直発射管解放』

 『紅蓮弐式との接続信号確認』

 『舞い上がりな、飛翔滑走翼』

 

 潜水艦より放たれた飛翔滑走翼が降下する紅蓮に並ぼうと接近する。予習した通りに操作して右腕部と頭部を切り離し、機体の向きを180度回転させる。

 並んだ飛翔滑走翼が追い抜き、紅蓮と軸線を合わせる。

 

 『誘導信号確認』

 『同調軸則的良し』

 『連結』

 「連結!――――飛べぇえええええ!!」

 

 接続した小さな衝撃を感じながら、モニターに映し出される表示に目を通す。

 問題らしき問題は確認されず、ペダルを踏みこんで接続した飛翔滑走翼を起動させて水面ぎりぎりを飛行する。

 エネルギーの余波から水面で爆発が起きるがそんな事気にしてはいられない。まだルルーシュは敵艦におり、ラウンズが居るのだから。

 

 『続いて鉄鋼砲撃右腕部』

 『右腕部、連結速度まで減速中』

 

 続いて発射管より放たれた新たな右腕部を収納しているミサイルが放たれる。

 さすがに意図に気付いたランスロットが迫ろうとするがすかさず千葉の月影が割り込む。勿論ボロボロの月影ではどうあがいたって勝ち目はない。けれど数秒とはいえ時間稼ぎは出来た。

 割り込んで来た月影の弱々しい一刀を逸らして、がら空きになった胴に斬りかかろうとするが刃が蹴りの一つで止められる。

 

 ランスロットの剣は刀身が高周波振動するメーザー・バイブレーション・ソード。例えシュロッダー鋼で出来た機体でも切断することは出来る。驚きを隠せないスザクはすぐにその正体を理解した。

 足周りにブレイズルミナスが展開されている。

 

 この機能はランスロット・コンクエスターにも導入されている近接攻撃で、原作のコードギアスR2より斬月と初めて戦った時に披露したものである。それが今使用されたのは月影を改修した技術者がロイド博士だったからと言うしかない。

 

 苦々しい表情を浮かべたスザクだが押し返すのを止めて、受け流しながらすり抜ける事だけに集中し、月影を抜いた。

 が、もう遅かった。

 

 『衝撃コントロール、始動を確認。連結できます』

 

 速度を合わせ、右腕部を覆っていた外装が外れて新たな右腕部が現れる。

 そのまま紅蓮と接触して連結を完了する。飛翔滑走翼に取り付けられていた頭部を覆っていたパーツも外れ、新たな力を得た紅蓮弐式―――否、紅蓮可翔式は舞い上がった。

 

 「敵がどれだけいようとも紅蓮可翔式なら!!」

 

 トリスタンはモルドレッドを支えていて戦闘に加われない。

 ならば敵はランスロットのみだが、現時点での優先順位はゼロを連れてここより離脱する事。

 確実性のない戦いにかけて仲間を失う事だけは避けたい。

 

 「いっけぇえええ!!」

 

 飛翔滑走翼に収納されていた浮遊可能なゲフィオンディスターバーをランスロット周りに発射。警戒して足を止めるがゲフィオンディスターバと理解して銃口を向ける。

 

 『すでに対策済みさ』

 「でも足が止まったね!!」

 『カレン!!私はここだ』

 

 ゼロからの再びの無線でレーダーを確認すると艦上部に反応があった。足が止まったランスロットに射撃武器として流用された輻射波動を撃ち、ゼロ救出のために一気に加速する。

 当たるとも思っていなかった一撃は案の定避けられたが、距離を離すことは出来た。しかも艦を射線上に置いた事でランスロットの射撃武器を封じる事にも成功した。こうなればこちらのものだ。

 先に到着したカレンはゼロを手に乗せ、コクピットハッチを開けて座席後ろに移動してもらう。

 

 「指示を!」

 「撤退する。が、その為には相手の足止めをせねばならない。この艦の後部へ回り込め!」

 「了解!!」

 

 ゼロが乗り込んでいた時間に距離を詰めたランスロットの一撃を避けて、指示通りに後部へと回り込む。

 

 「ハーケンで動力炉を破壊しろ!」

 「え!?でもそれじゃあナナリーが!」

 「大丈夫だ。ナナリーにはスザクが付いている」

 「敵に対して大した信頼ね……って!?」

 

 スザクに信頼を寄せている事に少々思うところはあったものの、確かにスザクが居るのならナナリーは大丈夫だとカレンも思った。ハーケンを撃ち込もうとした瞬間、紅蓮の後ろより砲撃を浴びた。

 振り返ると後方に銃座がこちらに向いており、何のためらいもなく砲弾を撃ってきているのだ。

 動力炉をハーケンで破壊する為に近づいていた紅蓮と動力炉は同じ射線上にあり、自ら動力炉を撃ち抜く可能性があるというのに…。

 紅蓮可翔式は飛行能力だけでなくシールドも手にしているので、自動で働いたシールドにより無傷。それによりさらに攻撃を続けた銃座の攻撃により動力炉が撃ち抜かれた。小さな爆発を起こして機能を停止した動力炉を見てゼロは本気であきれ果てた。

 

 「愚かな…自らのエンジンを潰すとはな」

 「本当にね」

 

 動力炉を破壊する筈だったハーケンを功を焦ったアプソン将軍が操る銃座に撃ち込み沈黙させると、潜水艦に向けて全速力で撤退を開始した。

 ナナリーが乗るログレス級浮遊航空艦は動力炉が機能を停止したことで海面へと落ちて行く。ナナリーを救うために唯一動けるランスロットは手一杯となり、予想通りに黒の騎士団に対する追撃は無いままカレン達は戦闘区域を離脱するのであった。

 

 

 

 ちなみにラクシャータは紅蓮弐式の最終調整に蒼穹弐式改の修理と忙しさを嘆いていたものの、最新の機体を調べられると表情でわかるほどウキウキしていたという。




 ちなみに蒼穹弐式改—―紅蓮弐式改はゲームに登場した機体です。

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