コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
アプソンという神聖ブリタニア帝国の将軍は浮足立っていた。
エリア11の総督として就任したカラレス公爵は失脚し、新たな総督が着任する事となるのは道理。その新総督がエリア11に移動するための艦隊総司令の任をまさか自分が命じられるとは思わなかった。
別段忠誠心が高いという事は無い。どちらかと言えば自身の進退を重んじるタイプで、今回の皇族移送時の護衛部隊総司令を命じられるという事はそれだけの信頼を受けている証として喜んでいた。
指揮下に入った戦力はログレス級浮遊航空艦を旗艦にカールレオン級浮遊航空艦三隻、搭載された戦闘ヘリ多数と航空艦隊としてはかなりの大戦力であり、それを手足のように動かせるのはまさに快感である。
艦隊指揮に皇女殿下の移動時の総指揮、さらには神聖ブリタニア帝国第一皇子よりの預かり品をエリア11に届けるという簡単な仕事。航空艦隊を持つ反ブリタニア勢力など確認された事実がない事から何の問題も起こらない安全な航海で、これだけ名誉な任務を完遂できそうと知れば浮足立つのも当たり前と言えば当たり前だった。
前方にナイトメア集団が現れるまでは…。
ナイトメアフレームは基本陸戦兵器。空中を飛ぶとなると手段は限られる。
ブリタニアを主に開発・生産されているフロートシステムはまだ他国でも確認された例はない。主流なのはナイトメアを運ぶ輸送機系に積むことだがこれらは輸送するだけでナイトメアはただの積み荷と化す。ほかにも戦闘機型に変形する可変機やナイトメアが搭乗するタイプも存在するが生産性や整備に難があって本国の帝都防衛部隊が主である。
現れたナイトメア部隊は空戦用の戦闘ヘリにハーケンで固定し、ぶら下がったままライフルを構えていた。
あれならば少なくともナイトメアの火力も用いて空中戦を行える。ただし、フロートシステムのようにナイトメアが自由に飛べるわけではないが。
「黒の騎士団!?なななな、なにをしている!さっさと護衛の空戦部隊に対処させろ!!」
無頼や月下など黒の騎士団で使用していたナイトメア隊から敵を黒の騎士団と断定し、慌てながらも指示を飛ばして敵機撃破に努めさせる。
突然の出来事で荒くなった呼吸を抑えながら冷静に状況を判断して、平常心を取り戻す。
敵は戦闘ヘリに陸戦兵器のナイトメアをぶら下げている事で機動力が低下。ナイトメアも地上のように自由に動けない事から特性を生かすことの出来ないただの的。ならばこちらの空戦戦力で叩くことは可能。
落ち着きを取り戻したアプソンは強がるように笑みを浮かべ、ここで黒の騎士団を叩けば私の評価は挙がると喜び始めていた。
数機撃破すると敵の戦闘ヘリより緑色のスモークが張られ視界が遮られる。
「サーフェイスフレアを張られても問題はない。囲んで叩け!!」
指示通りに出撃中の空戦戦力が張られたスモークを囲む形で包囲するが、アプソンはまんまと黒の騎士団の策略にはまってしまった。
スモーク自体は攪乱と空戦戦力を誘き寄せる為の囮、本命はスモークで隠れた所からのナイトメア降下作戦。次々と航空艦に取りつかれ、スモークに仕込まれていた仕掛けにより爆発が起こって囲んでいた空戦戦力は消滅した。
艦橋にまで伝わる振動から取りつかれたと理解したアプソンは大慌てだ。
なにせこの艦にはナナリー皇女殿下が乗っており、もしもの事があれば降格どころか命を奪われかねない。
「残った空戦部隊も出せ!護衛艦からも砲撃を!!」
「しかし敵がフロートを狙っております。シールドを展開している為照準が…」
「ここを護らずしてどうする!!」
「まさにその通りですね」
慌てふためくアプソンに同意したのはナナリーの騎士であるアリスであった。
アリスはナナリー警護の為にログレス級浮遊航空艦内の庭園で護衛についていたのだが、黒の騎士団が攻めて来た一報を聞いて艦橋へ状況確認に来たのだ。
「敵の戦力は?」
「護衛艦三隻に合計4機のナイトメア。この艦には三機のナイトメアに取りつかれ……いえ、新たに四番艦に二機取りつきました!」
「四番艦だと!?あそこにはオデュッセウス殿下の――えぇい、何とかせんか!!」
「落ち着いてください将軍。今は本艦に取りついた敵機の排除が最優先です」
「されどこの高度で外に出てナイトメアと歩兵がやり合える訳もなく、空戦戦力では本艦に被害が…」
「上に取りついたナイトメアは私が相手をする。整備兵にグロースター最終型の発進準備をさせて」
「陸戦兵器で空に上がるのか!?」
「足場があるなら地上と変わらない。援軍到着予定は?」
「エリア11からだと約一時間ほど」
「了解。それまでは持ち堪えないと」
それだけ言い残してアリスは艦橋より出て自機が待機している格納庫へと向かっていった。
見送るしかなかったアプソンはわなわなと肩を震わせる。
黒の騎士団の襲撃を防げず、オデュッセウス殿下の荷物をみすみす奪われたとなると降格待った無しなのは確実。それだけはさせないとエリア11に援軍要請を出させると後部砲塔に急ぐのであった。
せめて自らの手で戦果を挙げねばと強く思いながら。
先日行われた学園祭夜の部にてスザクより新総督がナナリーと言う事実を知ったゼロ――ルルーシュは現在手にしている戦力のほとんどを投入したナナリー奪還作戦を行う。
ほとんどと言うのはヘリが足りなかった為、余った人員やサザーランド(バベルタワー襲撃時の鹵獲機)などのナイトメアが参加出来なかった為であり、ヘリが足りているなら全機投入して行っていた所だ。
今回の作戦実行に当たり、出撃した部隊は中華連邦総領事には戻る手段が無い事から参加不参加問わずに租界構造を利用して総領事より撤収している。不参加の部隊は小分けに用意した拠点に姿を隠させている。外交特権でブリタニアが手を出せない拠点を手放すのは惜しいがここが離れ時だったろう。
今の中華連邦にはブリタニアと戦争をする気概は無い。
ギアスで操っていた大宦官は中華連邦にとっては目の上のタンコブになり、武官の
何にせよ拠点を放棄しようと戦力を全投入してでも今回の作戦は成し遂げなければならない。ナナリーの為の黒の騎士団なのだから、ここで動かずしてどうする。
捕虜にすると団員達には話したが、実質はナナリー救出作戦であり、意図を知っているのはC.C.とカレンのみ。
作戦内容はまずハーケンで戦闘ヘリに吊り下げたナイトメア隊を敵浮遊航空艦隊が飛行する高度まで上昇、雲の合間に隠れながら接近し、サーフェイスフレアを展開して相手の目と戦力をフレアに向けさせた隙にナイトメア隊は各目標の浮遊航空艦に取りつく。あとは作戦目標を確保しつつ、旗艦以外の浮遊航空艦の排除を行う事になっている。
予想通り敵の指揮官は展開したサーフェイスフレアに空戦部隊を囲ませるように集結させた。サーフェイスフレア以外にも引火性の高いガスも撒いており、全機が抜けたところで引火させて空戦戦力を一掃してやった。
この作戦で重要な確保対象は三つある。まず第一にナナリー。次に飛行能力を有するナイトメア。最後に反ブリタニア勢力とされる人員とそのナイトメアの確保。
すべてとは言わない。せめてナナリーだけでも救い出さなければ。
旗艦であるログレス級浮遊航空艦に着地した振動がシートから伝わり身体を大きく揺さぶる。
「着地成功!」
「第一関門は難なく突破か」
「でも南さんの無頼が撃破されたけど」
「問題ない。損害一騎…作戦を変更するほどじゃない」
「冷たい言い方ね」
「脱出も確認している。問題ないだろう」
シートに座って機体を操作しているカレンは振り向きながら呆れ顔を向ける。
現在ルルーシュはカレンが搭乗している紅蓮弐式のシート後ろに急遽取り付けた仮設シートに座っている。無頼指揮官機で乗り込むことも考えていたが、ルルーシュはナナリー救出のために機体を離れる。ただの置物になる機体を数の少ないヘリで運ぶよりは他の団員が搭乗した機体を運ぶ方が有意義だ。
なのでルルーシュはカレンの紅蓮弐式に同席しているのだ。
周辺状況を確認している間にも、カレンはログレス級浮遊航空艦上部の砲台を無力化させてゆく。
ログレス級浮遊航空艦にはカレンの紅蓮弐式に杉山の無頼が取り付き、護衛艦であるカールレオン級浮遊航空艦にもそれぞれが着地を決めていた。
前方には藤堂と朝比奈の月下、右翼には仙波の月下と吉田の無頼、後方には千葉を同席させた井上の無頼に卜部の月下が取り付き早速砲台を無力化しながら攻勢に入っていた。
左翼のカールレオン級浮遊航空艦は前方より朝比奈が動力部に初撃でダメージを負わせたので、海面に向けて徐々に高度を下げて落ちて行っている。
「まったくナナリーしか見えてないのね。分かっていたけど!」
「――ん?どういうことだ」
「少し接すれば分かるわよこのシスコン………シャーリーも苦労するわね…」
「兎に角急ぐぞ!」
「えぇ、なんにしてもナナリーを助け出してあげないと」
数機しかない砲台は叩き潰し、残るは空を飛び周る戦闘ヘリばかり。
制限時間はエリア11から援軍が到着するまでの一時間。
それまでに作戦を完遂しなければこちらが危うくなる。
「カレン。上は任せる」
「えぇ、早くナナリーを」
「勿論だ!」
紅蓮のコクピットより降りて内部へと入るハッチへと急ぐ。
走りながら遠目に他の艦に取り付いたメンバーへと視線を向けると粗方上手く行っているようだった。すでに前方は片付いて藤堂と朝比奈がこちらへと飛び移ろうとしている。最も手が掛かるのは新型ナイトメア確保の卜部達や反ブリタニア勢力救出の仙波達だがこの状況下では誰も邪魔することは出来ないし、一時間もあるのだ。
何の問題もないだろう。
そう思いつつルルーシュはナナリーを救い出すべく、ログレス級浮遊航空艦内部へと足を踏み入れるのであった。
グロースター最終型。
オデュッセウス殿下指揮の元で開発されたグロースターの改修機。
砲撃も耐え抜く堅固なタワーシールドに、MVS技術無しでナイトメアを両断…否、叩き斬る剣を持ち、機体スペックはブラックリベリオン時のランスロット並と言うハイスペックなナイトメアである。さらにアリス達イタケー騎士団に配備された最終型はギアスユーザー仕様としてギアス伝導回路搭載型の特別仕様。
これもギアス饗団と関りがある殿下でなければ出来なかった仕様である。
実戦配備数こそ低いものの、次世代のナイトメアにも引けを取らない機体だとアリスは考えている。
ただし、地上であればと付け加えるが…。
「…せめて飛行能力があれば……」
後部ハッチが開いていく様をまだかまだかと待ちながら呟いた切望の一言に、アリスは心の中で否定の言葉を塗り付ける。
飛行能力があれば。
イタケー騎士団を先行させずに一緒に待機させておけば。
殿下から贈られるというギャラハッドが間に合っていれば。
などと“もしも”を願った所で状況は打破できない。ならば今出来る事を全力で行うのみ。
ハッチ解放と同時にハーケンを上部装甲版に撃ち込み、そこを起点として艦上部へと飛び移る。
機体に負荷をかけることなく着地を決め、振り返りながらタワーシールドに収納されている剣を抜く。
「これ以上好き勝手にはさせない!!」
ログレス級浮遊航空艦に取り付いているナイトメアは二機。
その一機に狙いを付けて速度を挙げつつ斬りかかる。
重い一撃を紅蓮弐式に叩き込もうとしたが、気付いた紅蓮の輻射波動によって拒まれる。
『この機体…パイロットはアリス!?』
「お久しぶりですねカレンさん」
『そうね。ブラックリベリオン以来かしら』
剣を引いて距離を取ると以前より細くなった右腕を構え睨み合う。
無頼がアサルトライフルを向けるが立ち位置的に紅蓮が邪魔となりトリガーを引くことが出来ない。
「カレンさんはナナリーを狙って来たのですよね」
『…………』
「答えなくても結構です。私はナナリーの騎士――やるべき事は一つですから」
無頼の位置を確認しながら紅蓮に斬りかかる。紅蓮は右腕だけでなく左手の短刀を用いて反撃・攻勢に出るも以前のようなキレがない。あの右腕部は以前ほどの攻撃力も反応速度も無いとみて間違いない。あの時の損傷により予備パーツでの代用品と推測。機体の方も整備が行き届いていないのだろう。
当たり前だが機体が破損・修復する際にはその破損したパーツや代用品が必要となる。より入手が簡単なのはその時々の量産ラインに名を連ねている機体となる。ブリタニアで言うとサザーランドやグロースターなどがまさにそれに当たる。最新鋭の機体や数世代前の機体となるとパーツの入手も幾分か困難になるのでサザーランドやグロースターの部品にて代用・改修が必要となる。
しかし眼前の紅蓮はランスロットのようなオーダーメイドに近い希少なナイトメア。生産はされてないし、予備パーツや代用なども限られてくる。ゆえに機体を修復やパーツの取り換えを行うなら物資の供給が十全に行えなえなかった黒の騎士団では代用品が基本。機体のほとんどはそれで誤魔化せてもあの特殊武装込みの右腕部はそうはいかない。完全に受注生産するしかない品物だろう。
前の破損した腕部を最低限修理して無理に使える程度に修復した…。
だから威力減少に反応速度の低下などのスペックダウンを引き起こしている。
斬り合っている最中でも無理をしているのが一撃を交える度にヒシヒシと伝わってくる。
そんな機体でも互角に斬り結べているのはカレンの技量が自身を上回っている事が要因だと理解し、改めてカレンの実力に驚きと称賛を心の中だけだが贈る。
が、技量が上回っていたとしても技量で機体性能差をカバーしていてはパイロットの疲労は相当な負担となる。このままの状況を維持できれば勝つのは自身である。
「機体の動きが悪いようですね。そんな機体では私には勝てませんよ」
『確かに不味いわね。でも貴方はここでは本気を出せないでしょう』
カレンの言う本気とはブラックリベリオンで見せたタワーシールドより発する範囲攻撃【グランドクロス】の事を言っているのであろう。確かにあの技が使えるなら一撃で無頼まとめて紅蓮を倒せることは可能だ。しかしここはナナリーの乗っている艦の上。絶対に使う訳にはいかない。
「あの技が使えなくたって私が勝つ!ナナリーの為にも!!」
『へぇ…
「どういう意味ですか、それは」
『
『隙あり!!』
カレンの言葉に不安を覚えて身構えた瞬間、一機のナイトメアが斬りかかって来た。
それはアサルトライフルを向けていた無頼ではなく、前方のカールレオン級浮遊航空艦に取り付いていた筈の朝比奈の月下であった。
二隻の中間を飛行していたヘリにハーケンを撃ち込み、起点として跳び越えて来たのだ。
紅蓮と無頼ばかりに注意を裂き過ぎて、他をスルーしていた時分の迂闊さをタワーシールドで防ぎながら呪う。月下の斬り込みに続いての紅蓮のラッシュも加わってまさに防戦一方。
剣をタワーシールドに納めて大剣として振るう事で二機が距離を取り、何とか二機の猛攻を止める事が出来た。
『さぁて、これで二対…いや。三対一だね』
『朝比奈さん。私は右から回り込みます』
『了解。すぐに片付けるよ』
不利な状況になったアリスはコクピット内で不敵に笑う。
たった一騎で三騎ものナイトメアを相手にしなければならないという戦力差。
しかも相手は見知った相手でもあり、黒の騎士団のエースで技量は自分よりも上である紅月 カレン。
援軍到着まで約一時間と絶望的状況であるが、アリスは勝つことしか見えていない。否、見ないようにしている。
勝たねばナナリーを守れぬがゆえに。
「レセプター同調。ギアス伝導回路解放―――120秒限定でC.C.細胞抑制剤中和開始!」
盾を投げ捨てると同時に一歩踏み込む。
三機とも投げ捨てられた盾にコンマ数秒という僅かな時間だが気を取られ、グロースター最終型を視線から外してしまった。
まるでロケット推進剤でも用いたかのような急加速を出し、剣を構えたまま月下の懐へと飛び込む。
『な!?』
「まず一騎!!」
反応が一瞬遅れたとしても精鋭中の精鋭である四聖剣。
咄嗟に廻転刃刀を振るい、柄を両手でしっかりと握って剣を受け止めようとした。
一般兵なら指先一つ動かすことなく真っ二つにされていた剣戟。
だが、アリスの完全開放したザ・スピードのギアスには不十分。
動きを見て剣先を僅かながら下げ、機体に回転を銜えながら通り過ぎる。
刃は廻転刃刀に直撃せずに握り締めた柄を切断し、通り様にもう一回点した事で再び振り抜かれた刃が月下の胴を両断した。
『朝比奈さん!?』
『まるで縮地だね。あとは任せるよ』
「次!!」
切断面より電流が迸り、機体中に広がる前に朝比奈は脱出システムを起動させてコクピットは射出。空中へと飛び出したコクピットよりパラシュートが展開され、ゆっくりと海上へと降下して行く。
無事脱出した事だけ目で確認して加速を付けて突っ込む。
月下が爆散して艦に損傷を与えないように蹴り落としたアリスは、輻射波動機構を構えて突っ込んでくるカレンを視界に収めて正面衝突するかのように真正面より突っ込んだ。
正面衝突するかのように真正面より突っ込んだ。
脳裏に学園での思い出が過り、攻撃することを躊躇ってしまいそうになる。
鈍った剣筋でこの相手は斬れる筈がない。
自分の甘さに舌打ちしながら突き出されつつある輻射波動機構より逃れる為に急停止し後ろに飛び退く。着地と同時に走り出してカレンの後方へいる無頼へと狙いを変える。
距離もあり反撃が可能だった杉山の無頼はアサルトライフルをフルオートで撃ち始める。アリスのザ・スピードは通常使用でトンネル状の狭い空間内でも雷光の超電磁榴散弾銃砲を回避しきる力を得る。その能力が全力解放されているアリスを捕える事は不可能。
アサルトライフルを構える腕ごと両断して、月下同様に蹴り落とす。
振り返り剣先を紅蓮へ向ける。背後で無頼の脱出システムが起動した音が聞こえたがもう気にしない。いや、気に出来ない。残り時間は一分を切ろうとしているのだから。
それでも言わずにはいられない。
「カレンさん。これ以上の抵抗は無駄です。降伏を」
『………すると思う?』
「いえ、してくれれば良かったと思いますが―――時間もないのでこれで」
『させるかぁああ!!』
獣の咆哮のような勇ましい叫び声にハッとなって振り返る。が、旗艦に取りついていたナイトメアは三機。残るは月下のみの筈。旗艦上部を映したレーダーにも旗艦上には機影無し。
振り返った所でナイトメアなど居る訳も無いし、事実居はしなかった。
事実がそうでも先ほどの咆哮は夢幻の類ではない。
モニター越しに影が落ちた事で理解した。
相手は陸戦兵器を空に持ちだした黒の騎士団。
その考えに縛られて空が疎かになってしまった事にアリスは、迫りくるナイトメアをモニターに納めた辺りで後悔した。
対応しようと剣を振るおうとするが迫るナイトメアに日光が反射してモニターを通して目を襲い、はっきりと相手を捉えきれなくなる。
このまま突っ立っていたら危険と判断して一気に後退するも襲って来た衝撃と共に左腕が切り取られてしまった。
紅蓮との位置を確認し、距離を取ったあたりで時間切れ。C.C.細胞抑制剤が流され、意識を手放したくなるほどの脱力感と苦痛が襲ってくる。
それらを気力で押さえ、苦々しく襲って来た機体を睨みつける。
フロートシステムにて単独で飛行し、太陽を背にメタリックゴールドに塗装された装甲が光を反射して輝く。
神聖ブリタニア帝国第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニアの元、改修と最新技術を組み込まれてもはや原型である月下を遥かに上回る性能を誇る新型機―――【
まさか初の相手が自分になるとは露とも思わなかったアリスは、両頬を叩いて活を入れ、見下ろす月影と対面する紅蓮を前に剣を構えるのであった。