コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
本日、エリア11中華連邦総領事館前にて、捕えた黒の騎士団構成員の処刑が行われようとしている。
側面が特殊強化ガラスで誂えた二階建ての大型トレーラー三台にはすし詰め状態で構成員が詰め込まれていた。そしてトレーラー上部には藤堂 鏡志郎や扇 要などの黒の騎士団の幹部級構成員が貼り付けにされている。
この処刑はゼロを誘き寄せる為の餌であり、ゼロそのものを無力化する作戦である。
捕まった仲間を見捨てるなら、見捨てた男として信頼を失う。助けに来るならば返り討ちが関の山だろう。
黒の騎士団はバベルタワーを襲撃後、倒壊させたビル内を移動して中華連邦総領事館に立て籠もっている。
総領事館に立て籠もっている以上、中華連邦領内で外交問題に発展する為に手出しが出来ない。出来ても外交ルートで交渉するぐらいだ。
総領事館より黒の騎士団は左右に展開している狙撃型のサザーランド隊の長距離射撃を受ける事になるだろう。もし突破されてもトレーラーを挟んで待機しているサザーランド六機が奪還されそうになれば処刑を開始する。他にも総督護衛を行っている量産型グロースターや最新鋭の試作量産機であるヴィンセントなどカラレス総督が搭乗するグロースターを中心にナイトメア部隊が待ち構えていたりと万全の大勢整えてある。
そんな処刑場を離れた位置で待機させられたG-1ベース艦橋よりアンドレアス・ダールトンは眺めていた。
「父上。如何なされましたか?」
ダールトンに声を掛けたのはグラストンナイツの一人、クラウディオ・S・ダールトン。
グラストンナイツとは各地で孤児だった彼らを養子にして、騎士として育てられたダールトンの子らで創設された部隊。たったの五人の小部隊であるが指揮官としても騎士としても優秀でコーネリアが総督の時は特別親衛隊の役割を担っていた。
その中でもクラウディオは真面目で柔和な性格でグラストンナイツのリーダー的役割を担っている。
左目を髪で隠し、穏やかそうな表情を浮かべている事の多いバート・L・ダールトンは温厚そうに見えるが、予期せぬことが起こるとパニックを起こして視野が途端に狭くなる。
涼し気な笑みを浮かべているアルフレッド・G・ダールトンは実力は高いのだがまだまだ詰めが甘い。
唯一褐色の肌で赤毛のデヴィット・T・ダールトンは狙撃能力が高かったり欠点らしい欠点は見受けられないが、寡黙で眼つきが鋭いために仲が良い者以外は寄り付こうとしない。
エドガー・N・ダールトンは腕も社会性も高いが気が高ぶり易く、色々と荒くなる。
自慢の息子達であるグラストンナイツ。
振り向きながら全員を見渡し、再び処刑場に視線を戻す。
「…ん、いや、これで黒の騎士団の最後かと思うとな…」
「ようやくエリア11も平穏に向かう事が出来るでしょう」
問いに答え、クラウディオの言葉を耳にして顔を曇らせる。
確かに黒の騎士団を処刑すれば見せしめにもなって、エリア11の反ブリタニア勢力を幾らか黙らせれる事は出来るだろう。
だが、相手はあのゼロだ。
あの卓越した策士がこのまま処刑を傍観する訳もなく、出てくるなら何かしら策を持って現れる。しかも一発ですべてをひっくり返すような策略を持って…。
何かしら悪い事が起きそうで不安なのだ。
ゼロと対峙したことの少ない彼らではそこまでの不安を持ち合わせていない。仕方がないと言えば仕方がないのだが、そこのところをしっかり叩き込まねばならないか。
それでもカラレス総督ほどではない。
大きなため息を付きながら部隊の配置図が写された電子ボードの前にまで戻る。
エドガーとバートが配置図を見直しつつ問題がないか何度も確認して、時間を潰していた。
現在、エリア11内でグラストンナイツ以上の腕利きの騎士など存在しない。
なのに配備されず後方で待機させられているのはカラレス総督が手柄を奪われないように避けたが為。
出てこないならそのまま処刑執行、出て来たならば無力化して自らが捕縛、または殺害して己が手柄とする。この油断が惨事につながらなければ良いが…。
「それにしてもゼロは現れるでしょうか?」
「現れる。必ずな」
懐疑的なエドガーのつぶやきをばっさりと否定する。
現れない筈がない。
問題は何処から現れ、何を仕出かす気なのかだ。
「今更無駄な足掻きを。日本なんて国…もはや存在していないというのにイレブン共め」
「そういう見下したような言い方好きじゃないんだけど」
アルフレッドの一言が気に障ったかマリエル・ラビエがジト目で睨みながら言い放った。
黒の騎士団を収容していた監獄の所長であった姫騎士も処刑が行われるという事でこの場に来ており、補佐を務めているマリエル・ラビエとマオも当然ながら側に控えている。
マオの場合は控えているというか暇なので椅子に座ってくるくる回って気を紛らわせることに集中している。
「事実だろ?」
「それでもよ。私、やたらと差別や区別するの嫌いなの」
「オデュッセウス殿下の部下はやはりというかそういう人物が多いのだろうな」
「え?…あー…マオちゃんみたいのも居るけど大概はそうですね」
正直今回の件は納得がいかない所がある。
勿論自分を含め、グラストンナイツが後方待機させられている事もだが、それ以上にオデュッセウス殿下の変化に対してだ。
元々差別意識なくナンバーズとも接する人物で、特に旧日本であるエリア11は特にお気に入りだ。
囚人で反ブリタニア勢力の黒の騎士団構成員とも仲が良く、酒瓶を手にして監獄に入って行ったという話を耳にした事すらある。今までもさんざん黒の騎士団の処刑をカラレス総督が打診しても首を決して縦に振らなかったというのに、何故今になって許可成されたのだろうか。
そのあたりの話を聞いてみたいものだが姫騎士は喋る事は無いし、マリエルは詳しい話は聞いていないと答えた。マオはそもそも興味がないらしく「さぁ」の一言で片づけられた。
ぐーるぐると回っていた椅子を止め、ふくれっ面で外のナイトメアを見つめるマオは大きなため息を漏らす。
「あーあ、ボクも戦いたいなぁ」
「戦いになると決まった訳ではない」
「ナイトメアで突っ込みたい…」
「外交問題だなそれは」
「暇すぎる~ってことでトウッ!!」
「うおっ!?」
少し離れていた所で椅子に腰かけて紅茶を飲んでいたデヴィットは視線を向けることなく指摘していたが、いきなりのマオの腰へのタックルには焦り、目を見開いて倒れないように体勢を維持しようと努めた。結局倒れ込んだのだが…。
何をやっているんだかと訝しんでいると外から挙がった歓声に視線を再び外に向ける。
カラレスは自分用に誂えさせた見栄え重視の装飾を施したグロースターのコクピットより姿を晒して、ゼロを誘き出すための公開処刑の時刻になるのを待ちかねていた。
今、彼の頭の中にあるのは如何にしてゼロを討ち取り、どのようにして汚名を雪ぐかを考えるばかりで、もはや勝った気で油断しまくりである。
それも仕方がない。
すでに周囲には三十機を超すナイトメアが展開しており、総領事館に逃げ込んだナイトメア部隊より多く待ち構えているのだ。
普通は負ける事のない状況ではある。普通ならば……だが。
モニターに表示されている時刻が予定していた処刑の時刻となり、ゼロが現れなかったことは残念であるが処刑を開始しようと外部スピーカーのスイッチを入れる。
「さて、時刻になってもゼロは現れなかった。ゼロはお前たちを見捨てたのだ」
黒の騎士団構成員は覚悟を決めたのか騒ぐ者は少なかった。寧ろ処刑を行う事を聞いて集まった名誉ブリタニア人やイレブンたちの方が騒ぎ立てていた。
いくら叫ぼうが彼らが助かる道はないというのに。
藤堂達に見下した視線を向けながら右手を軽く上げる。
「撃ち方用意!」
トレーラー前に整列したサザーランドの機銃が狙いを定める。
これでゼロも、黒の騎士団も終わり…。
『ほぅ、呼び立てておいて私の登場を待たずして始めてしまうのか?』
「―――ッ!?」
突如響き渡った音声に大慌てで辺りを見渡す。
周囲のナイトメア隊も銃を構えて警戒するがそれを見たカラレスは銃を下げるように命じる。
公開処刑と言う事もあってここには報道のカメラだって入っている。下手に誰かが撃って近くに集まっているイレブンやブリタニア人問わずに射殺してしまっては汚名を雪ぐどころか恥の上塗り。二度と這い上がる事が出来ない程落とされる。
それだけは何としても避けたいところだ。
「撃つな!誰も撃つなよ!!」
『数日ぶりですねカラレス総督。バベルタワーの件では大変だったようで』
「何を他人事みたいに!!貴様のせいでこの私は―――ッ…」
自分を貶めた本人が何を言うかと怒鳴りつけようとしたが理性がそれを抑え、落ち着きを居り戻す。
ここで怒りを露わにわめきたてた所で見苦しいばかり。
コホンと咳払いし、大きく息を吸い込む。
「そんな安い挑発には乗らぬ私は」
『確かに貴方にとってはそうだろうな。なにせ我が合衆国軍黒の騎士団の兵士を国際法を破って処刑しようとしているのだからな』
「国際法に則って捕虜として扱えと?貴様は何を勘違いしている。貴様らの国など存在すら認められておらぬわ!貴様らはただのテロリストである!!」
『それがエリア11を預かる総督の考えか』
「勿論だとも。それよりも姿を現したらどうだ?それとも怖くて姿が出せないのか?」
挑発してこちらの隙を突こうと言うのか?
なんにしても負ける事のないカラレスは高を括り、余裕の態度を見せる。
予想外の返答を聞くまでは…。
『出しても良いんだな?』
「んん?それはどういう―――――何事!?」
解答と同時に黒の騎士団に機銃を向けていた一機が左右のサザーランドに対してスタントンファーを叩き込んで吹っ飛ばした。同タイミングで離れた位置で待機させていた最新鋭の量産機であるヴィンセントがメーザーバイブレーションソード振るって切り刻んだ。動力源をわざと外したのか機体は爆散せずに転がった。
アサルトライフルを構えるが位置的に同士討ちになり兼ねないので撃てはしない。
まさかすでにこちらの内部に入り込んでいたとはと悔やむが遅すぎた。
「えぇい!こうなればテロリストの処刑を――」
『遅い!だから貴方は無能なのだよ』
「なっ!?ゼロ!!ウォオオオ!?」
指示を行う前に自身の護衛を務める量産型のグロースターの一機がランスを振るって足元に重い一撃を喰らわせて来た。
コクピットより姿を晒していたカラレスはバランスを崩してコクピットより転げ落ちてしまった。
立ち上がる間もなくアサルトライフルが向けられる。
『動くなブリタニア軍よ!』
「くぅうう…ゼロ。どうやって入り込んだ」
『愚問だなカラレス総督』
形勢を一気に覆されたことで表情がみるみる悪くなる。
この様子を見た本国は自身をどう評価する?
決まっている。入り込まれたどころか殿下にお願いして出して頂いた黒の騎士団を奪われようとしているのだ。これ以上ないほどに落とされる。確実に死罪は逃れないだろう。
ゼロは周囲のナイトメアに離れるように細かく指示。そこを悠々とヴィンセントが駆け、数機を押しのけて合流。
「ここから逃げ果せると思うなよテロリストが!!」
『逃げ果せる?それは違うな。逃げ果せなければならないのは君たちの方だ』
「なんだと!?…ッ!!今度は何事だ!!」
いきなり地面が傾き、慌てるカラレス。
否、ここに集まるブリタニア軍は全員驚愕していた。
処刑場を兼ねていた場所が租界の構造を利用され、下から持ち上げられているのだ。しかも中華連邦総領事館側に傾くように片側しか持ち上げられていないので、必然的に対処できなかったナイトメア隊は無様に斜面を転がって行く。中には持ち上がったことで剥き出しになった構造内へと転落していった。
「これはブラックリベリオンと同じ!?ぬぅおおおおおおおおお!!」
そう気付いたカラレスは成す統べなく斜面を転げ落ちて行った。
何とか地面に手を付いて勢いを止めようと踏ん張るがそれもほとんど無駄な抵抗に終わった。
転がり落ちる最中カラレスが目にしたのはゼロが乗っている量産型グロースター、目を引くために最初に暴れ出したサザーランドとヴィンセントがそれぞれ大型トレーラーが横転しないようにスラッシュハーケンなどを用いて支えていた姿だった。
先ほど細かく指示を出していたのはこの作戦を使った時にトレーラーにナイトメアがぶつからないようにする為かと理解した頃にはもはやすべてが手遅れであった。
ゼロ―――ルルーシュは転がり落ちて行くブリタニア軍を見てニヤリと微笑んだ
この作戦はマオとロロあっての作戦で合った。
足場を傾けて中華連邦総領事館が置かれている側に落とせばそこは中華連邦――つまり我が合衆国の領土内となる。さすればカレン達を突入させ、体勢を崩したブリタニア軍を一掃できるだろう。カラレスも前線に出ている事から指揮官を潰せば指揮系統に乱れが出来、総領事館に逃げ込むまでの時間稼ぎも可能。
ただネックだったのが斜めに傾けた際の大型トレーラーの動きに合った。もしも想定以上に転がれば外で貼り付けにされている藤堂達は勿論、中ですし詰めされている団員はもみくちゃとなり、圧死するものが続出するだろう。
また転がり落ちたサザーランドが激突でもすれば特殊強化ガラスと言えどもただでは済まない。
ゆえに機密情報局で内部に入り易いロロとギアスを用いて内部に潜入。マオの能力で相手の策と配置図を読み、どこをどのようにしたら問題を片付けれるか考えなければならなかった。
懸念材料であった精鋭部隊のグラストンナイツやダールトン将軍などが居ない事に関してはカラレス総督に感謝せねばな。
「黒の騎士団よ!敵は我が領内に落ちた。ブリタニア軍を壊滅し同胞を救い出せ!!
卜部は救出を。カレンはブリタニア軍の排除の指揮を執れ!!」
『承知!!』
『了解!!』
指示を飛ばすと待ってましたと言わんばかりに卜部の月下とカレンの紅蓮弐式を先頭に、無頼と黒の騎士団用に黒のカラーリングを施したサザーランドのナイトメア隊が突入を開始した。
敵は混乱の中でどれだけ抵抗出来ようものか。出来たとしてもカレンと卜部を止められる者もいない。
ルルーシュは自身の元に到着した月下を確認すると操作して、領土内の地面に車輪が降りるように動かす。意図を察した卜部の指示で救出部隊が手伝い大型トレーラーはゆっくりと降ろされた。
マオのサザーランド、ロロのヴィンセントが支えていた大型トレーラーも同様に手伝われ、無事に三台とも降りる。
「ロロ。これより救出部隊と共に総領事館へと向かう」
『分かったよ兄さん。絶対に兄さんは護るから』
「あぁ――マオ!ギアスを使って索敵!周囲の状況を伝えろ!」
『まったく人使いが荒いなぁ…』
「後でC.C.と直に話せる時間を作ってやる」
『本当かい!?そういう事なら頑張らないとね!!』
「卜部!このまま大型トレーラーごと総領事館へ」
歩兵が運転席に乗り込み移動を開始した。
月下とヴィンセントが先行して敵機をあっけなく撃破して行く。
通り様に斬り捨てる月下と特殊兵装でコクピットごと貫いて行くヴィンセント。
二機並んで戦っていると二機の動きが見比べやすく、ルルーシュは卜部と遜色ないほどのロロの技量に驚いていた。
ギアス無しで銃撃をすり抜けるように回避したり、アクロバティックな動きで翻弄したりして気付けば懐に潜り込んでいるのだから大したものだ。
『ほら下がった下がった』
「――っ!?助かった」
『約束だからね』
マオのサザーランドに掴まれて止められたことでどこからか狙ってきた銃撃を回避することが出来た。
思考を読むギアスは範囲型でナイトメア戦にも有効なのである。
コードギアスのゲームではマオとナイトメア戦を行うルートがあり、マオはルルーシュが操るガウェインに対してグラスゴーで圧倒したのだ。ハーケンを放っても、ハドロン砲を撃とうとも絶対に当たらない負け確のような戦い。
これは思考を読むだけでなく読んだうえで回避できるだけの技量を持ち合わせている事になる。実際、ガウェインのハドロン砲など分かっていても避け切れるものではないだろうし。
大型トレーラーが総領事館前に到着すると荷台を開けて全員を総領事館に逃がす。
この頃には紅蓮弐式の活躍により多くのブリタニア軍ナイトメアが撃破されており、もはや抵抗するだけの戦力も持ち合わせていなかった。
こうしてルルーシュは黒の騎士団のほとんどの戦力。
そして原作以上の力を手に入れたのであった。