コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第84話 「動き出したエリア11」

 黒の騎士団。

 エリア11最大規模の反ブリタニア勢力。

 小さな島国の反ブリタニア勢力であるがその活躍はブリタニア全土に知れ渡る。

 クロヴィス殿下暗殺未遂に優れた将で知られているコーネリア皇女殿下と何度も渡り合い、エリアそのものを奪いかけた。

 この活躍はブリタニアにとっては悪夢であり、ブリタニアを好まない組織・国家にとっては希望の光。―――否、反抗の灯となった。

 エリア11から飛び火した種火は各地・各国で燃え上がり、ブリタニアの悪夢はまだ続いている。

 

 が、黒の騎士団は敗北した。

 総帥であったゼロは処刑。

 藤堂 鏡志郎を始めとする黒の騎士団のほとんどの幹部級は捕まり、専用の留置所に収容されている。

 反ブリタニア勢力を支援していたキョウト六家は皇家を除いて逮捕・処刑された。

 

 逃げ延びている主なメンバーは少数。

 もはや死に体である。

 にも関わらずに先日エリア11でバベルタワーにて行動を起こした。

 数機のナイトメアフレームを飛行船より降下。軍事施設でも何でもないバベルタワーを占拠した。

 

 これに対して東京疎開駐留軍司令は近場の戦力を集めて黒の騎士団残党掃討作戦を展開。

 総督の命令により見せしめも兼ねてこの戦いは全国放送された。

 

 結果はブリタニア軍の敗北…。

 最初は有利に事を進めていたのだが、途中よりブリタニア軍のナイトメアが奪われ始め、気付けば形勢不利。

 途中から政庁入りしたエリア11の総督を務めるカラレス総督と、客将であるダールトン将軍の指揮によりバベルタワーは完全に包囲。援軍も駆け付けて黒の指揮団の数十倍もの戦力を集結させた。

 

 圧倒的戦力差により敗北するしかなかった筈の黒の騎士団は、バベルタワーの中腹を爆破・倒壊。正面を固めていた主力部隊と突入していた部隊を壊滅させ、さらに倒れたバベルタワーを道にして中華連邦総領事に逃げ込み、現在も尚立て籠もっている。

 

 テレビから流れるゼロの宣言を目にするルルーシュは思考を働かせ、事態の整理に勤しんでいる。

 第一次東京事変でスザクに捕まり、皇帝に引き渡され奴のギアスにより記憶を改竄され、今日までナナリーを忘れたまま生かされてきた。C.C.を誘き寄せる為の餌として…。

 

 あれからの世間のニュースを思い返して枢木 スザクがブラックリベリオンの後に皇帝最強の十二騎士であるナイト・オブ・ラウンズ入りしている事から確実に俺を捕えた功績で出世したのだろう。

 …友達の俺を売って……。

 

 現在黒の騎士団の状況は悪いが最悪ではない。

 手元――つまり中華連邦総領事には卜部とカレン、C.C.を始めとした部隊が立て籠もっている。歩兵戦力を除けば月下一機、無頼が七機程度。そして紅蓮弐式と正面切っての大規模な作戦は難しくても、自身の奇策と合した奇襲作戦なら何ら問題ない戦力。

 ただ紅蓮弐式の右腕の輻射波動機構がブラックリベリオンで破損した状態で、今は輻射波動機構のプロトタイプである甲壱式型腕をとりあえず取り付けている状態で万全とはいかない。

 総領事を管理している大宦官の一人はギアスで支配下に置いたので当分はあそこを拠点に出来る。中華連邦本国では大変な騒ぎにはなっているだろうがな。

 

 ディートハルトにラクシャータ、神楽耶にライ、そして咲世子達が中華連邦に逃げ込んで無事。

 捕虜にされた藤堂達は留置所に入れられているが、ブラックリベリオンから今日まで処刑が執行されたことは無く、捕まった連中を助け出す事さえ出来れば問題はない。

 

 「ちょっといい兄さん。兄さん?」

 「ん?あぁ…ロロか。すまない考え事をしていた。で、何かあったのか?」

 「連絡が来ましたけどどうします?後でかけ直しますか」

 「連絡してきたとなれば例の件か。それとも向こうから接触があったか。兎も角、指令室に向おう」

 

 考え事をしていると俺の部屋に入って来たロロ・ランペルージ。

 義兄弟は大勢いるがナナリーと同年代の弟となると奴はいなかった。

 偽りの記憶と共に監視の為に送り込まれた偽りの弟…。

 

 ナナリーが居るべき場所を奪った存在。

 今すぐにでも排除したいところではあるが、難しい上に排せず利用した方が得策だ。

 シャーリーの買い物に付き合って尾行を撒いて、監視をしていた大本が学園地下の循環システム管理施設だというのはカメラの映像転送先を探ればすぐに分かり、人手が出払った隙に色々と情報を漁り、待ち伏せの為に待機した。

 

 尾行していた一人に誤情報をギアスで与えたので監視していた連中は現場で右往左往しているだろう。

 だから帰って来た一人でも自分の支配下に置けれれば成功の筈だった。一番に帰って来たのがロロで、背後を取ったはずなのだが気付けば逆に背後を取られていた。

 バベルタワーでも見た瞬間移動。物理現象を無視した動きにギアスではないかと予想していたがまさかその通りだとは――。

 

 どう言い包めようかと考えていたがそれらは無駄に終わった。

 ロロが向けていた銃口を下げたのだ。

 今までギアス饗団なるギアス研究機関の手先となって暗殺などに携わり、家族の愛などを知らずに過ごしており、偽りであるが家族として暮らす今の生活を失いたくないのだと。

 調べた情報の中にはそれを関連付けるデータが残っており、ロロの生活を考えると嘘ではないのだろう。

 それから自らギアスの能力に弱点、持っている情報をほとんどを話してくれた。

 何かを隠しているらしいがそれは追々話させるとしよう。

 

 ロロを連れて図書室にある隠し扉を通り、ロロ達が所属している皇帝直属の機密情報局が使っている学園地下の循環システムの指令室に向かう。

 そこには俺を監視する為に選び抜かれた兵士達がモニターを見つめながら作業を続けている。

 監視対象である俺を一瞥するだけで仕事に戻る。

 

 ここに居る者は約二名を除いてギアスにより俺の支配下に置いてある。

 ギアスを使用していない一人はロロ。もう一人は……。

 

 「ん~?僕にギアスを使うの?無駄だと思うけどなぁ」

 「勝手に思考を読むな。また暴走したいのか?」

 「アハハ、それは困るなぁ」

 

 ジロリと睨みつけるがもう一人の人物はニヘラニヘラと笑うだけだった。

 以前ナリタ連山で俺にC.C.を渡すように迫って来たギアスユーザー、マオ。

 思考を読むことが出来るという能力を持っており、特に思考能力の高い俺にとっては相性は最悪の相手である。

 

 「兄さん…邪魔ならボクが殺しますが」

 「思考を読まなくても本気だってことは僕でも分かるよそれは。まぁまぁ、目的は違えども僕らは仲間なんだから仲良くやろうよ」

 「信用できません」

 「そうでもないさ。マオの思考回路…いや、行動原理は読み易いからな」

 「兄さんがそういうのなら」

 「出たよブラコン。あーヤダヤダ。ルルーシュの事になるとフィルターに掛っちゃって」

 「特定の人物に依存しているストーカー紛いの人に言われたくありません」

 

 変な言い争いを始めた二人を他所にルルーシュは一応ゼロの衣装に着替え、大型モニター前の椅子に腰かけてキーボードを操作する。

 モニターの映像が切り替わり中華連邦総領事と繋がる。

 使っている回線はディートハルトが以前用意していたもので発見・盗聴はされ難いだろう。

 画面に映し出されたのは総領事で黒の騎士団の幹部が使用している部屋で、モニター中央には卜部の姿があった。

 

 『ゼロか』

 「私に用があったと聞いたが?」

 『あぁ、その事なんだが…ん?後ろの二人は?』

 「気にするな。私の協力者だ」

 『ほぅ…さすが手が早い。早速だが本題に入らせてもらう。つい先ほどピースマークを支援しているウィザードという男から通信があった』

 「ピースマーク?」

 『知らないのか?反ブリタニア組織を支援している連中なのだが…そうだな。ブラックリベリオン以前は黒の騎士団とは関りがなかったからなぁ』

 「今はあるのか?」

 『いろんな所を転々としていたからな。一時的な仮拠点に資金、バベルタワー襲撃の準備も手伝って貰った。簡単に言えばキョウトの世界版とでも思っていてくれ』

 「それで?そのウィザードと言う男は何と?」

 『ゼロは反ブリタニア勢力にとって希望の光。今回の件もあって今まで以上に支援をしてくれることが決まった――とさ。スペインでは反ブリタニア勢力がブリタニア側に飲み込まれた事もあって焦っているのもあるんだろう』

 

 スペイン――ブリタニアの24番目の植民地。

 そう言えば数日前にロロとマドリードの星という反ブリタニア勢力が敗北し、新しい法案に参加することを表明したというニュースを見たような気がする。あとでチェックしておくか。

 

 『それでこちらから何か要望はあるかと聞かれたがとりあえず保留にしておいた』

 「ふむ、そうだな…オデュッセウスの情報をかき集めて欲しい」

 『オデュッセウスと言うと第一皇子か?』

 「奴のここ数年の行動を知りたい」

 『分かった。伝えておく―――ゼロ。中佐の事なんだが…』

 「勿論分かっている。策を練り次第救出する。彼は――いや、彼らは必ず救い出さねばならない。必ずだ!」

 『―――ッ!!本当に頼む…』

 「すまないがC.C.を呼んでもらえるか?少し二人っきりで話がしたい」

 『了解した。すぐに呼んでくる』

 

 モニターの前から姿を消した卜部から視線をマオに向ける。

 【C.C.】という単語を聞いてそわそわしていたのだろうな。振り返ると目を輝かせて、犬だったらブンブン尻尾を振り出す勢いで見つめていた。

 完全にえさの前で待てをくらった犬だな。

 

 「C.C.と話すか?」

 「良いの!?」

 

 軽く笑みを浮かべながら言った一言に目だけでなく顔を輝かして駆け出してくる。

 席を立って後退すると呆れたような笑みをロロが浮かべていた。

 

 「良いの兄さん」

 「働きにはそれ相応の報酬が必要だ。奴にはこれが飴となる」

 

 機密情報局員を全員支配下に置けたのはマオのおかげだ。

 こいつが前に俺に接触を図った時も現在俺に協力しているのもすべてC.C.の為だった。

 前回はC.C.との二人っきりの生活を取り戻そうとしていたが、今回は護らんとしているのだから。

 俺はマオに呼び出されてモノレールでナリタ連山を上がった先で狙撃され、離れたのでその後どうなったか知らなかったのだが、どうやらギアス饗団に捕まっていたらしい。そこで暴走したギアスを通常時まで戻すギアスをかけられ、多少の訓練を受けてここに居るのだが、どうやら皇帝達はC.C.を使い何かを仕出かすらしい。詳しくは理解していないのか話さなかったが、C.C.大好きっこのマオは利用させない為に協力を申し込んで―――いや、違うな。強要したんだ。ゼロの正体をばらされたくなかったら手伝えと。

 

 「C.C.!!あ~、会いたかったよC.C.!!」

 『マオか。ルルーシュの言う事をよく聞いていたか?』

 「勿論だよ!なにせC.C.の為なら僕はなんでもするんだから。ルルーシュの言うことだってちゃんと聞いてるよ」

 『良い子だ。マオ』

 

 満面の笑みを浮かべるマオに対してルルーシュは冷めた視線を向ける。

 能力的に諜報や索敵ではかなりの有用性のある男ではあるが、如何せん性格に難がある。

 いや、性格は単純で扱いやすいが、相手の思考を読むことでそのこと自体が露見してしまう。

 

 有能なのに面倒な相手である。

 それにしてもどうしてC.C.に病的なほど固執しているのか。

 

 (すぐに部屋を食べ散らかした食べ残りや脱ぎっぱなしの衣類なんかでいっぱいにするし…)

 「ちょっとルルぅ~。C.C.の事を悪く思うの止めてくれない」

 (あと、無防備に俺のカッターシャツ一枚だけでうろついていたりするし)

 「だから僕にC.C.の―――――って、最後のところ詳しく!!」

 (何の事かな?)

 「分かって言っているだろう!?後生だからどんな風だったか思い出すだけで良いからさ!!」

 『オイ。お前たち何を言っているのか知らんがそれ以上は止めろよ』

 

 C.C.のジト目を受けて肩を震わせて誤解だよと焦りながら弁解するマオを眺めながらルルーシュはため息をついて、ある人物を思い出す。

 特区日本での母上の死の真相を知っていると言った兄上。

 オデュッセウス・ウ・ブリタニアの事を。

 

 今、俺が欲しているものはすべて兄上が握っている。

 捕まった黒の騎士団の処刑云々の決定権。

 母、マリアンヌの死の真相。

 そしてナナリーの行方もだろう。

 

 あの兄上の事だ。

 ナナリーの居場所を少なからず知っている筈だ。

 もしかすると兄上の元に居る可能性だってある。

 なんにせよ会わねばならない。

 それがどのような形であろうともだ…。

 

 例え銃口を向ける結末になったとしても……。

 

 

 

 

 

 

 カラレス総督は大型モニターの前で片膝を付いて頭を下げていた。

 斜め後ろには客将であるアンドレアス・ダールトン将軍が居り、カラレス同様に片膝を付いて頭を下げた状態で大型モニターが本国と繋がるのを待っていた。

 

 堂々としたダールトンの表情と違ってカラレスの表情には焦りや緊張の色が強く見受けられる。

 それもそのはず。カラレスは総督として大失態を犯したばかりなのだから。

 

 黒の騎士団残党が起こしたバベルタワーの事件。

 あれは皇帝直属の機密情報局が作戦を行うためにトウキョウ租界へと招き入れた事で起きたものだ。

 カラレスは総督という高い地位についているが皇帝直属の機密情報局からすれば無視できるレベルの存在でしかない。実際カラレスは秘密裏の作戦の為に黒の騎士団残党を招くとは聞かされたが、詳しい内容は一切知らされていない。

 

 だから今回の事件の失態の責任を負うべきは機密情報局の連中だと声を大にして叫びたい。

 叫びたいが皇帝陛下の極秘作戦を如何に皇族の方々にも漏らす訳には行かない。それに作戦実行をしていた当の本人たちは戦死したという報告が入っている。後方支援の者らも居るらしいがその者らとは接触すらできない。

 

 公に出来ない実情を鑑みて世間ではカラレス総督はテロを未然に防げなかったどころか、大軍を指揮してもテロ鎮圧を行えなかった無能と民衆に捉えられている。

 

 こんな失態を隠蔽できる筈もなく、確実に罰せられるのは決定している。

 今日は本国のオデュッセウス殿下より通信が来るという事で時間前からここで待機している。

 

 真っ暗なモニターに明かりが灯り、椅子に座っているオデュッセウスが映し出される。

 先ほどより深々と頭を下げる。

 

 『やぁ、カラレス総督。ダールトン将軍。息災そうで何より』

 

 優し気な声色で投げかけられた言葉に言葉が詰まって返事が出来ない。

 

 …“息災で良かった”?

 

 社交辞令などの一言でも皇族の方が大失態を犯した人物に投げかける言葉ではない。

 

 『どうしたんだい顔色が悪いようだけど』

 「―――ッいえ、なんでもありません」

 『そうかい?なら良いんだが』

 

 いつも通りの優しさを含んだ言葉が嫌に重くのしかかる。

 ごくりと生唾を飲み込みながら何を言い渡されるかを待ちながら、ドッと冷や汗が流れ出る。

 

 『今回の件は大変だったね』

 「ま、誠に申し訳ありまs――」

 『いや、君が気にすることではないよ。租界に連れ込んだのは機密情報局だしね』

 「――ッ!?ご存じであられましたか」

 『まぁね、ただその後の対応は本国でも大きな問題になっているよ。さすがにかなりの人員を失ってしまったからね』

 

 それはそうだろうと大きく納得してしまう。

 アレだけの人員的にも戦力的にも兵力を消耗したのだ。問題にならない訳がない。

 焦りや不安でいっぱいいっぱいのカラレスを他所にオデュッセウスの話は続く。

 

 『おおっとそうだ、忘れるところだったよ。ダールトン将軍』

 「ハッ、何でございましょうか?」

 『君のナイトメアは確か指揮官用のグロースターのままだったね』

 「はい、その通りでございます」

 『グロースターの最終型があるんだが、乗ってみないかい?』

 「宜しいので?」

 『構わないさ。それに妹の将軍たる君が何時までも旧式化しつつあるグロースターでは不味いだろう。最終型が嫌だったらヴィンセントを用意しようか?』

 「いえ、最終型を頂きたく」

 『ヴィンセントよりもかい?』

 「はい。姫様が聞いたら羨ましがるでしょうな。殿下が指示し、作らせた最終型に興味を引かれておりましたから」

 『そうか、そうか。贈るのは少し時間が掛かるよ。ゲフィオンディスターバ対策を施しておかないとね』

 

 ダールトン将軍が羨ましく感じる。

 現在のエリア11からすれば客将の身で、全体の指揮を執っていたならばいざ知らず、今回のように補佐に回っていた彼は責任を負う立場にない。

 もし責任があったとしても、未だ行方不明となっているとは言えコーネリア皇女殿下専属の将軍。何かしら裁くとしても力のある皇族の方でないと無理だ。

 羨んでも仕方がないか。これは責任ある立場に立った者の責務なのだから。

 されど今回の件で自分がどのような事になるのか不安はなくなることは無い。

 

 「これからどうなるのでしょうか…」

 『それは君の進退の話かな?にほn――コホン。エリア11の事かな?』

 「……それは…」

 『気になるところではあるよね。君の進退だけど総督の任が解かれて本国に帰還することが決まったよ』

 「強制送還ですか…」

 『今回の件の発端は機密情報局にある事は知っているから父上に掛け合って君の処分はお手柔らかに頼んでみたけれど、総督から最前線での勤務が決定しそうだよ。すまないね』

 「いえ、このような大失態を犯しておきながら機会を与えて下さったことに感謝いたします」

 『それとエリア11には近々新総督が着任する予定になったから引き継ぎの準備をしておいてくれ』

 「つまりそれまでは私が総督で宜しいのでしょうか?」

 『ん?……そういう事になるねぇ』

 

 ならばと食いつく。

 機会を与えられたとしても多分だが現場の奴らからは蔑まれ、機会を殺されるか使い捨ての駒として利用される。だったら力のある今のうちに汚名を雪がねば!

 

 「殿下にお願いしたき事があります」

 『なんだい言ってごらんよ』

 「殿下が管理している黒の騎士団員―――その公開処刑の御許可を」

 

 公開処刑をしようものなら必ずゼロは姿を現す。

 どんな奇策を用いようとも今度はこちらが指定したフィールド。人員の配置も出来、伏兵を配置し、時間は私の味方となる。

 現れればゼロを討ち取れる。

 もし現れなければゼロは仲間を見捨てた者として信頼を失い、優秀な団員を失う事となる。

 

 どちらにしてもこんなに美味しい話はない。

 本当ならもっと早く処刑してやりたいところだったがオデュッセウス殿下より黒の騎士団員の処遇決定権を持っている姫騎士と呼ばれる得体も素性も知れぬ者が断固として拒否してきたからだ。

 殿下から許可さえいただければ姫騎士も何も言えず、受け入れざるを得ないだろう。

 

 『…………そうか。こういう流れになるのか……』

 「は?今何か仰られましたか?」

 『いや、なんでもないさ。分かった。私の管理している黒の騎士団員の公開処刑を許可する』

 「ありがとうございます!」

 『ただし、処刑場への移動や刑場での管理は姫騎士に一任する。良いね?』

 「はい」

 

 大きく頷き頭を下げたカラレスはニヤリと微笑む。

 自分が思い描く未来に希望を膨らまし、オデュッセウスの思惑に気付かぬまま…。

 

 

 

 

 

 ロロは一人悩む。

 自分は何をしているんだろうと自己嫌悪に似た感情に苛まれ、大きなため息を一つ吐き出した。

 

 ギアス饗団からルルーシュ・ランペルージの弟役として監視するように命じられてすぐにオデュッセウス殿下より連絡があり、ルルーシュが弟君であることが告げられ、彼が記憶を取り戻した際には手助けをしてやって欲しいと頼まれた。

 殺伐とした暗殺生活から人間らしい生活を与えてくれた殿下には多大な恩を頂いた。騎士としての仕事は色々大変であったが今としては楽しい思い出だ。

 

 だから当然のように受け入れた。

 命令でなく頼まれ事をこなす事を。

 

 ロロ・ランペルージとして監視をしている内に今の暮らしにボクは浸食されていった。

 妹であるナナリーの居場所を奪い、偽りの弟としての生活が優しく、温かく、心地よ過ぎた。

 日に日にルルーシュの存在がボクの中で大きくなっていく。

 

 今や兄さん――ルルーシュの為に動いているのかオデュッセウス殿下の為に動いているのか分からなくなっている。

 本当の事を言えない事が辛く、苦しい。が、喋ってしまう訳にはいかないのだ。殿下の為にも…。

 

 マオはその辺どうでも良さそうで羨ましい。

 オデュッセウス殿下のギアスで暴走前に戻し、C.C.のこれからどうなるかを話して殿下は味方に取り込んだので、奴は殿下に忠誠心も無ければ思い入れもない。あるのはC.C.への執着心のみ。

 だから最悪ボクや殿下がどうなろうと気にも留めないだろう。

 

 もう一度、大きなため息を吐き出す。

 

 多分だけどアレだけ想ってくれていたのだ。

 記憶を取り戻した兄さんにとってボクは邪魔ものでしかないだろう。

 

 今まで偽りの弟として騙し続けていたのだから、いつかは罰を受ける事になる。

 しかし殿下の為にも死ぬわけにはいかない。が、それだけの事をやってしまったのは理解している。

 

 ボクはどうすれば良いのですか殿下…。

 

 悩めるロロはただただ悩み続けるのであった。


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