コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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原作 R2
第83話 「魔神が目覚める日…オデュッセウスは普通に仕事をしてました」


 エリア24。

 神聖ブリタニア帝国により植民地にされた旧スペインに付けられたナンバー。

 そのエリア24にも反ブリタニア組織は存在する。

 【マドリードの星】と名乗る反ブリタニア組織はマドリード疎開外周に存在する強制収容居住地区ベンタスゲットーを活動拠点にし、強制的に収容された為に反ブリタニア思想が強い旧スペイン人の支持を受けてかなりの規模となっている。

 

 租界に暮らすブリタニア人にとっては危険区域に設定されているベンタスゲットーと租界の境に数台のトレーラーが止まっていた。

 中には狭い空間で画面に浮かび上がっている数字をただただ見つめていた。暗闇の中で画面の光がぼうっと辺りを照らして、乗っている女性の顔をうっすらと浮かび上がらせる。その表情には緊張も焦りも無ければ嬉々とした感情もなかった。

 まるで機械のようにただ見つめていた。

 静かに見つめていた。

 ただ待ち、ただ眺め、ただ自然体であり続けた。

 

 映し出されていた数字がゼロになって画面の数字は消えた。

 

 『時刻よ。オズ』

 「えぇ、作戦開始ねマリー」

 

 トレーラーの荷台が開かれて中身が露わになった。

 中から現れたのは真紅のナイトメア。

 ランスロットをベースにオルドリン用に改修されたナイトメアフレーム【ランスロット・グレイル】。

 

 ランスロット・グレイルは背のマントをはためかせながら立ち上がった。

 コクピットで待ち続けたオルドリンはトレーラーの壁から外の景色に変わったことで眺め、笑みを浮かべながら操縦桿を握り直す。

 

 『オペレーション・アンタレスを開始!大グリンダ騎士団出撃!!』

 「イエス・ユア・ハイネス!!行くわよトト」

 『はい、お嬢様!』

 

 ランスロット・グレイルが待機していたトレーラーの近くに止まっていたもう一台よりグリンダ騎士団仕様にカスタムされた赤いヴィンセント――ヴィンセント・グリンダが飛び出し、グレイルと共にゲットー内へと突入する。

 

 ゲットー内は突如ナイトメアフレームが侵入してきたことで騒然とする。

 民間人に被害を出さないように気を付けながら立体機動で突き進むオルドリンはソキアより送られてくる情報に目を通していく。

 

 オペレーション・アンタレスはエリア24総督のマリーベル・メル・ブリタニア皇女殿下指揮の元で行われる反ブリタニア勢力一掃作戦である。

 すでにマドリードの星がベンタスゲットーのラスベンタス闘牛場を拠点にしている事は、前々からの調査で判明しているので少数精鋭部隊を突入後、ゲットー周辺をエリア24駐留軍で包囲・検問を敷く。

 ゲットー内は建物が入り乱れ、人も多い。多勢で突入しても隙を生み出し、無駄な死人を出すだけだ。なので少数精鋭部隊の突入隊が組まれた。

 オルドリンを含めた突入部隊は三チーム。それぞれが別方向から突入したことで大慌てで対応しようとするマドリードの星はナイトメア隊を出撃させる。その位置や情報は上空を飛行しているレオンハルトのブラッドフォードとマリーカのヴィンセント・エインヘリヤルによって集められ、ソキアのサザーランド・アイが情報を統括して突入部隊に送信している。

 ちなみにティンクのゼットランドは火力が高すぎて周りを巻き込んでしまう為にゲットー外でサザーランド・アイの護衛をしている。

 

 『オズ!正面からサザーランド…サザーランド?』

 「どうしたのソキア?」

 『えーと、サザーランドタイプのナイトメア三機確認。もうすぐ接敵するよ』

 「分かったわ!!」

 

 通信に合ったように正面より三機のナイトメアが現れる。

 闘牛士を模すかのように頭部がマタドールハットのように左右に広がり、左肩には二の腕辺りを隠すように赤いマントが取り付けられたナイトメア。

 サザーランドをマドリードの星仕様に改修した【エストレイヤ】と呼ばれる黒色と白色を基準とした機体である。

 

 「トト!」

 『援護射撃開始します』

 

 ヴィンセント・グリンダの牽制射撃によって足を止めたエストレイヤにグレイルは剣を鞘より解き放って迫る。

 反応が遅れてアサルトライフルによる射撃を開始するが時すでに遅し。先頭の一機は両足を切り払い、次は左腕から頭部を斬り飛ばし、三機目には身体を捻りつつ胴体を切断した。

 

 流れるように剣を振るったグレイルは止めをエストレイヤが行動不能になったことを確認すると先に進んで行く。

 突入部隊の任務は敵勢ナイトメアの排除。敵ナイトメアやテロリストの捕縛は後続の部隊が行う事になっている。

 

 「次の敵は何処?」

 『ちょっと待って。オズは3ブロック進んだ先で民間人を誘導している部隊が――』

 「誘導しているのならマークして後回し。他には?」

 『だったら2ブロック先を左に曲がった先にナイトメアが出入りしている建物がある』

 「ならそっちに向かうわ」

 

 ルートに沿って進むが曲がり角近くに迫っても速度は落とさない。

 曲がり角にある建物にスラッシュハーケンを撃ち込み、ハーケンを軸に急旋回を行う。トトもオルドリンと同じ方法で旋回を行うが速度が出過ぎていた。気付いたトトは急ブレーキをかけずにもう一方のハーケンを別の建物に撃ち込んで向きを矯正して、曲がった先の建物すれすれで曲がり切った。

 

 「トトも上手くなったわね」

 『まだお嬢様ほどにはいきませんが』

 「私だって殿下程上手くいってないわよ」

 

 オルドリンとトトが行った旋回方法はオデュッセウスより習った技術である。最初は意味があるのか疑っていたが速度を落とさずに曲がれることで機動力の向上に繋がって今では当たり前のように使用している。

 これを行えるのは対テロリスト遊撃機甲軍団大グリンダ騎士団の中ではオルドリンにトト、ソキアの三名のみ。重装備のゼットランドを扱うティンクとレオンハートのブラッドフォードは飛行がメインで使う場面が少ないので会得するまではいかなかった。マリーカも飛行型のナイトメアだが会得しようと練習中である。

 

 「敵機確認!建物は任せるわよ」

 『正面入り口を塞ぎます』

 

 今度はオルドリン達より先にエストレイヤが動いた。

 四機のアサルトライフルがグレイルを狙って火を噴くが、建物を盾にすることなく左右に駆け回るだけで全弾回避しきった。

 『自分に出来ぬ事がナイトメアフレームで出来ると思うな』

 かつてオルドリンにシュバルツァー将軍が言った言葉だ。この言葉の通りなら自分に出来る事であればナイトメアで行う事は可能と言う事になる。

 

 腕利きならまだしもそこいらのパイロットの銃弾にオルドリンは当たる筈がなかった。

 なにせ漫画のあるシーンではグロースターの銃撃を避け切り、ひと跳びでアサルトライフル、さらに跳んでグロースターを跳び越えるという驚異的な運動能力を有しているのだから。

 

 懐まで入り込むと三機を切り伏せる。

 残るは一機のみ。

 

 「まったく数は揃えているんだから」

 『確か一個師団程いるんでしたよね?』

 「なんでもブリタニアのリスボン攻略時にポルトガル方面軍の輸送部隊を買収して、サザーランド一個師団を入手・改良しているってブリーフィングで言ってたっけ」

 『オズ!そっちに増援が向かってる!!』

 「――ッ!?もう少し早く聞きたかった!!」

 

 ソキアの通信を聞いた瞬間、高所より銃撃された。

 慌てての回避だったが弾丸はグレイルを掠めることは無かった。

 現れたのは新たに四機。ハーケンを使ってビルより降りて、仲間を庇う形で展開する。

 

 『下がってアントニオ!』

 『バレンシアか!?こいつ普通じゃないぞ!』

 『見たから分かってる。もうすぐペレンゲルの部隊が到着するからそれまで持ちこたえれば――』

 『―――そいつは無理だな』

 

 マドリードの星の小隊長同士が会話をしている最中、会話に割り込んだ男の声。

 楽しそうに弾んだ声にマドリードの部隊は驚き、オルドリンは苦笑いを浮かべる。

 

 「まったく貴方は私たちとは真逆を担当していなかった――アシュレイ」

 『あぁ?向こうのは粗方片付いたんだよ!』

 

 現れたのはダークレッドのナイトメアフレーム。

 オデュッセウス指揮下にあり、現在は対テロリスト遊撃機甲軍団大グリンダ騎士団に派遣されている少数精鋭のナイトメア部隊【アシュラ隊】隊長のアシュレイ・アシュラ専用ナイトメアフレーム【アレクサンダ・レッドオーガ】。

 

 四機の中心へと飛び降りたレッドオーガは双剣を振るい、あっという間にエストレイヤをスクラップへと変えてしまった。

 ただ一機を残して…。

 

 『よくもバレンシアを!!』

 「アシュレイ!?」

 『問題ねぇよ。なぁ、ヨハネ』

 

 背後よりアサルトライフルの銃口を向けていたエストレイヤを、ビルの合間より跳び出したグロースター・ソードマンが突き出されていた両腕を斬り飛ばした。

 

 『ったく、遅いぞお前ら』

 『先行し過ぎですよアシュレイ様』

 

  アシュラ隊所属のヨハネ・ファビウスは心の底から心配そうな声を挙げるが、アシュレイはいつも通りに軽く笑って返すだけ。部下を慕い、部下に慕われる関係性は良いと思うが、慕っているからこそヨハネを含むアシュラ隊の面々はアシュレイの暴走気味の戦いに心配を覚えるのだろう。

 大変そうではあるがオデュッセウス殿下の親衛隊ほどでは無いと断言はするが。

 後からルネ・ロラン機とクザン・モントバン機のグロースター・ソードマンが合流する。

 これで突入部隊三部隊の内、二部隊が合流したことになる。残る一部隊はヤン・マーキス、シモン・メリクール、アラン・ネッケル、フランツ・ヴァッロの部隊。

 

 今思うと大グリンダ騎士団主導の作戦の筈なのに突入部隊はオルドリンとトトを除けばアシュラ隊メンバーで固めているんですよね…。

 

 『こちらフランツ。アシュレイ様、ラスベンタス闘牛場に集まっていたマドリードの星を制圧しました』

 『おし!よくやった』

 「敵の本拠が落ちたのなら…ソキア!」

 『ちょっと待って。うん、敵勢ナイトメア認められず、後衛の部隊が制圧区域拡大中で――あ!今ゲットー内を制圧完了!オペレーション・アンタレスは完了です』

 「そう…マリーは?」

 『敵指揮官と話をするとの事で闘牛場にレオンとマリーカを連れて向かったよ』

 「了解、私もすぐに向かう。アシュレイ後お願い」

 『おうよ。さっさとお姫さんのもとに行けよ』

 

 マリーが到着するよりも先に向かおうとグレイルの速度を上げて行く。

 見えた四階建ての円形闘技場の中央には武装していたであろうマドリードの星の隊員に、武器を持たずに怯えた視線を向ける避難していたナンバーズ…。

 周囲は真紅に彩られたサザーランドやグロースターが囲んで胴体下部に取り付けられた機銃が向けられている。

 武器を持たぬ者に銃口を向けている行為に嫌悪感を覚えるが今はマリーの元に駆け付けるのが先決だ。

 

 グレイルの起動キーを抜き、コクピットから出る。

 降り立ったところで皇族専用機の小型機がブラッドフォードとヴィンセント・エインヘリヤルの護衛をされながら着陸し、マリーベルが小型機より姿を現した。

 視線が合うと何も言わずに近づいていつでも守れるように周囲に気を配る。

 こちらに畏怖の念を向けている者は放置。気にすべきは殺意を向けてくる連中。

 コクピットより持ち出した剣を握る手に力がこもる。

 

 「マドリードの星のリーダーは何方かしら?」

 「俺だ」

 

 マリーベルが優し気に呼びかけると一人の青年が返事をして立ち上がる。

 兵士が銃口を向けて警戒する中、無抵抗をしめすように両手を挙げて堂々と立ち上がった青年はゆっくりと集団の先頭へと歩み寄る。

 

 「そこで止まれ!」

 

 剣の柄を握り締めながら強く命令する。

 マリーの安全を確保するため、それ以上近づけてはならない。なのだがマリーは彼ではなく私に制止するように手を前に出した。

 一歩、二歩と前に出る様子にオルドリンを含めた騎士達のみならず、この場に居る全員が目を見開いて驚きを露わにした。

 

 「へぇ…意外と大胆なんだな。それとも俺達がもはや何も出来ないと舐めているのか?」

 「舐めている訳ではありません。話をしようと思ったら遠かったもので」

 「っはは、話か…命令でなくてか」

 「はい、話です。これはあなた方の今後が決まる話です」

 

 軽い笑みを浮かべた青年は自分たちの今後と言う言葉に怪訝な表情を浮かべる。

 今後も何も保持しているナイトメアを大破・鹵獲されて失い、仲間は全員捕縛されて後は牢屋に入れられるか、処刑されるのみである。これらに話し合いで決めるような要素は存在しない。

 見返したところでマリーベルの笑みが崩れることは無かった。

 

 「現在ブリタニア――いえ、オデュッセウスお兄様がある法案を試験運用しています。エリア緩和法案というのをご存じで?」

 「知らないな。それが俺達の今後に関係すると」

 「これは簡単に言うと名誉ブリタニア人にはなりたくないというナンバーズに対する環境改善を行う法案です」

 「環境改善?」

 「居住区や商業区を設定し、ゲットーの一部をナンバーズの街にするといった計画です」

 

 オデュッセウス殿下よりマリーと一緒に聞いていたオルドリンは頬を緩める。

 なにせブリタニア皇族が小さな街だけとは言えナンバーズを認めるというのだ。構想はエリア11で行われようとした行政特区日本を元にした計画である。暮らしのみならず各エリア文化を残し、

 街の運営は住民代表、商業系の代表、警備部隊長の三名で話し合い、その結果をエリアの総督に提出。最終決定権は総督にあるものの自らが提案する立場に立てる。

 オデュッセウス殿下はナンバーズを虐げ搾取するだけの者とするのではなく、相手との関係改善を図って、平和的にブリタニアへと取り込むつもりなのだろう。

 人死にが少なく、一般人を巻き込むことなく平和の道を歩めるというのなら大賛成である。優しいマリーもそんな殿下の考えに賛同して………いえ、オデュッセウス殿下の頼みだったら聞いていたような気がする…。

 

 説明を受けた青年はまだ信じられない表情を浮かべているが内容は理解したようだ。

 

 「それで俺達にどうしろと?」

 「あなた方には街の警備部隊を任せたいと思っています」

 「馬鹿な!俺達にブリタニアの走狗になれと言うのか!?」

 「私も!――私も不満はあります。私は幼い頃にテロリストによって妹と母を失いました。だから私はあなた達のようなテロリストは嫌いです。許すことの出来ない存在です。今も命じられるなら騎士達に命じて排除したいぐらいです。

  ですが憎しみは憎しみを呼ぶだけ…。お兄様は共存の為に動いています。私が憎しみに囚われて行動する訳にもいきません。

  輸送部隊を買収し、入手した一個師団ものナイトメアを改良する。それだけの事を成すだけの資金を工面し、今日まで戦い続けて来たあなた方の能力を認めています。

  遺恨の念を無くしてとは申しません。ですが平穏な明日を迎える為にお互いの手を取り合いませんか?

  お互い護るべき者達の為にも」

 

 青年はしっかりとマリーの瞳を見つめる。

 ブリタニアに対する憎しみ、恨み、辛み、屈辱など多くの感情が心の中で渦巻いている。だけどマリーベルの言葉に…平穏な明日という多くの者が渇望している未来があるのならと心が揺れ動く。

 見定めようとする青年の瞳から目を逸らすことなくマリーはしっかりと見返す。

 

 青年は大きなため息を漏らしながら頭をぼりぼりと掻いた。

 

 「分かった。その申し出受ける事にする」

 「それは良かった」

 「ただし条件がある」

 「条件?」

 「俺の妹も含めてだが仲間達を無下に扱わないと約束してくれ」

 「もちろんです。エリア24総督マリーベル・メル・ブリタニアの名に懸けて約束は守りましょう」

 「俺はフェルナンド・ノリエガ。宜しく頼む…いや、頼みます――か」

 

 かたい握手を交わす事こそなかったが二人はとても良い笑みを浮かべていた。

 上手くいった事にオルドリンも微笑む。

 これから世界を揺るがす大事件が起こるとも知らないまま。

 

 

 

 

 

 

 大グリンダ騎士団の活躍によりマドリードの星が敗れた事と、エリア緩和法案によりエリア24のゲットーに住まう多くのナンバーズがブリタニアを受け入れ始めた事でエリア24の残存している反ブリタニア勢力はそのほとんどが活動に支障をきたし、自ら投降して恭順の姿勢を示し始めたその頃、オデュッセウスは帝都ペンドラゴンにある宮殿の一室で書類仕事に追われていた。

 

 書類には最新鋭のナイトメアフレーム情報やエリア向けの新しい法案、騎士団の運営状況など機密事項に触れるものが山積みにされていて、本来ならば軍司令部などで書くのが正しいのだろうが、軍司令部に詰めるにしても第一皇子が来るとなると司令達も放置は出来ず、何やかしら動かねばならなくなる。中にはごますりに来る連中も居てどちらからしても仕事にならないのだ。

 なので自分が居てもおかしくない宮殿内の一室を使用しているのだ。

 当然の事ながら機密性を保持するために窓にはカーテンが閉められ、出入り口を含んだ部屋の周囲は警備隊の者が固めている。

 室内に居るのはオデュッセウスと親衛隊長のレイラ・マルカル大佐、ジュリアス・キングスレイ少佐の三名のみである。

 

 キングスレイの戸籍を父上から頂くとそのまま彼に渡して彼――LV-01はジュリアス・キングスレイとなった。与えたのは戸籍だけでなく、私直属の遊撃騎士団【トロイ騎士団】の騎士団長の役割を与えた。

 トロイ騎士団は優秀な参謀役が居らず、援軍などで呼ばれると向こうの指揮官の命を受けるようになっているが、向こうからすれば第一皇子直属の騎士団を預かるという事で思うような采配を行えないのだ。それで前々から指揮官を務められるような人材が欲しかったのだ。そうすれば向こうの現場指揮官の大まかな命令の下で自由に動くことが可能となる。

 ただジュリアスがルルーシュ並みの指揮能力があるかと言えばないと断言する。クローンと言っても完全なるコピーではない。個性や個体差が必ず生じるのだ。なので現在レイラ指導の下で戦略・戦術の知識を叩きこまれている。

 

 …レイラがここに居るのは教えている反面、私を監視しているのだけれどね。

 

 騎士団で思い出したのだが元々親衛隊を務めていたユリシーズ騎士団だが、今はウェイバー博士の下でユリシーズ天空騎士団となって帝都防衛の任務に就いている。セカンドブリタニア人で構成されたテーレマコス騎士団は機体の一新やらカールレオン級の配備待ちで待機中だ。到着次第キャスタールの下へ援軍として向かう事になっている。

 

 書類に目を通してサインを繰り返しながら本国を離れている弟妹を想い浮かべる。

 

 キャスタールにパラックス、マリーベルは新たなエリアの総督として着任し、職務を全うしようとしている。

 全うしようとするのは良い事なのだろうけどパラックスとマリーベルは血の気が多すぎて少し困っている。

 「反ブリタニア勢力を見つけたから皆殺しにするね」なんて言葉の最後にハートが付きそうな感じで言ってくるんだもの。お兄ちゃん心配だよ。色々とね…。

 

 後々の恨み辛みを少しでも減らそうと思えば今のうちに手を打っておくしかない。

 【エリア緩和法案】もそのうちの一つ。

 簡単に言えばゲットーに無理やり押し込むのではなく、居住エリアの配備などを行い生活環境を向上させるものだ。勿論すべての者を対象には出来ない。資金面や人員的要因もあるがそれ以上に過度な施しはナンバーズを増長させるという帝国貴族の反発が大きかったからだ。

 当面は私が認め、運用しても問題ないと判断した所のみと言う事に。

 責任問題になっても私なら取れるだろみたいな意味もあるんだろうなぁ…。

 

 マリーのエリア24でやってもらったのは頭脳明晰なマリーなら試験的でもかなり高いレベルで実現できると踏んでだ。思った通りに、否、想像以上にマリーはやってくれたよ。

 私が提案したオペレーション・アンタレスはマドリードの星を捕縛・制圧するのが目的ではない。マドリードの星のメンバーを取り込み、エリア緩和法案をやり易くするのとエリア24の反ブリタニア勢力の力をそぎ落とすことが目的。

 作戦は成功してただの星は真紅の星へと染められた。

 

 …ただマリーは私の事を勘違いしているのは悲しいかな。

 平和的に反ブリタニア勢力を無くして、こちらに取り込みたいというのはあっている。あっているのだが街を整備するのは監視カメラなど設置しやすく相手の動きを監視できるとか、管理運営することでどのような対処もし易くするのですね――なんて私は考えてないのだけれど…。

 

 大きなため息を吐き出しながら次の資料を手に取る。

 手にしたのはナイトメア開発関連の報告とグリンダ騎士団が鹵獲した真紅の新型ナイトメアフレームのデータである。

 

 オペレーション・アンタレスを成功させた大グリンダ騎士団は思わぬ戦利品を手に入れた。

 ブリタニアや中華連邦、ユーロピアのどのナイトメアフレームの系統にも属さない新型ナイトメアフレーム【アマネセール】。

 データ収集を行った大グリンダ騎士団の技術部からの報告によると『黒の騎士団の月下との類似点があり』と書かれている。

 

 けど一目見たオデュッセウスは元の機体を看破した。

 

 コードギアスの第二期、R2にて黒の騎士団に配備された主力ナイトメアフレーム【アカツキ】。これをマドリードの星はインド軍区…つまりはラクシャータにカスタマイズして作ってもらったのだ。

 両腕に仕込んだ【ブラッツ・カリエンテ】によって剣【エスパーダ】に力場を持たせてMVSのような使用が可能。胴体には【プルマ・リベールラ】という板状の特殊兵装が何枚か取り付けられており、狭い範囲だがエネルギーシールドを張れるなど新兵装を装備している。

 本来ならば本国のラボに送って詳しいデータ取りをしたいところだが、戦闘でのデータ収集を兼ねてオルドリンが扱うように私が進言したのだ。勿論危険がない事を確かめてだ。

 アマネセールは【双貌のオズO2】で記憶を失っていたオルドリンが搭乗していた機体なのでどうにもそのイメージが強く乗ってみたらと口にしたのだ。マリーはちょうどグレイルを改修に出したいと思っていたらしくこの案を受け入れた。

 

 で、私の手元にはアマネセールのデータとサザーランドをマドリードの星が改修したエストレイヤ…エストレイヤを指揮官用に改修した深緑色のフェルナンド機が送られてきた。

 エストレイヤには関しては性能がサザーランドと同じだったのであまり関心は無かったが、アマネセールのデータは興味があった。試しにロイドに送ってみたら実物をばらしたいと興奮気味に言ってきたよ。

 預けたギャラハットを好き勝手に改造しているというのにね。

 

 すでに月下の改修は終わり、私専用のランスロットも実戦テストを残すところとなった。

 あと私がすべき事は…。

 

 読み終えた書類を端へと置いたところで置いていた電話が鳴り響いた。

 レイラが手に取り相手から用件を聞いていると見る見るうちに顔色が変わった。

 

 「どうかしたのかい?」

 「殿下。エリア11で……ゼロが現れたそうです」

 「そう、ゼロが――――――って、ファ!?」

 

 思わず変な声を挙げてしまったオデュッセウスは頭を抱えた。

 早すぎるよルルーシュ…。

 内心そう呟きながら己の準備への手際の悪さを呪った…。


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