コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
中華連邦での戦闘から一週間が経った。
戦闘自体は一日で終了したが、中華連邦は残敵掃討にまだ掛かっている。それだけ現政権に対する不満を持っている者が多いという事だろう。
オデュッセウス・ウ・ブリタニアは未だ燻ぶり続けている中華連邦を眺めながらため息を吐き出す。
座乗艦であるペーネロペーはシュナイゼルを乗せたグリンダ騎士団のグランベリーと並んで神聖ブリタニア帝国への帰路についていた。
大宦官との会談はシュナイゼルの巧みな話術と知恵、そしてブリタニアの武力を示したグリンダ騎士団とオデュッセウス直属の親衛隊の活躍により終始ブリタニア有利で終えたようだ。―と、いうのもオデュッセウスはこの一週間ペーネロペー内で軟禁状態にあって知らないのだ。
死にかけた事は伏せられたが、勝手に出て行って戦闘に参加したことはバレてゆっくりとした口調での長時間説教。その後、厳戒態勢でのペーネロペー内のみの生活でした…。トイレに行くものなら警備隊所属の隊員が五名付き添い、お風呂に行こうものなら脱衣所に三名、通路に二名待機していた。
自分が悪いのだが観光にも行けなかった。
何とか出て行った事も隠そうかと画策したが大破したアレクサンダ・ブケファラスを前に何が出来ると言うのか…。
私が死にかけたのを知っているのはオルドリンとトト、コーネリアを含んだオルフェウスの部隊、ラウンズのオリヴィアとオイアグロ、そして撃った本人であるV.V.。
もしも私が死にかけた事が公になった場合は、護衛を主とする親衛隊の責任問題に発展してしまう。特に今回の件は命の危険があったので死罪もあり得る。
それだけ皇族の親衛隊や騎士団と言うのは責任の大きい職務なのだ。比例して大変名誉な職務なので名誉や格に拘る貴族や腕に自信がある、忠誠心の高い軍人に大変人気な職でもある。
勝手に抜け出してそれで誰かが死ぬかもしれないなんて精神的に耐えられるものではない。勿論あらゆる手段で阻止して防ぐが部隊外からの視線は酷いものとなるだろう。
ゆえに事実を知っている皆には黙ってもらう事にした。
ただでとは言わない。
まず撃った張本人の伯父上様は事が父上様に知れるのを気にしていたようなのでトトから手を引かせることで伝えないと約束した。あー…ちなみにだが私は別段私を撃ったことで伯父上様を恨んだり、怒ったりはしていない。何故なのかは自身でも分からないから謎なのだが、やはり身内には甘いのだろうか?…ギアスに掛けられたのではないと思う。…多分。まぁ、怒るのは怒ったんだけどね。カリーヌのプレゼントを壊されたことでだけど。
オルドリンはトトより軽い事情(あまり詳しく話して巻き込まない為に)を聞いて、どうにか助けたそうにしていたので伯父上様の件と合わせて解放。これからも一緒に居られるように助けた事で口外しないと約束してくれた。
今まで騙していた罪悪感に押し潰されそうだったトトを心の底から受け入れ一緒に居る事を選んだオルドリン。血の繋がりは無いが、家族のような強く優しい絆で結ばれた二人。見ているだけで心が温かくなり、嬉し泣きしているトトと一緒にポロポロと泣いてしまったよ。
そういえばロロはルルーシュと上手くやっているだろうか。……それより
オルフェウス達は見逃す事と秘密裏にナイトメアの譲渡で飲んでくれた。
私は気にしてなかったんだけど戦闘終了後、ブリタニア側と反ブリタニア側と別れているけれど、どうしようみたいな微妙な空気が流れたんだよね。最終的に「紅巾党との戦闘中のどさくさに紛れて逃げた」という嘘の報告に納得してくれた。その書類を提出したのは私だったんだけど、何度もオルドリンと打合せして書いたんだよねぇ。結構手間だったよ。
あと、これから次世代機との戦闘が多くなるというのにコーネリアとギルフォードの機体がサザーランドのままというのは不安があって、グロースターを回すことにしたんだ。これがナイトメアの譲渡。
本当はさすがにヴィンセントは難しいからグロースター最終型を贈ろうと言ったのだが、「兄上が支援している事がバレてしまいます!!」と全力で断られた。最終型はコストや整備の面から一部の騎士団と技術試験科ぐらいにか配備されてなくて、手元に数機余ってあるんだよね。……日本に居るダールトン将軍に一機贈ろうかな。
ラウンズのオリヴィアとオイアグロはオルフェウスの事を黙っている事と逃したことで約束してくれた。
代々女性が当主となる一族だとしても子供を捨てた事に思うところがあったのだろう。オイアグロにしてもそうだ。甥っ子を想っての判断だ。オルフェウスの事を黙っているというのはジヴォン家の名に泥が付くとかそんなんじゃなくて、もしもジヴォン家の人間が反ブリタニア勢力に加担しているとしたら、オルドリンに対する風当たりがきつくなる。それを防ぐために黙っていて欲しいと。
「やはり家族っていうのは仲良しであって欲しいよねぇ…」
「それは親も兄妹も居ない我々に対する言葉ですか?」
「独り言を悪い方向に取らないでほしいんだけど」
自室の窓ガラスより眺めながらぽつりと漏らした独り言に反応した人物へと視線を向ける。
ギアス饗団のマッド大佐により生み出されたギアスユーザー【LV-02】―――今は【ジュリアス・キングスレイ】と呼ぶべきか。
彼を引き取るにあたり戸籍やら身分証明やら用意しなければならなかったのだが、元より存在せずに使われなくなった戸籍を利用することを思いついたのだ。それがジュリアス・キングスレイ。
記憶改竄されたルルーシュがユーロ・ブリタニアに渡った際に使っていた名前と戸籍である。
この名前はブリタニアでは知られておらず、ユーロ・ブリタニアにて有名。だけどユーロに行かなければ別段問題ではないだろう。
「まったく子猫を拾ってくる感覚でどこから連れて来たのやら」
呆れたようにため息をつくのはクラウス大佐。
そんなクラウス大佐は長机を囲んでジュリアスと対峙してチェスをしている。
顔はルルーシュと瓜二つなのだが今までやったことが無いのもあって弱いのだ。戦術・戦略を学ぶ授業の一環としてこうやってチェスなどに触れさせている。まぁ、今まで自由に過ごせることが少なく、娯楽に触れ慣れてないのを慣らすためでもある。
「よくある事なのか?」
「あー…俺達もそんな感じで拾われたか」
「理解した。よくあるんだな」
「意外に手が早いんだよ殿下は」
「たらしとか言う奴か」
「ちょっと、誤解を招きそうな発言は控えてくれないかな!?」
「おぉっとこれは失敬。皇族に対する不適切な発言。どうかご容赦を」
演技染みた発言に笑みを零しながらもう一匹の子猫――失敬、人物に視線を向ける。
ネモは部屋から出られない事に不服でベッドに転がって足をじたばたさせたり、転がり回ったりしている。
「済まないが我慢しておくれ。本国に戻れば動ける場所を確保するから」
「自由になれたと思ったらまた籠の中の鳥か」
「君の場合は籠ではとても止めれそうにないけれど。ギアス饗団の眼があるし、当分は大人しくしてほしい」
「それで自由になれるのならね」
大きく息を吐き出しながら起き上がったネモは半分開いた眼でこちらを睨んでくる。
身体を動かすタイプの少女だから不服なのは分かるが……。
っと、転がっていたせいで髪が乱れているのに気付いて櫛を片手に近づく。
もう慣れたように髪を私に向けて預ける。割れ物を扱うように慎重に、優しく髪をすいていく。
「綺麗な髪なんだから大事にしないと」
「手慣れてるねぇ」
「だーかーらー、人をプレイボーイみたいに…」
「そういう意図ではなかったんでけどね。ロリコン殿下」
「否定するからね!っていうか勘弁して下さい。婚約の件でさっきもマリーベルにさんざん揶揄われたんだから」
本当に勘弁してほしい。
揶揄われるのもそうだがネモは見た目がナナリー似の為に意外に心にダメージが来るんだ。
ちなみにこの世界のネモがナナリーに似ているのは偶然なのだが、ジュリアスがルルーシュと瓜二つなのは生れに原因がある。宛がわれた番号にあった【L】とはルルーシュの頭文字。つまりルルーシュのクローンなのだから似ていて当然だった。
「ほい、チェックメイト」
「…参りました」
「これで12連勝だねぇ…と、そろそろブリッジに戻りますよ。何かお有りでしたら何なりと」
「あぁ、その時は頼むよ」
退室して行ったクラウス大佐を見送り、いったん止めた手を再び動かす。
頭では原作コードギアスR2の事を思い出し、これから取るべき行動を思案しながら。
「まずは私のナイトメアだけど、その前にオイアグロ卿に動いてもらわないとね」
「なにか悪だくみしてる?」
「んー…そうだね。悪だくみなんだろうね。嫌かいそういうのに巻き込まれるのは」
「嫌だけど貴方からは邪悪な気配を感じないから良いよ。巻き込まれても」
「すまないねネモ。ジュリアスも」
困った笑みを向け謝る。
二人はその言葉に笑みを浮かべ、力強く頷いて答えた。
ナイトメアフレーム開発局 第一皇子専用ラボ【エレイン】ではナイトメアフレーム開発で第一線で活躍しているロイド・アスプルンドとウェイバー・ミルビルが作業を行っている。
ここは第一皇子専用であることから第二皇子直属であるロイドは本来入れないのだが、今回は特別に入室を許可されている。と、いうのも急な変更でウェイバーが忙しく、かつオデュッセウスの指示でもう一機の完成を急がないといけなくなったからだ。
その指示を受けて作業に勤しんでいる中心人物二人は休憩室で鉢合わせとなった。
「ミルビル博士も休憩ですかぁ?」
「あぁ、あまり根を詰め過ぎるなと追い出されてしまってな」
「徹夜二日目でしたっけ?」
「いや、三日目だ」
「あは~、研究熱心で」
「そういう伯爵はいつものやる気が感じられないな」
休憩室内はコーヒーサーバーや自動販売機などが置かれ、仲間内での会話をしたり疲れた体や頭を休める為に楕円形のテーブルをソファで囲み、それが五組ほど配置されている。
ロイドはその一組でソファに腰かけテーブルに倒れ込んでいる。
表情はいつものようにへらへらとにやけているものの、どこか元気がない。
部屋を分けた事もあって様子を窺うことは無かったが、こういう時はいつも以上にテンションがハイな状態だと勝手に思っていた。それだけにロイドの様子を不思議がる。
「だってぇ…急かされて仕事するの好きではないんだよねぇ…」
「気持ちの問題か。仕事なのだから―――などでやる気を出すタイプではなかったな」
話すときに動く唇も視線も瞼も。動きのすべてが気怠そうに見え、やる気どころかこのまま寝そうな感じすらある。
向かいに腰かけてテーブルに自分のコーヒーとついでで入れたコーヒーをロイドの近くに置く。
時間があるならば彼も呼ばれなかっただろうがあの仕事量からしたら私一人では捌ききれない。
黒の騎士団で四聖剣と呼ばれた精鋭中の精鋭を集めた精鋭部隊。その一人の千葉 凪沙が搭乗していた月下の改造。改造自体は前々から進めていたのだが、装備の一新にシステム面をブリタニアから日本式への変更、新装備との連動など追加の注文と言うかやり直しと言うか仕事が多いのだ。
月下だけなら私が担当するところなのだがランスロットも追加の注文を受けたのだ。【マッスルフレーミング】に【ギアス伝導回路】なる聞いた事もない技術を搭載しろと。
渡された極秘と言われた資料と私以外には一切を見せるなと言われたマークネモなる搭載された新型のナイトメアフレーム。誰にも見せるな・言うなと言う事は、私ひとりでナイトメアフレームを解析しながら資料と見比べて情報を経験ある知識に変えてから、ランスロットの改修に挑めという事…。
殿下に空中騎士団設立や便宜をはかって貰った恩義は多くある。感謝もしている。忠誠心というものも持ち合わせている。だが、月下とランスロットの話を頼まれた時はさすがに殺す気か!?と叫びたくなった。かといって私の研究チームで月下だけでも任せられる人員がいるかと聞かれればNoとしか言えず、頭を悩ましていた時にロイド伯爵の顔が思い浮かんだのだ。殿下と繋がりがあってナイトメア研究では彼以上の人材はいない。ダメもとで殿下に話をすると「アラクネの件もあるから」とすぐに話を通してくれた。
……アラクネの件というのは無断で造っていた事なのだろうな。
ニーナ君から簡潔に聞いたがアレを無断で作るとは。資金も馬鹿にならなかっただろうに。
ともあれ仕事の半分を担ってもらっている訳だが、このように気が抜けたまま仕事をされても支障が出る。
少し悩みつつ餌をぶら下げてみる事にする。
「オデュッセウス殿下からとある一機を任されたのだがどうかな?」
「んー?新型だねぇ…なになに…格闘性能はボクのランスロットより上!?ほぉ~」
「ギャラハットというナイトメアで、オイアグロ卿から勧められたらしい」
「へぇ~」
「殿下を通して急ぎの仕事頼んだお詫びという訳ではないが、月下の仕事が早く済めば先に調べて――」
「やった!ふふ~ん、どんな感じなのかなぁ」
最後まで喋らせてくれないのか…。
まぁ、やる気が出てくれたのなら良かった。一緒に居るセシル女史も大変だったろうに。
ふと、そこでセシル女史を一度も見ていないことに気付いたウェイバーは軽く辺りを見渡した。
「そういえば今日はセシル女史はいない様だが」
「セシル君なら留置所に行ってるよ」
「留置所?なんでまた」
「何でも逮捕された黒の騎士団のデータを取るんだって」
「シュナイゼル殿下の指示か。しかし黒の騎士団のデータを何故?」
「話によるとオデュッセウス殿下の指示らしいよ」
「殿下の?」
「黒の騎士団の腕のいいパイロットの戦闘データを使ってのシミュレーターを作りたいんだって」
「それは分かったがそれなら専属の技術士に頼めば――」
「自分の状況見て言えるかな」
確かに私を始めとする開発技術班はランスロットの改修と新装備の準備、ロイド伯爵が改修指揮を執っている月下の作業などで手一杯だ。クレマン少佐のアレクサンダに特化した技術班は殿下と一緒に今は中華連邦。世界各地を飛び回っている殿下がエリア11にデータ収集だけで寄るのも難しいだろう。
「さぁてと、ボクは仕事に戻りますか」
「なら、私も………」
ロイドに続いて仕事に戻ろうとしたウェイバーであったが、ここで戻れば休めと言った妻にこっぴどく叱られてしまう。仕事に戻りたい気持ちを諫めて仮眠室に向かうのであった…。
ギアス饗団の広場にてV.V.は険しい表情を浮かべながらだらんと手足を伸ばして、地べたに転がっていた。
いつになく不機嫌そうなV.V.に近づこうとする者は居らず、遠巻きに見るか、見て見ぬ振りをしてさっさと通り過ぎるかの二択が大半である。その例に漏れた一名が近付く。
現在ギアス饗団にて謹慎中のクララ・ランフランクである。
彼女としては今回の件でジヴォン家が勢揃いしたことに大変興味を持っており、どれだけ謹慎中で身動きが取れないことを悔やんだことか。
「どうしたのさパパ?」
「んー…あぁ、君か。ちょっと…ね」
「ちょっとって感じには見えないよ。皆怖がって近づきもしないし」
「クララは中華連邦での一件聞いているね?」
「勿論知ってるよ!パパだけオルフェウスお兄ちゃんに会ったんだもん」
頬を膨らませて不機嫌さをアピールするがV.V.は気にも留めずにムクリと起き上がる。
多少険しい表情が和らげたようだが、内心は決して穏やかなものではないのは何となく察する。
V.V.の事を【パパ】、オルフェウスを【お兄ちゃん】と呼ぶがどちらも血縁者という訳ではない。V.V.は兎も角オルフェウスの事をお兄ちゃんと呼ぶのは饗団内での生活が原因だ。
幼い頃に実験で邪魔だったとはいえ髪の毛を研究員に全部剃られて泣きじゃくっていた所を、当時の饗団で実験を受けていた子供たちの中で年長であったオルフェウスが優しく慰めてから、元々面倒見の良さもあってそれからは兄妹のように育ってきたのだ。
「もう散々な目にあったよ。マッド大佐は岩盤が落ちてきて圧死するし、実験体LV-01はやられるし、プロトアラクネの改造型は撃破されるし、ネモはマークネモごと居なくなるし……はぁ~」
「あははは、痛い損失だね」
「笑い事ではないよ。しかもこの歳で本気で怒られるとは思いもしなかった」
「パパが怒られたの?」
「電話越しのオデュッセウスに」
「誰かが話してたんだけどトトを庇って撃たれたんでしょ」
「まさかトトなんかの為に飛び出すとは思いもしなかった」
「普通は飛び出さないでしょう。皇族でしょあの人…あー…分かんないなぁ、飛び出してきてもおかしくないか」
自分が謹慎する原因となったテロを思い出して言葉を否定した。
我が身大事に逃げるよりは仲間を助ける為に危険を顧みず突っ込んで来たっけ。
「それでも怒るだけっていうのもおかしいよね。死にそうになったんだから何かしてくるとかさぁ」
「死にそうになったから怒ったわけではないよ。妹から貰ったプレゼントを壊した事を怒られたんだ」
予想していた答えの斜め上を行く返事にクララは首を傾げる。
「――え?殺されかけた事じゃなくて?」
「撃った弾丸がロケットで止まったことで助かったんだけど、そのロケットが妹のカリーヌより贈られた品だったんだって」
「えぇー…なにそれ。でもなんか分かるかも。私だってお兄ちゃんから貰った帽子に傷つけられたら怒るだろうし」
話の途中で納得したクララはうんうんと頷くがV.V.は困った笑みを浮かべる。
兄弟などの絆がどれほど良いものかを知っている身としては納得せざるを得ないが、饗団が今回被った損害の事を考えると頭が痛くなる。
ギアス饗団は多くの研究員と実験体である少年・少女たちがほとんどで、暗殺や監視などをこなせる人員や防衛用の戦力は少ない。寧ろ無いといったほうがいい。
単独行動可能だったギアスユーザーはロロ、トト、クララの三名で、ロロはルルーシュの監視でエリア11に向かい、クララは謹慎中の為に饗団に残り、トトは手元を離れた。
遺跡で邪魔をしたので殺そうとしたからという訳ではなく、オデュッセウスが慰謝料代わりに貰っていきますと有無を言わさぬ勢いで告げて来たのだ。単独行動できるギアスユーザーが減るのは痛手だが、シャルルには殺そうとしたことを知らせないことを約束してきたので致し方ない。シャルルはどうもオデュッセウスの事を少なからず気に入っているらしいから。そもそも殺そうとした手前、言う事を聞くとは思えないしね。
マッド大佐が作り出した新たなギアスユーザー達の内、二名は戦死して一名は逃げ出して行方不明。ようやく手に入った戦力は消え去ったどころかマッド大佐率いる研究チームは生き延びた者もいるが、大半が戦闘によって発生した崩落で命を落とした。その中にはマッド大佐も含まれており、ギアスユーザーを作り出す計画は白紙にまで戻った。
プロトアラクネの改良型を手に入れて戦力拡大を図ったが、ジヴォン家の攻撃により撃破されてナイトギガフォートレスのジークフリートのみとなった。
それにしてもとV.V.は考える。
オデュッセウスは戦力を持ち過ぎている。前々から騎士団を三つ抱えているだけで異常だったのに近年は余計に色濃くなってきている。
無人機を含んだ親衛隊に数人のギアスユーザー、新型ナイトメア開発も行って兵力・戦力ともにシャルルを除けばブリタニアトップクラスの力を持っている。
危険ではあるが手出しはもう出来ない。ギアスでの暗殺を図ろうとしてもオデュッセウスの下に居るギアスユーザーなら饗団の仕業と分かるだろう。そうなるとオデュッセウスに従う者達はどのような行動を取るだろうか…考えるに易しとはまさにこの事だろう。
もしもの時の暗殺は最悪のケースを招き、武力や権力で制することは出来ない。
ならばせめて首輪だけでもはめておかなければならない。
「クララ。謹慎を今日で終了させる」
「えぇ!?ほんと!これでお兄ちゃんの監視に戻れる」
「オルフェウスはとりあえず放置する。君が監視するのはオデュッセウスのほうさ」
「えー……むぅ、分かったよぉ」
不満げながらも返事をするクララに笑みを零した。
V.V.は視線をクララより手元のモニター画面に戻す。
モニターには液体で満たされたカプセルに一人の男性が呼吸器を取り付けられた状態で保管されていた。
剣で貫かれたコクピットで辛うじて生きていたアルベルト・ボッシ。
回収したときには意識不明で肉体的損傷は激しく、右腕と下半身、臓器の大半が生体ユニットで代用され、呼吸器やチューブを通して栄養を送り込まなければすぐに死んでしまう。
返事も出来ないボッシにV.V.は歪んだ笑みを向ける。
「君にはまだ働いてもらうよ。オルフェウスに対しても、オデュッセウスに対しても…ね」
カプセル内で未だ意識を取り戻さないボッシは反応を示さない。
例え身体が動かせなくとも新たな
V.V.が求めるのは敵をしつこく付け狙う執念のみ。今はオルフェウスに向いているが、シャルルに頼んで記憶を改竄すれば何とでもなる。
龍門石窟の戦闘後から回収したのはボッシだけではない。
かなり破損しているが修理出来ないことはないプロトアラクネの改修機。
「オデュッセウス。甥っ子と言えども邪魔をするのなら―――」
次回より最終章R2へ突入します!