コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

82 / 150
第81話 「新たなギアスユーザー」

 オルドリン達ジヴォン家と離れたオデュッセウスはモニターに映る三角形に部隊を配置した魚鱗陣で突っ込んでくる鋼髏の群れにため息が零れる。

 狙撃タイプのグロースターが一機にサザーランド二機、グリンダ騎士団仕様のグロースターが一機に私が搭乗しているアレクサンダ・ブケファラスの五機に対して、軽く数えても三十機以上の鋼髏…。

 

 「さすがに多くないかな?」

 『で、殿下はお下がり下さい。ここは私が…』

 「そういう訳にもいかない。数で大幅に負けているのだから一機でも欲しいところだろう。それに―――」

 

 会話をしながら肩に取り付けてあったライフルを手に取る。

 アレクサンダの通常装備であるWAW-04 30mmリニアアサルトライフル【ジャッジメント】をオデュッセウスの要望に応えるように兵器開発局が徹底改修したダークブラックカラーの狙撃銃。

 銃を支えるフォアエンドは持ち易く調整が施され、遠距離・中距離での用途を考えての八倍スコープにドットサイト、上部後方に取り付けられていた弾倉はトリガーガード前に変更されている。グリップも当初の独特な円形から通常のアサルトライフル同様の長方形になっている。

 形はスマートさや丸みを完全に配した無骨にしてメカメカしいデザインを採用していて、通常通りの素材では重くて移動しながら撃っても命中精度に誤差が生じるのでなるべく軽く頑丈な構造と素材を兵器開発局が探し、考え出して採用している。

 

 手に持つと折り畳み式の延長用砲身が装着され、アレクサンダ・ブケファラスがスコープを覗き込む。

 モニターにはスコープと映像を繋げて照準機能で狙う事も出来たが、オデュッセウスの強い要望で覗き込むタイプになっている。

 

 ゆっくりと呼吸を繰り返し、ドットが狙いに合うと短く息を吐き出し、トリガーを引く。

 放たれた弾丸は狙い通りに鋼髏の片足を吹き飛ばし、狙われた鋼髏はバランスを崩して勢いを殺せずに地面を転がりまわった。

 直撃を確認すると次の鋼髏に狙いを付けてトリガーを引く。

 

 「中々良い感じだね。一人ノルマ六機以上で宜しく」

 『えぇ!?』

 「コー……コホン、ネリスにギル!斬り込み隊を頼めるかな?私がe――」

 『了解ですあにu……えっと…』

 『一番槍頂きます』

 『ギル!?』

 「トトもお願いできるかな」

 『イエス・ユア・ハイネス!』

 

 ギルフォードのサザーランドを先頭にコーネリアとトトが突っ込んで行く。

 鋼髏が優れているのは射程だ。しかもここは平地でナイトメアの特徴である立体機動戦が行えない状況で鋼髏は驚異的だ。数で劣っているこちらとしては逃げ出すのが良い手かも知れないが、この場を離れれば追撃されて後ろから銃弾を浴びるかオルドリン達がプロトアラクネとで挟み撃ちに合う可能性がある。

 ならばここで出来るだけ数を減らして相手を戦闘能力を無くすしかない。

 

 数で勝っている相手に対して突撃というのは一見無謀のようだが、このメンバーで相手が鋼髏のみならば意外に有効である。

 平地での鋼髏の射程は脅威ではあるのだけれども高低差が無いこの戦場では列の先頭にいる鋼髏しか射撃が出来ず、懐にさえ飛び込めれば味方同士が盾となって攻撃は出来ないだろう。さらに鋼髏は近接戦闘の手段を持ち得ない。

 

 敵に分がある射撃戦で戦うより、こちらに分のある近接戦闘に持ち込んだ方が勝つ見込みがある。それにこちらには鋼髏以上の射程を誇る狙撃を行える機体が二機も居るのだ。

 

 「分かっていると思うが私たちの仕事は先頭に居る鋼髏を行動不能にすることだ」

 『ったく、分かってるっつの!っていうか俺はアンタの部下でも何でもないんだが!寧ろ敵の筈なんだけど!?』

 「まぁまぁ、気にしない、気にしない」

 『気にするって!!』

 

 初対面のズィーと軽口を交わしながら狙いを付けてトリガーを引く。

 足を吹っ飛ばされて転がった鋼髏に後続が躓いて軽い渋滞が発生する。頭部やコクピットを兼ねた鋼髏の胴体はそれだけでも後続の鋼髏の射線を塞ぐのには充分で、足だけ撃って転がしておけば搭乗者は生きているので良い盾になってくれる。おかげでコーネリア達は多少掠りながらでも懐に飛び込んだ。突撃中は撃ちまくっていたアサルトライフルを腰に戻し、ランスを振り回して鋼髏を薙ぎ倒す。

 

 「わぁー…もう先頭の五機が潰れてるね」

 『相変わらずすげえ…』

 

 行動不能にした機体が多いとしても懐に飛び込んで三分も経たぬ間に五機が鉄塊に還った事に狙撃組は乾いた笑みを浮かべる。

 ギルに一番槍を盗られたコーネリアは次の部隊に向かって駆けて行く。

 

 『突っ込み過ぎだっての!なに気負ってんだか』

 「ならこっちも頑張らないとね。彼女たちの援護は任せたよ。私は他の部隊を黙らせるから」

 『おいおいアンタもかよ!?』

 

 妹が頑張っているのに私が見ているだけっていうのは兄として恰好が付かないからね。

 弾倉を交換すると同時にコーネリア達が向かった部隊と並列していた別部隊に接近して行く。勿論近接戦の距離まで詰めるのではなく狙撃の射程内にだ。動きながらでも狙い澄ましてトリガーを引き続ける。

 

 次々と敵機を行動不能に追い込んでいく戦況に笑みが零れるほどの余裕が生まれる。

 このままいけば何とかなると。

 思い始めた矢先にイレギュラーが起こった。

 

 ―――霜が降りたのだ。

 

 「これは―――まさか!?」

 「兄上お気をつけて!」

 

 コーネリアの警告を受けるがオデュッセウスは知っている。

 否、前世でコードギアス知識を得ているこのオデュッセウスだからこそ知っている。

 

 ギアスユーザーの中で範囲内の物も者も凍り付かせれる能力を有する存在を。

 

 鋼髏の最後尾より後方で偽装されていたハッチが開かれて金色のヴィンセントが現れた。

 近くに居た鋼髏が突然現れたナイトメアに驚きながらも銃口を向けるが、範囲内に居たが為に数秒で凍り付いた。

 

 「―――ッ!?この場に居る全機に告げる!あの金色のナイトメアより離れろ!!」

 

 訳の分からぬ鋼髏も一度目にしたコーネリア達も戦闘を中断してヴィンセントより距離を取る。

 

 漫画【コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】にて原作のギアス饗団の役割を担っていた皇帝陛下直属のエデンバイタル教団――そこの異端審問局 異端審問官であるロロ・ヴィ・ブリタニア枢機卿。

 もしもこの知識通りだとしたらギアス伝導回路搭載型のヴィンセント。

 

 『おいおい!またあいつかよ!?』

 「一度戦ったのかいアレと?」

 『戦ったというか出てきたらすぐに離れたから戦ってはいないけどな』

 

 …最悪だ。

 勝てる術がない。

 ナイトメア・オブ・ナナリーに登場するギアスユーザーはアニメのギアスユーザーに比べて戦闘向きで、機体とも能力を伝達するために格段に強い。アニメに登場したのならラウンズのメンバーが入れ替わるだろう。そんな戦闘向きギアスユーザーが四人掛かりで挑んでも瞬殺できるほどの力を有するロロ枢機卿。

 勝てるギアスユーザーに心当たりはある。

 ギアスを無効化出来るギアスキャンセラーを有するジェレミア・ゴッドバルト。それとある条件下での私だ。

 私のザ・リターンで凍結する前の状態に戻せれば範囲内であろうと問題は無い。だが、アレクサンダ・ブケファラスはギアス伝導回路を積んでないので生き物でない機体までザ・リターンの効果は与えれない。使って自分自身の凍結を防いだとしても機体は凍り付く。

 

 今は距離を取るしか方法がない。

 狙撃を試みるが弾丸が弾かれて有効打が与えられない。

 

 「って、弾丸が当たらないってどういうことですかこれ!?」

 

 漫画を読んで能力は知っている筈なのに知らない現状にただただ驚く。

 それでも撃つことは止めず、距離を取るコーネリア達の援護程度に撃ち続ける。

 例え焼け石に水と分かっていても…。

 

 自身も少しずつ距離を取りながら後退していると足元が揺らいだ。

 

 地形を理解すれば予想できたかもしれないのだが、ここは巨大な地下遺跡の上なのである。

 しかも双貌のオズよりもギアス饗団が絡んだために地下研究施設も兼ねている。

 

 空洞広がる地下空間の上で戦闘を行えばどうなるのか?

 

 丈夫なところならまだしも脆い部分もあり、間違いなく崩落する。

 

 「うぉおおおおおおお!?」 

 『殿下!?』

 『兄上!?』

 

 アレクサンダの足元が崩れたのだ。

 落ち行く無重力感を感じながら大慌てで機体を出来るだけ丸くさせ、密度を増して落下の衝撃に備える。コクピット周囲や内部にある衝撃吸収用のエアバックなども展開する。

 

 大きな衝撃に襲われながら必死に無事を祈りつつ耐える。

 衝撃による揺れが完全になくなった所でゆっくりと瞼を開けて付近を確認する。

 

 ―――と言っても衝撃吸収材に囲まれてモニターどころか前も見えないのだが…。

 

 「戦況はどうなった?機体の状況は?」

 

 多少の痛みを感じながらも衝撃吸収材を押しのけながらハッチを開けて外に出る。

 クレマン少佐が皇族専用機として生存率をかなり上げておいてくれたおかげで命拾いしたけれど、今度から地形を把握できるセンサー類も積み込んでもらおう。

 コクピットより這い出たオデュッセウスは各部が折れ曲がり、戦闘どころか移動も困難なアレクサンダ・ブケファラスを見つめ、そっと頭部を撫でた。

 

 「すまないブケファラス。あとできっちり直してもらうからね」

 

 そう呟くと懐より拳銃を取り出し辺りを警戒する。

 周囲は研究室だったらしく実験用の機器が所せましに並んでいる。所々に拘束具や医療機器も見える事から兵器の開発や改造ではなく、生物の実験だったらしい。

 内心コーネリア達の事が気になって焦ってはいるが、落ちた感じからナイトメアでもなければ早々戻ることは出来ない。

 奥に開けた空間があり、そちらに向かうと己の眼を疑った。

 

 機体というよりは人体に近い構造のナイトメアが横たわっていたのだ。

 これがGX01シリーズならば別段驚くことは無かったが、眼前にあるこの機体はここにはあってはならないものだ。

 あったとしてもナナリーの側にしかない筈。

 

 「そいつは私のだよ」

 「――ッ!?」

 

 声が聞こえた事で振り向きながら銃口を向ける。

 暗闇の先に誰かが居るが目が暗闇に慣れておらず、うっすらとしか見えない。

 

 「饗団の人間ではなさそうだ」

 「関係は多少なりともあるけどね」

 「へぇ、でも研究員や純粋な饗団員ではないんだろう?」

 「まぁ…ね。ところで君は誰だい?それに何故こいつがここに?」

 「それは私がここに居させられているからさ」

 

 ようやく暗闇に慣れた目が相手を認識する。

 C.C.が来ているような拘束着を着させられ、椅子にがっしりと固定させられている十代の少女。

 活発そうな赤い瞳に金色の癖のある長髪。

 

 その人物に心当たりのあるオデュッセウスは目を見開いて硬直する。

 

 「外に出たいんだろう。だったら私も連れて行って欲しい。ここは窮屈で仕方がないんだ」

 「……あ、あぁ…けれどこいつの起動キーとパスワードがなければ動かせない」

 「私の機体だ。私が知っている―――で、どうする?私に自由を与えてくれるんならアンタに力を貸すけど?」

 

 ごくりと生唾を飲み込み考えを働かせる。

 この機体と彼女の力を借りられれば上の状況は打破できる。しかし、ギアス饗団を口にした事から彼女は実験体だ。それを伯父上様から解放するというのは骨が折れる。

 後の問題が浮かび上がるが瞬時に消し去り頷いた。

 なんにしてもコーネリア達を助けるのが最優先なのだから。

 

 「分かった。君の自由を饗団より勝ち取ろう」

 「響団から?そこまで言うんだ――アンタ名前は?」

 「オデュッセウス・ウ・ブリタニア。一応聞くが君の名は?」

 「ネモ。それだけよ」

 

 やはりと呟きながらオデュッセウスは拳銃で拘束のつなぎ目を撃ち抜いてネモを自由にする。

 二人は並び立つとナイトメアに向かって歩み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギアス饗団によりギアス伝導回路とマッスルフレーミングを施されたヴィンセントに乗る青年は左右前後に映る敵影にうんざりとした視線を向け、詰まらなそうに息を吐き出す。 

 彼に名前は存在しない。あるとすれば個体を認識するための【LV-02】の検体番号ぐらいだ。

 生まれた時から自身に自由は無く、実験体として扱われるか兵器として運用されるかの未来しか存在しない。

 一時は己が運命に抗ってみようかなど考えたものだがギアス適正の高い人物の遺伝子から創り出されたクローン体である自分はテロメアが短いために短命。逃げ出したとしても毎日服用している薬が無ければ数年で死ぬ。

 

 運命を嘆き、自由に憧れ、未来を諦めた彼はただの道具として己を認識し、周りの敵を狩る作業を淡々と従事する。

 

 マッド大佐の実験により得たギアスは【ジ・アイス】

 事象の世界線を微分し、全ての運動を凍らせて時をも止める能力。

 戦闘面でかなり強力なギアスであるにも関わらず、デメリットは効果範囲が狭い程度。

 

 時を止まらせられるが群がっている敵に対して止まらせることもない。

 能力を使用して範囲内を凍り付かせる。

 近寄った鋼髏がその範囲に入り込み、徐々にではなく、瞬時に凍り付く。

 

 『距離を取って撃ちまくれぇ!!』

 

 凍り付いた事に慌てながら外部スピーカー越しに叫んだ兵士の指示に呼応して残っている鋼髏とサザーランドなどブリタニア製ナイトメアの銃撃が周囲より浴びせられる。 

 

 ―――が、一発とて機体に当たることは無かった。

 

 弾頭が超伝導状態となりマイスナー効果によって弾かれるとかマッド大佐に説明されたが、詳しくは理解していない。

 していなくとも、やることは明白かつ簡単だ。

 弾が当たらないのなら悠々と敵に近づき凍らせれば良いだけだ。

 

 範囲内に鋼髏を入れて凍り付かせながら、ふと自分と同じ存在の男を思い出した。

 【CV-01】という検体番号を与えられた男。

 ギアス能力は【ザ・デッドライズ】と言って一度滅んだモノを蘇らせ、不滅を与え意のままに操る能力。

 同じクローン体でギアスの相性も良くて非正規の作戦で共闘した際は手駒が多くて楽をしていた。前の戦闘でやられた為にここには居ない。もしここに居てくれれば楽に片付いたのにとぼやいてしまいそうになる。

 

 速度を挙げて一気に鋼髏に近づいて、何事も無いように通り過ぎて行く。

 それだけで残っていた鋼髏は全機凍り付いて動かなくなった。

 

 「残りは四機のみか。いや、一機崩落に飲み込まれたから五機か。面倒だがこれも仕事だ」

 

 目標であるナイトメアに視線を向ける。

 各々が武器を構えているが有効な手段を持ち得ない為に動きは無い。

 この状況下で有効な手段など存在しないことを【LV-02】は知っている。

 

 今までギアス饗団に関係したギアスユーザーとのシミュレーションで自身にナイトメア戦で勝てるのはロロのギアスのみ。それもジ・アイスを展開する前にロロが範囲内でギアスを使った場合のみ。

 如何なる腕利きだとしてもただの人間が倒せる筈はない。

 そう確信している。

 

 ――ただの人間ではだがね。

 

 崩落した場所より何かが飛び出した。

 気怠そうに視線を向けるとナイトメアらしかったが興味は無く、視線をサザーランド達に戻した。

 なにせ飛び出したナイトメアの着地地点はジ・アイスの効果範囲内。

 着地する前に凍り付いて、地面にぶつかった衝撃で粉々に砕ける。

 

 視界の端で着地をしたナイトメアが突っ込んでくるのが映った。

 驚きを隠せないまま振り向こうとするがその前に衝撃がヴィンセントを襲った。

 身体全体を捻りながらの渾身の一撃。

 頭部の半分が拳一発で砕けたヴィンセントは地面を転げまわり、顔だけを上げて殴り掛かったナイトメアを見つめた。

 

 機械というよりは人体に近い外装。

 全体的に黒系の色でペイントされ、頭部の眼のようなカメラが赤く輝いて禍々しく見える。

 GX01シリーズよりもスリムなボディラインの機体に覚えがあった【LV-02】は苦々しく睨みつけた。

 

 「何故マークネモが!?違う…そうじゃない!饗団を裏切ったかネモ!!」

 

 マークネモはGX01シリーズを強化し、ネモという別の方法で生み出されたギアスユーザー専用の機体だ。

 ギアス能力と相まってその性能は上位のナイト・オブ・ラウンズに匹敵するまでに及ぶ。

 ただ搭乗者のネモ自身がマッド大佐やV.V.のいう事を聞かない為に拘束されていた筈だ。拘束されていたが自身と同じような存在と認識していた【LV-02】は裏切るとは微塵も考えておらず、数日もしたら大人しくなるだろう程度にしか思っていなかった。

 

 しかし、相手がネモだとしたら疑問が残る。

 ネモのギアスは未来線を見るもの。多少先の――相手の動きを読めたところでジ・アイスを無効化する術など無い。

 

 『あー…すまないが搭乗者は別人です』

 

 別人である事を理解してヴィンセントを立ち上がらせる。

 ギアス饗団でマークネモを操れる人物はネモ以外この龍門石窟の遺跡には連れてきていない。となると先ほど崩落に飲み込まれたパイロットが機体を捨てて乗り換えた事になる。されどあの機体などはギアスユーザーでしか動かせない。そういう仕掛けになっているのに誰が操っている?

 

 色々考えを巡らせようと思ったがため息と一緒に吐き捨てた。

 考えたって情報が少なすぎて分からないのだから、自分の持てる最大の力を行使して倒すことのみに集中する。

 

 「120秒限定でV.V.細胞抑制剤の中和を開始。グゥウウウウウウ……ァアア…」

 

 パイロットシートの上部左右に取り付けられたアームが伸び、中和剤と繋がっている先端の針を首に差し込んだ。

 本来マッド大佐に造られてきたアリス達のようなギアスユーザーはC.C.細胞を用いてギアスユーザーにされたが、CV-01とLV-02はV.V.の細胞を用いてギアスユーザーになったのだ。

 注入されると同時に身体中が熱せられたような激痛が走り、急激に和らぎ思考がクリアになる。

 

 身体中の血管が浮き出ている様子を気にすることなく、ジ・アイスの能力を極限にまで高める。

 範囲内のすべてを凍り付かせ、時間すらも止める奥の手。

 決して油断はしない。

 メーザーバイブレーションソードを鞘から抜いて斬りかかる。相手はジ・アイスを打ち破っているのだからもしもの可能性がある。

 

 期待を裏切るように止めた時間内でマークネモは動き、メーザーバイブレーションソードでも廻転刃刀でもない太刀をナイトメア用にした刀を構えて突っ込んでくる。 

 太刀と剣がぶつかり合う直前に四つのスラッシュハーケンがヴィンセントを襲った。

 マークネモに搭載されたスラッシュハーケンを改造した武器【ブロンドナイフ】。

 うなじの辺りから伸びているスラッシュハーケンが切り裂けるように鋭く尖った三角形のナイフとなっており、ハーケンを繋ぐケーブルはまるで意思を持っているかのように動かせる。

 

 四つのブロンズナイフを掠めながらも回避したものの、マークネモにまで対応が追い付かない。一直線に突っ込んでくるマークネモに後ろに崩れた体勢で突きを出すのが精いっぱいだ。その突きも身を低くしたことで簡単に避けられてしまったが。

 身を低くした状態で懐に入り込んだマークネモは起き上がると同時に太刀を横薙ぎに振るった。

 

 ヴィンセントの頭部とコクピット上部の装甲が斬り飛ばされた。

 目視で相手が確認でき、相手は振り切って無防備な状態。

 一瞬の好機を逃すまいと腕を折り曲げて、肘に仕込まれている打突武装ニードルブレイザーを展開する。あとは胴体に押し付けてトリガーを引けば勝てる。

 この急激な動きに反応出来る人間と言うのは少ないだろう。―――乗りなれていないマークネモを操縦するオデュッセウスには不可能だった。

 

 『このノロマ!!』

 

 罵声が響き渡ると同時にギリギリの動きでニードルブレイザーが躱された。

 

 『私まで殺す気!?』

 『いやははは…本当にすまないね。慣らしもしてない機体でここまで出来たんだから上々だと思うんだけど―――ね!!』

 

 突き出された肘を切断するとマークネモは太刀の刃を反して胴体を斜めに斬り上げた。胴体の前半分が斬られたことで完全にコントロールを失って転倒する。

 横たわる状態で顔を上げたLV-02の眼前には太刀を向けているマークネモ。そしてコクピットから降りて来た一人の男性の姿が目に映る。

 

 「まさかネモと手を組んだなんて想定外だ…」

 「彼女とは利害が一致してね。饗団からの解放はちょっと手間だけど」

 「オデュッセウス・ウ・ブリタニア第一皇子。何故貴方が私のギアスを打ち破れた?癒しのギアスで私の心情をかき乱した程度では…」

 「そっか。そうだよね。饗団は知らないんだね。私のギアスは癒しではなく戻すんだ」

 「戻す?」

 「例えば自身を凍り付く前の状態に戻す。君がギアスを発動する前に戻すとかね」

 

 ギアスを破った能力を理解して疲れたように息を吐き出す。

 壊れかけのコクピットは律儀にも120秒を計測しており、時間が経ったことで抑制剤を打ち込まれる。中和剤でリミッターを解除した反動でどっと疲労感が押し寄せてくる。

 もうどうでも良くなった。

 ここを切り抜けたってギアス饗団で不良品の烙印を押されて近いうちに処分されるだろう。

 なら、抵抗などせずこのまま終えても良いか…。

 

 「それで私をどうするんだ?殺すなら早くしてくれ。抵抗はしない」

 「自分の命だというのにやけに投げやりじゃないか」

 

 何かを考えるような仕草をしながら顔を覗き込んだオデュッセウスはにっこりと微笑み、手を取ってギアスを発動させた。

 疲労感が消え去り、心が安らぐ。心身の疲れが消え去るような爽快感と心底落ち着く安心感に包まれる。

 

 「私に弟――ルルーシュ似の君を殺すことなんて出来ないよ」

 「ルルー…シュ?」

 「あれ?君ルルーシュの細胞から作られた…えーと……ナナナだったらロロ枢機卿だったっけ?」

 

 知らない名前に役職、あと何かの隠語だと思われる単語に頭を悩ませるがオデュッセウスは気にも留めていない。

 ただただ笑顔を向けるだけだ。

 

 「その命捨てるぐらいなら私に預けてみないかい?」

 「貴方に?」

 「君、名前はなんて言うんだい」

 「……検体番号LV-02…そう呼ばれている」

 「番号かぁ。―――だったらジュリアスって名乗ってみない?」

 「―――はい?」

 「君も来るだろう」

 『アンタが私を完全に自由にしてくれる契約を守ってくれるならね』

 「利害は一致しているからね。私の考えと君の願いは同じ未来に存在している」

 

 嬉しそうに満面の笑みを浮かべて、引っ張り立たせる。

 ネモとLV-02の視線がオデュッセウスに集まる。

 

 「さぁ、悪だくみを始めようか」




●検体番号LV-02
 漫画【コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】のロロ・ヴィ・ブリタニア枢機卿。
 ギアス【ジ・アイス】はそのままで性格は変更。元より自分の生み出された経緯を知っているが為に冷静かつ落ち着いてはいるが、どこか冷めている。
 ギアス適正の高いルルーシュの遺伝子にV.V.の細胞を埋め込んでクローンとして作ったので、名前はロロでも見た目はルルーシュ。

 機体:ギアス伝導回路搭載型ヴィンセント
    ギアス伝導回路を組み込んでいる為、生身を中心にした範囲から機体を中心とした範囲に拡張されているので自身の機体が凍り付くことは無い。そしてヴィンセントを基準にギアスが展開されるので範囲は生身より広がっている。
 
 
●ネモ
 漫画【コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】の登場人物。
 変更点が二つあり…。
 ひとつ、ナナリーと契約してナナリーにしか見えない特殊な存在→実験で生み出されたギアスユーザー。
 ふたつ、マークネモが影より現れたりする→GP01シリーズの強化型で作られた設定なので特殊な現れ方は出来ない。

 見た目は漫画通り。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。