コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第08話 「初めての取材」

 今更ながらメディアの仕事を受ける事にしました。

 

 神聖ブリタニア帝国の第一皇子なら今までに受けていて当然だろうと思われるかもしれないが、今までガニメデでのデータ収集に最強騎士との模擬戦、多過ぎる書類仕事などでそんな暇などなかったのだ。シュナイゼルに話を聞いたところではすでに何回も受けてきたそうだ。

 

 なので私もメディアの仕事を受けてみたのだが概ね好評のようだ。ようだと言うのはシュナイゼルやギネヴィアが一般の反応を教えてくれたからで、自分で一般の反応を見た訳ではない為だ。ユフィを始めとした十歳以下の妹や弟達からは動物と戯れる姿が可愛かったと言われたから一般の反応などどうでも良い気もする。

 

 新たに出来た美術館にサファリパークや動物園などの訪問を放送したり、大手新聞社のベテラン記者による当たり障りない質問に答えるだけの記事などしたが今日ほど楽しみなものは無い。

 

 「はい。で、では撮ります」

 

 椅子に腰掛けた状態で笑みをカメラに向けて、表紙を飾るであろう写真を撮ってもらう。カメラから軽い機械音が鳴り、フラッシュの光で照らされる。写真を撮った女性はニッコリ笑顔でお礼を言って、話を聞く為に用意したテーブルの方へ案内する、

 

 彼女はメルディ・ル・フェイ。真っ赤なショートヘアが特徴的な年齢十七歳の新人記者である。

 

 本来なら新人記者と言うだけで断るのに大手の新聞社の推薦も無い彼女の取材を受けているのはこちらの不手際だった。下の者が弾く筈だった書類が間違って通過してしまい、私が受けると返事を送ってしまったのだ。その事を知ったギネヴィアは断るべきですと言ってきたが、受けますとこっちから言っておいて断ると言うのは相手に悪い。それがベテランだろうと新人だろうとだ。

 

 「本当に宜しいのですか兄様」

 「なにがだい?」

 

 この取材を受けるに当たって兄弟・姉妹からある条件を出された。それは誰かを連れて行くというものだった。兄弟から知略も優れているシュナイゼルが名乗りを挙げて、姉妹からはギネヴィアが付いてくる事になった。なにやらの手段で決めたらしくコーネリアが悔しがっていた。ちなみにさっきの写真では左右に椅子があって右にシュナイゼル、左にギネヴィアが座っていたのだ。出来れば皆で撮りたかったなぁ…。

 

 「あんな三流以下の記者の取材を受けることです」

 「こらこら、そんな事言ってはいけないよ」

 「ですが…」

 「良いではないですか。兄上は楽しそうですし」

 

 確かに楽しんでいる。正直申し込んだ彼女もまさか受けて貰えるとは思っていなかったらしく、皇族に対する礼儀作法を急遽覚えたっぽいし、着ているスーツは新人記者が買う物としては高そうではあるが身の丈にあってない。そして緊張からかガチガチに固まっている。今までこういう相手を見たことなかったから見ていて楽しい。

 

 表情からも「私、緊張してます」と伝わってくるメルディに案内されるまま、用意されていた席につく。一応高価な椅子らしいが宮殿にあるどの椅子よりも粗悪な物にギネヴィアの機嫌はまた一段と悪くなる。

 

 「で、ではオデュッセウス殿下に質問させていひゃ…頂きたく存じまする」

 

 隠す気の無いギネヴィアの態度に怯えながらも、臆する事無く質問しようとする彼女に感服する。私ならびびって顔色を窺うか黙ってしまうだろう。父上様相手だとそうしているし…。

 

 「メルディさん。気を楽にしてください。そんなにガチガチだと肩が凝るでしょう」

 「は、はい」

 

 とは言っても皇族を前に気を楽にする事は出来ないとは思うが一応言ってみる。やはりと言うか当然だが返事をするだけで緊張はしたままだった。

 

 「最初の質問なのですが普段どのようなお仕事をしていらっしゃるのですか?」

 

 -ガニメデのデータ収集を兼ねて、マリアンヌ様やビスマルクと模擬戦をしています-

 

 「ガニm」

 「父上の書類仕事を手伝っていらっしゃいます。ね、兄様」

 

 言おうとした言葉がギネヴィアの言葉で遮られる。何やら焦っているようにも見られるがどうしたのだろうか?

 

 最初っから軍事機密に位置付けられているガニメデの事を漏らそうとしたオデュッセウスに冷や汗を掻きながら、何とか誤魔化せた事にギネヴィアはホッとする。それはシュナイゼルも同じだったらしく安心したように息を吐いていた。

 

 代わりにギネヴィアが答えた事で『何か聞いちゃいけない事だったのかな?』程度の認識しか出来ずに次の質問を投げかけてくる。

 

 

 「先の遠征では多大なご活躍を成されたとお聞きしました。その感想を頂ければ」

 

 メルディが言った『遠征』とは、一週間前までオデュッセウスが総司令官として軍を率いて、エリアを増やしに行くように命じられた事だ。兵士は神聖ブリタニア帝国精鋭部隊を中心にしており練度も高く、軍からアプソン将軍が、貴族からカラレス公爵などが参謀として集められた。

 

 有能な兵士に参謀達で編成された軍団に対して、正直に言うと私は何もしていないのだ。いや、しないように指示をした。

 

 出発前に兄弟・姉妹のメディア関係の仕事でどのような事をしていたのか見ておこうと、いろんな記事やデータ保存されていたインタビュー番組を閲覧していたら、皆が皆、私の話をするのだ。

 

 ギネヴィア曰く、とても思慮深く、兄弟・姉妹想いの自慢の兄。

 シュナイゼル曰く、大きな器に優しい心を持つ人物で、その思考能力は群を抜いている。

 コーネリア曰く、努力を怠る事無く鍛えられた腕前はラウンズに引けをとらない。にも拘らず慢心する事無く鍛錬を続ける努力家。

 

 要約するとこのような高評価を貰っていたのだ。コーネリアだけは横に居たダールトン将軍に止められなければ延々と喋りそうだったぐらいだ。そのように見られている中で遠征で大手柄なんて挙げてしまったらエリア制定の為の将軍として派遣される事が多くなるかも知れない。私は戦いは嫌いだ。ゼロに近い確率かも知れないが可能性があるのなら完全に消すまで。

 

 と言う事で簡単な指示だけして、ほとんど椅子から離れずに書類仕事をしていただけだった。ただ疑いがあるってだけでナンバーズを大虐殺しようとしたカラレス公爵を止めたぐらいはした。何にしてもあの遠征で私は椅子に座っているだけで指揮も出来ない無能と思われたろう。

 

 オデュッセウスは安易にそのような評価を受けていると思っているが実際は逆に高評価を得ていた。カラレス公爵は邪魔をされて最初は不満だったが助けられたナンバーズにその家族、事実を知った者達がオデュッセウスに心を許し、占領後の他のエリアに比べてナンバーズの抵抗がほとんど無かったのだ。この事を現場の雰囲気と併せて見ていたカラレスは、皇族の方々が高評価している意味を知った。

 

 他にはアプソン将軍などは将や兵を信頼し、自らの手柄を自分達に譲ってくださる器の大きさを垣間見たと評価し、無策で攻めたり、虐殺目当ての無駄な戦いを一切せずに短期間で最大の戦果を手にする知将として認識されていた。

 

 遠征のことを思い出しつつ質問に答えようと口を開く。

 

 -私は何もしておりませんよ。すべてはブリタニアの為と戦ってくれた者達のおかげです-

 

 「私は何もしておりまs…」

 「兄上。謙遜ですか?戦場での評価は皆兄上を褒め称えておりました。集まった貴族達に将軍達はブリタニアの頭脳と評していましたよ」

 

 また途中で区切られた私はギネヴィアではなくシュナイゼルを見つめる。今度はオデュッセウスだけではなくメルディも困った表情で見つめていた。見つめていても爽やかな笑みを返されたので短く咳き込んで続きを促す。

 

 「皇族の方々の中にはすでに騎士を選ばれている方がおられますが、オデュッセウス殿下は何方を選ばれるのですか?」

 「その質問はいらない騒ぎを起こす可能性があるので」

 「好きなタイプの女性は?」

 「気品に溢れたお淑やかな方が良いですわね。ねぇ、兄様」

 「現在お付き合…」

 「いません!!」

 

 促されて次々質問してくれるのだが全てシュナイゼルとギネヴィアが答えていく。確かこれって私に対する質問だったよね?自信満々な笑みを浮かべる二人に何と言っていいのか分からない。最初はガチガチで緊張しかしていなかったメルディが困った表情ではなく呆れ顔をしていた。ごめんね本当に…。

 

 「えーと…コーネリア皇女殿下が仰られていたのですが身体を鍛えていらっしゃるとの事で」

 「毎日欠かさず鍛錬を行なっていますから」

 

 やっと遮られずに答えれたと内心歓喜の叫びを上げそうになった私の代わりに彼女の方が嬉しそうな顔をしていた。

 

 「では、どの程度鍛えていらっしゃるのでしょうか?」

 「ボディビルダーみたいに鍛えようとは思ってないので…そうですね。やっと腹筋が割れてきたぐらいでしょうかね」

 

 私の答えに満足そうに短く声を漏らしてカメラを取り出した。

 

 「もし良ければもう一枚いいでしょうか?出来れば身体のラインを出すような感じで」

 「不敬なっ!そのようなしゃs…」

 「構いませんよ」

 「っ!?良いのですか兄様!!」

 「…よっし!」

 

 少し恥ずかしいがそれぐらいならいいだろう。それと不敬だと言ったわりにはその嬉しそうな笑みはなにかな?

 

 許可を得たメルディは私達を先導して別室の衣装室に向かう。部屋内で待機していたSP達が予定外の行動に多少戸惑いながら、急ぎ衣装室内に危険物やカメラなどの類が無いかを調べる。急な事といっても手際が良く短時間で終了した事に見慣れた私達は良いとして、メルディだけは目を見開いて呆然としていた。衣装室内には数多の職業の制服からコスプレみたいのまで置いてあった。今回取材を受けるだけだったので衣装コーディネイターを連れて来ていない。どうしようか悩んでいると「あ!」と、何かに気付いたような声が響いた。急に声を挙げたものなのでSP達が懐に手を伸ばしていた。

 

 「すみません!カメラをさっきの部屋に忘れてしまいました。すぐに取って来ます」

 

 大慌てで衣装室を飛び出して行ったのを見たシュナイゼルは監視を兼ねてSPを二人付いていかせる。ギネヴィアは衣装の類を見て粗悪品と文句を言っていた。私はと言うと肉体を見せるという事からぴっちりとした衣装を探して、着替えてしまおうと行動していた。服もワンサイズ小さ目の物を探すだけだったからすぐに見付かった。

 

 服を着替える為に繋がっている更衣室に入ったまでは良かった。だが、問題はその後にあった。

 

 ボタンの外し方が分からない。

 

 冗談や嘘のように思われるかも知れないが、私はひとりで着替えを行なったことがない。幼い頃から周りに控えて居る者が衣類を用意して着替えさせてくれるのだ。前世の意識が残っている私は恥ずかしくもあり遠慮したのだが、下々の者達に傅かれる事に慣れよとの一言で却下された。隣り合った衣装室に居るのは同じように着替えた事が無いであろうシュナイゼルとギネヴィア。護衛のSP達と着替えを手伝って居る者はいない。さすがに事情を話してメルディに手伝ってもらう訳にも行かずに何とか脱いでみることに。

 

 ボタンやベルトを無理やりに近い感じで外していき、時間はかかったが何とか脱ぐ事は出来た。安心した私は心に余裕を持ち、着替えのカッターシャツに袖を通して絶望した。ボタンは外すよりはめる方が難しい。しかも下のジーンズもチャックは上げられたもののボタンが出来ない。ベルトは通せても止められない。

 

 焦りつつも現状を姿見で確認する。カッターのボタンを留めてない為に真ん中縦一文字に肌蹴て肌を晒している。そこには先ほど話した割れ目が見え始めた腹筋が覗いていた。ジーンズのボタンをしていないのもおしゃれに見えてきた。身体のラインを出す写真ということなのだからこれで良いのではないか?

 

 「着替え終わったよ」

 「あ、はい。ではこちr…」

 

 カメラを取りに行っていたメルディも衣装室に戻っており、笑顔で対応しようとして硬直した。先ほど姿見で見た時は問題ないと思ったがおかしな所でもあったのだろうか。不安に思いながら辺りを見渡してみるとギネヴィアが顔を真っ赤にして鼻を押さえていた。シュナイゼルはいつもと変わらない笑みを浮かべているが、微妙に手が震えているような気がする。

 

 まるで時間が止まったかのように静止していた時間は動き出す。

 

 「さいっこうです!!殿下。そのままで良いのですね!良いんですよね!!」

 「あ、はい」

 「ささっ、こちらに!」

 

 テンションの上がり具合に若干引きながら言われた通りに付いていく。止めに入ろうとしたギネヴィアは鼻から溢れ出そうになる物を押さえるのでそれどころではなかった。

 

 ちなみに帰る前にはシュナイゼルが珍しく慌ててお手伝いさんたちを呼び寄せて、着替えさせてもらってから帰ることが出来ました。それとオデュッセウスの写真が載せられた雑誌は皇族女性陣の愛読書になったとか…。




オリキャラ

名前:メルディ・ル・フェイ
身長:159センチ
体重:41キロ
スリーサイズ:72・54・77
血液型:B型
一人称:僕(取材時などは私)
年齢:十七歳

真っ赤なショートヘアが特徴的な女の子。
新人記者で仕事意欲旺盛。今回は試しに送っただけでまさか受けるとは微塵も思っていなかった。オデュッセウス殿下が取材を受けた新人記者として注目され、貴族から取材してくれとの依頼を受ける事になって大忙し。大手の先輩や作法が記されている本などを読んで猛勉強中。

多分、もう出ないと思う…。

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