コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第73話 「紅の騎士:後編」

 自分の迂闊さと考えの甘さを呪いたくなる。

 以前からだけどほんとうに嫌になるよ。

 

 【コードギアス 双貌のOZ】にて行われたタレイランの翼の最大規模の作戦。飛行能力を持ったナイトメアフレームを使用し、首謀者であるウィルバー・ミルビルの指揮により帝都ペンドラゴンにテロが迫る事態にまでに陥った。

 が、結果はグリンダ騎士団の果敢な奮戦により防がれた。

 

 オデュッセウスはその事件の事が頭に強く印象づいており、ウィルバー・ミルビルさえいなければタレイランの翼は存在しない――などと思い込んでしまった。

 実際は首謀者が居ないだけで反シャルル主義者達は存在し、その事件が起きなくなった程度だったのだ。

 

 ゆえにタレイラン・チルドレンと名乗ったタレイランの翼の一部を率いたアレクセイ・アーザル・アルハヌスがタレイランの翼の首謀者になってテロを起こした。

 

 試合は中断。

 観客は恐怖と不安で押しつぶされそうになり、コース上ではグリンダ騎士団が不利な状況であるが果敢に奮戦している。

 観覧中だった皇族は一般客には知らされていない避難経路にて最優先で避難する―――予定だった。

 

 ナイトメアの起動キーを大事そうに握って駆け出したカリーヌを追わないわけにはいかないでしょう。

 漫画内にあったこの事件をモニターに映し出されたアレクセイ・アーザル・アルハヌスを見た瞬間、思い出して振り返ったらもういないんだもの。心臓が止まるかと思ったよ。思考はフリーズしたけど。

 

 流れはちゃんと思い出した。

 アレクセイが主犯として行われたこの事件はコース内のグリンダ騎士団とファイヤーボールズに、タレイラン・チルドレンの部隊が突入されて状況は完全な不利だったが、シュナイゼルにホールにあるランスロット・トライアルの起動キーを渡されたカリーヌが向かい、後より辿り着いたマリーベルが操縦してコース内の戦況を同等にまで持ち直した。その後、グランベリーでハレースタジアム上空に到着したレオンハートにティンク、そしてソキアの新たな力であるサザーランド・アイの手助けによりタレイラント・チルドレンは制圧された。

 

 走りながら携帯電話でレイラに連絡を付ける。

 

 『殿下!?今どちらに――』

 「管制室だ!アキト達に武装させてSP達と管制塔を制圧している奴らの無力化を!!」

 『は、はい!?』

 「そこにアルハヌス卿がいるから。それとグランベリーに救援要請。あ!管制室までの敵対勢力の無力化が無理そうなら観客の避難を第一に」

 『ちょっと待ってください殿下!』

 「じゃあ頼んだよ!」

 『でn―――』

 

 一方的に通話を終了させるが当たり前のように掛け直される。今はそれどころではないので電源を切ってしまう。

 記憶違いでなければカリーヌはランスロット・トライアルの起動キーをマリーベルに渡すか渡さないかで悩み、時間が掛かってしまった。そのために追いついたテロリストの攻撃で大怪我はしなかったものの、頭を打って気絶してしまう。

 

 大けがしなかったからと言ってカリーヌが怪我をするのを知っていて放ってはおけないし、コース内でマリーベルが戦っているのに逃げるわけにはいかない。

 

 ホールに辿り着くとランスロット・トライアルの前で起動キーを見つめながら搭乗して戦う覚悟を決めようとするカリーヌを視界に納めた。

 

 「…よし―――きゃああ!?ってお兄様!!」

 「すまないね。でも時間が無いから」

 「きゃ、きゃあああああああ!!」

 

 急がなければ敵が来ると焦り、説明の一言もないままカリーヌをお姫様抱っこして、ホールの二階へと駆けあがる。スザク君ならランスロット・トライアルの段差を蹴ってコクピットに辿り着けるのだろうけど私はあんな人間離れしていないので、普通に階段を使わせていただきます。

 二階の手摺を飛び越え、コクピットに飛び移る。意図を察したカリーヌが起動キーのスイッチを押し、コクピットが開かれた。シートに腰を下ろすと起動キーを差し込んだカリーヌが頬を膨らませて睨んでくる。

 

 「いきなりで驚くではありませんか!!」

 「それは私もだよ!振り返ったらカリーヌが居ないから心配したんだよ」

 「…心配かけてごめんなさい…でもこれは…」

 「言いたいことは多くあると思うけど今はとりあえず…」

 「えぇ…眼前の脅威ですね」

 

 ホールに繋がる通路に一機のサザーランドが立ちはだかっていた。

 武装は腕部を隠す程度の小型の盾にライフル―――どうみても野外戦を視野に入れた装備。

 

 「しっかり掴まって!」

 「分かったわ!」

 

 操縦桿を握り締めて、ペダルを踏みこむ。

 ランドスピナーが回り、煙を巻き上げながら突っ込む。

 カリーヌやオデュッセウスを探し、会場に連行するだけと思っていたサザーランドのパイロットは、突如動き出した飾りとしか思っていなかったランスロットに驚いて対応できなかった。だからといって手加減する気もないオデュッセウスは手刀の一撃で頭部を胴体と切り離す。

 衝撃で倒れ伏したサザーランドよりライフルと盾を奪い去り、コースに向けて加速する。

 本来ならどこか安全なところにカリーヌを下ろして行きたいが、この会場内には安全なところはない。ならばこのまま乗せていくしかない。

 

 勢いを付けてコース内へ飛び出たオデュッセウスは腕に取り付けてあったスラッシュハーケンを中央に立っていたサザーランドとナイトポリス一機ずつに撃ち込んだ。頭部を潰されあっけなく倒れた二機の間に降り立ったランスロット・トライアルに視線が集まる。

 

 「マリー!待たせたね」

 『オ、オデュッセウスお兄様!?』

 「誰かこいつで援護を頼むよ――カリーヌ…機体が少し揺れるけど…」

 「構わないわ。思いっきりやっちゃって!!」

 

 ライフルと盾をその場に置き、敵勢ナイトメアフレームに向かって駆ける。

 ランスロットの機動力は殺人的だ。ただ加速して行くだけで身体に掛かるGは大変なものだ。だからカリーヌを乗せている今はそれほど駆けれない。

 スラッシュハーケンを用いての変則的な移動方法とマリアンヌ様との鍛錬で覚えた動きで避けつつ一機ずつ潰す。

 正直辛いがライフルを手にしたマリーカに盾を拾って拳銃で援護するトト、斬り込むマリーベルとオルドリンの活躍によりかなり助かっている。

 

 それにしてもハーケンブースターが全部使えないのは辛いのだが…。

 

 「カリーヌ。ハーケンブースターの使用制限を解除してくれるかな?」

 「え?これかな…パスワード設定してあるけど」

 「パスワードはロイド伯爵の好物だったね」

 「ああ!ランスロットを開発した……って!あのナイトメア馬鹿の伯爵の好物なんて知るはずないじゃない!!」

 「え、あ!プリンだよプリン」 

 「プリンで良いの!?プディングでなくて!?」

 「えーと…違ったらプディングで」

 

 ロックは解除され、放ったスラッシュハーケンをブースター操作で自由にコントロールできるようになった。

 真っ直ぐにしか放つことの出来ないスラッシュハーケンが、途中で軌道を変えるなんて知らない人間が対応しきれるものではない。

 やることが多くて大変だったけどだいぶ数も減ってきた。

 ランスロット・トライアルとサザーランド&ナイトポリスの性能差が大きいこともあるだろうが、マリー達の活躍も一躍かっている。撃破は難しいがそれでも関節部を砕いては行動不能、または戦闘不能に追い込んでいる。そしてファイヤーボールズもプライウェンは取り押さえられているが、銃を構えて捕縛に来た敵兵に対して殴り掛かって優勢に……さすがに無茶し過ぎではないかな?

 

 「ま、何とかなりそうだね」

 「お兄様!ゲートからサザーランドが!!」

 

 敵のおかわりなんて遠慮したいのですが。

 おかわりするなら甘味が欲しい。あと熱いお茶。

 

 大きくため息を吐き出しながら、あとで皆とケーキバイキングにでも行こうかななどと思いながら増援のサザーランド隊に突っ込んで行くのであった…。

 

 

 

 

 

 

 何故こうなってしまったのか…。

 ハレースタジアムの管制室を占拠し、実行部隊の総指揮を執っているアレクセイ・アーザル・アルハヌスは現状の状況に対して頭を抱えていた。

 

 今回の作戦は絶好の機会であった。

 何しろ排除対象であるブリタニア皇族が三名も揃うのだから。しかも建物上警備は人であり、ナイトメアなどの護衛はない。

 対してこちらはタレイランの翼主力部隊に帝都内でも難なく参加できる自身が隊長を務める神聖ブリタニア帝国警備騎士団と数で圧倒的な戦力で挑んだ。

 もちろん同志の撤退路確保のために別動隊を外部に待機させている。

 事は順調に運ぶはずだった。

 どこで歯車が狂ってしまったのか…。

 

 『こちら正面ゲート!ブリタニア兵が殺到して持ちこたえられません!至急援軍を―――』

 『ホール前との通路が隔壁で遮断されました。そちらで開けられませんか?』

 『もっとナイトメアを回してくれ!あの赤いナイトメアを止めるには―――』

 

 この作戦に尽力を尽くしている同志諸君より悲痛さを含んだ無線が殺到する。

 どれも、これも、あれも、それも………すべてが状況の悪化を知らせる報告ばかり。

 

 我らは己が信じる者の為には悪とされるも良しと思いこの場に集まっている。

 目標とした皇族にはテロリストの殲滅で名を挙げているマリーベル以外に各エリアでも非常に人気と支持が高いオデュッセウスに、まだ幼さを残す少女であるカリーヌも含まれている。作戦が成功すればその死を悼むという建前で彼らの良き面を全面的に押し出して我らの非を強くするばかりか、強い想いをもったテロリストではなくただの人殺しとして報道されるだろう。

 

 それでも我らの大義…ひいては最終目標を達成するまでは泥を被り続ける気でいた。

 皇族を狙うばかりか観客だって人質にする覚悟もあった。―――なのに…。

 

 「まだシステムのコントロールを取り戻せないのか!?」

 「は、はい。取り戻すべく操作を繰り返していますが依然として…」

 「団長!システム…完全に乗っ取られました。ここからの操作が行えません!!」

 「馬鹿な…何故…」

 

 どうやら観客…いや、皇族のお付きの者の中に相当腕の立つハッカーがいるのだろう。

 最初は一部のシステムのハッキング程度だったが、あっという間にほとんどのシステムを乗っ取られ、現在に至る。

 おかげで観客を閉じ込めていた防護用の隔壁が開けられ、逆に我らを閉じ込める為に隔壁が下ろされたのだ。物理的に手が出せないどころか監視カメラの映像を遮断されて居場所すら分からない。

 観客を安全な場所に避難させた事で反撃と言わんばかりに、このハレースタジアムの警備隊と皇族の護衛部隊が協力して我々が占拠した管制室に向かって進軍してきた。

 勿論、対応策は指示したが相手は隔壁と監視カメラを用いて防衛用の部隊を分断して各個に撃破、もしくは鎮圧していっている。これでは対応もあったものではない。

 外からの援軍はスタジアムの入り口の隔壁を下ろされたことで不可能。そもそも観客の安全を確保したことを知ってか正面ゲートにブリタニア兵が殺到していて援軍を入れる事すら出来ないが。

 

 「脱出は止む無しか…仕方がない。ハレースタジアム内に残る同志諸君。我らの脱出も、任務の継続も不可能と判断し、各々時間稼ぎを行われたし。我らがすこしでも時間を稼ぎ、外で陽動作戦を実施せんがために待機していた仲間を逃がす。我らの意思は彼らが必ずや遂げてくれるだろう…以上……すまないな」

 

 無線で仲間に呼びかけたがまさかこのような事態に陥るとは…。

 やれやれと肩を落としながら床に寝っ転がる。

 

 「外の連中だけでも逃げ延びて欲しいものだな…」

 「その…伝え難いのですが……」

 「なんだ?」

 「脱出時に備えて待機させていた部隊からの連絡が途絶えました…。蒼いランスロットが現れたと言って」

 「……そうか」

 「――正面ゲート突破されました。ブリタニア軍は暴徒鎮圧用のプチメデとナイトポリスの混成部隊で鎮圧を開始したようです…」

 

 もはや打つ手なし…。

 諦めの混じった大きなため息をひとつ漏らす。

 

 『パスワードはロイド伯爵の好物だったね』

 『ああ!ランスロットを開発した……って!あのナイトメア馬鹿の伯爵の好物なんて知るはずないじゃない!!』

 『え、あ!プリンだよプリン』

 

 会場より響いてきた声に毒気が抜かれて、声を上げて笑ってしまった。

 その様子を眺めていた管制室を占拠したタレイランの翼の者は徹底抗戦の意思をなくし、ただただ呆然とこの作戦の結果を待つことにした。

 

 「ハレースタジアム上空にグランベリー…新型と思われるナイトメアが三機…いえ、四機降下してきます…」

 「これで皇族を討とうとした目論見も潰えたが……。あぁ、だからこそ最後にするべきことがあるか」

 

 すべてを台無しにされて怒りに燃えることなく、アレクセイは冷静な口調で呟き起き上がる。

 問わねばなるまい。

 最後に皇族を身を挺してまで護らんと戦った騎士たちに。

 己が正義が正しいのか。

 我らの行動が正しいのか。

 問わねばなるまい…。

 

 それでなければ我らは―――。

 

 

 

 

 

 

 

 オルドリン・ジヴォンは山積みになった資料と上にあげる報告書に対して、ペンを得物に朝から戦い続けていた。

 ハレースタジアムの一件より二週間。

 帝都ペンドラゴンでは第一級警戒態勢をようやく解除され、市民も安心した日常を過ごせるようになった。

 

 反シャルル主義者タレイランの翼が現体制に不満を持って行ったハレースタジアムでの皇族を狙ってのテロ。

 連日連夜その事が報道され続けた。

 タレイランの翼の主義主張は一切語られず、観客の帝国臣民を人質にして皇族を狙った非道なる者と報道された。

 逆にブリタニア側はグリンダ騎士団はファイヤーボールズと共に勇猛果敢な活躍をして決してテロリストには屈しないとか、観客である帝国臣民を護らんと自ら戦ったオデュッセウス殿下の活躍など美談として盛り上げやすい話を誇張したものを流し続けた。

 

 あの事件でのブリタニア側の被害はかなり少なかった。

 民間人の避難は第一皇子の親衛隊長のレイラ・マルカルの指揮と優れたハッキング能力を発揮してシステムを乗っ取った成瀬 ユキヤの活躍によりけが人は少数。けが人と言っても避難の際に転んで膝を擦りむいた程度。

 管制室を占拠していた部隊は日向 アキトなどの親衛隊ナイトメアパイロット達と専属の警備隊ハメル隊、そしてカリーヌ皇女殿下のSP達により制圧。

 スタジアム内に侵入してきた敵勢ナイトメア部隊はグリンダ騎士団とオデュッセウス殿下&カリーヌ皇女殿下が搭乗したランスロット・トライアルにより撃破された。特に急行したグランベリーに納入したばかりのサザーランド・アイとゼットランドの活躍は素晴らしいの一言だった。

 ソキアの機体として配備されたサザーランド・アイは索敵メインの機体で優れた情報処理能力で残存ナイトメアの情報を正確に把握し、ティンクのゼットランドへと送信した。ゼットランドは多重ロックオンして複数体の目標に射撃を行う装備とシステムがあり、敵機のみを撃ち抜いたのだ。

 ハレースタジアム外部で脱出時の陽動を仕掛ける手筈だった部隊を、ゼットランドとサザーランド・アイを面白半分で見に来ていたノネット・エニアグラム卿が同乗して、予備機であるグロースター一機で制圧してしまった。

 ファイヤーボールズの選手を捕縛しようとした兵士たちは乱戦の末に返り討ちになってぼっこぼこにされてたっけ…。

 会場入り口の部隊は暴徒鎮圧用プチメデとナイトポリスで制圧………とされているが実際は殲滅された。指揮官が皇族に忠義を寄せる者だったらしく、サブマシンガン程度の歩兵にナイトメア用の拳銃の発砲を容赦なく許可したのだからケガ人なんて者は存在すらしなかった…。

 

 

 現在グリンダ騎士団は一仕事を終えた後、空いた神聖ブリタニア帝国警備騎士団に若手騎士を採用し、訓練を行う仕事を請け負っている。本来ならほかの部署の仕事なのだが警戒態勢を解いたといっても軍は常に目を光らせ、警戒を続けている。解除したのは民間人にこれ以上の負担と不安を与えないため。

 マリーベル皇女殿下がオデュッセウス殿下と共にギネヴィア皇女殿下の元に行っている間はオルドリンがグリンダ騎士団の最高責任者とし、責任ある立場のトップであるからしてデスクワークに追われているのだ。

 将軍もマリーと共に行ってしまって…出来るなら自分が行きたかった…。

 

 大きなため息を吐き出しながらアレクセイが最後に言った言葉を思い出す。

 

 ― 何故卿らは権力者が搾取し、弱者が虐げられる今のブリタニアに…皇族に盲目的な忠誠を誓えるのか!?

 

 否定はしない。

 私自身が皇族に…というかマリーに盲目的に従っている節がある。

 自分たちの行動が正しいと心の底から信じているが、それが周りにどのような影響を与えているかなどは考えたことは無かった。信じる正義とマリーに従うだけだった。

 自らの命を懸けるだけの信念があるのは理解した。

 だけど民を巻き込み、下策を講じた彼らの行動自体を認めるわけにはいかない。

 正当な手段にて己が主張を通すべきだった。

 心の底からそう告げると彼らは納得したのか最後の抵抗もせずに捕まった。

 

 タレイランの翼の主導者であったアレクセイを失い、主戦力を失った残りの部隊は危険と判断して帝都より脱出する皇族を捕縛、もしくは殺害しようと最後の足掻きに出たが、実しやかに流された嘘情報でのこのこ現れたタレイランの翼残党は壊滅した。

 オルドリン自身も参加していたが酷いものだった。

 グリンダ騎士団を主力に据え、ユーロピアより呼び寄せた…いや、自ら来たアシュラ隊、第一皇子の親衛隊、付近に駐留するブリタニア軍…圧倒的な戦力での蹂躙劇に発案者のギネヴィア皇女殿下の怒りが見て取れる。

 今もしつこく拠点や残党を駆り出すことに躍起になっているだろう。一部情報によればアフリカ大陸へ向けて逃げた者達がいるとかいないとか…。

 

 兎も角こうしてハレースタジアムでのテロから起こったタレイランの翼の事件は収束していっている。

 ただ気になる点が一つ。

 抵抗せずに捕まろうとしたアレクセイが自決をはかったのだ。

 最後の足掻きであるなら納得もするかも知れないが、自分の頭に銃を向けたアレクセイは怯え、恐怖し、死にたくないと叫んでいた。まるで無理やりに銃口を当てさせられているように…。

 

 そんな筈はない。

 彼は自分で自分自身に銃口を向けて、誰一人触れてもいないのだから。

 

 結局自決は失敗したのだが。

 トリガーを引く前に一発の銃弾が拳銃を弾いたのだ。

 一瞬誰がと振り向くと怒りを露わにしたオデュッセウス殿下だったのには心底驚いた。

 そのままずんずんとアレクセイの眼前まで迫り、顎を狙って思いっきり殴りつけたのだ。

 強烈な一撃を受けてそのまま気絶したアレクセイを前にオデュッセウス殿下は――

 

 「カリーヌと久しぶりの安らぐひと時にマリーベルの試合を台無しにしたのは貴様か!!私の大事な大事な妹達も狙うなど言語道断!って聞いてないか…」

 

 いつも温厚な殿下の豹変ぶりには驚きを超えて恐怖を感じた。

 オデュッセウス殿下を怒らせてはいけないのはその場にいた全員の共通認識となった。

 そのままオデュッセウス殿下預かりになったアレクセイはどんな目にあっているのやら…いや、これは考えない方が良いか。それよりもさっさと書類の山を片付けようか。

 

 再び手を動かし、無心に書類を処理していくオルドリンであった…。




 次回…中華連邦より厄介な人物がやって来ます…。

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