コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第71話 「オデュ+皇族=周囲の人間の疲労度」

 グリンダ騎士団が一週間に渡る地獄の訓練を終えてから三日後。

 オルドリンやマリーベルはピスケスの離宮で休息を取り、各々ゆっくりとした休日を過ごした。

 

 そして本日、帝都ペンドラゴンのセントラル・ハレースタジアムにてグリンダ騎士団の活躍を祝して行なわれる競技ナイトメアフレームリーグが開催される。

 競技ナイトメアフレームリーグとは軍より払い下げされたグラスゴーをデチューン…出力を軍事用から一般用へと大幅ダウンさせ、各チームごとにカスタマイズされたプライウェンを使用した競技でルールは簡単。五対五で方や右回り、方や左回りでコースを回り、リーダーであるクイーンを守りながら先に八周した方が勝ちという。

 ちなみに両チームが逆に回る為にお互いが交差する瞬間がある。その時は相手を殴ってよし、蹴ってよし、投げてよし、壊してよしの問答無用の戦いが繰り広げられる。これこそが競技ナイトメアフレームリーグの醍醐味だろう。レースだけでなく過激な戦いを含んだ競技。スピード感を感じつつ大迫力の刺激を受けるなら最高のものである。

 

 会場となるハレースタジアムへと繋がる大通りにてとても大きな人だかりが出来ていた。

 集まっている民衆はその中央に居る人物に向けて騒いでいたが、近づこうとはしなかった。否、近づける筈がない。

 注目を浴びている人物の周りには数十人による武装した警備隊が展開しており、異常な威圧感を放っているのだから。

 

 「おぉ、ソフトクリームか。さすがに抹茶味はないねぇ」

 「抹茶って確かエリア11の飲み物だっけ?」

 「良く知っているね」

 「昔お兄様が飲んでいるのを見てギネヴィア姉様達が真似して飲んでいたのよ。私は巻き添え」

 「巻き添えって…」

 「アレ、苦くて苦手なのよね」

 「あははは、カリーヌにはあの苦みはまだ早かったかな」

 「…風味は分かったから良いじゃない」

 「そっか、そっか」

 

 警備隊は好き好んで威圧感を放っている訳ではない。

 今回の競技ナイトメアフレームリーグを観覧するオデュッセウスとカリーヌの二名は専用車で会場に直に向かう筈だったのだが、いつものようにオデュッセウスの一言で予定変更。オデュッセウスだけならレイラがきつく言い聞かせる事が出来たのだけれども、今回は同乗していたカリーヌも話に乗ってしまい、さすがに言い出すことが出来なかったのだ。

 一応遠回しに言いはした。が、皇族に対して普通は(・・・)親衛隊隊長とはいえ強気に出ることは出来ず、その上あまり関わったことのない相手への距離感も掴めないので、本当に遠回しになってしまった。

 

 ゆえに予定になかった警備にカリーヌを護衛するSP達にハメル中佐率いる警備隊、第一皇子直属の親衛隊のレイラ達は気を張っていたのだ。予定になかった事であることから反ブリタニア組織の計画的なテロはないだろうけれども、突発的な犯行が起こってもおかしくない。

 ただならぬ緊張感漂う中、オデュッセウスとカリーヌだけはのほほんと大通りに並ぶ店を眺めながら歩いている。

 

 「にしても安っぽい物ばかりね」

 「んー、普段見慣れているのは高価なブランド品ばかりだからね。そう感じても仕方ないか」

 「お兄様は慣れ親しんでいるみたいだけど」

 「まぁね。伊達に出歩いている訳ではないよ」

 「普通皇族が警備もつけずに出歩くこと自体問題なの」

 「返す言葉もありません」

 

 当然の言葉に申し訳なさそうにする。

 少しきつめに言ったがカリーヌ自体は然程気にしてはいない。以前なら本気で護衛なしで出歩いていたが、最近はレイラが先に手を打って居たり、誰かしら付けるようにしているので以前に比べてだいぶんましになった。

 ギネヴィアもその点などでレイラの能力の高さを知ることとなった。比べる相手はエリア11の総督をしていた時のコーネリアで、あの頃は脱走率100%だったから…。

 

 この時、レイラ達の服装は防弾チョッキの上にブリタニア軍の制服を着ている。それだけだと写真やテレビに映った時に身バレしてしまう可能性が高いので軍帽にバイザー、もしくはサングラスで多少隠している。さすがにヘルメットを被っての護衛だと身バレはし難いだろうが変に目立ってしまうから却下しているが完全に顔を隠すならそれぐらいした方が良いのだろうか?

 

 「んー…――――ッ!?」

 「どうかしたのかしらお兄様」

 「い、いや…何でもないよ」

 「折角のお出掛けなのですから上の空になって私の事を放置しないで下さいね」

 

 考え事をしていたのが気に入らなかったのだろう。腕に軽く抱き着きながら周囲に見えないように肉を少しつままれ、頬を膨らませて不機嫌さをアピールされる。本気でないと分かっていても可愛らしい妹にそういう態度を取られると、甘やかしてしまうのが兄心と言うもの。

 とは言っても微笑みを浮かべながら優しく頭を撫でてやることしか思い浮かばないのだがね。

 コーネリアやギネヴィアにした時はいつもの凛とした表情がふにゃっと柔らかくなり、赤面してとても可愛らしかった。で、カリーヌと言えば笑みを浮かべる程度で二人ほど反応をしなかった…ように装っていた。二人と違って顔色は変わらなかったが耳が真っ赤になっている。

 

 「きゅ、急に撫でないでよ」

 「あははは、ごめんごめん」

 「もう私も子供じゃないんだから」

 「そうだね。立派なレディだもんね」

 「むぅ…子ども扱いしてる」

 

 今度は思いっきりつねられた。本気で痛いので勘弁してほしい。

 何かカリーヌの機嫌を上げる物がないかと辺りの店を見渡すとアクセサリーショップが目についた。

 目についたからと言って買ってプレゼントしようとは思いはしない。自分のならまだしもプレゼントするとなると相手の事を一番に考える。先も言ったように皇族が身に着けたり、買い物するものは一流ブランドの中でもより選りすぐられた物と決まっているのだ。

 昔、自分が着ていたシャツ一枚の値段を聞いた時は耳がおかしくなったのかと疑ったものだ…。

 

 プレゼントする物はどれだけお金をかけるかではなく気持ちの問題と前世で言われたことがある。確かにお金をかければ良いというものでもないし、相手によってはかけた金額に申し訳なくなる人だっている。だからと言って気持ちのごり押しも問題だ。

 やはりプレゼントするならば相手に喜ばれたい。その為には何が欲しいのかとか情報収集する必要がある。場合によってはそのまま聞くのが良いんだけど。

 

 話が逸れてしまった。

 私がアクセサリーショップに目を付けたのはカリーヌの機嫌云々ではなく、店先に置かれているハート形のロケットを見て、原作でルルーシュがロロに(記憶を改竄される前はナナリーへのプレゼント)プレゼントした物を思い出したからだ。

 急に辺りを見渡した行動は勿論、アクセサリーショップに視線を向けて止まったことはカリーヌに気づかれている。

 

 「アクセサリーねぇ。好きな異性にでも贈られるのかしら?」

 「違っ…私にそんな相手がいない事は知っているだろう」

 「でもあのアクセサリーを見ていたようだけど自分用ではないでしょう」

 「……ああいうロケットに皆との写真を入れるのも良いかなと思っただけだよ」

 

 自分でも苦し紛れの言い訳だと思う。しかし、実際何を思っていたかをいう訳には絶対いかない。なんかいろんな意味で怒られそうだし。

 何処となくつまらなさそうな表情を浮かべていたが何かを閃いたのか突如店内へと入っていった。慌てて私を先頭にSP達が店内に入っていく。突如、物々しい一団が入ってきたことで店内は騒然。店長などは緊張で声も身体も震えていた。

 

 ザっと店内を見渡したカリーヌは楕円形に女神が描かれたロケットを選んで即座に購入。支払いはお付きの者がカードで払い、商品を手にしたカリーヌは笑みを浮かべながら再び腕に抱き着きながら外へと引っ張られる。

 

 「え?カリーヌこれは…」

 「はい、お兄様。笑って笑って」

 「え?ん?あれ?」

 

 店内から出てどういうことかと聞く間もなく頼まれたまま笑顔を浮かべると、カリーヌがお付きの者に指示して写真を撮らせた。困惑する中、ロケットとカメラを持ったお付きの者は一団から離れてどこぞへと駆けて行く。

 

 「さっきのアレには今の写真を入れてお兄様にプレゼントするわ」

 「良いのかい」

 「本当はもっと良い物を選んで差し上げたいけれど、宮殿に呼び寄せたらお姉さまが便乗しそうだしね。そ・れ・に~お兄様ってプレゼントする事はあってもされることってあまりないでしょ」

 

 悪戯が成功したかのような笑みに苦笑いを浮かべながら、心の底から喜んでいた。言われた通り、贈ることはあっても贈られることは少ない。

 嬉しさのあまり涙が流れそうなのだけれども…。

 

 …ユキヤ、アヤノ…感極まって泣きそうなのをニヤニヤと笑わないでくれないか?

 

 「さぁ、お兄様行きましょう」

 

 手を引かれるまま進み、ようやく当初の目的の場所であるセントラル・ハレースタジアムに到着した。

 ホールへと到着するとそこにはランスロットの予備パーツで数機のみ作られた真紅のランスロット・トライアルが飾られ、足元には枢木 スザクの等身大のパネルが置かれている。顔のところがくり貫かれており、ここに来た一般客はそこに自分の顔を合わせて写真を撮ったりする。

 一般ではないがその中にオデュッセウスも含まれており、カリーヌを誘ったがさすがに断られ一人パネルへと向かって行った。

 そしてオデュッセウスと入れ違うようにマリーベル・メル・ブリタニアと騎士のオルドリン・ジヴォンの姿が視界に入った。マリーベルも気づいたのか笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。 

 

 「あらあら、テロリストを殺すことに精を出している貴方が出るなんてねぇ。今日は死人が出るんじゃないかしら」

 「そんな挨拶をするためにわざわざ足を運んできたの?」

 「ショービスへの篤志も皇族・貴族の務めよ。戦場でしか能を発揮できない貴方には分からないでしょうけど」

 「これはご親切に。務めをこなすことしか出来ず、戦場で活躍してお兄様に褒められた私達が羨ましいのでしょうね」

 

 ばちばちと火花を散らすマリーベル・メル・ブリタニアとカリーヌ・ネ・ブリタニア。

 いつもなら軽口を叩くだけのカリーヌだが今日にいたっては喧嘩を売っているとしか思えぬ言いよう。確かにマリーベルが言った事に羨ましがっているのは事実。だがそれ以上に務めとして一緒に来たオデュッセウスと二人っきりだったのを(SPを無視して)邪魔されたのが何より腹立たしいのだった。

 そして流せば良いものをマリーベルも買う気満々だった。

 

 「お兄様がご観戦なさるのだから見苦しい真似だけはしないようにね」

 「心配してくれてありがとう。でも、無駄に終わるわね。大活躍してお兄様にまた褒めて貰えるでしょうから」

 

 重すぎる空気の中カリーヌを護衛するSPとマリーベルの護衛を務めるオルドリンは各々の主を護るために辺りを警戒しながら、視線を等身大パネルの方にちらちらと向ける。

 

 等身大パネルに顔を合わせてレイラに写真を撮ってもらっているオデュッセウスの姿が…。

 

 (記念撮影してないであの二人を止めて下さいよ!!)

 

 主と違って心を同じにしたSPとオルドリンはそう思いつつ視線を向けた。

 が、当の本人は全く気付かずに満面の笑み浮かべていた。

 記念写真を撮り終えたオデュッセウスはマリーベルが来ている事に気付いて、片手を上げながらにこやかにやって来る。

 

 「おお、マリー。今日の試合楽しみにしているよ」

 「ありがとうございます」

 「それにしても少し早く来たんだね」

 「はい、開会の挨拶は行わないといけませんから」

 「私とお兄様だけで充分だって…」

 「こらこら、仲良くね。ともあれ二人の前で無様は晒せなくなったかな。私も開幕の挨拶は頑張らないと」

 「…お兄様。なにか良いことありまして?」

 「どうしたんだい急に」

 「いえ、どことなく嬉しそうだったので」

 「ま。色々あってね」

 

 原作知識を用いているオデュッセウスはご満悦である。

 それに妹が受けるはずだったテロを未然に防げたというのもある。

 

 この競技ナイトメアリーグは相貌のOZにあった話で、反ブリタニア組織【タレイランの翼】が皇族を狙ってセントラル・ハレースタジアムにてテロを行うのだが、この世界ではないと確信している。

 タレイランの翼を組織し、指揮を執った人物はオデュッセウスの元に居るウィルバー・ミルビル博士。

 前々より天空騎士団の設立を提唱してきたが皇帝には軽んじられ、妻はテロにより亡くなり、皇族への憎しみを募らせて反ブリタニア活動を行ったのだが…オデュッセウスが天空騎士団設立に力を貸し、妻共々指揮下に入ったために死んでいない。

 つまりタレイランの翼を組織する必要がなくなったのである。

 

 ミルビル博士が組織しなければタレイランの翼が起こしたテロも発生しないだろう。

 勿論のことだが皇族が三名もお越しになるとの事で警備状況は通常時以上に強化されている。

 

 「さてと、観覧席に移るかいカリーヌ」

 「そうですわね。じゃあ、試合頑張ってね」

 

 オデュッセウスの腕に腕を絡ませながら笑みを浮かべていく様子を見送るマリーベルだったが、その後姿を無言で見送ることはせずに携帯で写真を撮り、アーニャへと送る。これでアーニャのブログ閲覧者となっているギネヴィアの目に触れるだろう。

 ちょっとした仕返しを行いほくそ笑みながらオルドリンと共に選手控室へと向かう。

 

 

 

 その光景を二階より眺めている人物がいた。

 ひとりはギアス饗団よりオルドリンの監視を任されているクララ・ランフランク。

 そしてもうひとり、背の中腹まで髪を伸ばしている物静かそうな男性が、どこか悲しげな視線を向けていた。

 

 「さぁて、これで君が望んでいた皇族が三名も揃った訳だけど、どうするのかな神聖ブリタニア帝国警備騎士団団長アレクセイ・アルハヌス卿―――いんや、反ブリタニア皇族組織タレイランの翼のアレクセイ・アルハヌス」

 

 呼ばれたアルハヌス卿は険しい顔を見せたが、すぐに意を決した表情で向き直った。

 

 「勿論、決行する。我らにはもう引き返す道はないし、いらない」

 「アハッ、そう来なくっちゃね」

 

 年下の少女が楽しそうにテロに加担しているのには気が引けるが自分たちではここまで上手く事が運べなかったのは事実。

 帝都の警備騎士団といっても会場内に戦力を持ち運ぶのは出来ないとは言わないが難しい。

 

 それを中学生程度の少女がどうやったのか―搬入された予備パーツや整備で必要不可欠な機材を入れたコンテナ群にナイトポリスを積み込んだコンテナを紛れさせ、一個中隊も気づかれる事無く運び込ませたのだ。

 宮殿や離宮と言った住まいに皇族が頻繁に利用する施設に比べて警備は甘い。と言っても運び込む前に中身のチェックは当然行われる。特に今回は皇族が三名も来ることで急遽と言えど警備体制は格段に上がっている。

 内部に怪しまれず運びこんだという事は検査員やコンテナを運んできた業者、施設に関係している人員。どれだけの者の協力があったことか。この娘の背後にはどれほどの組織が居るのか…聞いてみたい気もするが何か恐ろしいことが起こる気もして聞くに聞けない。

 

 頭を振って考えを追い払い、これより行う作戦に集中する。

 自らの命も天秤に乗せてタレイランの翼の初の作戦を決行する。

 

 自国の民であろうとも軽んじているシャルル・ジ・ブリタニア皇帝の血を引く皇族を―――手始めに誅する。


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