コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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R2の前に相貌のOZへ
第67話 「忙し過ぎた一日」


 午前四時。

 オデュッセウス・ウ・ブリタニア起床。

 心の奥底ではもう少し寝たいという願望があるものの、それを頭の中より弾き出して枕元に置いてあるベルを軽く鳴らしベッドより抜け出す。

 ベルの音を聞きつけた執事、メイドがドアをノックし入室の許可を窺う。許可を出すと動きやすさ重視の軍支給の制服に朝刊を手にして素早くも、乱さないように行動する。

 手渡された朝刊に目を通しながら、メイドにされるがまま着替えさせられる。その後に目覚ましのモーニングコーヒーが運ばれ、一服すると部屋を後にする。

 まだ太陽も顔を覗かせてない時間帯にトレーニングルームへと向かう。

 ユーロピアで不規則な日常を過ごしていたが、何ら問題なくいつもの日常に戻れたのは良かった。

 

 「おはようございます殿下」

 「おはようマルカル大佐、ハメル中佐」

 

 トレーニングルームにはオスカー・ハメル元ユーロピア共和国連合少佐を始めとするオデュッセウス専属の警備の者が周囲の警戒を行なっていた。そしてつい先日親衛隊長となったレイラ・マルカルの姿があった。

 

 「すまないね。こんな朝早くから」

 「いえ、仕事ですので」

 

 ランニングマシーンを操作し最初はゆっくりと走り出すとレイラは手帳を取り出す。

 彼女を親衛隊隊長にするのにはかなり手間取ってしまった。まず最初にユーロピアとの接点を連想しないように別のエリアでのセカンドブリタニア人制度を利用した人物という形にする為に偽造書類の製作に各方面への秘密裏での工作。事情を知っているギネヴィアの猛反発を何とか説得し、身元保証人兼後見人を爵位を持つミルビル博士に頼み、また書類の作成…。

 まさかアレだけ書かされるとは思っていなかっただけに大変だった。しかも引き込んだwZERO部隊&ワイバーン隊全員の偽造書類作成となれば疲労で倒れるかと本気で思った。

 

 「今日はどうされるのですか?」

 「そう警戒しないで。今日は抜け出さないし抜け出せない」

 「今日はですか…いつもであって欲しいのですが」

 「午前中は溜まった執務を片付けないといけないし、午後にはアキト達の専用機と今後の騎士団の話をしなければならない」

 「明日には色々周らなければなりませんし、仕事は山積みですね」

 「本当にねぇ…」

 

 出来ればゆっくりと休みたいのだけれどそうはいかない。

 ユーロピアには皇帝陛下の勅命で動いていたけれど秘密裏に行動していた為に一部の者しか何をしていたかを知らず、オデュッセウスも誰かに代わりを頼んでいなかった為に仕事が溜まってしまったのだ。

 大きくため息を吐き出しながらトレーニングメニューを消化して行く。

 

 午前五時半。

 朝風呂で汗を流し、再びメイド達に着替えを頼む。

 今度は灰色のコートなど普段着る物を着用し、朝食前に多少書類仕事を済まそうと執務室に篭る。

 入り口には警備の者が待機して室内にはオデュッセウス以外誰も居ない。レイラには騎士団の調整と部隊案などの作成を丸投げしたので今頃自室でペンを手に作業に没頭しているだろう。

 

 これで書類仕事に没頭できる――。

 

 「殿下。ラウンズの方が…お待ちを」

 「邪魔するわよ」

 

 警備の制止を無視して扉を開けたのはアーニャ・アールストレイム―――否!不自然なまでな笑顔を浮かべているという事は…マリアンヌ(仕事妨害要員)様。

 

 「あー…うん。問題ないから通して」

 「ハッ!失礼しました」

 

 敬礼して扉を閉めて警備に戻った兵士を確認して頭を抱える。

 

 「あら?どうしたのかしら?」

 「すみませんが今日のところはお引取りを――」

 「そんな邪険にしなくても良いじゃない」

 「色々と予定が立て込んでおりまして――」

 「知ってて来たに決まってるじゃない」

 「確信犯でしたか…」

 

 頭を抱えるどころか頭痛が発生したオデュッセウスはこめかみを抑えつつ困った笑みを浮かべる。逆にマリアンヌは頬を緩めてさらに笑みを浮かべていた。

 

 「ユーロピアでは色々やらかしていたらしいじゃない」

 「やらかしていたって…そんな私は父上様からの仕事を――」

 「その割りには楽しそうな写真を添付したメールをアーニャに送っているけど」

 「いえ、その…そう!仕事をするにも息抜きが必要なもの」

 「シャルルに言っても?」

 「真にすみませんでした!」

 

 結局相手をする事となり、朝食前に仕上げようとした書類等は手付かず…。

 朝食を取り、今度こそ執務をこなそうと執務室に戻ると今度は来客があった。

 

 「お、おはようございます…殿下」

 「おはようニーナ」

 

 ニーナ・アインシュタイン。

 ブラックリベリオン後、フレイヤ研究に向かわせない為にオデュッセウス専属技術士官として採用。今では帝都ペンドラゴンの防衛手段計画【アイアスの盾】に欠かせないエネルギー源の確保。サクラダイトに依存しない新エネルギー源の開発に携わってもらっている。

 

 「会うのは本当に久しぶりだね」

 「は、はい。お戻りになったと聞いたのでご報告を」

 「あぁ、分かった。立ち話もなんだ。執務室へ。誰かに飲み物でも持ってこさせよう」

 

 警備の者が一応武器を隠し持ってないかチェック後、執務室へ。ソファにかけるように促し、ベルを鳴らして呼び出したメイドに飲み物を注文する。

 ニーナより手にしていた書類を受け取り目を通した。

 この世界ではサクラダイトが流通している分、安定したエネルギー生産施設はサクラダイト関係が締めている。中には風力発電や太陽光発電の自然を利用した発電施設も存在するが自然を利用している為に日によって安定せず、大規模の電力を確保しようとすると広大な敷地が必要となる。

 そこであまり使いたくないがウランを使用したエネルギー施設。原子力発電施設の建設の試案が資料に書き込まれていた。が、試案なだけにかなり詰めが甘い。

 

 「エネルギーの発生などはかなりまとまっているようだが、もしもの備えが足りない。施設の地震対策や津波対策。放射能漏れの際の試案などが足りていないね」

 「す、すみません…」

 「ここら辺はロイドやミルビル博士と相談してみると良い。放射能漏れなどはブレイズルミナスを施設を囲むように展開するようにしても良いかもしれない」

 「全体を覆うとなればそれなりのエネルギーの確保が必要になりますね」

 「となると予備のエネルギーラインも配備するか…すまないが今度はそちら方面にも目を向けてもらえるかな」

 「はい。畏まりました」

 

 廊下で声をかけてきたようなか細く消え入りそうな少女は、自身の研究の事になると人が変わったように頼もしく見える。

 実際頼もしい部下であり、親しく接する事の出来る友人である。

 頼んだココアが届き、カップに口をつける。

 

 「あ、それとですね…シュナイゼル殿下の仕事を手伝っておりまして…」

 「おぉ、シュナイゼルの。どんな仕事かな?」

 「ブラックリベリオンでガニメデに取り付けた爆弾…フレイヤの開発を」

 

 飲み物が熱くて勢い良く流し込めるものじゃなくて良かった。

 あまりの驚きに噴出していただろうからね。それよりも聞き捨てならない言葉を聞いたようなのだが…。

 

 「私は第一皇子様専属の技術士官ですので協力と言う形になっています。あとシュナイゼル殿下が気を使ってくださって私の素性は他の研究員にも内密にしてくれました」

 「い、いや…なにを作っていると言ったかな?」

 「フレイヤという兵器です」

 

 私の死亡原因の開発が始まっていた件について。

 ココアどころではなく、血を吐き出しそうなのだが…。

 フレイヤ…コードギアスの世界で唯一とも言える戦略兵器。広範囲の空間ごと消滅させ、真空状態を生成。周りの空気を引き込んで爆発範囲付近にも損害を与える。

 これが出来上がれば各国が血眼になって開発者であるニーナを捜し求めるだろう。表に出せないような手段を用いてでも。だからこそ素性を隠してくれたシュナイゼルには感謝なのだが…。

 

 何故私に一言無かったのか!?………私が止めに入るからですね分かりました。

 

 「えと…駄目でしたか?」

 「いや、大丈夫。ダイジョウブダヨー」

 「本当に大丈夫ですか!?片言になってましたが…」

 

 大丈夫…大丈夫のはずだ。うん、悪い事ばかり考えるのは止めよう。第二次ブラックリベリオンではフレイヤでブリタニア軍と黒の騎士団の戦闘を止めたじゃないか。

 

 「大丈夫だよ…そうだ。ユーロピアに行っていてね。こっちに送ったお菓子があったんだ。一緒に食べないかい?」

 「宜しいのですか?」

 「勿論」

 

 その後はニーナとお茶を楽しみながら会話に花を咲かせる。周りの環境になれたかとか、仕事はきつくないかとか他愛の無い会話。のんびりとした時間を過ごし、さて仕事に戻るとフレイヤの事が悶々と頭の中で不安を掻き立て、結局半分も仕事が残ってしまった…。

 

 昼食を済ませると私の親衛隊となった皆との話し合いに向かわなければ。

 車を用意してもらいクレマン少佐が使っている専用のナイトメア研究施設に向かう。

 すると困り果てた様子のクレマン少佐を挟んでミルビル博士とロイドがなにやら騒いでいる。

 

 「あー…何をしているんだい二人とも」

 「これは~オデュッセウス殿下ぁ」

 「いえ、部外者を叩き出そうとしているだけで」

 

 …君も親衛隊所属ではないからここでは部外者だという事は言うべきか。黙っているべきか悩む。

 にしても説明が無ければ判断に困る。周りには眺めているだけのリョウ、アヤノ、ユキヤ。離れた所で興味が無いのかアレクサンダを眺めているアキト。遠くでコーヒーに酒を混ぜて飲もうとしているウォリック。二人を落ち着かせようとしているであろうレイラにハメル、そしてセシル。

 

 「マルカル大佐。説明を願っても?」

 「それが…今日は親衛隊の今後の方針を決める為に集まったのですが、アスプルンド博士とミルビル博士がアンナ…クレマン少佐に」

 「見せて貰っても良いでしょ?別に減るもんでも無いしさぁ」

 「だから管轄が違うだろう!クレマン少佐はオデュッセウス殿下直轄の親衛隊の技術班班長。ロイド博士はシュナイゼル殿下の肝いり部隊。その垣根を跳び越えて技術を提供しろと言うのは話が通らないだろう」

 「そこは大丈夫。特派はオデュッセウス殿下からも資金を貰ってるし半分はオデュッセウス殿下の部隊でもあると思うんだ。それと垣根云々だけど確かにミルビル博士はオデュッセウス殿下の部下だけど親衛隊じゃないよね」

 「私は良いのだ。殿下が来られたら話を通そうとここに来たの…だか…ら」

 

 異様なまでににっこりと微笑んでいるオデュッセウスが近付くとミルビルは口篭り、ロイドは引き攣った笑みを浮かべる。何となく察したセシル、レイラ、ハメルの三名はスーッと距離を取った。

 

 「二人とも技術者として優秀で研究熱心。新しい独自の開発で作られた新機種が要れば知りたくなるのも当然だろう。むしろその向上心に溢れる姿勢に私は感心すら覚えるよ」

 「お、お褒めの言葉ありがとうございます」

 「あはは~…」

 「双方の言い分もあるがここは君たちに頼むとしよう。君たちだけに技術を開示する代わりにクレマン少佐に君たちの技術を開示してくれ。もしくはそれぞれ専用の親衛隊機を三人で設計・開発してくれるかな。資金は私が何とかするし、シュナイゼルには私から話を通しておこう。他人への公開は堅く禁じさせてもらうけど」

 「共同制作ですか?ヒュウガ少佐達のアレクを」

 「クレマン少佐は彼らのことをあまり知らないんだね。二人とも神聖ブリタニアで屈指とも言えるナイトメア開発の第一人者さ。ロイドの方は多少性格に問題があるがね」

 

 クレマンに向けられたいつもの柔らかな微笑みに安堵した二人だったが、振り向いたオデュッセウスの目が笑っていない笑みに寒気を感じた。

 

 「ところで二人とも。ヴィンセント・エインセルの事なんだけど良いかな?」

 「あ!ボク、ランスロットの調整があったんだぁ」

 「そういえばヴァインベルグ卿の専用機の事で窺わなければならないんでした。殿下、これにてしつr――」

 「座れ」

 

 回れ右をして出入り口に向かおうとした二人は冷たく呟かれた一言で足を止めた。

 

 「私の可愛い可愛い妹に良い機体をプレゼント出来たのは本当に良かったよ。

  ――ただ私に何の話も無かったのには驚いたね。しかも机の上に置かれた請求書の数々。やはり新型ナイトメア開発にはお金が掛かるねぇ」

 「えーと…そのぉ…」

 「殿下、これには訳がありまして…」

 「ほぅ!私を納得させられる訳なんだろうね。よし、分かった。ではじっくり聞かせてもらおうか。なに時間はたっぷりある」

 

 正座を強要させられたロイドとミルビルは言い訳やら何をしたかなど詳細に話をし、一時間後に解放されたが慣れない正座をしていて痺れで一歩も動けなくなっていた。そこにオデュッセウスの命を受けたリョウ達が悪乗りをしながら痺れた足を突き、二人の悲鳴が響き渡った。

 何時の間にか笑みを浮かべたセシルさんも加わっていたが、気にしないでおこう。

  

 夕食をレイラ達と済ませ、話し合いを終わらせ執務室の椅子に腰掛けたオデュッセウスは時計に目を向ける。

 午後十一時…。

 次に机の上に目を向ける。

 今日済まそうと思っていた書類の山…。

 

 大きくため息を吐き出しながらギアスを発動させる。

 なんとしても明日の四時までには済ませられるように。

 何故なら明日からは書類仕事より帝国内の施設の視察に民衆との触れ合いイベントの開催などで連日忙しくなるのだから。

 私の辞書には睡眠時間と言うものが消失してしまったのだろうか…。

 

 胃が軋む思いをギアスで掻き消して一心不乱に朝の三時までペンを走らせるのであった。


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