コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 投稿が遅れて申し訳ありません。
 最近指がかじかんで思うように打てずに一時間オーバーして書き上げました。
 もっと早くから暖房を使えばよかったと後悔しております…。


第66話 「さらばユーロピア!」

 昼下がり。

 窓から入り込む日光は掃除の行き届いた廊下を鮮明に照らしていた。

 そんな廊下の曲がり角より様子を窺う人影があった。

 

 「大将、問題なさそうだぜ」

 「こっちも誰も居ないよ」

 

 元wZERO部隊ワイバーン隊のパイロットを務めていた佐山 リョウ少尉、そして反対側の廊下の様子を確認していたのは香坂 アヤノ少尉であった。

 二人が確認して問題ないと振り向いた先には日向 アキト少佐と成瀬 ユキヤ少尉に護られているオデュッセウス・ウ・ブリタニアの姿があった。真剣な面持ちの五人は付近を警戒しながら窓辺へと近付いて、頑丈なフックを窓枠に取り付け、フックと繋がっているロープを外へと垂らす。

 

 「こちらでお待ちを」

 

 無表情でそう伝えたアキトはロープに捕まり、壁を蹴りながら降りて行く。降り切ると素早く付近を警戒しながら上から覗いていたリョウに合図を送る。

 

 「問題ないってよ」

 「ウォリック大佐も脱出経路を確保してるって」

 「分かった。では行こうか」

 

 アキトが降りたようにオデュッセウスも降り行く。警備万全な三階からの脱出。難しいと思えたが頼れる仲間が一緒ならば問題ない。

 そう思い降り立ったオデュッセウスは目の前の窓ガラス越しに目線が合い、固まった。

 

 一瞬キョトンとしたがすぐさま険しい表情をするレイラ・マルカル大佐と目があった…。

 

 「や、やぁ…」

 「なにをしているのですか?」

 「えと、昼前の散歩…かなぁ…あはははは…はは…」

 

 苦笑いと乾いた笑いしか出来なかったオデュッセウスは諦めて両手を挙げて降参のポーズを取るのであった…。

 

 

 

 

 

 

 防弾仕様に改造された八人乗りの大型車にてオデュッセウスは肩を縮こませ、眉を下げていた。

 右隣には我関せずを貫こうとしているアキトが居り、反対の左隣には眉間にしわを寄せたレイラが座っていた。

 

 「まったく!殿下はご自身の立場を理解しておられないのですか!?」

 「いえ、そういう訳では…」

 「この一週間で十四回。一日に二回もですよ」

 「あー…えと…本当にすみません」

 「レイラもそのへんにしてあげたら?」

 「駄目です。こうはっきり言わないと聞いてくれないんですから」

 

 最後部に座るアヤノから助け舟が出されて顔を輝かせるがレイラに速攻で撃沈され表情まで沈んだ…。いや、この車両内で涼しい顔をしている者のほうが少ない。助手席に座っているクレマン少佐もアヤノと同じようにそわそわと心配そうな顔をしているし、リョウはばつが悪そうで、アキトは装おうとしているだけ。この状況下で笑っているのはユキヤと運転しているウォリック大佐のみだった。

 バックミラーに映るにやけた笑みを浮かべて様子を窺っているウォリックと視線があった。

 

 「ウォリック大佐もですよ。どうして車の準備をしていたんですか」

 「殿下の指示だから仕方ないじゃないですかマルカル司令。いや、私だってお止めしたんですよ。でも佐官といえ新入りの外人部隊で立場の弱い自分が神聖ブリタニア帝国第一皇子様の意向に逆らうのは不味いでしょう?」

 「なに言ってんだよ。娘のプレゼント買いに行きませんかって誘われたら二つ返事してたの何処のどいつだよ?なぁ、ユキヤ」

 「車の手配してきますって誰よりもヤル気十分だったよ」

 「ちょ、お前ら…」

 「はぁ…。ウォリック大佐もそちら側なのはよく分かりました。というか予想はしてましたがアンナまで」

 「ごめんねレイラ。でも皆とショッピングて聞いたからてっきりレイラも誘われたのかと思って」

 「結果的に合流出来たから良いんじゃね?」

 「よくありません!」

 

 怒られている最中と言えオデュッセウスはこの空間を結構気に入っていた。

 彼らにとってオデュッセウスは上官で軽々しく話せるはずのない皇族なのだが、お婆さんのところで出会ったオデュと接した感じで話してくれる。ラフに話してくれる分、気が楽なのだ。しかもそれでいて優秀。

 

 「ほら落ち着いて。折角皆で買い物に行く事になったんだから…ね?」

 「…はい」

 「大丈夫だって。高所は先に押さえたし(ユキヤ君に監視カメラハッキングして貰って監視中)、付近には腕の良い警備を紛らせているし(未だギアス響団に戻ってないジェレミア卿とロロ)、変装(いつもの内緒で出かける用の衣装)も完璧だから」

 「顔は隠す気ないんですか?」

 「んー…気付かれてもそっくりでしょ?なんて言うと何とかなるよ」

 「そりゃあ警護もほとんどつけずに人ごみの中を皇族が歩いているとは誰も思わないからねぇ」

 「だからって…はぁ」

 「あまりため息をつくと幸せ逃げちゃうよ」

 「誰のせいですか誰の」

 

 それぞれに騒ぎながら車を走らせること三十分。市街地へと出た一行は車を駐車場に停めて店が並ぶエリアへと足を踏み入れた。人で溢れる中央広場で足を止め、オデュッセウスは懐からをカードを取り出した。

 

 「はい、これ皆のキャッシュカードね。ユーロピアからの移籍だから今までのお金は使えないだろうから私なりに幾らか入れておいたよ」

 「宜しいのですか?」

 「私はプチメデとかで儲けているからね」

 「おっさんの懐からかよ!?」

 「さぁて、皆思う存分楽しんでくるように!明日にはユーロピアを発つからね」

 「しかし護衛は…」

 「大丈夫だよ。それに私は人と会う約束でね。警備も兼ねて人を連れてきているから」

 「では、そこまでは…」

 「問題ないさ。ほら、皆と楽しんでおいで」

 

 レイラは最後まで「護衛を」と言い続けたがクレマン大尉に引っ張って行って貰った。勿論彼女の護衛をアキトとウォリックの両名に頼んである。

 ウォリックは娘にプレゼントを、アキトはシンに土産を買って行くそうだ。なので買い物と警備を交代で行うようにとは言ってあるが、アヤノは間違いなくレイラやクレマンと一緒に動くだろうし、アキトがレイラと居るのならリョウとユキヤも一緒に行動する……つまり全員が固まって動く事になる。レイラの周りに人が増えるのはもしもの時に対応し易いだろうけど、何か問題を起こさないかが心配になって来た。

 

 チラッと人ごみの中にロロとジェレミアの二人の姿を確認しつつ、目的地へと進む。

 道中、オデュッセウスと気付く人も多少居たが、やはり本物とは分からずにそっくりさんで片付けられた。それ以外は何の問題もなく目的地である喫茶店に到着した。中庭にテーブルを並べて外でも飲食が楽しめるようになっている。待ち合わせ相手を探そうと入り口付近で見渡し、足を止めてしまった。

 

 テーブル席の一つに綺麗な少女達がお茶を楽しんでいた。

 

 ひとりはにこやかな笑みを浮かべた赤と桃色のドレスを着た少女。

 ひとりは緊張した趣で辺りを警戒している動きやすさ重視で選んだ服装の少女。

 ひとりは私に気がついて目をキラキラと輝かせているメイド衣装を着ている白髪褐色の少女。

 

 状況を理解したオデュッセウスは引き攣った笑みを浮かべ、軽く手を振りながら歩み寄る。メイド姿の少女が二人に囁き、こちらに気付いた二人が視線を向ける。

 

 「な、なにをしているんだいマリー…」

 「なにってお兄様の真似事です」

 

 にっこりと笑みを浮かべたマリーベルに返された言葉に何も言えない。

 完全にオフの日に着る服装で隣に座っているオルドリンが警戒に勤しんで居る所を見ると、私と同じ事をしたのだと推測できる。

 

 ― 最低限の護衛で抜け出して来た…。

 

 私がよくやったが為に怒るに怒れない。

 テーブルの前にずっと立っているのも不審なので店員を呼び止めながら開いている席に座る。

 軽い軽食も兼ねて頼んだのはコーヒーとフルーツサンドの二点。以前日本でユフィとメルディとで喫茶店に入ったときはユフィが物珍しそうにしていたが、今回のメンバーではそれはない。

 

 マリーベルは母親と妹がテロにより亡くなって、皇位継承権を失っていた間はジヴォン家で育ったがために他の皇族よりも庶民の生活に親しんでいる。そしてマリーの騎士であるオルドリンは元々親しんでいたものあると思う。今は付近の警戒に勤しんで余裕の余の字もないが。

 そしてメイド姿のトト・トンプソン。ギアス饗団のギアスユーザーのひとりで、饗団より送り出せる数少ない一般常識を持つ少女。彼女は幼い頃よりジヴォン家のハウスメイドとして仕えており、饗団からオルドリンの監視の命で派遣されている。彼女とてオルドリンと長く暮らしてきたのだ。こういう店にも多く行っていただろう。…だと思うのに何故かそわそわしている。何故だ?

 

 「さてと、外で呼び出した訳を聞こうかな?」

 「一度、お兄様みたく外出してみたかったので」

 「……まさかそれだけ?」

 「はい♪――というのは半分で今度の予定の話も兼ねてお食事でもと」

 「その半分のおかげでオルドリンは大変そうだけどね」

 「お嫌でしたか?」

 「嬉しいよ。勿論」

 

 微笑みを浮かべて店員が運んできたコーヒーに口をつける。

 平日の午前10時という事もあって付近のテーブルにはひとりの女性客以外見受けられない。これなら多少声が大きくても問題はないだろう。

 

 「マリーは今後ユーロピアで活動して行くんだよね?」

 「はい。シュナイゼルお兄様がヴェランス大公とお話されて、特務遊撃隊として自由に行動出来るようにして貰いました」

 「戦力的に問題は?」

 「パイロットにランスロット・グレイル、ブラッドフォード、ヴィンセント・エインセルの最新鋭機共に問題ありませんわ」

 「それは良かっ―――ヴィンセント・エインセル?」

 「あら?お聞きになっていませんの?」

 「あぁ、私は聞いてないね…もうヴィンセントの改造型が出たのか…」

 

 ヴィンセントは未だ先行量産機が多少配備されただけの最新鋭機。そのほとんどがブリタニア皇帝直属の騎士団に配備される予定となっている。ルキアーノとオリヴィアが乗ったヴィンセントはオデュッセウスが開発局に置いてあった二機を貸し出してもらったのだ。皇族の権限とナイトメア開発局の設立を行なった事もあり、すんなりと事が進んでよかった。

 ただルキアーノのみに頼んだのにオリヴィアも手伝うと打診があったと聞いたときは心底驚いたが…。

 

 話が逸れてしまった…。

 何にしても改造型が出来ているというのは技術的にも戦力的にも喜ばしい事だ。先行試作機から正式量産機が出来上がり、改造型の流れだろうから、数週間で正式採用と改造型を造り上げたのだろう。

 あとでレイラに話して正式量産化されたヴィンセントを私の騎士団にも配備してもらえるように書類作りを頼まないとな。

 

 などと考えながら感心した様な表情を浮かべるオデュッセウスにマリーベルたちは首を傾げる。

 

 「もしかして…ロイド伯爵、もしくはウェイバー博士からお聞きになって――」

 「ん?なんでそこで二人の名前が………まさか…」

 「お二人が共同で作った機体なのですが」

 「―――後でじっくり問い詰めなきゃね」

 

 一気に頭痛が走る。

 絶対私に知らせずに後から請求書が来るパターンだよ。確か原作でもあったような……あー、ギルフォード卿が搭乗したヴィンセント隊。あれは確か後からシュナイゼルに請求書を送ったんじゃなかったっけ。

 

 「どうしましょうか。お兄様もご存知の事かと思っていたのですが、お返しした方が宜しいですか?」

 「いや、あの二人には色々話さないといけないけど、ヴィンセント・エインセルはそのままマリーの部隊で使っておくれ。妹を護る騎士達がより強いものになると思えば痛い出費ではないよ。なんならヴィンセントタイプも取り寄せようか?」

 「ありがたい話ですが今はお兄様からのエインセルで満足ですわ」

 「ところでソキアさんは大丈夫かい?」

 「お兄様はああいう子がタイプなので?」

 「そういう意味じゃなくてね…彼女元々は軍属じゃないだろ。戦闘後の後遺症とかはなかったのかい?」

 「報告はありませんでしたけど…オズから見てどうだった?」

 「戦闘後多少震えていたりしてました。けれどソキアは大丈夫だと言ってました…」

 「けどって感じだね。気にしてあげてもらえるかな」

 「畏まりました」

 

 話していると頼んだフルーツサンドが届き、一口頬張る。

 するとトトがなにやらにこやかな笑みを浮かべた。なにかなと疑問符を浮かべているとオルドリンが視線を察してトトへと視線を向ける。振り返った彼女は何処か納得したような表情をしていた。

 

 「トトはね。殿下のファンなんです」

 「お、オルドリン様!?」

 「この間だってソキアと一緒に殿下が映っていた番組見てたじゃない。確か子供のライオンと映っていた」

 「あぁ、結構前に動物園に行ったような…サンディエゴのサファリパーク視察だったかな」

 

 正直ユーロピアに来る予定が立つ前だったぐらいしか覚えていない。というか最近のどたばたが忙しすぎて忘れていた。思い返してみると漫画でもそんなシーンがあったようななかったような…。

 

 「それで何処かそわそわしていたのか」

 「す、すみません」

 「いやぁ、謝る事はないよ。むしろ喜ばしい事だよ私的には」

 

 トトにはシンの記憶の忘却を響団越しに依頼はしたが、会うのは初めてのはずだ。

 記憶が曖昧なのは年だからとは考えたくないなぁ…。

 

 「と、話がそれてしまったかな。専属騎士団といっても五名…ユーロ・ブリタニアの動きも気になるところか」

 「えぇ、そこでお兄様のお力をお借りしたいのですけど」

 「本国はユーロ・ブリタニアへの介入を開始した。その現状でも私に頼むという事はマリーもシュナイゼルもこれ以上の武力介入を好まない。そういう判断かな」

 「お兄様の推察どおりです。シュナイゼルお兄様は過度な武力介入は要らぬ反発を招くと考えております」

 「ならば私の騎士団ではなく、シュナイゼルに取り込んでもらった聖ミカエル騎士団。しかし聖ミカエル騎士団は再構成後担当地域の防衛と支配地域の拡大に勤しむ。自由に動くとしたら小勢かつ精鋭部隊…それで私の麾下に入れてもらったアシュラ隊を貸して欲しいと言うわけだね」

 「はい。駄目でしょうか?」

 「可愛い妹の頼みを断れないのを知ってて聞いているね。勿論構わないよ。但し、彼らを死なせないように指揮してくれ。彼らはかなりの暴れ馬だからね」

 「お借りするからには無事にお返しする事を誓います」

 「ところで殿下。先ほどからお髭に生クリームが…」

 「もう少し早く教えて欲しかったなぁ」

 

 真面目な話を髭にクリームをつけていた状態でしていたのかと思うと恥かしくて顔が熱くなる。ポケットより取り出したハンカチで慌ててふき取り平静を保とうとするが、マリーが先ほどまでの真面目な表情から一変して微笑んでいて余計に顔が熱くなる。

 

 「お兄様のそのような表情久しぶりに見ました。いつまで経ってもお変わりないのですね」

 「よく会った人物に同じ事を言われるけれどそんなに変わってないかな」

 「では、そろそろ私達は戻ります。今頃大慌てでしょうから」

 「特にシュバルツァー将軍が…マリーは大丈夫としても私が怒られそう」

 「帰るのかい?これからどこか遊びに行こうかと思ったのだけど」

 「で、殿下?」

 「あら、宜しいので」

 「私の真似をしたというのなら本家を見せないとね。確かこの付近に規模は小さいけど動物園があったと思うんだ」

 「マリーも殿下も…」

 「殿下呼びは不味いな。オデュ呼びでお願いしようか。私はマリーと同じでオズと呼ばせて貰おうかな」

 「え、あ、お、オデュ ―― さんもそろそろ戻った方が宜しいと思うのですが…」

 

 後の事を考えて頬を引き攣らせながら進言したオルドリンはオデュッセウスの満面の笑みに言っても無駄だと理解した。

 

 「怒られるのならそれまでは存分に楽しもう」

 

 この後、マリーとオデュッセスを筆頭に動物園に行った一行は夕刻近くまで楽しみ、オルドリンとトトはシュバルツァー将軍にこっぴどく叱られ、オデュッセウスはかんかんに怒ったレイラの説教を帰国の便に乗る一時間前まで正座して聞くのであった…。

 

 ちなみに人ごみに紛れて護衛していたロロはレイラに同情するのであった。

 

 

 

 

 

 

 オルフェウスは使い捨ての携帯の番号を押して相手が電話に出るのを待っていた。

 別れる際にオデュッセウスが今日まではユーロピアに滞在すると聞いていたので、滞在している間に聞いておきたい事があったのだ。

 数コール後、反応があり耳を澄ます。

 

 『もしもし、オルフェウス君かな』

 「あぁ、今周りには誰も居ないか?」

 『今はね。先ほどまでこっぴどく叱られて扉の前には警備の者が付いているが問題ないよ。って、そっちはやけに騒がしいね』

 「ヴァイルボルフ城で使ったサザーランドの整備をしているからな」

 

 ギアス饗団より奪ったトレーラーとサザーランド二機は成功報酬としてロロが使った分も含めて貰ったのだ。ガバナディに内部に発信器や爆弾などがないか徹底的に調べてもらい、今は搭乗するパイロット用に改造してもらっている。

 

 『これで君たちの戦力が増えた訳だ。まぁ、それは置いておくとして、電話してきたという事は何か聞きたい事があったのだろう?でもさすがにギアス饗――』

 

 そこまで耳にして携帯電話を近くに腰掛けた女性に渡す。

 紫色の長髪にサングラスの女性は電話を耳に当てて深呼吸を行なう。

 

 「もしもし」

 『・・・・・・。もしかして、コーネリア?』

 「今はネリスと名乗って行動してます」

 

 ネリスと名乗った女性。

 コーネリア・リ・ブリタニア。

 エリア11でブラックリベリオン後、ギアスに関して調べていると言い接触してきた人物。

 一応変装していたが素人が行なった変装など知っている人物から見れば一発で見抜ける。偽名を使っていたがすぐにコーネリアと理解し、とりあえずギアス関係に手を出した理由だけでも聞くことにした。

 理由は妹を不幸のどん底に落としたギアスユーザーに対しての復讐。

 

 詳しい話はしなかったが相手がコーネリアと分かれば考えれば理解出来た。

 コーネリアの妹、ユーフェミア・リ・ブリタニアはエリア11の暴動で亡くなっている。しかも噂で聞く人物像とかけ離れる命令を出したと反ブリタニア勢力の間では囁かれた。実際ユーフェミアが開催した特区日本で皇族の命にて虐殺が行われたらしいのだからそう捉えるのが正しい。

 しかしそこにギアスが関わっているのなら間違っている。ギアスによっては相手に強制する事だって出来る。オルフェウス自体は成りすます事が出来るわけだし。

 

 大事な家族をギアスによって失った…。

 ギアス饗団にエウリアを殺された自身と重なった。

 個人のギアスユーザーの可能性も少なからずあるだろうが、饗団が関わっている可能性の方が大きい。

 同じ饗団を追う身であるならば戦力的にも行動を共にしたほうが良いだろうと仲間に迎えたのだ。コーネリアはナイトメアの騎士としても指揮官としても優れているのは分かりきっている。それに一緒に居る変装をしている男性――ギルバート・G・P・ギルフォードも帝国の先槍と名の知れた騎士。戦力としては十分すぎる人物達。

 ただ不審点もあった。

 

 どうして自分がギアスの事を知っているのを知っていたかだ。問いただしてもある人物から聞いたとしか返って来なかったが、ユーロピアでオデュッセウスと共に行動してなんと無しにかオデュッセウスが教えたのではないかと直感ではあるがそんな気がしていた。

 ゆえにネリスに電話に出てもらったのだが、話した反応から当たりだったようだ。

 ネリスに電話のスピーカーボタンを押してもらい、自分にも聞こえるようにしてもらい、二人の話に耳を傾ける。

 

 『あー…オルフェウス君も人が悪い。私が妹に甘いと分かってて電話させたね…』

 「オルフェウスから話は聞きました。兄上がギアス饗団と関わりを持っていた事も」

 『否定はしないよ』

 「他にも色々…饗団の思惑と同調していない事も。だからユフィの件には兄上は関わりないと信じています」

 『そうか…ありがとう』

 「私は兄上に聞きたい事があります。ギアス饗団の本拠地が何処にあるのかを――教えてくださいますね」

 『……出来ない』

 

 多少は期待していたもののやはり答えられなかったか。

 弟妹に甘いと聞いていたことから大事にしているのだろう。だからこそ危険な饗団本部の場所は答えない。

 それでもネリスは喰らい付く。

 

 「兄上は悔しくないのですか!?ユフィがあんな目にあっているというのに!!」

 『答えるわけにはいかないよ。サザーランド二機を手に入れてもたかが四機。饗団はナイトメア戦力を持たないとしてもギアスユーザーの中にはナイトメアにも渡り合える者もいる。そんな連中に挑めば自殺行為だ。そんな死地に君を送り出すようなことはしたくない』

 「なら兄上のお力をお貸し下さい。それならば…」

 『出来ない。私の力を持ってすれば饗団は潰せると思う。が、手出しは出来ない。分かってくれ』

 「兄上…何故――ッ!?」

 

 ネリスを制止して電話を取る。

 噂以上にオデュッセウスは身内に甘いようだ。

 

 「そうか。神聖ブリタニア帝国第一皇子が手が出せない所にあるのか。ユーロピアはブリタニア本国が介入を始めたから違う。ならば中華連邦か白ロシアのどちらかか」

 『……さぁ、どうだろうかね』

 「あまり甘すぎると己どころか大事な者を失うぞ」

 『忠告痛み入るよ。けれど妹が居る君になら分かるだろう?それに君のお母さんだってそうだよ。オルドリンとマリーの初陣が心配でブラッドリー卿に頼んだ仕事に乗って来るんだもん。今日だって喫茶店や動物園までひっそりと付いて来て…』

 「………妹…母…?なにを言っているんだ?それに先ほどこちらのナイトメア数を当てたな」

 『あっ…。プツッ、ツー、ツー、ツー』

 

 答える事はなく電話を切られた。

 もし次会う事があれば色々と問いたださなければならないな。

 短く息を吐き出しながら立ち上がる。

 

 「さて、君の兄上は心配していたようだがどうする?」

 「ギアス饗団を探し出して報いを受けさせる」

 「饗団はギアスユーザーを多く持っているぞ」

 「正面から攻めるだけが手ではない」

 「ならばとりあえずは中華連邦か」

 

 覚悟も行き先も決まった。ならば進むのみ。

 途中ユーロ・ブリタニアの支配地域を通るはめになるだろうがこのメンバーなら問題ないだろう。

 この行動がトトにより記憶から消された家族と出くわす事になるとも知らずに、オルフェウスは進み始めた。


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