コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 新年明けましておめでとうございます。
 本年も宜しくお願い致します。


第65話 「亡国のアキト編 エピローグ」

 ヴァイスボルフ城での聖ミカエル騎士団とwZERO部隊との戦闘から一週間が経った。

 四大騎士団と呼ばれる騎士団の内、三つの騎士団が壊滅状態となったユーロ・ブリタニアは大きく立て直さなければならない状態に陥っている。

 対するユーロピア共和国連合軍もジィーン・スマイラス将軍の軍事政権に参加した上層部に兵士達のほとんどが神聖ブリタニア帝国の航空艦隊により壊滅状態。独裁政権を立ち上げようとしたスマイラス自身が戦死した為に軍事政権は空中分解、元々政権を握っていた者達との軋轢が生じてユーロピア共和国連合も思うように動けない。

 お互いに大きな戦力を失い混乱状態にあったのだがとある人物の助力でユーロ・ブリタニアは立て直し、防衛だけでなく攻勢計画を練れるまでに至っている。

 

 とある人物とは神聖ブリタニア帝国より多くの航空艦隊を引き連れてユーロピアへと遠征した、宰相のシュナイゼル・エル・ブリタニアである。

 

 現在ユーロ・ブリタニア領サンクトペテンブルグにあるカエサル大宮殿にてヴェランス大公との協議に入っていた。

 ヴェランス大公の隣にはミヒャエル・アウグストゥスとアンドレア・ファルネーゼが、シュナイゼル側にはマリーベル・メル・ブリタニア、オルドリン・ジヴォン、カノン・マルディーニが同席していた。

 

 「本国はどうされるおつもりなのかお聞かせ頂けますかな」

 「勿論ですよヴェランス大公」

 

 問うたヴェランス大公は出来る限りいつも通りに問うたつもりだったが、声色や雰囲気から不安や恐れを感じ取れる。逆に問われたシュナイゼルは声色、雰囲気、表情すべてが余裕に溢れていた。

 たった一言ずつ言葉を交わしただけだが、その一言だけでユーロ・ブリタニアと神聖ブリタニア帝国の状況を認識できる。

 

 ユーロ・ブリタニアは恐れていた。

 なにせ総大将であるヴェランス大公はキングスレイ卿により皇帝陛下に対しての反逆罪を問われており、皇帝直属の軍師だったジュリアス・キングスレイ卿は一時でもユーロ・ブリタニアのトップに立ったシン・ヒュウガ・シャイング卿により殺害された。

 ただでさえ亡命や助力を受けながらも祖国を取り戻そうとして肩身が狭い自分たちがこれからどのような事を言い渡されるか恐れている…。

 

 その様子を知っているシュナイゼルは内心苦笑する。

 

 「本国としては現在弱体化したユーロ・ブリタニアに今まで通りに、ユーロピア共和国連合の相手をして貰うのは難しいと考えております」

 「となると本国主導になるのか…」

 「いえ、総指揮はいままでどおりヴェランス大公にお任せします」

 

 あっさりと告げられた言葉にヴェランス一同は驚きを隠せなかった。

 最悪でもヴェランスの拘束に主だったメンバーは除外されると思っていたからだ。

 

 「宜しいのですかな?私はキングスレイ卿に皇帝陛下への反逆罪を問われておりますが」

 「構いませんよ。そもそも本国はその事を知りませんし、宰相である私が問題ないと判断しました」

 「―――そういう事ですか…」

 「幾つか提案があるのですが」

 

 宰相と言えども勝手に判断できる問題ではない。なのにそれを行いさらに提案があると言う。

 つまり「黙ってやったんだからこちらのいう事を聞けよ」とヴェランス大公は言われているのだ。しかも内密とは言え恩を着せられた形でだ。どんな無茶を言われても断り難い…。

 

 「まずは本国からの援軍を受け入れて欲しいというのがひとつ、次に聖ミカエル騎士団の指揮権を頂きたい」

 「聖ミカエル騎士団の指揮権ですか…」

 「当然でしょう。彼らは神聖ブリタニア帝国に牙を向こうとしたシン・ヒュウガ・シャイング卿の騎士団。監視を兼ねて我々の指揮下に置こうかと。代わりに騎士団再建に掛かる人員や資金はこちらで用意しましょう」

 「ふむ…ミカエルの事は理解した。それと援軍の規模はいかほどか?」

 「今予定しているのは二個騎士団と特務遊撃としてマリーベルのグリンダ騎士団を想定しております」

 「皇女殿下自ら…ですか」

 「なにか問題おありで?」

 

 にこやかに微笑むマリーベルにヴェランスは警戒する。

 ユーロ・ブリタニアと本国の関係は拗れている。表立って動いてないだけで本国と敵対している貴族は多く、本国だってそれを理解している。そんな魔女の鍋のように色んな意図が混ざり合ったところに皇女を放り込むのだ。成人もしていない少女であるが投げ込んでも問題ない能力を持っていると判断した方が良いだろう。

 

 「あとはユーロ・ブリタニア勢力圏の一部を神聖ブリタニア帝国に割譲する事ですね。これはキングスレイ卿を討ったことに対する謝罪としてという形で。勿論そちらの事情を考慮して貴族方の反感が少ない地点を検討させて貰いました」

 

 渡された簡単な資料に目を通し、小さく息を付いた。

 確かに記された地点なら貴族達の反感は少ないだろう。端からここまで用意していたシュナイゼルの事だ。もし反感があっても取り込むぐらいのことはやってのけよう。

 聞いていた以上に厄介な相手だ。

 

 「本日は簡単な話し合い。また後日に公の場を用意しようと思います」

 「ええ、こちらに反対する理由は無い。それに寛大な処分で済ませて頂いた事に感謝します」

 「いえ、これも神聖ブリタニア帝国とユーロ・ブリタニアの関係を考えてこそ。これから先もどうぞよろしく」

 

 簡単な話を終えると軽い握手を交わしシュナイゼルは退席した。

 安堵の吐息をつきながらヴェランス大公は背もたれにすべてを預けて楽な姿勢を取った。

 

 「かなりの条件を付けつけられましたな…」

 「言うなミヒャエル、これぐらいの条件で許されたのだ。むしろ幸いだったと考えるべきだ」

 「されど四大騎士団のひとつを寄越せとは。本国は今まで以上の発言力を持つ事になりますな」

 「申し訳ありません。聖ラファエル騎士団が健在ならあのような事は…」

 

 苦々しい顔をするファルネーゼに視線を向けたヴェランスは顔を横に振った。

 

 「貴公らは良くやってくれた。これからも私を、ユーロ・ブリタニアを支えてくれ」

 「ハッ!」

 「それとヴィヨン卿の容態は如何か?」

 「順調に回復していると。監視をつけなければ包帯塗れの状態でこの場に居た事でしょう」

 

 冗談の混じった発言に三人は軽く笑いあう。

 ――いや、本当に来そうなのだから冗談でもないか…。

 

 ヴェランス大公救出の際に殿を行なった聖ガブリエル騎士団総帥のゴドフロア・ド・ヴィヨンは、あの後の戦闘を生き残り生還したのだ。しかし機体は大破状態でコクピット部分も大きく損傷。本人も骨折やコクピットの破片が肉体を切り裂いたりと大怪我を負ってしまった。

 現在はカエサル大宮殿近くの大手の病院に入院しているが、大公の為にと勝手に抜け出して若手の騎士団指導を行なっていたりするので監視役は大変である。

 

 聖ガブリエル騎士団と聖ウリエル騎士団は再編成が急務であり、兵達を多く残している聖ミカエル騎士団は本国が手中に握った。ヴェランスが頼りに出来る騎士団は聖ラファエル騎士団のみとなってしまった。

 

 この呼び方は正しくなかった――聖ラファエル混成騎士団。

 

 ハンニバルの亡霊に減らされた戦力の大半を失い、キングスレイやシンのせいで荒々しく動いた情勢を生き残った聖ラファエル騎士団と聖ガブリエル騎士団の混成騎士団。忠誠心も練度も申し分なく、現状ユーロ・ブリタニアを一番支えてくれている。

 多少笑って一息つけたヴェランスはある者達の事を考える。

 

 本国に刃向かったとの事で処刑されたシン・ヒュウガ・シャイングとジャン・ロウの事ではなく、シンを養子として引き取っていたシャイング家のマリアとアリスの二人の事だ。

 シャイング家はシンが捕縛された時点でユーロ・ブリタニアに反逆した一族として領土と資産の没収、本国により幽閉を申し渡されたのだ。その後、二人がどうなったかの報告は受けていない。シャイング家が責めを負った形になってしまったこともあり、二人がせめてもの幸せな人生を歩める事を祈らずに居られない…。

 

 

 

 

 

 

 レイラ・マルカルは現状に対して途惑っていた。

 ヴァイスボルフ城での戦闘後、神聖ブリタニア帝国の航空艦に移送されたwZERO部隊とアシュレイは再びヴァイスボルフ城に連れ戻された。移送された時は捕虜として扱われるのかと思われたが、むしろ客人を持て成すような扱いに一同が困惑した。いや、アシュレイだけは別段動じる感じはなかったが…。

 ただ気になるのは幾度かアキトだけが連れていかれた事があったぐらいだ。本人に誰が何度聞いても答えない為にもはや誰も聞かなくなってしまった。

 

 「やぁ、久しぶりだね」

 

 中庭の庭園には円形の大きな机が置かれ、その上に豪華な食事や飲み物が並んでいた。その円形の机の周りに並べられた椅子に腰掛けた人物が軽く手を振って声をかけてきた。見覚えがある人物はお婆様たちの所に居たオデュさん―――いや、今は別の呼び方が良いのか…。

 

 「はい。神聖ブリタニア帝国第一皇子オデュッセウス・ウ・ブリタニア殿下」

 

 返事をしながらその名を口にすると皆が驚きの声を漏らし、本人は照れたようで恥かしそうに笑みを浮かべる。

 

 「いやはや、名乗る前に言われるとは…まぁ、立ち話もあれだし食事でもしながら話さないかい?」

 「しかし―」

 「おお!良いのかおっさん」

 「おいおい、口の聞き方ってもんがあるだろうに…」

 「どうぞ。そのために用意したんだ。ここで断られたら冷めてしまう」

 

 相手が誰でも物怖じしないアシュレイが我先にと席について食事に手をつけた。言動と行動にウォリック中佐がため息を吐く。

 どうして良いか分からずにいた皆にとってはアシュレイの行動力はありがたいものだった。アシュレイの行動に釣られて「じゃあ、私も…」と動き易くなったからだ。

 皆がそれぞれ席に付き始めた中でレイラはゆっくりと近付き、話し易いように近くの席に腰を降ろした。オデュッセウスではなくオデュと面識があったリョウ、ユキヤ、アヤノの三名も近くの席につく。アキトだけが立ったままで様子を伺っている。

 

 「戦闘の終結、皆の身の保障、捕虜である私達への高待遇…本当にありがとうございます」

 「捕虜?そう思っていたのかい?ああ、すまない。私は友人と友人の友人を保護したとしか思っていなかったよ」

 「……それでお話とは何でしょうか」

 「率直に言おう。私の元に来ないかい?」

 「………はい?」

 

 突然の申し出に頭の中が真っ白になる

 神聖ブリタニア帝国の皇子自らの引き抜きに耳を疑う。それは皆も一緒でアキトと食事に夢中なアシュレイ以外は目を見開いて注視していた。

 

 「あ、これは無理にという訳ではないんだよ。ユーロピアに戻りたいと言われる方には出来るだけ手を尽くそうと思うけどとりあえず話を聞いて貰えるかな?」

 「え、あ、はい」

 「こちらとしてはレイラ・マルカル中佐を浮遊航空艦アヴァロン級二番艦ペーネロペーの艦長兼私付きの将として招きたい。今までは博士に兼任して貰ってたんだけどさすがに忙しいし、指揮官としては君の方が優秀だし、戦術や思想的に凄く好ましいから。

  君だけをと言う訳ではないよ。ワイバーン隊のリョウ君達に民間からの協力者であるランドル博士達にアレクサンダに携わったクレマン大尉を中心とした技術班も出来れば来て欲しい。階級は全員ひとつ上げるつもりです。それと私付きと言う事で給料もかなり上がるかと…」

 「宜しいのですか?私はユーロピア共和国連合所属ですよ。それにリョウ達は貴方方ブリタニアが支配している日本人。それを皇族が傍に置くのは問題があるのでは?」

 「ギネヴィア辺りは言ってくるだろうね。でも言って来れば来るで何とかなると思うよ。それと君がユーロピア所属なのは知ってるよ。でも、君はユーロピアに戻れないだろう?」

 

 真っ直ぐな瞳で見つめられながら投げかけられた言葉に少し俯きながら納得する。

 レイラは納得できたが、理解できていない皆を代表してアヤノが口を開く。

 

 「レイラが戻れないってどういう事?」

 「いや、戻る事は可能なんだけどかなり面倒でね。

  死んだ事になっているのは別に良いんだけど、レイラ・フォン・ブライスガウとして知られたのは不味かったんだよ」

 「?…どゆこと?」

 「えーと…現状ユーロピア共和国連合はスマイラス将軍の軍事政権が崩壊した事で荒れているよね」

 「うん。それでどうレイラと繋がるのさ?」

 「アヤノ…少しは自分で考えたら」

 「じゃあユキヤは分かってるの?」

 「そりゃあ勿論」

 「ははは、まぁ、上層部に一気に空席が開いて欲のある者は活発的に動くだろう。そういう者にはレイラは利用価値のある格好の道具と映るし、敵対勢力からしたら目触り過ぎる存在に映るんだ。レイラにその気が無くてもそういう者達はあらゆる手で動き出すだろう。そういった理由で戻れないってことさ」

 「なによそれ!」

 「落ち着けってアヤノ」

 「だってさぁ…リョウ…」

 「そうならない為にオデュのおっさんが話してるんだろ」

 「いや、だから言葉使い」

 「良いんですよウォリック中佐。気楽な方がありがたいんで」

 「はぁ…」

 「そうだ。ウォリック中佐は如何しますか?副艦長兼副指令として」

 「良いんですか?俺みたいのが副司令で」

 「ええ、勿論。あ!しまった…少し待っててくださいね」

 

 何かを思い出して立ち上がったオデュッセウスは慌てて建物の方へと駆け出していった。

 何事かと見つめているとひとりの男性に肩を貸しながら、数名の真紅の騎士の衣装を着た人物を引き連れて戻ってきた。

 その人物を見てランドル博士やアシュレイが勢い良く立ち上がる。

 

 「あなた!?」

 「テメェら!?」

 

 現れたのはアシュレイ・アシュラのアシュラ隊所属の騎士達にソフィ・ランドル博士の夫でBRSの試験中に意識不明に陥ったタケルであった。

 ランドル博士はタケルを抱き締め、アシュレイは仲間の元に駆け寄って喜ぶ。そして大声で驚く。

 

 「ヨハネ!お前その腕どうした!?」

 

 ヨハネと呼ばれた青年はアキトの攻撃により切断された筈の左腕を軽く動かして様子を見せる。アシュレイは腕とヨハネの顔を交互に見て驚きを隠せないで居る。

 

 「オデュッセウス殿下が本国で治療を受けさせて下さり、義手ですが動くようになりました。これでまたアシュレイ様の元で戦えます」

 「お前って奴は……おっさん!いや、オデュッセウス殿下!ヨハネのこと、本当にありがとうございました!」

 「良い仲間を持ったね。これからも大切にするんだよ」

 

 目元を潤ませながら深々と頭を下げたアシュレイはオデュッセウスの言葉にニカッと笑みを浮かべる。ランドル博士も深々と頭を下げる。

 

 ブリタニアの医療技術は凄い物だ。

 何十、何百と撃たれたマオも爆破されたG-1ベース内で負傷して動けなかったアルベルト・ボッシ辺境伯(双貌のOZより)だってブリタニアのサイバネティック医療を受ければそれまでどおりに近い状態まで治せるのだ。

 あ、意識不明にあったタケルはその限りじゃないけれど。意識を呼び起こさせるのは無理だ。意識を取り戻せたのはオデュッセウスのギアス【状態回帰(ザ・リターン)】のおかげである。

 

 状態回帰(ザ・リターン)の効果は範囲内、もしくは接触している生物の状態を良い状態まで戻す事。苛立っている者には安らぎを、体調を崩している者には健康状態へ、怪我をしている者は怪我をする以前の状態へと戻すのだ。

 最近の簡易的な実験のおかげで分かった。この事は叔父上様や父上様にはまだ伝えてないし、伝えない方が良いだろうと判断。

 ちなみに生物は生きている者・物に対して有効で、植物にも有効であることが判明した。ただ調理済みだったり収穫済みの食物には無理だった。どうやら根を張っている状態までか水などを得て保たれている間までなのだろう。

 

 「タケルさんやヨハネ君もそうだけど他の皆さんにも色々用意するつもりだよ。

  クレマン大尉達技術部の方々には技術士官として採用するし専用の技術施設を用意する準備があるし、ランドル博士の民間から協力している方々には最先端の研究所や予算確保を約束するよ。

  リョウ君たちやハメル少佐の警備部にも出来る限り望みを叶えるつもりだし、ウォリック中佐の娘さんの医療費に治療も最高の物を用意しよう」

 「高待遇ですね…ヒュウガ大尉はどう思いますか?」

 「…俺はもう引き受けた」

 

 オデュッセウスが出した条件に興奮していた皆だったが冷静なレイラだけはアキトに意見を求めたのだが、淡々と答えられ制服の階級章を見せられる。今までの大尉の階級章から少佐へと変わっていた。

 

 「受けられたのですか?」

 「ああ、取引を持ちかけられてな。俺はそれに同意した」

 「アキトが受けたんだったら俺らも行くぜ」

 「あたしも賛成。これからは殿下って呼ばなきゃね」

 「リョウはおっさん呼び止めなくちゃね」

 「おっさん呼びで良いよ。……三十超えたらおじさんなのかなぁ…」

 

 ぼそっと悲しそうな呟きが聞こえたような気がしたがそこは置いておこう。

 アキトが引き受けてリョウ達ワイバーン隊は乗り気でランドル博士やウォリック中佐も受ける気だ。ただクレマン大尉だけがレイラの様子を窺っている。

 

 「申し訳ありませんが私は保留で宜しいでしょうか。警備部の皆と話をしなければなりませんので」

 「構いませんよ。ここ数日はこちらで滞在するつもりなので、その間に答えていただけるのなら」

 

 ハメル少佐は保留、あとはレイラの答え次第だろう。

 真剣な眼差しでオデュッセウスの瞳を真っ直ぐ見つめる。それを返すように見つめ返してくる。その姿に微笑を浮かべた優しげなオデュッセウスの普段の様子は影を潜めた。

 

 「ひとつお伺いしますオデュッセウス殿下。殿下は私達を取り入れてなにを成したいのですか?」

 「成したいか…」 

 「はい。どのような未来を描いているのかをお聞きしたいのです」

 

 ブリタニアの皇族のひとりとしてどのような先を考えているのかを聞きたかった。

 もしそれが自分の意思と反する物だったら断る気でいた。

 ―――居たのだが…。

 

 「うーん、そうだね。穏かな田舎にでも移り住んでのんびりと過ごしたいかなぁ。弟妹や友人とはいつまでも仲良くしてね。あとは農園か喫茶店でもしようか。でもその前にお嫁さんも欲しいし…うーん……」

 

 予想していた答えとはまったく別の答えにレイラは噴出してしまった。

 困り果てた笑みを浮かべて困惑するオデュッセウスを見て、全員が声を上げて笑う。

 予想していた答えを聞くよりもしっくりと来た。

 

 「分かりました。お誘いをお受けいたします」

 「そ、そうかい!?良かったよ。では、これから宜しくお願いしますよ」

 「こちらこそよろしくお願いします」

 「良し!とりあえず今日は思う存分呑んで食べて楽しんでくれ」

 

 まるで宴会のようになった場に皆の笑みが漏れる。

 久しぶりの休息に一息つく。

 ただ気になるのはアキトがオデュッセウスと交わした契約だが、聞いてみたけれども答えてはくれなかった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 神聖ブリタニア帝国 ハワイ諸島

 ブリタニアが支配する勢力圏内で荒れているエリア11に最も近い地点にある島々で、ブラックリベリオンの時のような騒動が起こったときの予防策として直ちに動ける艦隊と騎士団を配備している。

 ここにはユーロピアの騒乱のどさくさにオデュッセウスがシュナイゼルが連れてきた部隊に頼み、救出できた日本人達が多く移り住んだ。中心地から離れた地点に区切られているとは言え、自活出来るだけの設備と仮設住宅を与えられユーロピアで押し込められていた時よりも良い暮らしをしている。中には名誉ブリタニア人制度やセカンドブリタニア人制度を受ける者も多かった。

 

 オデュッセウスが急遽用意したセカンドブリタニア人制度で預かった子供達を教育する施設ではひとりの青年が校庭を元気いっぱいに駆け回る少年少女を微笑みながら見つめていた。

 微笑ましい光景に見惚れていると一人の幼女が駆け寄り袖を引っ張る。

 

 「せんせいもあそぼ」

 「良いよ。なにをするんだい?」

 「おままごと。わたしおよめさんでせんせいだんなさんね」

 「私が旦那さんか」

 「駄目ですよ!」

 

 幼女の目線に合わせていた青年に聞き捨てならない言葉を耳にした少女が駆け寄り、青年の腕に絡みつく。

 頬を膨らました少女が私の物と言わんばかりに行動で示す。その行動におままごとを言い出した幼女が唸る。

 

 「お兄様は私のです」

 「むぅ~、ずるいあたしも~」

 

 少女が抱きついた反対の左手に幼女は抱き付く。

 頬を膨らませながら唸りあう二人に青年は困った笑みを浮かべる。

 

 「あらあら、シンは人気者ね」

 「あ、お母様」

 「あー!マリア、アリスがせんせいをひとりじめするの!」

 「駄目よアリス。シンは皆の先生なのですから」

 「…はーい」

 

 マリアに注意されてアリスが拗ねたように唇を尖らせる。

 シンが優しく頭を撫でると機嫌を直したのか満面の笑みを浮かべる。さらに猫のように撫でていた手にすりすりと頭を摺り寄せてくる。その光景に幼女もわたしもわたしもと強請ってくる。

 

 シン・ヒュウガ・シャイングはキングスレイ殺害と本国への謀反の容疑で裁判無しで処刑された―――事になっている。

 実際はオデュッセウスがシャルルに掛け合って処刑した事にしてもらい、ギアスを封印する事で許可を貰ったのだ。

 といってもギアスの封印なんてコード所持者でなければ難しい。行う為にはギアス饗団の協力が必要不可欠だった。V.V.はシンがギアスユーザーもしくはコード所持者と疑っていた。ならば原作知識で得ていた情報を自らが調べたように伝え、シンがギアスユーザーでコードを持っている髑髏がヒュウガ家の屋敷にある筈だと伝えたのだ。すでに家が無くなっている為に捜索は困難だがそこまで調べ上げた褒美に協力を要請。

 結果、ジヴォン家に仕えていたメイドで現在オルドリン・ジヴォンに付いているトト・トンプソンを送られたのだ。シャルルの記憶改竄でルルーシュのように強い意志で思い出されても厄介なので、トトのギアスの忘却を使用してもらった。思い出すべき記憶を奪うギアスでギアスの事、狂う元凶となった両親の事を完全に消失したシンは狂う前の優しい人格へと戻ったのだ。

 今ではオデュッセウスが用意したセカンドブリタニア人制度の学園の講師のひとりとして採用されている。

 

 「ヒュウガ様」

 「あぁ、お帰りジャンヌ」

 「た、只今戻りました」

 

 校庭の入り口より歩いてきたジャン・ロウ(元々の名前がジャンヌ)は以前のシンとはうって変わって、優しい笑みを向けてお帰りと言われた事で頬を染めながら返事を返す。

 その何とも言えない雰囲気にまたアリスは頬を膨らまし、マリアは微笑む。

 

 ジャン・ロウは学園付近の自衛部隊に所属しており新兵の教官として働いている。

 名目上はマリアの養女となっているがアリスにしてみれば恋敵が増えて気が気ではない。会えば睨まれる事が多い事が最近の悩みだ。

 

 「アキト様よりお手紙が届いていましたよ」

 「おお!アキトからか」

 

 嬉しそうに受け取ったシンは手紙を開けて中身を読む。

 今までで一番の笑顔にアリスの機嫌がさらに悪くなっていく。

 

 「兄弟仲が良くて良いではありませんか」

 「良すぎるのが問題なのです!」

 「確かに多々過ぎる所もありますが」

 「多々所の話ではありませんよ。由々しき問題です!」

 「二人に新たな敵かしらね」

 「強敵です…お母様。知恵をお貸しください」

 「本当に敵に回したら強敵ですからね…」

 

 様々な視線を受けながらシンは嬉しそうに何度も読み返す。

 楽しく落ち着いた緩やかな日々を味わいながら…。

 

 これがアキトとオデュッセウスが交わした契約。

 アキトがオデュッセウスに協力する代わりにオデュッセウスは持ち得る権力、財力、戦力を用いてシンを護ると言う契約なのであった。


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