コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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 投稿遅くなって申し訳ありません!
 来週の分や来年一発目を同時進行で書いていたら今日の分が遅れてしまいました。すみません…。


第63話 「ヴァイスボルフ城の闘い①」

 ユーロピア共和国連合勢力圏にある森林地帯の真ん中にヴァイスボルフ城という古城が存在する。

 雪が降り積もる景色と合わせると、とても幻想的な光景を目にする事が出来ただろう。しかし、今はそんな事を言っている余裕はない。

 wZERO部隊が本拠とするヴァイスボルフ城は巨大な防御壁で城を完全に覆って守りを固めた。

 壁から離れた森の中にはシン・ヒュウガ・シャイングのヴェルキンゲトリクスを始めとする聖ミカエル騎士団が集結していた。

 

 ユーロ・ブリタニア四大騎士団に数えられる騎士団はブリタニアの騎士団と違って数が多い。オデュッセウスの指揮下の騎士団はナイトメア三機を一個小隊とし、四個小隊で一個中隊、そして四個中隊で一個大隊となる48機をひとつの騎士団の基準にしている。が、聖ミカエル騎士団の戦力は歩兵を除いてサザーランドが五十四機、無人二足歩行戦車リバプールが十五機、シンのヴェルキンゲトリクスにジャンのグラックス、三剣豪のグロースター・ソードマン、カンタベリーの合計七十五機で構成されている。

 対してwZERO部隊のナイトメア戦力は合計で十六機。しかもそのうち五機は無人機のドローンで、六機はワイバーン隊のように正規のパイロットとして訓練を受けた者ではなく、ハメル少佐が率いる警備部より集めたメンバーでナイトメア戦の経験など無い。戦力として当てに出来るのはリョウ、ユキヤ、アヤノが搭乗するアレクサンダ・ヴァリアント。そしてアキトとアシュレイのアレクサンダだけであろう。

 特にアキト機とアシュレイ機は今までのアレクサンダとは別物となってしまっている。アキトのアレクサンダはアシュレイが持ち込んだアフラマズダのデータを用いて、シュロッター鋼の装甲を装備した機体となっている。これにより装甲の大幅強化にブレイズルミナルを使用したエネルギーシールド、コクピット周辺に取り付けた爆発的なエネルギー放出を行なうスラスターで防御力も機動力も大幅に上がった【アレクサンダ・リベルテ】

 リョウ達がスロニムで搭乗したアレクサンダType-02をベースに技術部のアンナがアキト専用機に設計・建造した新型アレクサンダ【アレクサンダ・レッドオーガ】。今までの戦闘データが生かされたこの最新鋭機は機体を持たないアシュレイが搭乗する事となり、急遽真紅に塗装され、数々の接近戦武装を搭載している。

 

 聖ミカエル騎士団からすれば数で押し込めば倒しきれる筈だったのだが、飛行船の残骸より作った爆弾のおかげでwZERO部隊には希望が見えた。

 ユキヤが投下した爆弾はヴァイスボルフ城へと進軍していた聖ミカエル騎士団の三分の二ほどを壊滅へと追いやったのだ。おかげでリバプールは全滅。サザーランドは三十機前後まで減らす事が出来た。

 だが依然厳しい状況には変わりない…。そして戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 カンタベリー。

 亡国のアキトをご覧になっていない方に説明するならコードギアス第一期の河口湖のホテルジャック事件を思い出して欲しい。あの時ブリタニア軍は人質救出作戦を展開し、地下の物資搬入用のパイプラインを使用した突入作戦を行なった。その際に日本解放戦線が使用した兵器――【雷光】。

 大型の砲門を四機のグラスゴーを四脚のように接続した大型移動砲台。カンタベリーは雷光のようにグラスゴーを取り付けたものではなく、専用の脚が付いている。おかげで雷光のように正面への砲撃だけでなく角度を変えて上空にさえ砲撃を行なえるようになっている。ユキヤが爆弾を投下した際に迎撃したのはこのカンタベリーなのだ。

 砲弾は雷光の散弾ではなく超大型の超電磁砲。一撃での直撃すればナイトメアどころか航空艦ですら落とすほどの威力である。

 その先方を進むカンタベリーを守るように盾を持ったサザーランドが八機展開している。一番後方には聖ミカエル騎士団総帥シン・ヒュウガ・シャイングのヴェルキンゲトリクスとジャン・ロウのグラックス。中間にはライフルは勿論、盾やバズーカなどの武装を持った残りのサザーランド隊と三機のグロースター・ソードマンが隊列を組んでいる。

 グロースター・ソードマンには聖ミカエル騎士団の三つの隊、赤の団【ブロンデッロ】、青の団【ジレ】、白の団【シュルツ】の三剣豪と呼ばれる騎士が乗っていた。ぞれぞれナイトメアの腕前は勿論騎士としてのプライド、忠誠心の篤き者ばかりだ。まぁ、忠誠心は今は亡きマンフレディ卿に対するものでシンには一切持ちえては居ない。むしろ騎士の矜持を持ちえぬシンやジャンを成り上がり者と毛嫌いするほどだ。

 

 聖ミカエル騎士団のナイトメアのモニターではカウントダウンが始まっていた。数字が減って行き数字がゼロになる。

 

 『全軍進撃開始!』

 

 ジャンの掛け声と共にナイトメア隊が朝日が昇り、雪の降り注ぐ森の中を駆け抜けてゆく。

 カンタベリーはその重量から機動力はない。射程ギリギリではあるが砲撃を開始する。緑色に輝く光が防御壁に直撃する。続けて第二射を撃つが傷一つ見受けられない。

 

 『駄目です!貫通できません』

 『カンタベリーを前進させて距離を詰める!前進!』

 

 無傷の防御壁を忌々しく睨みつけブロンデッロ卿はカンタベリーを接近させる。射程がギリギリの為に威力が下がったのなら近付いて有効打を与える。これしかあの壁を破壊する方法はないだろう。いや、あるにはあるがそれは出来れば使いたくないし、強制したくない。

 前進し距離を詰めた事でレイラが用意した防衛システムのひとつが起動する。それは防御壁上部に設置された機銃である。ナイトメアの装甲も貫く銃撃が高低差を利用して撃って来る。慌てカンタベリーを死守すべく盾持ちが集まる。何機かのサザーランドが反撃を試みるも逆に集中する銃撃に引くしかない。一機のサザーランドが脚部を撃たれて行動不能となる。

 

 『しっかりしろ!一旦引くぞ!』

 

 行動不能に陥ったサザーランドを引き摺ってでも仲間を助けようとブロンデッロ卿は動く。が、腕を持って引っ張った瞬間、コクピットを弾丸が貫通した。

 城からの攻撃を疑う余地も無かった。

 

 弾丸は城からではなく背後から(・・・・・・・・・・・・・・)放たれた。

 という事はと後ろで控えているサザーランドには目もくれず、最後尾に佇んでいるヴェルキンゲトリクスを睨みつける。

 

 『後退する事は許さない。下がれば撃つ』

 

 構えたレバーアクション式のライフルの銃口に熱が篭っていた事から間違いなく撃ったのはシンだ。

 指揮官が自らの部下を撃った。その事実に驚きよりも怒りが溢れてくる。

 

 『くっ!キサマァ!!』

 『騎士の誇りというものを見せて貰えるのでは?ブロンデッロ卿』

 

 嘲笑いながら告げられた言葉に顔を歪ませる。

 そんな最中、壁に近付いたカンタベリーが再び砲撃を開始した。距離を狭めれたおかげで威力もそれほど下がらずに壁に直撃し、近くに居た騎士達は壁が壊れる事を強く願っていた。が、熱で赤くなり、亀裂こそ入ったものの壊れはしなかった…。

 カンタベリーの砲撃と同時に離れた地点からスラッシュハーケンを用いて三機のサザーランドがクライミングを開始。中腹まで上った所で防御壁の装甲の一部をパージされて雪上に落下。起き上がろうにもナイトメアサイズの瓦礫が降り注ぎ三機とも撃破された…。

 

 『城に付く頃には味方は尽きるかもな…』

 

 頼みの綱であったカンタベリーの攻撃では壁を貫けず、本隊を囮とした突入作戦は失敗に終わった。

 下がれば撃つという言葉はブロンデッロ卿にではなく全軍に伝えられている。騎士として主を討ってでも撤退というのは出来ない。そもそもマンフレディ卿が後を任せたシンを討つ事は三剣豪の誰もが出来ないだろう。気に入らないが…。

 現状に舌打ちしながら青の団の隊長であるドレルは何ともし難い表情で壁を見つめる。

 

 『ドレル、我が隊が突破口を開く。後は任せたぞ』

 

 通信が入り振り向くと白の団の隊長であるシュルツが自分のグロースター・ソードマンに背負えるだけの爆薬を抱えて立ち上がったところだった。

 止める事はせず、別れを受け止める。

 

 『えぇ…マンフレディ卿と共に待っていて下さい!』

 『向こうで再会できるのを楽しみにしているぞ―――さらば!』

 

 二機のサザーランドを引き連れて突っ込む。勿論防御壁の機銃が集中して撃破しようと試みるが、サザーランドは撃破出来てもシュルツのグロースター・ソードマンだけは倒しきれず防御壁に接触した瞬間に壁よりも大きな爆発を起こした…。

 防御壁は突破され、戦場は城内へと移行したのだ。

 

 

 

 

 

 一面が水面。 

 頭上は晴れやかな青空と純白の雲が広がっていた。

 

 青く清々しい空を映し出す水面に波紋が広がる。

 静かに、緩やかに、優しく…。

 

 「なんと美しく…そして気持ちの良い場所なのだろう」

 

 眼前に広がる景色にオデュッセウスは穏かな笑みを浮かべながら呟いた。

 現実離れした情景に驚く事はしない。むしろこのような光景が見れたことに感謝する。

 

 『人は知能と本能のバランスが悪いのよ』

 「ええ、私もそう思いますよ」

 

 離れた横より優しく語り掛けるような口調の女性の声が耳に届く。

 短く息を吐き出しながら答え、ゆっくりと振り向く。

 

 切り揃えられた髪にネックが緩い長袖のシャツ、生地ではなく布地の長いパンツ(ズボン)スタイルの女性がどこか儚げに微笑みながら見つめていた。

 時空の管理者――シャルルがアーカーシャの剣を使用しようと考えている無意識の集合体の対極。意識の集合体…。

 

 彼女が自分の元に現れた事は驚きに値するが、景色に見惚れて穏かな心情にあるオデュッセウスは動じる事はなかった。

 

 「どうして私の元に?貴方は私よりも会うべき相手が居るのでは?」

 『さぁ、どうしてかしらね』

 

 ふふふ、と微笑む彼女の笑みにアニメで見たC.C.の微笑んだ時の表情が重なる。

 

 『私はね…いえ、私達は意識の集合体。私達はギアスは人には過ぎたものだと思っているの。人はあまりに生命として優秀ではないから…。ギアスを使う資格も能力もない』

 「優秀かどうかは置いておくとして、ギアスを前にすれば人は己の欲望に赴くものが多く、世界を混沌の渦に落とすだろうね。私もその部類に入るだろうけれど」

 『そうでしょうね。でも、だからこそか。貴方に聞きたいの。私達から見ても世界から見ても異質な貴方に―――貴方はなにをしたいのか、なにを成したいのかを』

 

 世界からして異質…。

 それはそうだろうと納得しながら困った笑みを浮かべる。

 

 「語るほどではないさ。私はただ生きたい…それだけだった」

 『生命の存在の根源は存在し続ける事。貴方の言っている事は正しいけれども貴方の願いではないでしょう』

 「……弟妹達や友人たちと楽しく、のんびりとした人生を歩む事…かな」

 『貴方にとってギアスとはなにかしら』

 「未来を守る為の希望」

 

 問いに答えを返すと時空の管理者は背を向けて歩き出す。

 景色が移り変わり、空が夕暮れ色に染まって行く。

 

 『ふふ、やはり貴方ならそうでないと証明できるかも知れないわね。あの歪んだギアスを持った彼を止められるならね』

 「止めますとも。弟を愛してやまない暴走した兄は絶対に止めないといけない。同じ愛すべき弟妹を持つ兄としては」

 

 再び波紋が広がると景色が崩れ、アレクサンダのコクピットの風景に戻った。

 状況が分からない以上、無線のスイッチを入れて後方で上空に小型の偵察機を浮かせているトレーラに繋げる。

 

 「メルディ。状況はどうなっている?」

 『はい。破壊した壁よりグロースターに連れられたサザーランドの半数が突入、城内での戦闘が始まってます』

 「始まったか…」

 『ですけどユーロピアの部隊が優勢のようです。城内に入ったサザーランドの半数は通路上に何本もの杭が飛び出して串刺しに、救出を行なっていた部隊をカスタマイズされたアレクサンダ三機の待ち伏せでほぼ壊滅状態。壊れた壁より侵入しようとした移動砲台は他のアレクサンダ部隊の攻撃により足止めされ、城外に居た部隊は四脚が正門より、グロースターが城壁を乗り越えて部隊を連れて別方向から攻めるようです』

 

 そこは原作通りかと安心して持っていた狙撃用ライフルの狙いをつける。

 このライフルはオルフェウス達が用意した物ではない。オデュッセウスが拾ったものだ。

 

 飛行船の残骸で翼を折られ、自由落下していたユキヤのアレクサンダが持っていた狙撃用ライフル。

 あの時は正直焦った。下で飛び降りたことを確認していたオデュッセウスは瓦礫により翼を折られた様子を目撃してしまった。落下地点は湖ではなく木々が生い茂る地面。激突すればただではすまないと有効射程外よりハンドガンで撃ち、体勢を何とか保たせギリギリで受け止める事に成功。

 気絶したユキヤを機体ごと捜索していたアキト達の付近まで運んで撤退。その際に狙撃用のライフルが落ちていたのだ。

 貰っても問題ないよね?

 

 「さてと、行きますかオルフェウス君」

 「本当に行くのか?」

 「勿論さ、あのシンを一発殴らないといけないしね」

 「はぁ…お前の騎士になった奴や周りの人間は大変だっただろうな」

 

 その言葉をロロが聞いていれば死んだ魚のような瞳で乾いた笑みを浮かべただろう。されどロロは別の任務に当たっていた。オデュッセウスの命でアポロンの馬車の発射口へ。

 OVA通りならそこでジャンがアポロンの馬車に爆薬を搭載して帝都ペンドラゴンへと発射準備を行っている筈だ。ユキヤを助けたオデュッセウスは助けた事で内容が変化したことを思い出してしまった。確かジャンを止めたのはアヤノ、アヤノは大怪我を負って眠り続けていたユキヤが、アキトに出会う前に亡くなったアウトロー時代の仲間に教えて貰い伝えられた。

 

 つまり【大怪我をして眠りについている間】が無くなり、教えてもらえれるか怪しいのだ。ゆえにロロにジャンを止めるのと伝言を頼んだのだ。

 

 「ニーナに頼んだ【アイアスの盾】が完成していれば問題なかったんだけどなぁ……」

 『ん?何か言ったか?』

 「何でもないよ。―――オデュッセウス・ウ・ブリタニア。アレクサンダ・ブケファラス、目標を狙い撃つ!」

 

 

 

 

 

 

 破壊された防御壁の前に聳え立つ城壁の上でカンタベリーとカンタベリー防衛サザーランド隊を足止めしているユキヤは苛立っていた。

 城内に入った第一陣はアキト、リョウ、アシュレイの活躍により壊滅状態。しかし四脚のナイトメアにより三機掛りで対応しても尚押されていた。その隙を突いて第二陣のサザーランド隊が第一陣の残存部隊と合流。突破はされたもののレイラの策である通路上の城門の爆破。これにより指揮を執っていたらしいグロースターと大半のサザーランドは葬った。

 

 が、爆破から生き残ったサザーランド隊がカンタベリーを城内に侵入する援護を行なう為にユキヤ達の元に現れたのだ。

 

 城壁の上と言う事で多少の高低差を利用した射撃を行なえるが後方からの挟み撃ちを受ける形となり、窮地に立たされていた。数的には後方の部隊が多く、数の少ない前方の部隊は盾持ちばかりで硬い。逆に後方の部隊が盾持ちが少ない為に前方の部隊よりは簡単かも知れないが、前方への弾幕を切らすとカンタベリーの一撃で全滅。

 

 「まったく、最悪だね…」

 『ユキヤ!口より手を動かす!!』

 「解ってるよ。あのデカブツさえ居なければリョウ達の援護に行けるのに…」

 『ここを突破できませんかナルセ少尉』

 「それは難しいかなハメル少佐。それより予備のマガジンある?そろそろ弾が尽きそうでさ」

 『あるにはあるが…残りは少ない』

 『仕方ないよ。これだけ敵が集中するなんて予想してなかったから』

 「だよねぇ~」

 

 周りを見ると必死に抵抗する警備部所属のハメル少佐率いるハメル隊と、ユキヤと同じで練度不足のハメル隊の増強で配置されたアヤノのアレクサンダが視界に映る。もう限界だった。自分が決死の突撃を敢行すればカンタベリーは落とせる。上手く爆発させれたなら前方の部隊を壊滅させれる可能性が高い。

 

 「覚悟を決めるしかないよね…」

 『ユキヤ?』

 「ああいうのは距離を詰めないとね!」

 

 マガジンを交換するとライフルを構えて城壁より飛び降りる。

 集中する弾丸を避けながらもカンタベリー目掛けて突っ込む。自分の命を捨ててでも仲間をこれ以上失わない為に。

 

 『――nダ・ブケファラス、目標を狙い撃つ!』

 

 オープンチャンネルで誰かが叫んだ声が聞こえた。

 同時に発砲音が響き渡り、カンタベリーの後ろ足の一本が吹き飛ばされた。

 

 ユキヤは目撃した。

 カンタベリーより後方からこちら目掛け突き進みながら、落下した際に失った狙撃用ライフルを構えたオレンジ色のアレクサンダを。

 

 二発目の狙撃でカンタベリーは右両足を失って転倒する。

 背後からの攻撃に気付いて振り返るサザーランドの頭部が三発目で吹き飛ぶ。同時にアレクサンダより前に出た黒いサザーランドの銃撃で背中を見せていた二機ほどが蜂の巣に。

 

 『アレクサンダ!?援軍なのか?』

 「まさか…」

 『しかしあれはアレクサンダですよ!?』

 『けれどサザーランドと共闘していない!?』

 

 こちらはスマイラスが政権を握っている限り援軍はありえない。それと敵の援軍にしても攻撃を仕掛けている時点でありえない。そもそも二機の援軍なんてのがありえない。

 ありえない尽くしの所属不明機に対して警戒を強める。

 

 『あー、もう!座標入力なんてめんどくさいじゃないか!そして邪魔だよ君達!!』

 

 前に出て射撃するサザーランドを追い越して狙撃用ライフルの銃口を両手で握りしめたアレクサンダは盾を構えるサザーランドに近付き、頭部目掛けてフルスイングした。

 頭部はヘしゃげて、ライフルは折れ曲がる。そのまま駆け抜けたアレクサンダはユキヤの前で止まる。

 

 『その機体はユキヤ君だね。私はアキト達の元に向かうから!』

 「へ!?ちょっと…」

 『ああ、盾持ちのサザーランドはあの黒いサザーランドが何とかしてくれるから。じゃあ、また後で!』

 「いや、話を…って何だったんだ今の…」

 

 話を聞く間もなく城内へと突っ込んで行くアレクサンダを見送ったユキヤは盾持ちが黒いサザーランドに押されているのを確認して、ハメル隊と合流。背後より挟み撃ちを仕掛けてきたサザーランド隊へ攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァイスボルフ城 wZERO部隊司令室は慌しく作業に追われていた。

 聖ミカエル騎士団の決死の攻撃により防御壁が破られたが、通路に防衛システムとアキト達のと多くの敵を減らす事には成功した。しかし四脚のナイトメアの突入により戦況は悪化。

 アキト、アシュレイ、リョウの三人は押され、アヤノ、ユキヤを含んだハメル隊は挟み撃ちを受けていた。

 

 「報告!崩壊した防御壁よりナイトメアフレーム確認…え、これって…」

 「どうしたのですか!?敵の援軍ですか?」

 「所属不明機のシグナル確認。スロニムで失ったアレクサンダ・ドローンのものです」

 「スロニムの?」

 「はい。ハメル少佐より通信。所属不明のアレクサンダとサザーランドはハメル隊を援護。ユーロ・ブリタニアと敵対しているものと」

 「ユキヤ君からも同様の報告がきています。アレクはヒュウガ大尉の元へと向かうようです」

 

 思考を巡らす。

 敵である可能性、味方である可能性…あらゆる可能性を模索するが判断するものが少ない。されど一つだけハッキリしている事がある。

 

 「思惑はわかりませんが所属不明機に対して敵対行動は控えるように伝えてください」

 「了解しました」

 

 味方とは断言できないが敵で無い事はその行動から確かだろう。

 

 「敵13区に侵入!北西の城壁を乗り越えてきます!」

 

 モニターに映像が映し出されるとグロースターを中心にサザーランド六機を含んだナイトメア隊と歩兵部隊の大半が突入してきている。その場の防衛システムに組み込まれているMPA砲を起動させる。

 

 「MPA砲、発射!」

 

 発射された砲弾は乗り越えた五機の頭上を通り過ぎ、乗り越えようとしていたサザーランドを城壁ごと吹き飛ばす。これがナイトメアに直撃すれば撃破は確実だろう。しかし思い通りには行かないもの。敵の指揮官が優秀だったのかすぐに立て直したサザーランドの反撃により二射を行なう前に破壊された。

 

 「ドローンを出撃させてください!」

 「アレクサンダ・ドローンの起動を確認。出撃させます」

 

 地下に収納されていたアレクサンダ・ドローン五機が出撃し、アサルトライフルを乱射しながら前進する。お互いに撃ちながら前進し、ドローンは全機撃破されてしまった。ドローンの攻撃で二機は撃破出来、残りを二機目のMPA砲を起動させて発射させる。グロースターとサザーランド一機ずつを掠め、行動不能へと追い込んだ。

 残ったサザーランドにより砲は破壊され、壁と一旦吹き飛ばされたサザーランドも再び乗り越えてきた。サザーランド三機と上り終えた歩兵部隊が真っ直ぐに司令塔に向かって進軍してくる。

 

 「司令塔に敵兵が集まってきます!」

 

 その言葉にオリヴィアとサラがアサルトライフルを取り出す。彼女達しか銃を携帯することが出来ないとはいえ二人だけではここまでこられれば敗北は必須だ。

 そうならないようにしっかりしなければを気合を入れなおした瞬間、司令部が大きく揺れる。振動からして司令塔上部から攻撃を加えられている様だ。

 

 「高高度観測気球との通信ロストしました!

 「慌てるな!センサーだけで敵の位置は計測できる!」

 「はい!」

 

 再び振動が伝わり、攻撃が繰り返されている事を知り、砲撃などではなくナイトメアフレームに取り付かれた事を理解し、センサーでの計測とアキト機によるシグナルでアキトが迎撃している事を知る。

 

 「司令!所属不明のアレクより通信が入っております!」

 「所属不明の!?繋いでください!」

 『もしもし聞こえるかい?』

 

 音声オンリーの通信で顔は見えないがその声に聞き覚えがあり、思い出そうと記憶を探る。

 この声は確かお婆様達のところで…。

 

 「聞こえています。私はwZERO部隊司令のレイラ・マルカルです。そちらの所属と目的を聞かせて貰えますか?」

 『所属は…ちょっと言えないが目的はアキトと君たちを助ける事。それと暴走するシャイング卿に一撃入れることかな…』

 「私達を助ける…ですか」

 『良いかい。時間がないから端的に言うよ。そこに多くのユーロ・ブリタニア兵が殺到している。君たちの装備では防衛は無理だ。入り口の扉に防爆ジェルを噴射して、司令部を放棄するんだ』

 「どうして扉内部に防爆ジェルが噴射できる事を知っているのですか?」

 『今はその理由に答えている暇は無いんだ。急いで脱出するんだ。それとレイラさん。アキトを――』

 

 途中で通信が切れた。

 入り口の隔壁に防爆対策を施している基地は多くあり、防爆対策ならジェルを噴射するタイプよりも防爆ハッチの方が普通だろう。しかしあの所属不明機が防爆ジェルが噴出できる事を知っていた。

 色々聞きたい事はある。けれどあの所属不明機の言う事に納得もする。これ以上ここで耐えてもいずれ突破される。そのとき皆の命を預かる身としては守りきれる自信は無い。

 

 「隔壁内に防爆ジェルを噴射後、司令部を放棄します」

 「え?良いんですか言う通りにして…」

 「構いません。それとウォリック中佐。皆の事を頼みます」

 「ちょ、司令。何処に行くんですか!?」

 

 短く告げるとレイラは脱出用の入り口に駆けるレイラにウォリックが慌てながら声をかける。一度振り返ったレイラは真っ直ぐと瞳を見て答えた。

 

 「アキトの所です」

 

 そしてそのまま駆けて行くレイラを見送るしかなかったウォリックは困った笑みを浮かべて、司令部を放棄して司令部の皆を連れて脱出を開始するのだった。


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