コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第59話 「さようなら静かな日々…こんにちわ戦闘の日々…」

 夕食を済まして屋敷の食卓を囲む四人は上座に座るオデュッセウスに視線を向けていた。

 フリー記者のメルディと商人兼技術屋のガナバディは要所要所で席を外してもらったので、これからどうするかを決めるのに耳を傾けている状態だがあとの二人は違った。

 

 伯父上の使者として訪れたジェレミア・ゴッドバルト。

 V.V.より何の目的でユーロピアに来たかの質問と、饗団の作戦に手伝って欲しい要請を伝える伝言役兼手伝いとしてここにいるらしい。なんでもプルートーンを投入してまでシン・ヒュウガ・シャイングを捕縛しようとして返り討ちに合ったとの事。

 

 私にヴェルキンゲトリクスを駆るシャイング卿と対峙せよとか不可能です絶対。するんならせめて私専用のグロースターを持って来てくれれば良かったのに…。

 戦力としては生き残ったプルートーン所属のナイトメアが二機のみ。ガナバディが改修を終えたアレクサンダ・ブケファラスを含めればたったの三機。本国の増援は求められないから現状の戦力で何とかするしかない訳だが、普通に攻めればシャイング卿のみならず聖ミカエル騎士団を相手にする事になる。と、なると仕掛けるタイミングが限られる。

 聖ミカエル騎士団を相手にしない。もしくは疲弊している状態で、シンが単機で居る時となれば原作知識に心当たりがある。もしかしてこの事こそが大婆様が占っていた事だろうか。

 

 すでに心折れそうなオデュッセウスに鋭いオルフェウスの視線が突き刺さる。

 ギアス饗団と関わりあるがピースマークと敵対しているのもあって友好的な面もあったのだが、ジェレミア卿に協力すると答えればプルートーンに協力するという事に…。

 

 あれ?ここ死亡フラグの分岐点じゃない?

 

 気付けば死という重圧が肩や背に重く、重く、重く圧し掛かる、胃もキリキリと痛み出して今すぐ逃げ出したい。

 重い腰を上げて席を立つ。

 

 「何処に行くんだ?」

 「ちょっとトイレに…」

 「10分前も行っただろう。俺としては早く答えを聞きたいんだが」

 「殿下に対してその物言い…無礼にも程があろう!」

 「生憎だが俺はブリタニアの犬ではない。過去の事から親しみはあっても忠誠心は持っていない。それにここにいるのはただのオデュで第一皇子としてではない。あと、回答次第で敵になることもありえるからな。言葉使いを気にする立場にない」

 「殿下に害をなそうというのならいっそここで!」

 「ちょっと、落ち着いてください!ここで戦闘なんて起こした方が問題ですよ」

 「オルフェウスも落ち着け。お前さんの気持ちは理解するがここで揉めても何にもならんだろう」

 

 袖口より刃を晒したジェレミアと腰のホルスターに手を伸ばしたオルフェウスが一触即発の状態に入り、メルディとガナバディが仲裁に入って何とか治める。

 昼食や夕食、それとジェレミアから事情を聞いた時以外は同じ光景や流れが続いている。

 大きくため息を吐きつつ再び腰を降ろす。

 

 「はぁ~、とりあえず睨むの止めて貰えるかなオルフェウス君」

 「では答えを聞かせてもらえるんだろうな」

 「ジェレミア卿の話は受ける――が、プルートーンと共同で行う事はできない」

 「しかしそれでは…」

 「あるもので何とかやるさ。というかやるしかないんだけどね」

 

 これぐらいがベストだろう。プルートーンと協力した方が現状的には正解なんだろうけど、手を組んでオルフェウス君を敵に回す方が大き過ぎる問題となる。彼のギアスは人の認識を誤魔化す。つまりは変装もせずにギアスを発動すれば自分の思った相手に認識させる事が出来る。やろうと思えばシャルル・ジ・ブリタニアと誤認させて宮殿内を悠々と歩き回る事さえ可能なのだ。これがどれだけ暗殺に向いているかお分かりいただけるだろう。

 ナイトメアの技量も高く、ラウンズ並みの腕を持っている。戦場でも厳戒警備の施設内でも殺しきれるだけの能力を持っている。阻止するのは調整を完璧にしたジェレミア卿ぐらいじゃないと無理だろう。

 

 大きく息を吐き出し湯気を立てているコーヒーカップを手にとって立ち上がる。

 

 「どうされたのですか殿下?」

 「少し外の空気を吸ってくるよ…」

 

 やっと話を終えたと肩の荷が下りたような心持でとりあえず気分を入れ替えようと外に出る。外に出るといっても玄関から一歩でる程度だが。

 外に出ると冷たい風が吹き身体を冷やす。空気が冷たいおかげで夜空の星々が澄んで見える。ほぉと声と白んだ吐息を漏らしながら見上げたままコーヒーカップに口を付ける。

 

 ガチャ…。

 

 隣の家よりドアノブを捻る音が聞こえて振り返ると母親らしき人物が背に大きなリュックサックを背負い子供を引いて出てきた。子供も最後に出てきた父親も何かしら大きな荷物を持っていた。

 不思議そうに眺めていると母親と目が合い会釈する。短くヒィと声を漏らしつつ軽く頭を下げて小走りで去って行く。余計に不思議に思い首を傾げて辺りを見渡すと同じように忍ぶように家から大荷物を持って逃げ出すような人ばかり。

 

 ―――目が合った…。

 

 逃げ出している様な一般人の方々と目が合ったなら別段不思議に思う程度で良かった。

 が、目があったのは銃を装備した歩兵用の防護服を装備したユーロピア共和国兵士だ。なにやら目が合った瞬間に無線機で慌てたようにどこかに連絡を取っている。距離があるから完全には聞き取れないが【バーダー】やら【ペットショップ】がどうとか聞こえる。

 

 「という事はあれは店員かなにかかな?」

 

 離れた所にも同じような兵士が隠れながら付近に展開しており、そのまた奥には装甲の厚そうな輸送車が止まっており、重装備の兵士達が降りて急いで走ってくる。

 引き攣って微笑んだ表情が戻らなくなった状態で、そのまま室内に戻って行った。

 

 その頃、ジェレミアは目の前のオルフェウスという青年とオデュッセウス殿下の事を考えていた。

 昔からだがどうして殿下はあれほど無防備なのだろうか。自身の価値を理解している筈なのにこんな敵地の真ん中に隠れ家を構えたり、堂々と一人で出歩いたり、話からギアス饗団に敵意を持っているテロリストと関わっているとか。殿下らしいと言えばらしいのだが危険で周りはたまったものではないだろう。

 

 短く息を吐き出しながらこれからの事を思考する。

 

 プルートーンの戦力に頼らないという事は戦力を現地調達の形で得ていく事になる。仮にナイトメアを奪う事ができてもユーロ・ブリタニアの精鋭騎士団の一つを相手に出来るほどの戦力を確保できるわけはない。ならばナイトメアに乗っていない時を狙うとしても侵入の技量を持つ者も暗殺者としての技能を持つ者もいないだろう。そもそも暗殺は殿下が毛嫌いするから却下。

 どうにかして殿下の手伝いをしたい所だが良い考えが浮かばない。なにか殿下には考えがあるようだったが…。

 

 ジェレミアが悩みながら思考を必死に働かせていると引き攣った微笑を浮かべたままオデュッセウスが玄関外から室内に戻ってきた。

 

 「皆、少し良いかな?」

 

 引き攣った微笑みを崩す事無く一言発すると間を空ける。何事かと疑問符を浮かべていると室内が静かになった為に外の音が耳に入り、外から小さな物音が複数聞こえた。少し間が開いてカチリと離れた所から金属音が小さく響いた。

 

 「伏せろ!」

 

 オデュッセウスが叫びながら勢い良く伏せると三人が同時に動き出す。ガナバティとジェレミアはすかさず伏せ、オルフェウスは反応できなかったメルディを抱き締めつつ伏せさせた。

 伏せ終わると無数の銃声が駆け巡り、壁に風穴を生み出して行く。鳴り止まぬ銃声の中、メルディのみ悲鳴を上げて他の四人は冷静なままだった。

 

 「殿下!お怪我は!?」

 「問題ないよ。ガナバティさんはメルディを連れて倉庫のトレーラーへ!」

 「銃撃が止むのを待った方が良いのではないか!この状況では下手に動けんぞ」

 「この屋敷は防音性はありませんが、しゃがんで動く高さには防弾壁を仕込んでますので立たなければ大丈夫です。ジェレミア卿とオルフェウス君はここで足止めをお願いしても?」

 「お願いされても拳銃でアレだけの相手は無理だぞ!」

 

 ガナバティがメルディを連れて倉庫に繋がる通路へ急ぎ、オデュッセウスは壁をなぞっていきなり叩きつける。叩いた所に四角い隙間が出来ながら壁の中に潜る。すると食卓の下のフローリングがカポッと音を立てて浮き上がった。近くに居るジェレミアが浮き上がったフローリングの板を外すと中からアサルトライフル三丁と複数のマガジン、手榴弾が六つほど納めてあった。

 地面を滑らせるようにアサルトライフルとマガジンをオルフェウスへと渡す。受け取ってアサルトライフルを手短に確認すると頷き、割れ残った窓ガラスの反射で相手の位置を探りながら銃だけ覗かせ牽制射を開始した。

 

 その間にオデュッセウスは身を低くしながら倉庫へ急ぐ。左腕に何かぬるっと湿気た感触が伝うが気にしていられない。ジェレミアとオルフェウスが持たしているけれども時間稼ぎでしかない。

 

 倉庫に入るや否やコートを脱ぎ捨てて懐よりナイトメアの起動キーを取り出し、アレクサンダ・ブケファラスに立てかけられたタラップを駆け上がる。

 

 「ガナバティさん!改修は終わってますか?」

 「おう!お前さん専用にはデータがないんで出来なかったが仕上がってはおるぞ」

 「ちょっと待ってください殿下!お一人で出る気なんですか!?」

 「これは一人乗りだから一人でしか出られないよ」

 「危険です!命の危険だって―――ッ!?殿下!肩!」

 「肩?」

 「左肩から血が!」

 

 言われて右手で触れるとズキっとした痛みが肩に広がり、生暖かい血が右手を染め上げる。

 先ほどまではそれどころではなくて意識していなかったが―――痛い。

 痛くて痛くて堪らない。痛みに耐えながら左肩を撫でると穴が開いており、そのまま穴は反対側まで続いていた。

 

 「あぁ…これが銃の痛みか。痛いなぁ…」

 「ナイトメアの操縦ならジェレミア卿に頼めば――」

 「オルフェウス君一人では持ち堪えられないよ。ガナバティさん!私が出撃後、トレーラーでメルディと一緒に出てください。道を切り開きます」

 「殿下!!」

 「メルディは前に伝えた緊急時の対応を」

 「えっと…ユーロピアですよね?一応言われていた人の個人の連絡先は抑えましたけど…」

 「頼むよ!オデュッセウス!アレクサンダ・ブケファラス、出る!」

 

 二人がナイトメアを積める大型トレーラーに乗り込んだのを見届けて、起動キーを差し込んでブケファラスを起動。ついでに痛みを抑える為に癒しのギアス発動。起動したブケファラスはタラップを押しのけ、倉庫入り口に立つとヒートソードで十字に切り裂く。アニメみたいに切れ目がついて扉が弾け飛ぶなんて事はなく、切れ目が入った入り口を体当たりで打ち破る。

 道路には武装した兵士が今まさに突入しようとしていた。ジェレミアやオルフェウスが撃ったであろう血みどろで倒れている兵士が目に付く。オデュッセウスは人を殺すことが出来ない。人道的にとかではなく精神上出来ない。出来れば死体や殺害シーンを見るのも嫌なぐらいだ。だからと言って他人に強要する事はしない。特に今の状況で下手に手加減など命じれば逆にこちらがやられるのが目に見えているからだ。

 腰よりハンドガンを抜いて発砲し、兵士の近くに着弾して地面を軽く抉る。突如現れたナイトメアの攻撃に兵士達は驚き逃げ惑う。どうやら前線で戦ってきた猛者ではなく公安や警備部の人間なんだと推測する。ならば突破は容易い。

 兵士に当てる事無く近くに撃つ事で相手を誘導し、距離を取らせる。その隙に倉庫より出たトレーラーが屋敷の前に止まり、ジェレミアとオルフェウスを乗り込ませる。

 

 「さぁて、逃げますか!………うん、ちょっと待とうか。市街地でナイトメア戦は不味いと思うんだけどさ」

 

 オデュッセウスのモニター先にはユーロピア共和国連合の主力ナイトメアフレーム【パンツァーフンメル】が銃口を向けていた…。

 

 

 

 

 

 

 ある事件がユーロピア共和国連合のトップニュースで報道されていた。

 何処から得たのかユーロピア共和国連合やユーロ・ブリタニアの内情をブリタニアに暴露したアンノーンと呼ばれる者達の摘発。公式発表ではワルシャワ警備隊が辺りの一般人を避難誘導し、投降勧告をしたところ無視して発砲。市街地で銃撃戦が始まった事になっている。実際は最初から殺害を目的としてこちらから撃ったのだがね。

 

 ジィーン・スマイラスというユーロピア共和国連合で将軍を務めている男もそのニュースを執務室で眺めていた。

 コーヒーを飲みながら忌々しく睨みつける。

 

 それは現在警備部の指揮を執り、市街地で銃撃戦を指示した人物を非難してではない。逆にジィーン・スマイラスは騒ぎを大きくしても良いから徹底的に攻撃をしてくれと願っている。

 今回のアンノーンを発見したのは匿名の情報提供者からの通報だった。話が上がった当初は悪戯程度の認識であったが、自身の元にユーロ・ブリタニアのシン・ヒュウガ・シャイングより連絡が来たことで一変した。

 

 『奴は私とお前の関係を知っている。早々に始末した方が良い』

 

 ユーロ・ブリタニアの聖ミカエル騎士団総帥とユーロピア共和国連合の将軍が繋がっていると知れたら今の地位・名声は地に落ち、都合の良い血気盛んな若者などを長年をかけて集めた自分の計画がすべて水泡と帰す。それだけは避けなければならない。

 レイラ・マルカル――否、ユーロピア共和国連合の市民に絶大な支持を得たブラドー・フォン・ブライスガウの娘、レイラ・フォン・ブライスガウという軍事的にも政治的にも利用できる駒を手に入れ、軍部の惰眠を貪る雑兵ではなくヤル気十分で騙しやすかった若者達を束ねてようやく自身がユーロピア共和国連合のトップに立てる算段が立ったというのに…。

 ギリリと歯軋りを立てながら忌々しく睨みつける。

 

 プルルルルルル…

 

 ポケットにしまってある携帯電話が鳴り響く。自分の進退が掛かっている時に誰だと顔を顰めながら携帯の画面を見ると非通知と表示されていた。スマイラスには複数の通信手段がある。軍部の盗聴防止用の回線や他人名義で入手した携帯、シンと連絡を取る為の特殊な無線機など多数持っているが今鳴り響いたのは自分名義の携帯。

 軍の関係者ならこの携帯ではなく別の連絡手段を使うだろうし、知り合いなら画面に表示される筈だ。数コールもしたら切れるだろうと無視して画面に視線を戻すと一瞬、オレンジ色の見覚えのあるナイトメアが映った気がした。

 

 確かレイラが居るwZERO部隊の新型ナイトメアフレームのアレクサンダではなかったか?と、画面を凝視するが報道者と行動を共にしている軍関係者が気付いたのか、報道担当が危険と判断して退去したかは分からないが映像が突然切れた。

 ふむ…と唸りながらデスクの受話器を取って押しなれた番号を押す。

 

 『どうなされましたか?』

 「すまないが今放送されているアンノーンについてのニュースが途切れた理由を知りたい。それとコーヒーを頼む」

 『畏まりました。すぐに情報を集め、コーヒーと共にお届けいたします』

 

 手短に済まして受話器を元に戻し、空になったカップをデスクに置く。

 息をつきながら椅子に腰掛けて、未だになり続ける携帯を再び手にとって通話ボタンを押す。

 

 「もしもし、どなたかな?」

 『スマイラス将軍ですね?』

 「ああ、そうだが…君は誰かね?」

 

 女…そう思ったがそれは直感でしかなく、声はボイスチェンジャーで変えられている。悪戯にしてもユーロピアの将軍相手にするなど普通じゃない。それにどうやってこの連絡先を知ったのか。聞きたい事は複数脳裏に浮かんだがそれらは次の一言で消し飛んだ。

 

 『我々は十二年前の真相を知っている』

 「――ッ!?貴様、誰だ」

 『我々は貴方達がアンノーンと呼んでいる集団だ』

 「アンノーン…だと…。今、集団と言ったな。いや、それより十二年前の真相とは何のことかな」

 

 背筋が凍り付いたような感覚を振り払い、自身に渇を入れながら酷く焦った声色を正して平静を装う。

 十二年前……親友であったブラドー・フォン・ブライスガウがテロ事件に遭った年。

 彼の政治思想とは真逆のテロリストに公演中に爆破テロに遭った事になっているが事実は違う。アレはジィーンがやった事…やらせたことである。

 市民から圧倒的人気と支持を得た友人を妬み、ブラドーの妻であるクラウディアに横恋慕したことからテロに見せかけて殺すことを決意。ギアスユーザー排除を目的に動いている【時空の管理者】を騙して殺害させたのだ。

 まさか…逃げる途中にクラウディアまで亡くす事になるとは思わずに…。

 

 『それは公表しても良いという事かな?なんにせよ嫉妬とは恐ろしき感情ですね――では、時空の管理者によろしく』

 「待て!待ってくれ!!」

 

 確かに自分の嫉妬が起こした事件だ。それを言い当てられただけでも心臓が止まりそうなほど驚いているのに、時空の管理者という単語が出てくればもはや間違いない。こいつらは時空の管理者と繋がりがある。

 時空の管理者はギアスユーザーを排除する為に使っている家系をいくつか持っており、ジィーンの家もその一つだ。アンノーンと呼称している組織にあの事件に関わった家系が参加しているのだろう。

 

 「貴様らは何が望みだ?」

 『我等の同胞に対しての攻撃の即座中止』

 「逃がせと言うのか」

 『それで過去と現在の問題がクリアとなるんだ。安いものだろう?』

 「現在?…どういう意味だ?」

 『我々はシンを捕縛する。意味は分かりますね』

 「・・・・・・分かった」

 

 もう…ジィーンは頷くほかなかった。

 最近になって時空の管理者にブラドーをギアスユーザーだと偽って(・・・)殺させたのがバレて、時空の管理者から協力関係にあるシンの首を差し出すように言われているのだ。もし果たせなければ自分が殺される。過去と現在の危険が去るのなら何だってやってやる。

 電話を切ると程なくして先ほど連絡した青年士官がコーヒーと資料を持って入室してきた。

 

 「将軍。先ほど頼まれたコーヒーとニュースの件、調べてまいりました。アンノーンがナイトメアを使用してきた事で警備隊もナイトメアを導入して制圧する為にカメラを切ったそうです」

 「そのことは今は良い。それよりもあの馬鹿騒ぎを止めるぞ」

 「はっ?止めると言ってもテロリストを逃がすはめになりますが…」

 「何を言っておるか!市街地でのナイトメア戦など市民に何かあったらどうするのかね?既に常軌を逸脱しすぎている。即座に作戦を中止するように関係各所に働きかけてくれ」

 「か、畏まりました!」

 

 苦虫を潰したような表情をするがすぐにいつもの余裕がある表情に戻る。これで当分の不安は抑えられる。あとはアンノーンと言う奴らを調べだして始末をつけるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 一方、市街地でナイトメア同士の戦闘を始めたオデュッセウスは有利に事を進めていた。 

 パンツァー・フンメルというナイトメアはサザーランドほどの脅威を持っていないと考えているからだ。

 ナイトメアの特徴であるスラッシュハーケンを使用した立体機動は行えず、両腕は人間の腕を模した手ではなく肘から銃を取り付けており接近戦は行えない。さらに平地や距離があるなら射程や威力など銃の大きさのメリットを生かせるのだが、ここは狭い市街地。撃てば市民に当たる可能性があり、振り回せば銃が建物につっかえる。

 

 「五つ…六つ…七つ!」

 

 動きが取り難いパンツァー・フンメルに流れるように肉薄しては斬り付けて行く。ただ胴体とコックピットが分かれていない一体型なので胴体には斬りつけず、銃口や腕を斬りおとす形となる。

 市街地から脱する為に中央道路を横切ろうとするがそこにもパンツァー・フンメルが待ち構えていた。

 咄嗟に青白い炎を吹き出しているヒートソードを道路の中央へと投げ付ける。敵の意識が自身から投げられたヒートソードに移った瞬間、背にあるWAW-04 30mmリニアアサルトライフル【ジャッジメント】を構えて数発ずつトリガーを引いて腕を吹き飛ばしてゆく。

 

 「先に行って下さい。あとで合流します」

 『本当に良いんだな!』

 「敵の抵抗が弱い…メルディの演技が上手くいったらしいですから」

 『殿下!足止めなら私が…』

 「ああ!ジェれm…卿にはやって欲しい事があるから先にそっちに向かってもらうよ」

 『何なりと』

 「ユーロ・ブリタニアのファルネーゼ卿に伝言とある二名の保護を頼みたい。追々連絡するからトレーラーの無線機を持っていってね」

 『イエス・ユア・ハイネス』

 「傍受されてたら不味いからその敬礼なしでしてほしかったなぁ…」

 

 トレーラーが渡りきったところでヒートソードを拾いつつ、移動を開始する。

 なんだか肩の痛みが消えたような気がしてそっと触ってみると銃弾を受けた事実がなかった(・・・・・・・・・・・・・)ように傷口が綺麗さっぱり消え去っていた。

 癒すどころの話ではない。再生?自己修復?しかし傷を治せば治っただけ細胞は劣化するはず。けれど健康診断では劣化が著しいどころか肌年齢なんかは若返って…。

 そこまで考えたオデュッセウスは突然笑い出した。

 

 「そうか!そうだったんだ!あぁ~、なんでこんな時に理解しちゃうんだろうか」

 

 ククク、と笑いを堪えながら装甲車の足だけを潰してわき道へと姿を隠しながら市街地から抜け出そうと走り出す。

 

 ――腰痛や肩こりなどの痛みの解消。

 ――落ち込んだ気持ちの改善。

 ――C.C.細胞の侵食を止めるどころか侵食を押し戻す。

 ――何故か年齢に比べて若い肌年齢。

 ――撃たれた傷口がなかった様に元に戻った。

 

 「私のギアスは癒しではなく戻る(・・)ギアス。感情や肉体をより良い状態であった時に戻す(・・)ものだったんだ」

 

 大婆様が言っていたのはこういう事か。確かに今思えば癒しでは考えられないものも多かった。今まで物への変化は気付かなかった事から生物だけだろうか?

 もし食べ物にも効くのであれば賞味期限を気にせずに各地のご当地グルメを買い溜め出来る!

 

 そんなあほな事を考えながら市街地を抜けるのであった…。


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