コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第56話 「戦場から離れた場所で①」

 【wZERO部隊】とはユーロピア共和国連合の新型ナイトメアフレームを運用した新戦術のテスト部隊とユーロピア兵の戦死を避ける為に亡命したイレブンで構成されたイレブン部隊の構想を合わせた部隊である。

 ピエウ・アノウ中佐を司令官として脳科学の権威やアレクサンダを独自開発した天才科学者など稀有な人材で司令部は固められ、ナイトメア部隊である【ワイバーン隊】は20名ものイレブンで構成された。

 

 132連隊撤退支援作戦。

 wZERO部隊の初任務でありペテルブルグ奪還作戦に失敗した友軍撤退の支援作戦である。

 レイラ・マルカル少佐が考案した奇襲作戦により短時間で撤退予定進路で構えているユーロ・ブリタニア聖ラファエル騎士団を退ける―――予定だった。

 作戦開始直前にアノウ中佐によりアレクサンダに自爆装置を取り付けさせて、自爆特攻作戦へ変更。ワイバーン隊の隊員19名の名誉の戦死…。

 彼らも死にたくはなかっただろう。が、戦死した場合は家族にはユーロピア市民権が与えられる。十分な保障が約束されているとイレブンに差別的なアノウにより伝えられており、イレブンを閉じ込めるだけの収容所のような場所に閉じ込められている家族の為にという想いが強かっただろう。そもそも逃げる事は不可能。

 作戦途中でレイラによりアノウ中佐は取り抑えられ、唯一生き残っていたアキトは自爆装置の解除命令を受け、たった一機で聖ラファエル騎士団の精鋭【三銃士】の内二名を仕留めるという結果を残し、成功とは言い難い損失だったが撤退作戦を成功させた。

 

 次にγ作戦ではワルシャワ駐屯軍が進撃するのに合わせた後方撹乱作戦に参加。新たにユーロ圏のアンダーグラウンドで生きてきた三人を加え、無人機であるアレクサンダ・ドローンに命令を出す為に中佐に昇格し、wZERO部隊司令官の任に就いたレイラ・マルカルの五名が任務に当たったのだが、ユーロ・ブリタニアの待ち伏せなどでドローンは壊滅。有人機のアレクサンダもレイラ機を残して大破。散々な結果だが作戦は成功(その後、勢いに任せて戦線を拡大した結果、進軍した分だけ奪い返されてしまったが…)。

 

 スロニムの戦闘中に現れたアレクサンダ・ドローンを持って去ったグラスゴーの報告もあって本拠であるヴァイスボルフ城に帰還したかったのだが、嘘か真か前線の部隊に回す方が優先されて輸送機を回せないと言われ続け一ヶ月もワルシャワで足止めを喰らっている。

 これだけでも災難と感じているというのに悪い事というのは続くもので、司令官の任を解かれワルシャワ補給支部に転属させられたアノウ中佐がレイラ達がワルシャワにいると知るや否やwZERO部隊の腹癒せに軍のIDを書き換えたのだ。軍のIDが無ければ軍の施設に足を踏み入れる事もIDを登録している端末にはキャッシュ機能も付いており買い物さえ出来ない。

 

 これからどうするかと悩んでいたレイラ達に一人の老婆が現れた。黒系の服装で固めた占い師の老婆がアキトに近付いたのだ。何かを感じ取ったのかアキトに「その呪いを解いてあげよう」と寄って来たのだ。思わず突き飛ばしてしまい、老婆はその場に倒れこんでしまった。

 

 占い師の老婆は大仰に痛がり、それを聞きつけた仲間らしい老婆が六名集まり、またも大仰に「この擦り傷が原因で死んでしまったら」とか「私達は貧乏で病院に連れて行けないよ」などと騒ぎ泣き真似をし、最終的に怪我をさせた分働きなと因縁をつけた上で言い放つ始末。

 

 ここでレイラ・マルカルの性格が幸か不幸か幸いした…。

 彼女は亡命したブリタニア貴族であるブライスガウ家の娘で、両親がテロにより死亡した後は貴族の血筋欲しさで銀行や工場を経営しているマルカル家の養女として育てられた。結果、生真面目で心優しく、差別的な事柄を嫌い、理想論と正論を先走らせたりする性格となった。

 

 …なにが言いたいかと言うと彼女にとって老婆の行動は、アキトが突き飛ばして老婆を怪我をさせてしまい、怪我をした事で老婆達が本気で悲しんでいるというもの。ゆえにレイラは本気で心配し罪悪感を覚え、老婆達に連れられるまま森の奥にある老婆達が生活している大型の馬車を停めているところまで付いてきたのだ。あからさまに元気になっている占い師や先の態度と変わっている老婆達の様子から気付いているが、働けば食事も出るし寝床も確保できるという事で働くことに異存はなかった

 

 ワイバーン隊のパイロットスーツ(肌に吸い付くボディスーツに近い服)から着替えさせられた。

 

 ほとんど無表情で冷めた目をして周りと距離を置いている日向 アキト中尉は、深緑のシャツのボタンを全部外し、腰に巻いている布で開き過ぎないように止めており、下は灰色のズボンとコインベルトを巻いていた。

 言葉使いは荒いがとても仲間想いな性格をしているアンダーグラウンドで仲間を率いていた佐山 リョウは裾のゆったりした黒のハーレムパンツをはき、上半身は袖無しの上着を一枚羽織っているだけで他には何も着ず、前も止めてないのでほとんど裸のような感じだ。

 情報収集やハッキング、爆発物の扱いに長けているリョウの仲間の成瀬 ユキヤは袖なしのボレロチョリに布地を折って真ん中で結んだスカートと女性物の服を着せられているが、体格は細く、顔は中性的なのでとても似合っている。

 同じくリョウの仲間で直情的かつ素直な性格の香坂 アヤノは半袖のボレロチョリと薄紫と濃紫の二重スカートを着て、腰の辺りや胸元を晒しており、女性では露出の多い服装になっている。

 そしてレイラ・マルカルはチューブトップの上に肩から伸びたボディスで腹部のラインを際立たせ、踝近くまで伸びたスカートをはいて、へそ周りや肩や胸元が露出させているがアヤメほどではない。

 

 その格好で働かされているのだがレイラにとって体験したことのない家事全般なので勝手がわからず、人参を皮ごとぶつ切りにしたり皿を重ねすぎて運ぶ際に全部落っことしたりとやらかしている。それでも一生懸命になにかしようと必死なのだ。アキトは「司令に出来る事を探してください」と直接的に言うし、佐山達は優しく遠まわしながら同じ事を言って扱いに困っていた。

 仕方なく、前日よりここでお世話になっているという人物に仕事を貰いに行く。

 

 「すみません。私に出来る事ありませんか?」

 「んー…ではとりあえずこれの味見してくれるかい」

 「あ、はい。―――美味しい」

 

 手渡された小皿に乗っていた料理をフォークを使って口に運ぶとしゃきしゃきとした歯応えとさっぱりとしたタレの味が広がる。思わず美味しいと呟いた事に本当に嬉しそうに笑っていた。

 

 「そうかい、それなら良かった。なら味付けはこのままで行こうか。で、何か出来る事をって事だったけど…ナイフやフォークを並べてもらってもいいかい?」

 「はい!では――」

 「いっぺんには持っていかないでね。一個ずつでも構わないから」

 

 動く前に先に釘を刺されてしまった。

 それにしてもここの人たちは本当に良い人たちだ。働いてもらおうかと言っていたお婆さん達は扱き使う事はせず、孫に接するような温かみがあった。そして先の人もずっと微笑を絶やさず誰とでも優しげに接してくれる。アキト達が日本人と知っても嫌な顔も差別的な感情も出さずに普通に接してくれた。

 ただ…ボタンを外したカッターシャツに裾のゆったりとした紺色のハーレムパンツ、腰にはコインベルトを巻き、老婆たちにはオデュと呼ばれた優しげな笑みと顎鬚が特徴的な男性。その男性がある人物に似すぎている。

 

 …まさか神聖ブリタニア帝国の第一皇子がユーロピア共和国連合の勢力内で護衛も付けずにお婆さん達の下で働かされるわけは無いよね。

 

 思った疑問を頭の中から追い払ってフォークとナイフを並べる。

 これなら落とす事はないと安心しているとオデュに「そろそろ料理が出来るから皆を呼んできてくれるかな?」と頼まれテーブルから離れた瞬間、誰にも見られてない事を確認しつつフォークとナイフの位置を全部直されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 月夜が辺りを優しく照らす夜景を楽しみながらの食事。

 辺りは自然に囲まれており、川のせせらぎに風で揺れる木々の葉の音。

 自分を含めて皆で調理し用意した温かい食事の数々。

 わいわいと賑やかに上下関係のない食事風景を眺めながらオデュッセウス・ウ・ブリタニアは小さくため息を漏らす。

 

 正直こういう場は大好きだ。元々のんびりとした生活を好んでいたオデュッセウスにとってはこういう食事風景の方が肩肘張らずに楽で大変好ましい。皇子であることから難しいがここではただのオデュだ。この上下関係がないなどこれからも味わえないであろう食事を楽しみたいのだが、メルディが心配している事から心の底からは楽しめない。

 昨日ワルシャワの隠れ家から散歩しようと出かけたのだが、ここにいる老婆とぶつかってしまい、あれよあれよとここまで連れて来られてしまったのだ。携帯は持っていたから連絡はして無事なのは伝えたけど、かなり心配しているらしい。一緒にいたオルフェウスが連れ戻しに行こうかと申し出てくれたが息抜きにちょうど良いからこのままでと断ったのだ。

 

 まさかワイバーン隊が老婆に捕まってくるタイミングがこんなに近いとは思ってなかったけど…。

 

 「さっきからため息ばっかだなおっさん」

 

 無意識にため息を吐き続けていたのかリョウが声をかけてきた。出会って一日目なのだが彼らと普通に接して親切に世話を焼いていたら仲良くはなれたと思う。しかしおっさんか…三十過ぎはおっさんか。

 

 「ああ、少し思うところがあってね」

 「どうせおっさんもババア共に連れてこられたんだろ」

 「まぁね…あ!そういえばリョウ君にユキヤ君、それにアキト君に言っておかなきゃいけない事があったんだ」

 

 ふと、伝えておかないといけない事を思い出して口を開くと三人の視線が集まる。

 

 「ここのお婆さん達に背中は見せないように。お尻とか触ってくるからね」

 

 そうなのだ。

 ここのお婆さん達は元気が有り余っており、そこいらの若者より活力を持っている。そんなお婆さん達は若い男という事で平気でセクハラとかしてくる。昨日はシャツのボタンを外され割れた腹筋とかをずっと触られてたりしたんだ。

 一応教えておかなければと忠告したら、ユキヤは軽めに返事してアキトに至っては興味がないようで目線を私から速攻で外した。ただリョウだけは大きな反応を見せた。

 

 「そういう事は早く言えよ!」

 「なに?セクハラされたの?」

 「セクハラとはなにさね。ただのスキンシップだよ」

 「人の尻を鷲掴みしといてよく言うなババア!!」

 「佐山准尉。そういう言い方は…」

 「だってさ、目の前に若くて張りのあるお尻があるんだもの」

 「まったく破廉恥なんだよ」

 「あんただって触っただろうにさ」

 「違いないわ」

 

 元気の良い笑い声が辺りに響き渡る。

 人種も年齢も経歴も関係なく笑顔が広がって行く。

 オデュッセウスも笑みを浮かべて笑いあう。

 そんな楽しい食事も時間が経つに連れ、終わりの時を迎える。レイラ達は今日が初日という事もあって疲れただろうから先に休ませて、散々飲みまくったワインのボトルに食べ終わった食器の片づけを済ませていく。

 全員就寝しているだろうと思いつつ片付いた食器を元の場所に戻して寝所に向かおうと振り向くと占い師のお婆さん――レイラの呼び方を真似して大婆様と呼ぼうか。その大婆様がひとり椅子に腰掛けてジッとこちらを見つめていた。

 

 「どうしたんですか大婆様?他の方々は…」

 「少しオデュに話が合ってね。私のテントまで送ってくれるかい」

 「ええ、構いませんよ」

 

 大婆様の前で屈んでおんぶする体勢を取って待ち、背中に乗って肩をつかんだ事で足を支えながら立ち上がる。街灯らしいものもないため辺りは薄暗く、足元は不安定という事もあってゆっくりと一歩ずつ気をつけて歩いて行く。

 大婆様のテントは少し離れた所にあり、中はそう多くは入れない。何処かの文字で星の形を描いた布を真ん中に置き、大婆様の対面に座る。なにやら呪文を唱え始め五色の卵型の球を転がしそれを見守る。

 

 「あんた…呪いを受けてるね」

 「………はい」

 

 やはり気付かれていたか。予想はしていたけれどもこう言われてみると余計に凄いと感嘆してしまう。

 大婆様はコードギアスの世界でも稀有な存在だ。別段特殊な力に目覚めたとか、ギアス関係者とか言うわけではない。その占いの読みと呪いを察する目だ。

 呪いと言ったがこれは何も人を恨んで念じ、呪術を用いたオカルト的なものではない。コードギアスを語る上で欠かせない力…ギアスの事を指している。大婆様はひと目見ただけでアキトが不完全とは言えギアスに掛かっている事を見抜き、レイラがギアスユーザーで森の魔女と呼ばれたC.C.と出会っていたことをズバリ言い当てた。その能力内容は今は置いておくとしてもギアスユーザーかどうかを見極める事ができる唯一の人間。しかも占いの結果は予言に近いもので心して聞く必要がある。

 

 「それに出自も独特だね」

 「出自まで読めるのですか?想像以上ですよ」

 「あぁ…あんたはこの世界の事を知って生まれてきたんだね」

 「――ッ!!は、ははは、そこまで占われるとは…心底驚きました」

 「オデュ。あんたは優しすぎるよ。望む最小限のものを最短コースで掴みに行けば苦労は然程ないだろう。だが、あんたは余計な物まで背負おうとしている。このままではあんたは大事なものを失っちまうよ」

 「それは忠告でしょうか?」

 「いんや、石が教えてくれたことさ。近いうちにあんたは大きな事に巻き込まれるともね」

 

 大きな事に巻き込まれる…。

 占いよりも予言に近い大婆様の言葉を受けて深く頭を下げる。

 

 「占って頂き感謝致します。ですが私は今の歩みを止める気も止めさせる気もありません」

 「そうかい…。なら今まで以上に気合を入れな。もしかしたら運命を切り開けるかも知れないよ」

 「努力致します」

 

 下げた頭を上げて立ち上がり、テントをあとにしようと出入り口に向かう。

 

 「……そういえば、石はこうも言っているよ。あんたは呪いの事を理解しているような気でいるようだがあんた自身の呪いを理解できていないと」

 「………はい?」

 

 最後の言葉に首を傾げて立ち止まる。

 癒しのギアスと思っていたのが癒しのギアスではない?

 疑問を与えられ、頭を捻りながら必死に思考するがまったく解らない。あまりに気になりすぎてオデュッセウスは一睡も出来ずに朝を迎えてしまった…。


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