コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第49話 「ブラックリベリオンⅢ」

 行政特区日本での虐殺事件をきっかけにエリア11全体に広がった反攻の狼煙は全ブロックへと広がり、ブリタニア主力軍が護りを固めるトウキョウ租界に攻め込むまでに至った。ゼロの奇策もあって黒の騎士団側が優勢に立っていた。

 戦いの火は地上だけでなく、空にまで及んでいた…。

 

 トウキョウ租界政庁付近の上空ではゼロとC.C.が搭乗するガウェインが、ジェレミア卿が操るジークフリートの体当たりを受けてくの字に曲がったまま押され続けていた。

 C.C.にナナリーが攫われたと聞いて居ても立ってもいられない状況だというのにこうも邪魔が入ると本気で腹が立つ。

 

 「俺に操縦を寄越せ!」

 「またか!?こんな忙しいときに!」

 「良いから早くしろ!」

 「私に上から命令するな!!」

 

 操縦権が譲渡された事を確認すると威力は期待せずに膝蹴りを喰らわせる。振りもつけずの膝蹴りは予想通り威力はなかったが少し、ほんの少しだがガウェインとジークフリートの接触面に隙間を空けることが出来た。上に振り上げた両手を繋ぎ、ジェレミアが乗り出していた入り口に振り下ろす。

 ジークフリート内のジェレミアはコクピットが大きく揺らされ、体勢を維持するのに必死になって目標であるガウェインから一瞬目を放した。殴られた衝撃で下方に進んだジークフリートに急制動を掛けて再びガウェインを追う。

 多少距離が開いたが油断できない状況に変わりがない。さっとレーダーを見渡し付近に展開する味方識別コードを放つ部隊を発見する。

 

 「三番隊、敵の飛行型だ。一斉射で撃ち落せ!」

 『了解!一斉射――撃てぇ!』

 

 下に居た三番隊の無頼四機が一斉にミサイルランチャーを放つとジークフリートの動きが目に見えて違った。急制動を掛けたと思えば急激な加速を行ないながら回避運動に入ったのだ。誘導式のミサイルを回避するが数発は直撃する。その瞬間機体を高速回転させて大型スピアのようなスラッシュハーケンの先で破壊してゆく。

 

 『見えた…見えた…見えた…』

 『なんだアレは!?』

 『影崎隊長ぉ!!』

 

 回転したまま地面を抉りながら三番隊を押し潰し、ひき潰して再び空に上がって来る。

 あの遠心力に急激なGに耐え、あれほど精密な動きを人間が行なえるのか?疑問を抱きつつも相手の動きに魅入る。

 

 『ゼロ!ゼロよ~』

 「C.C.!しっかりつかまっていろ!」

 「何を――くっ!?」

 

 斜め下より放たれた大型スラッシュハーケンを急制動とスラスターを前方に吹かす事で回避した上に背後に付く事が出来た。指のスラッシュハーケン放つ。向こうも向こうで上へ下へとスラスターを吹かし回避する。

 

 「無茶苦茶だな!」

 「確かにあの動きは反則的だな」

 「アレもだがお前も大概だ」

 『見事!ならばこれならどうですか?』

 

 前方に向いていた四つの大型スラッシュハーケンがスライドして後方に向けられた。忌々しく舌打ちしながら下方に降下し、建物の隙間を飛行する。追ってきたジークフリートは隙間に入れない為にそのまま突っ込んで建物を破壊しながら突き進んできた。

 建物を軸に曲がるときにはスラッシュハーケンを打ち込んで遠心力を使って加速し、曲がりきるとスピードを殺さないようにスピンしながら壁に衝突する事無く進む。レーダーを見ながら進むゼロにC.C.は感心したような呆れたような表情で口を開く。

 

 「こんな操縦法誰に習った?」

 「母さんや兄上が良くやっていたんだ。まさか実演するとは思わなかったがな………杉山!」

 『ゼロか?』

 「そっちに砲戦仕様の無頼は居るか?」

 『砲戦?居るには居るが…』

 「良し!今から敵の飛行型を誘い込む。合図を出したら撃て!」

 『空を飛ぶ目標を砲弾で撃ち落せって!?』

 「指示に従えば問題ない」

 

 位置を確認してビル群より飛び出し空へ上がる。抜けたところより煙が起こってジークフリートが迷う事無く突っ込んでくる。あの頑丈な正面装甲に驚きつつも指定のポイントに急ぐ。

 

 『はぁ~けんっ!』

 「ここだ!」

 

 振り返り左右に指のスラッシュハーケンを放ち左右の退路を断って、ハドロン砲を射撃態勢に移行させる。両肩の砲門を塞いでいたでっぱりが上下に開き赤い輝きを露出させる。

 気付いたジェレミアは『レフトに左!?右にライト!?ですが下はがら空きでした!!』と叫びながら急降下してハドロン砲とスラッシュハーケンの囲みから抜け出す。外れたハドロン砲は向かいのビルの下方に直撃し、急ぎスラッシュハーケンを戻してジークフリートに上からの高低差も利用して突っ込む。ジークフリートを両手で押す形でぶつかり合う。

 

 『正面フロント!』

 「くうう!やはり出力が違うか」

 「このままでは押し返されるぞ!」

 『当たらずこのジェレミア・ゴッドバルトには!!』

 「それはどうかな?今だ杉山!」

 『ゼロには当てるなよ!撃ち方始め!!』

 『何と!?』

 

 杉山に井上の無頼に三機ほどの無頼が並び、砲弾を発射した。目の前のゼロに集中し過ぎたジェレミアは反応できずに撃ってきた砲弾の一発が直撃した。後ろのフロートユニットの光が半減し、ガウェインにパワーで負けて突き飛ばされる。それでもまだ戦おうとスラスターを吹かし続けてでも飛ぼうと試みる。

 

 『まだだ!私はまだ――』

 「終わりだよ。オレンジ君」

 『卑怯…後ろをバックに!?』

 

 ハドロン砲が直撃して下方を砕かれた高層ビルがジークフリート目掛けて倒れてきた。飛行能力が著しく低下して避ける動作も取れないまま巻き込まれ、高層ビルだった瓦礫に埋まった。

 ゼロはフンっと鼻を鳴らし、すぐさまナナリーの元へ急ぐ為に神根島へと進路を取った。 

 

 

 

 

 

 

 アッシュフォード学園を飛び立ったランスロットは荒れた政庁の屋上に着陸していた。

 そこには負傷したコーネリアが座り込み、手に通信機を持っていた。ゼロを捜そうと飛び出したスザクをその通信機で呼び出したのだ。

 傍まで駆け寄り備え付けの医療パックを開いて応急手当を使用とするが押し退けられた。

 

 「殿下。ジッとして下さい。すぐに衛生兵を―」

 「私の怪我は大した事はない。それより神根島に向かえ」

 「神根島ですか?」

 

 持っていたガーゼを奪い取り頭部の出血部に当てながら言われた場所に驚く。

 神根島は黒の騎士団も反ブリタニア勢力も手を出すような場所ではない。そこに行く理由が分からなかったのだ。

 

 「ゼロはそこに向かった筈だ…それ以上の事は分からない」

 「まさかギアス…」

 

 ギアス…。

 アヴァロンでランスロットの補給中にユフィの訃報を聞き、自室で悲しむスザクの前に現れた【V.V.】と名乗る少年が言っていた力だ。

 人の意思を曲げる力を持ったもので、あの虐殺事件もギアスを持つ者の仕業だとか。ユフィの死で頭が回ってなかったスザクは半信半疑で聞き入っていた。そして少年は最後にゼロもギアスの力を持っていると言っていた。

 頭部を負傷している事から脳にダメージを受けた事が原因かも知れないが、どうも少年の言葉が引っ掛かり真っ先にギアスを疑った。

 

 「枢木。エリア11の総督にして神聖ブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニアが命じる。ゼロを捕縛せよ!」

 「イエス・ユア・ハイネス」

 「捕縛だぞ。命を奪えとまでは言わん」

 「は?」

 「キュウシュウの時もそうだが兄上は黒の騎士団…ゼロに肩入れ…興味を持っている節がある。何があるか分からんがな」

 「オデュッセウス殿下が…」

 「それに勝ち逃げは許さない。この私がナイトメア戦で負けたままなど……」

 

 忌々しげに空を睨むコーネリア殿下に頭を下げ、急ぎランスロットに戻る。

 ゼロにはスザク自身も確めたいことがある。ランスロットは神根島に向け飛行していった。

 

 

 

 

 

 

 長かった夜が薄っすらと姿を現し始めた太陽によって照らし出される。暗闇は太陽の光に追いやられて行くが如く、黒の騎士団も押し返され戦線は崩壊しつつあった。

 全指揮を急に一任された藤堂 鏡志朗は焦りを隠す事無く指示を飛ばす。黒の騎士団を纏め上げていたカリスマ的存在であったゼロは藤堂に全指揮を移すと連絡も取れずに行方不明。親衛隊である零番隊隊長の紅月 カレンは副指令の扇の指示でゼロの後を追って戦線離脱。全体状況も分からぬままナイトメア戦を繰り広げながらの指示など出来る筈がない。けれど藤堂は焦りながらも状況を何とか把握しつつ指揮を執り続けた。常人では出来ない事をやってのけた彼は実に優秀な人材である。

 だが、状況把握する間は指揮系統が一時的とは言え止まり、ダールトン将軍が指揮を執るブリタニア側の攻勢に対処しきれず孤立した部隊は各個撃破された。

 

 『中佐!学園エリアをブリタニアのナイトメア隊と航空艦により制圧されました!』

 「扇は!?」

 『副指令達は学園エリアから脱出。残存戦力を率いてこちらに…』

 「分かった。動ける者は補給を済ませ次第本隊と合流させよ!ディートハルトはG1ベースに着いたか?」

 『間も無くと合流すると――』

 『報道エリアが奪還されました!手薄になった隙を突かれたそうで…』

 「馬鹿な!仙波の隊はどうなった!!」

 『それが……仙波大尉と通信途絶しまして…』

 「仙波が!?くっ、卜部の隊はまだ配置に着かな…」

 『中佐…申し訳ありません』

 「卜部か?どうした?状況を報告しろ」

 『到着前にブリタニアに発見され四本足のナイトメアと交戦、隊の半数がやられました』

 「耐えられそうか?耐えられるなら近くの部隊を大至急…」

 『いえ、長くは持たないでしょう』

 『トウキョウ租界方面に向けて二隻目の航空艦を確認!ナイトメア部隊の援軍を引き連れているみたいです!』

 

 聞きたくもない味方の劣勢の報告に操縦桿を握る力が篭る。

 朝日が昇る中、藤堂は月下のコクピットで焦り、苛立ち、そして静かに理解した。

 

 「朝比奈。千葉。まだ行けるか!」

 『勿論です!』

 『まぁ、エナジーが心許ないですけどまだまだ行けます』

 「そうか―――黒の騎士団総員に告ぐ!撤退せよ!!」

 『中佐!?』

 「これ以上の戦闘は無意味だ。日本独立の希望を…反攻の火を消さぬ為に今は退け!!神楽耶様の護衛についているライに神楽耶様を連れて脱出しろと伝えろ。扇副指令は加わった一般人を逃がす陣頭指揮を。卜部は損傷の激しい動けるだけのナイトメアを連れて戦場離脱し、戦力の補強・維持に専念しろ。朝比奈と千葉は――」

 『私は残ります』

 「命令だ。お前たちは撤退援護に当たれ」

 『藤堂さんはどうするんです?』

 「俺か?俺は撤退完了までここを死守する」

 『でしたら私も残ります!』

 『藤堂さんが居る所が僕の居場所ですから』

 「お前ら……死ぬなよ」

 『『承知!』』

 

 一瞬弛んだ頬を引き締め弾丸を回避しつつ斬り込む。眼前のサザーランドは一歩も退かずに応戦する覚悟を見せたが、容赦なく真っ二つに切断された。ダムが決壊するかのように藤堂が突っ込んだ所に千葉と朝比奈の月下、そして中央の無頼隊十八機が集中する。思わぬ反撃に驚き、次々とブリタニアのナイトメアが撃破されていく。

 

 「朝比奈!左翼から回り込め。俺と千葉が正面より押し上げたところで挟撃する!」

 『承知……っとこれは不味いですよ』

 『中佐!正面より四足のナイトメアが!』

 「こんな時に…」

 

 正面のナイトメア隊を飛び越え現れたのは、下半身が馬で上半身が人型の大型のナイトメアだった。情報ではキュウシュウ戦役で片瀬少将を捕縛したブリタニア皇族が乗っているらしいが。

 図体の割りに機動力があり、あんなのに接近されたら通常のパイロットでは対応しきれないだろう。

 

 『ボクは神聖ブリタニア帝国第16皇子、パラックス・ルィ・ブリタニア!我こそはと言う者だけ挑んで来い』

 『パラックス殿下!戦場で名乗るなど危険です』

 『え?だって兄上だってしてたじゃないか』

 『兎も角御下がりください』

 『そしたら手柄を立てれず兄上に褒めてもらえないだろ』

 

 皇族を名乗った四本足は親衛隊らしきグロースター数機を連れていた。こちらは機体の損傷が激しく、エナジー・弾薬共に心許ない状態。それに対して正面のブリタニア軍は損害を出したものの顕在。その上で新型ナイトメアに腕利きだと思われる親衛隊などの援軍。状況は最悪だ。しかも悪い事は続く物なのだ。こちらが撤退し始めたのを察したブリタニア軍は一斉に攻勢に転じ、ナリタでも戦ったギルフォードという腕利きの騎士のグロースターに背中にミサイルポッドを積んだカスタムされたグロースター部隊も出てきた。

 ギリっと歯が鳴るほど噛み締め睨みつける。ここで終わる訳にも終わらす訳にもいかないのだから。

 

 「全機ここを死守せよ!斬り込めええええ!!」

 

 藤堂を先頭に日本の希望を他の者に渡し、絶望的な状況でありながらも突っ込んだ。

 おかげで正面のブリタニア軍は大きな被害を受け、足止めもされて追撃するまでに時間を要した。それで多くの日本人が次の為に逃げられた事を藤堂は捕縛される中で願って止まなかった。

 

 

 

 

 

 

 『ちくしょー!せめてここだけでも!!』

 『殿下をお守りしろ!!』

 

 アッシュフォード学園は戦火に包まれていた。

 ライラを救出する名目で出動したキューエル隊のグロースター達と、ここを死守しようと奮戦する黒の騎士団が校舎の正面玄関を挟んで銃撃戦を行なっている。

 私、オデュッセウスはと言うと白騎士やセシルと共に学生達が乗り込むアヴァロンから垂れ下がった物資搬入用のエレベーターをブレイズルミナスを展開して守り続けていた。

 数の上では黒の騎士団が勝っているが練度の低いパイロットも交ざっていて、単独では親衛隊を務める彼らの敵ではなかった。それに何やら慌しくなった事からゼロが戦線離脱したのだろう。原作通り慌しい黒の騎士団員の顔色には不安や憤りが見受けられる。

 オデュッセウスにしては眼前の敵より機体越しに伝わる横の騎士の殺気のほうが恐ろしかった。

 

 「し、白騎士」

 『……なんでしょうか?』

 「その…怒ってる?」

 『怒るような事をされたのですか?』

 「あの、本当にごめん」

 

 棘のある言葉に心が痛み、見えてないだろうが頭を下げて謝る。

 怒らせるような事といえば無断外出にひとりでゲットーに視察に行ったり、毒味役無しでの飲食に戦場に飛び出したりもあったね。今回だと白騎士達を振り切った事かな?

 今思い出すとと色々怒らせる事が多過ぎるような気がするが、これらはこれからもあまり変わることはないだろう。

 そんな事を思っていると黒の騎士団とブリタニア軍が撃ち合っている中央辺りの地面のハッチが開かれた。

 

 『あんな所から熱源?』

 「不味い!両軍撃ち方停止!!」

 

 原作では河口湖のホテルジャック時にユーフェミアがニーナを救った事があり、それからニーナはユーフェミアに執着していた。だが、この世界ではオデュッセウスが救い流れは変わった。そう本人は思ってここでの登場はないと思っていた。自分もそうだが租界全域に居る弟・妹・友人すべてが物理的に塵芥と化してしまう大量破壊兵器【フレイヤ弾頭】の原点。

 慌ててオープンチャンネルで告げるオデュッセウスは原作より撃っている数が多い事から両腕のブレイズルミナスを展開して両軍の間に割り込んでハッチより上がって来たガニメデを護る。

 ブリタニア軍は飛び出た相手が相手なだけにすぐさま銃撃を止めるが、黒の騎士団にしては敵の大将クラスが飛び出してきた好機に映り、銃撃が集中する。ブレイズルミナスで隠せなかった場所を銃弾が掠め、クラブの装甲を削り取っていく。

 出てきたガニメデには胸部にサクラダイトの輝きを放つ増設タンクが取り付けられてあった。

 

 『いけない!攻撃中止!黒の騎士団もストップ!!一時休戦だ!そいつを撃っちゃいけない!!』

 

 ロイドの焦った声がアヴァロンから周辺に響き、ロイドの慌てっぷりから危険と判断したラクシャータが黒の騎士団に攻撃中止命令を出す。銃声が鳴り止んだアッシュフォード学園にロイドの声が再び響く。

 

 『ニーナ。完成させたのかい?』

 『検証はまだです。爆発させられるかも分かりません』

 「爆発って何を―」

 『危ないわ。下がって』

 

 飛び出そうとしたミレイをサザーランド・エアでセシルが止める。ロイドもオデュッセウスもあの代物の危険性を知っているので目の前まで近付くのもアヴァロンに逃げ込むのも大差ない事は分かっている。アレから逃げるにはトウキョウから出るか超上空まで飛ぶかだ。

 

 『彼女の理論通りならトウキョウ租界そのものが死滅するかも』

 

 黒の騎士団もブリタニア軍もにわかには信じられないだろうが事実なんだ。完成したフレイヤ弾頭はリミッターを外して帝都ペンドラゴンを消失させたのだから。

 ……というか原作通りの私、オデュッセウス・ウ・ブリタニアもフレイヤで消滅したから近付きたくない。原作では起動しなかったからと言って今爆発しないとも限らない。

 

 『殿下…あの学生の射殺許可を。今なら脳幹を撃ち抜けば――』

 『白騎士。もしそんな事をするならば私は君を絶対に許さない。ここに居るブリタニア軍には手を出させないで』

 

 直接私だけに伝えてきた言葉を拒否する。ロロの行動は正しいと理解はする。騎士として私を護るにはそれが現在有効な手段だろう。説得は相手の情報や心理状態に左右され、興奮状態で相手の情報は親しい者にしかなく、説得に長けた交渉官など連れてきていない。ならば指も動かせないように脳幹を撃ち抜いて即死させる。

 理解は出来ても許容できない。

 ゆっくりとクラブをガニメデに近づける。コクピットに座るニーナはこちらを見つめながら震える両手で起爆スイッチを握り締め、今にも押しそうな勢いだった。ゴクリと生唾を飲み込み覚悟を決めてコクピットを開ける。

 

 「お、オデュッセウス殿下?」

 「止めなさいニーナ。それを押してはいけない」

 

 クラブを止めてコクピットの上に立つ。視界の端で黒の騎士団が銃口を向けているのが見えるが、気付いた扇が銃口を下げさせていたので多少安堵する。

 

 「こ、来ないで下さい!」

 「君はどうしてそれを持ち出したんだい?ユフィの為かい?」

 「……はい」

 

 今にも泣き出しそうなニーナを今出来る限りの微笑を向けて見つめる。ここから飛び移って取り押さえる事も出来るが焦っては駄目だ。次の言葉を待ちながら短く息を吐き出す。

 

 「だってイレブンは…あいつらはユーフェミア様を殺して…だから私は!」

 「そっか。ありがとう」

 「え?」

 「それだけユフィの事を想ってくれたのだろう」

 「ユーフェミア様は何のとりえもない私にも優しくしてくださったり……本当にどうして…どうしてユーフェミア様は死ななければならなかったの………犯人の特定は出来ないし人を殺す技術も持ってない。だから私はこれで犯人ごと…」

 「分かっているのかい?それを爆発させれば君の友人だって君だって死んでしまうんだよ」

 「分かっています。私は覚悟は出来てます。ですから殿下…ミレイちゃん達を連れてここから退避してください。私は殿下を巻き込みたくありません。殿下もユーフェミア様も本当にお優しくて、ホテルジャックの時には私なんかの為に人質を買って出たり…ですから」

 「うん、分かったよ」

 

 大きく頷いたオデュッセウスはふわりと跳んでガニメデに飛び移る。危険だと巻き込みたくないと言ったのに近づいてきたことでニーナは理解が出来ずに目をぱちくりさせる。

 

 「え?え?どうして…」

 「だって巻き込みたくないって事は私が居たら爆発させないんだろう?」

 「いえ、そうですけど!」

 「もう良いんだよ。ユフィは優しい。そんなユフィは君がこんな事をする姿を見たくないどころか悲しむよ?私だってそうだ。だからもう良いんだよ」

 「殿下…殿下ぁ…」

 

 スイッチを握ったまま泣き出したニーナを優しく抱き締めて子供をあやすように背を擦る。「本当にすまない」となんども呟きながら。

 そんな光景を昇った朝日が照らし出し、同時にブラックリベリオン――第一次東京決戦の幕が降りたのであった。


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