コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第41話 「キュウシュウ戦役 其の参」

 日本解放戦線指揮官を務め、現在は独立主権国家日本軍本隊を率いて、ブリタニアからカゴシマエリアを奪還する為に侵攻していた。中華連邦より借りたガン・ルゥに日本解放戦線の無頼を合わせた連合軍であるが今までの作戦は順調だった。否、順調すぎたのだ。これまでのブリタニアの抵抗から容易に制圧出来るだろうと踏んでいたのだが、キュウシュウブロックのほとんどの守備隊が合流したカゴシマエリアの防衛戦は屈強で突破は困難を極めている。

 実戦経験及び練度不足だが数だけは揃えた中華連邦軍に、経験も練度も十分だが数の少ない日本解放戦線では決定的な手がなく、指揮官である片瀬も藤堂のような指揮官としての才覚がある訳ではない。

 臨時に作ったカゴシマエリア侵攻軍司令部で参謀達と共にイラつきながらも作戦を練っていた。

 

 「ここは一部を一点突破しての挟撃しかないかと」

 「突破と言っても敵の防衛ラインはどこも頑強。フクオカ基地の船舶を使って後方を脅かした方が…」

 「船舶を使うといってもあそこはコーネリア率いる艦隊と睨み合っている。とてもじゃないが無理だろう」

 「片瀬少将。ご采配を」

 「「「片瀬少将」」」

 

 意見を出し合ってはいるが有効な手が見付からず、参謀達は腕を組んでしかめっ面を晒している片瀬に指示を請う。が、片瀬にも有効的な手段は思い浮かばずつい本音を漏らす。

 

 「こんな時に藤堂が居れば…」

 

 ぼそりと呟かれた一言に参謀達も大いに同意する。知っているがゆえに藤堂と片瀬を比べると見劣りしてしまう。そもそもレールに乗ってそのまま昇格してきた男と実力と経験で昇り上がった男を比べるのも酷な話だ。

 簡易式の指揮所の中にため息以外に音が響いた。それは遠くではあるが聞きなれた爆発音。目を見開き音の方向に目を向けるが見えるはずもなく、立ち上がり状況を理解しようとする。

 

 「何事か!?」

 「ブリタニア軍の攻撃です!」

 「なんだと!見張りはなにをやっていたか!」

 「いえ、敵は我らの後方より現れたようで…」

 「馬鹿な…後方だと…」

 

 後方と聞いて耳を疑った。すでにクマモト・ミヤザキは独立主権国家日本軍の支配下であり、上陸を許した報がないのでブリタニア軍が居る筈がない。もし撃ち漏らしが居たとしても数機程度で本隊を攻めるだけの力はない筈だ。

 

 「敵の数は?」

 「ナイトメア約一個大隊ほど…」

 「ありえない!60機ものナイトメア部隊だと…」

 「ご報告いたします。防衛に専念していたカゴシマエリアのブリタニア軍が攻勢に出ました」

 「このままでは包囲殲滅されます!片瀬少将、いかがな――」

 「撤退だ!全軍に伝えろ。本隊が襲撃を受けている。遺憾ながらここを放棄、撤退する。合流地点はクマモト一次中継点とする」

 「ハッ!誰か車の用意をしろ。護衛として無頼二個小隊を呼べ」

 

 撤退を決め込んだ司令部の動きは早かった。しかし前線の部隊にとっては早すぎた。急な命令に補足の命令はなく、司令部がいきなり消滅したがゆえに指揮権は各部隊長に委ねられ、統率の取れなくなった軍隊はばらばらに行動するしかなかった。

 駆け込むようにジープに跳び乗った片瀬は護衛の部隊と共に急ぎ指揮所を後にする。

 

 「どうしてこうなるのだ!何故ッ―――どうした?」

 

 不平不満を口にしていた片瀬は、先頭を進む無頼がジープを制止させた事に驚きつつ正面を睨みつける。

 

 薄暗い夜道を照らしているライトの射程外よりなにかが現れた。

 それはナイトメアのというよりは馬のような足だった。一歩ずつ踏み締め近付き姿を現したものに目を見開いて唾をゴクリと飲み込んだ。

 黒と赤で塗装された馬と人間の上半身を合わせたギリシャ神話に登場するケンタウロスを模したナイトメアフレーム。大きさは無頼の1.5倍はあり、上から見下ろされる威圧感はかなりのものだった。

 

 『兄上の言ってた通りに奇襲すれば一目散に逃げるんだね』

 

 所属不明のナイトメアから発せられた声に顔を顰める。どう考えても幼い。声からして十五歳前後の少年ではないかと推測される。

 

 『おかげでボクが手柄を立てられて良いんだけどね』

 「何をしている!早く撃破せよ!!」

 

 焦りながら片瀬が命じると無頼は一斉にアサルトライフルを構えるが四足歩行のナイトメアは素早い動きで距離を詰めた。詰めたといっても接近戦に挑む前に銃撃されるが、よほど装甲が硬いのか直撃を受けてもそのまま突っ込んでくる。

 

 『まず一機目♪』

 

 嬉しそうな一言と共に振られた両手に握られた大きなハンマーによって先頭の無頼の上半身が吹き飛んだ。辺りに衝撃で弾けとんだ部品や完全に潰れたコクピットが降り注ぐ。目の当たりにした者の血の気が引いた。次は自分の番だと言われた様に…。

 

 『アハハハハハハ!さいっこう!!アハハハハハハハハ』

 

 狂喜じみた笑い声を辺りに響かせながら次々とハンマーが振られて無頼が潰されていく。恐れをなした後続の一機が逃げ出すと他の二機も逃げ出し始めた。

 

 「待て!待たぬか貴様ら!!」

 

 ジープから降りて大声で叫ぶが無頼は止まる事無く去って行く。姿が暗闇に掻き消えた後に起こった閃光により撃破された事と完全に包囲された事を理解した。

 四足歩行のナイトメアがジープを踏み潰し、片瀬を見つめる。逃げ道も逃げる手段も失った片瀬は震えながらその場にへたり込むしかなかった。指令所があった方向から三機のサザーランドと数台の装甲車が近付き、装甲車から降りたブリタニア兵士に手錠をかけられ捕縛された。

 

 『敵将片瀬をパラックス・ルィ・ブリタニアとエクウスが捕らえた!速やかに日本軍とやらは投降せよ。でなければ殲滅する』

 

 オープンチャンネルで片瀬が捕まる映像までも流され各個撃破されつつある独立主権国家日本軍は抵抗するだけの士気はなかった。出来ればまだ楽しみたかったパラックスは自身の騎士団を投降した者の武装解除の作業に当たらせた。

 

 『これで兄上に褒めてもらえるかな』

 

 戦えない事は残念だが笑顔で褒めてくれるオデュッセウスを想像すると頬が弛み、歳相応の笑みを浮かべた。

 

 パラックス・ルィ・ブリタニアを主としたパラックス騎士団とカゴシマエリアに集結したキュウシュウブロック防衛のブリタニア軍。独立主権国家日本軍本隊の無力化と指揮官のひとりである片瀬の捕縛に成功。

 

 

 

 

 

 

 キュウシュウブロックナガサキエリア防空圏内海上上空

 アヴァロンよりランスロットが発艦し、フクオカ基地に降り立った時刻にもう一隻の浮遊航空艦がナガサキエリア上空へ向けて航行中だった。

 

 浮遊航空艦アヴァロン級二番艦【ペーネロペー】。

 シュナイゼルが設立した特派の主任研究員ロイド・アスプルントが設計したアヴァロンを、共同出資しているオデュッセウスがシュナイゼルに頼み建造してもらったオデュッセウスの騎士団旗艦となる航空艦である。 

 

 艦橋ではKMF技術主任と将軍を兼任しているウィルバー・ミルビル将軍相当官が指揮をとっていた。オペレーターの席にはマリエル・ラビエがついていた。

 

 「イカロスとは皮肉なものだな…」

 「どういう意味ですか?」

 

 独り言だったが聞こえたマリエルが小首を傾げながら聞いてきた。聞こえてしまったなら仕方がないと困り顔のまま口を開いた。

 

 「君も今回の作戦は知っているだろう?」

 「はい。殿下からいろいろ聞きましたから」

 「第一作戦はキュウシュウエリアのブリタニア軍の撤退及びカゴシマエリアに戦力を集める事。これにより敵軍は占領地防衛の為に兵力を割かねばならず、連勝続きで敵兵士達を浮き足立たせる」

 「そこに第二作戦のコーネリア皇女殿下の艦隊による上陸作戦失敗――に見せかけた敵の目を引き付ける陽動作戦。そして初の空からのナイトメア降下作戦でランスロットによる敵司令部であるフクオカ基地への奇襲の第三作戦ですよね」

 「ああ、そこまでが今回の下準備で第四からが本格的な戦いとなる」

 

 モニターに繋がるキーボードを叩いてモニターにキュウシュウブロックの地図を表示する。そのまま第一から第三作戦までの動きを青い矢印で表示していく。

 

 「すでに第四作戦の【トロイの木馬】作戦は7割方成功している」

 

 【トロイの木馬】作戦とは秘密裏に呼び寄せたパラックスと騎士団をクマモトエリアに、オデュッセウスのユリシーズ騎士団をナガサキ・オオイタエリアに潜ませ、作戦時間と同時に手薄になったエリアを内部から崩壊させるものだった。作戦の要はカゴシマエリアに集めたキュウシュウブロック防衛の部隊とパラックスの騎士団によるカゴシマ侵攻軍――つまり攻め手の本隊の挟撃及び無力化。すでに目的の半分以上を達成したどころかパラックスにより日本解放戦線の指揮官である片瀬が捕縛された一報も入っている事から予定していた以上の戦果である。

 

 「トロイが成功した事で敵の視線が内陸部に向いた。そこで我々が行なう第五作戦である【イカロスの翼】作戦があるのだ」

 「イカロスの翼って何でしたっけ?」 

 「ギリシャ神話のひとつだ。とある迷宮に閉じ込められた親子が脱出する為に鳥の羽を蝋で固めた翼で脱出する。父親は息子に低すぎず高すぎず飛ぶように言うが、息子は飛ぶことに調子に乗って空高く舞い上がり、太陽の熱で翼の蝋が溶けて飛べなくなり地面に落ちて亡くなった。主なところはこんな感じだ」

 「そこから殿下は作戦名を付けられたんですか?」

 「この話は調子に乗りすぎると痛い目を見ることになるという意味を込めて言われる事もあってな。多分だが気を引き締めろという意味も兼ねているのだろう。それにこれから文字通り地面へと降りるのだからな」

 

 話に区切りがついたと思い腕時計に目を向ける。時刻は予定作戦三分前に迫っていた。気を引き締めて館内放送用のマイクを手にとって大きく息を吸い、吐き出した。

 

 「浮遊航空艦アヴァロン級二番艦ペーネロペーに搭乗している各員に告げる。

  これより第五作戦【イカロスの翼】作戦を開始する。

  当艦はナガサキエリア上空の降下ポイントまで移動し、ナイトメア隊を降下させる。今作戦の目的はナガサキエリア海岸線の海上に対する防衛兵器の破壊及び艦隊の上陸支援である。この作戦によりコーネリア皇女殿下の本命である第二次上陸作戦が開始される。

  これこそがオデュッセウス殿下が提案された作戦の最終段階だ。気を引き締めよ!

  ナイトメア格納庫ハッチを開放せよ!」

 「格納庫ハッチ解放。同時にカタパルトレール展開」

 

 発艦する為にナイトメア格納庫のハッチが開かれ、カタパルトレールが伸ばされる。格納庫内部には飛行用の翼とスラスターが取り付けられた四角い台に乗ったグロースターが待機していた。

 四角い台はウィルバー・ミルビルが空中騎士団設立の為に作った【プリドゥエン】と名付けられたナイトメアフレームが飛行能力を得る騎乗兵器。それに四つん這いで騎乗するグロースターも空中騎士団仕様の特注品。腰や肩などに駆動式のスラスターとコクピット付近に緊急時用のパラシュート展開装置を装備し、空気抵抗やパイロットを襲う加速によるGの対策も施されている。

 

 そして一番奥にはどのナイトメアの系譜に当てはまらない機体が待機していた。

 足先から頭の先まで純白に染め上げられ、人型を模した筈の腕には鷹のような機械の翼が取り付けてあった。

 キャスタール・ルィ・ブリタニア専用ナイトメアフレームで機体名【アクイラ】。

 【イカロスの翼】作戦の要となる機体のひとつで今回は戦闘でのデータ収集も兼ねてある。

 

 『お、おいウィルバー!』

 

 アクイラのコクピットで待機しているキャスタールより通信が入って、名指しされたウィルバーは通信用の端末まで移動する。声色からも分かっていたがとても不安なのか肩は震え、顔色も宜しくはなかった。

 本来ならこのような作戦に皇族を参加させるなどしない筈であるが、オデュッセウスからは『キャスタールは実戦に恐怖感を強く抱いているから一度自信をつけさせたいんだ』と聞いている。皇族ともなればどのような状況が訪れるか分かったものじゃない。もしかしたらナイトメアで敵中を突破しなければならない状況も視野に入れているのかもしれない。

 

 「ハッ!なんでございましょうかキャスタール殿下」

 『ほ、本当に大丈夫なんだろうな!』

 「降下実験や各部の耐久テストからは何の問題もありません。キャスタール殿下が受けられた飛行時の訓練からも問題は見られなかった事で不安要素はほとんど無いと思われます」

 『ほとんど!?ボクをそんな正確性を欠いた作戦に参加させる気か!!』

 「しかしながらキャスタール殿下。オデュッセウス殿下はこの作戦を計画し、キャスタール殿下ならこなしてくれると信じて参加を頼まれたのですよ」

 『うっ…そうだった。兄上が…』

 

 前々から思っていたが皇族内のオデュッセウス殿下に対する想いは強い。特にキャスタール殿下にパラックス殿下は依存に近い噂を聞いた事もある。まぁ、オデュッセウス殿下が相当なブラコン・シスコンであることからなんとなしに分かっていたが、実物と接して本当だったと確信した。彼ら双子も重度のブラコンだと判断しても構わないだろう。おかげで扱いやすくて助かる。ここで癇癪や我侭を言われて作戦を台無しにされても困る。

 

 「では、止められますか?殿下を降下部隊から外して行なう方向に変更する事は出来ますが」

 『本当か!』

 「ええ。そういえば先ほどパラックス殿下が作戦を完遂したとの一報が届きましたよ」

 『パラックスが…』

 「はい。しかも日本解放戦線の総大将を務めていた片瀬少将の捕縛と想定していた以上の戦果を挙げられたらしいです。オデュッセウス殿下も弟君の活躍に大変喜ばれたことでしょう」

 『――ッ!!……する』

 「申し訳ありません。聞き取れなかったのですが?」

 『降下すると言ったんだ!!早く作戦開始しろ!!』

 「畏まりました―――降下準備!」

 

 瞳から不安げな様子は変わらないが覚悟を決めたキャスタールの命令通り降下準備に入った。

 プリドゥエンに騎乗したグロースターがカタパルト前まで移動して出撃態勢を取る。

 

 『キャスタール殿下。殿下のお命は我ら騎士団が命に代えても必ずお守りいたします』

 『う、うん。頼むぞヴィレッタ』

 『イエス・ユア・ハイネス』

 

 グロースターの隊長機に騎乗しているキャスタールの騎士となったヴィレッタ・ヌゥは力強く返事をするとモニターから夜空を睨みつける。

 

 「降下開始!」

 『降下!!』

 

 ヴィレッタの隊長機が飛び立つと一機ずつキャスタールの騎士団より選抜された一個中隊が飛び立ち、キャスタールのアクイラも飛び立った。中隊はアクイラの下方に展開して防御編隊を組んだ。プリドゥエンは飛行する事から下からの攻撃に晒される事が多いことが分かっている。正面や左右後方の攻撃は対処法があるが降下時に下から狙われては防ぐ手段は少ない。なので底板の厚みを増してアサルトライフル程度では貫通できない設計にしてある。バズーカなら落とされるかもしれないが高速飛翔体を撃ち落とせるだけの性能は持っていない。目下の天敵は対空ミサイルと連射出来るアサルトライフルぐらいだ。

 降下して行くキャスタール達に敵も黙っては居らず、地上から迎撃用の対空ミサイルが一斉に放たれた。

 

 「地上からの迎撃ミサイルを確認。各機フレアを発射してください」

 

 マリエルの通信を受けた騎士団がプリドゥエンに装備されたフレアを発射し始めた。目標を見失ったミサイルはフラフラと明後日の方向へ飛翔し、何もない空間で自爆した。

 プリドゥエンの良い所は加速性能にあるとはウィルバーの考えである。ロイドの開発したフロートシステムが画期的なものというのはペーネロペーを初めて見て理解している。が、ナイトメアに取り付けた後付のフロートシステムまではそうは思っていない。人型と言うのは飛ぶことを想定されて作られてない。もし飛ぶことを想定するのであれば、空気抵抗を流す丸みを帯びた球体に近い機体か、戦闘機のような形状から人型に可変する機体が望ましいだろう。人型をそのまま飛ばすとなると空気抵抗が強く、戦闘機並みの速度を出せば戦闘機以上のGをパイロットは受けることとなる。それを解消したのがプリドゥエンである。これに騎乗するナイトメアは四つん這いに成らざるを得なくなり、受ける空気抵抗は確実に小さい。

 他にもプリドゥエン自体にエナジーフィラーを組み込んでいるのでナイトメア本体のエナジー消費も少なく、別機体であることから武装だって積み込んでいる。

 迎撃ミサイルを無力化された敵は航空戦力である武装ヘリを差し向けて来たがプリドゥエンの前には無力であった。長距離中距離のヘリに対して新兵器の誘導型ケイオス爆雷(第33話シミュレーターで使用)を発射し、一発で複数を巻き込んで蜂の巣にする。中距離から近距離に近付いたヘリやヘリから発射された小型ミサイルは装備の機銃とグロースターのアサルトライフルで落とされていく。

 無事に全機着陸した事を確認したウィルバーは予定通りに、オート操作で戻って来たプリドゥエンを回収後、キュウシュウブロック空域より離脱した。

 

 キャスタールとキャスタールの騎士団一個中隊の活躍で、ナガサキエリアの独立主権国家日本軍の沿岸部防衛ラインは崩壊。内陸部で待機していた数少ない守備部隊は無傷で上陸を果たしたコーネリア率いる主力軍により壊滅。

 【イカロスの翼】作戦、成功。

 

 

 

 

 

 『全機攻撃開始せよ!敵は少数だ。数で押し切れぇ!!』

 

 オープンチャンネルで叫ぶ曹将軍らしい声にため息をつく。こちらは位置を察知されないように無線を切っていたがトロイもイカロスも失敗時に上げられる閃光弾がなかった事から成功しているだろうにまだ戦うのかとあからさまに呆れていた。

 

 「サンチアにルクレティア。君たちは後方で待機したまま情報収集を厳に。敵の配置や移動に関しては黒の騎士団に伝えてくれ」

 『『イエス・ユア・ハイネス』』

 「ダルクとマオは二人を守ってあげてね」

 『えー…こいつとですか?』

 『それはボクの台詞なんだけど。なんでこんな脳筋と』

 『何だって?』

 『何かな?』

 「喧嘩は止めてね。敵は向こうさんなんだからさ」

 

 苦笑いを浮かべつつ秘匿通信からオープンチャンネルに戻して正面を見つめる。司令部までの距離はまだあり、大量のガン・ルゥと少数だが無頼が待ち受けていた。

 

 『どうしますかなオデュッセウス・ウ・ブリタニア第一皇子殿?』

 「ははは、分かっているだろう。突破するに決まっているじゃないか」

 『殿下。お下がりください。ここは僕が…』

 「4人で司令部に突っ込むよ」

 『4人?』

 「・・・三人か」

 

 当たり前のようにガウェインにC.C.が乗っている事をカウントしていた事に気付いて自分のミスに頭を痛める。

 無防備なオデュッセウスのグロースター目掛けて一機の無頼が突っ込んでくる。持っていたライフルを向ける前に通り様に何かが切り裂いた。

 純白の機体に所々青いペイントが施されたランスロット・クラブが両刃のMVSを構えていた。

 

 『ナイト・オブ・ラウンズが一人、ナイト・オブ・ナインのノネット・エニアグラム。腕に自信があるのなら挑んできな!』

 「やはり名乗りを挙げるのはカッコイイな」

 『殿下は極力名乗らないで下さい。ナリタの二の舞はごめんですから』

 「気をつけます」

 

 名乗りを挙げたノネットに敵ナイトメア達の足が止まった隙に白騎士のグロースターがゼロのガウェインを警戒するように間に入る。その白騎士にナリタの一件を思い出されて苦笑いするしかなかった。確かにあれはきつかった。そして月下の一機より向けられる殺気は今もきつい。

 キュウシュウブロックで待ち合わせしていた通りに出会えたゼロと、共同で澤崎達を捕らえる話を黒の騎士団員に話すために姿を出したときは千葉さんに殺されるかと思った。藤堂さんがは『まずは話を聞いてからだ』と止めてくれなければどうなっていた事か…。

 元々ゼロが澤崎を妨害する為に動くことは原作知識で知っていたから話を通すのは簡単だった。あとはメリットとして両方が無駄な被害を減らせるというのと報道ではしっかりと黒の騎士団のことも報道させる取り決めをした。普通は信じてくれないのだけど相手がルルーシュだから通じたんだと思う。

 

 「ノネット。ここは任せるよ」

 『勿論です殿下。白騎士、しっかり殿下を守るんだよ!』

 『言われなくとも』

 『藤堂。任せる』

 『承知!』

 

 ランスロット・クラブと月下五機が敵に突っ込むと同時に司令部に向けて突っ込む。左右から挟撃しようとしていた部隊は彼らで抑えられるが正面の敵はどうしようもない。

 

 「白騎士、アリス」

 『Q-1、N-1』

 「『道を切り開け!!』」

 

 4機のナイトメアが前に飛び出てガン・ルゥを蹴散らす。

 アリス達オデュッセウス直属の特殊部隊には新たな機体が与えられていた。以前のギアスと機体を無理やり繋いだナイトメアを廃棄し、彼女達のギアス用に調整したグロースターを用意したのだ。彼女たちは接続ではなく、白騎士やオデュッセウスと同じ試作強化歩兵スーツをギアス伝導回路と共鳴させる事で以前には劣るがギアスを使えるようにしつつ無理な能力使用をできなくした。勿論C.C.細胞抑制剤を中和する中和剤は積み込み厳禁だ。

 中でもアリスの機体は試作機の特注品。現行量産型ナイトメアフレームでブリタニア軍のエース機としても使われるグロースターの最終強化版。グロースター最終型である。特徴はいたるところに施した強化した装甲に機体全体を隠せるほどの剣を収納可能なタワーシールドだろう。その機体性能は運動性能を除いて紅蓮弐式以上である。

 ガン・ルゥの銃撃を盾で受け止めながら突進して吹き飛ばした空間に紅蓮弐式とライ専用の月下が滑り込み、輻射波動にて敵を粉砕しながら次の獲物に切り込んでいく。負けじとアリスも切り込み、白騎士が援護するようにアサルトライフルを撃ちながら撃ち漏らしを排除して行く。

 

 「おお!さすが輻射波動夫婦。息がぴったりだ」

 『なによそれ!?』

 『なんですかそれ!?』

 

 突然のオデュッセウスの言葉にカレンもライも息を合わせて突っ込む。

 確かロストカラーズ黒の騎士団ルートであったと思うんだけどとは言えず、あまりの連携に興奮して叫んだ事を後悔した。

 

 『殿下…今のうちに』

 「分かっているよ。行って来る」

 『止めても無駄でしょうからお止めはしませんがご無事で帰ってきてくださいね。あとでお話がありますので』

 「・・・・・・はい」

 

 白騎士達の活躍で開いた道をランスロットと灰色のグロースターが駆け、頭上を守るかのように低空でガウェインが飛んで行く。

 

 『ゼロ!お前たちは日本を憂える同士ではないのか?』

 

 再び曹将軍のオープンチャンネルで発せられた言葉にオデュッセウスはクスリと笑い、ゼロにこれからの通信を流す許可をもとより決めていた合図で承諾を取る。ゼロから承諾の合図を受けるとサンチアに直接回線で流すように命じる。

 

 『我ら黒の騎士団は不当な暴力を振るう者すべての敵だ』

 『不当だと!我らはブリタニアに虐げられる日本人を救う為に――』

 『本当に日本の事を憂えるのなら貴方は日本に残るべきだったんだ澤崎さん!』

 『子供の理屈で物事を計るな!』

 「なにを言っているんだい?君はブリタニアからの解放ではなくサクラダイトの利権を狙ってテロを起こしたテロリストの首謀者じゃないか」

 『テロリストだと!?私は中華――』

 「中華連邦からは君の独断だと聞いたよ」

 『な、なに?』

 「私の数少ない友人には中華連邦の天子様も居てね。弟のシュナイゼルからエリア11の中華連邦大使館の黎星刻を通じて大宦官に問いただした所、中華連邦はこの件に一切関わりないと」

 『ば、馬鹿な…そんな馬鹿なはずが…』

 

 パイロットを殺さぬように武装や脚部を二本のMVSで切り裂いていくランスロット。そのランスロットを狙う中距離よりの射撃を行なおうとするナイトメアを灰色のグロースターが頭部や武器だけを撃ち抜いて無力化する。そしてハドロン砲の高火力に任せて狙った獲物をまとめて葬るガウェイン。

 その光景はサンチアのグロースターよりペーネロペーを中継して生放送で見ていたエリア11のブリタニア人に名誉ブリタニア人、イレブンの人種の壁を越えて興奮させた。ただ敵対している曹将軍には堪った物じゃなかった。

 司令部まで辿り着いたゼロはハドロン砲を操作して円形の穴を開けてランスロットと共に内部へ突っ込む。入り口にはオデュッセウスのグロースターが壁で身を隠しながら内部へ向かってこようとする敵機を撃ち抜いていく。

 

 『殿下!?なにをなさって…』

 「スザク君。帰り道は押さえておくから君はヘリポートへ」

 『そんな!それなら自分が…』

 「ランスロットに比べて私のグロースターは機動性で劣っている。とてもガウェインに追いつけないよ」

 『・・・殿下』

 「ユフィが告白した彼氏に兄として華を持たせようとしているんだから素直に行ってよ」

 『分かりました殿下…ここはお頼みします』

 「ん。了解したよ」

 

 笑顔で去って行ったランスロットを見送りながら、オデュッセウスの視界はぼやけていた。薄っすらと見える色彩のみで狙撃しては脚部を吹き飛ばしては横転させている。

 

 「……グス。ユフィが……あの少し前まで幼かったユフィがお嫁に行っちゃうのか…」

 『あの殿下…オープンチャンネルのままですが』

 「ふぇ?」

 『まるで父親が娘の事を思うような言葉が流れてきましたが…』

 「だぁっでぇ~…」

 

 この後、ランスロットとガウェインにより首謀者の曹将軍と澤崎を含める中華連邦に亡命していた元日本官僚達を全員逮捕してキュウシュウ戦役と呼ばれる戦いは幕を閉じた。戦闘に参加した黒の騎士団はフクオカ基地完全制圧のどさくさに姿を晦ましたとのこと。

 オデュッセウスはトウキョウ租界に帰る前に白騎士に一人で黒の騎士団に接触した事を怒られ、全国放送中にユフィが告白した事をばらしたことでコーネリアにこってり叱られ、二人して娘が結婚する父親のような複雑な心境に陥ってお酒を片手に一晩語り泣き続けた。

 ただオデュッセウスの発言により記者会見を開かなくてはいけなくなったユフィは、恥ずかしそうではあったがとても嬉しそうな笑顔で質問を受けていた。

 

 

 

 

 

 

 ただ今回の件も含めてオデュッセウスの行動に問題が浮上して、ブリタニア本国で緊急の会議が開かれようとしていた…。




名前 :グロースター最終型
HP :3000
近距離:64
遠距離:62
装甲 :50
運動性:38

名前 :紅蓮弐式
HP :1300
近距離:55
遠距離:44
装甲 :42
運動性:45

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