コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第36話 「体感して分かったけどハドロン砲って怖い……」

 蒼い空に浮かぶ白い雲。

 

 地平線まで続く青い海。

 

 白い砂浜。

 

 海水浴で訪れたならどれだけ良かっただろうと思えるような海岸沿いを眺めながらオデュッセウスは遠い目をしていた。

 

 オデュッセウスはエリア11副総督のユーフェミアと共に神聖ブリタニア帝国宰相のシュナイゼル・エル・ブリタニアの出迎えで式根島に来ていた。二人が移動するだけで警備を申し付けられた部隊が動き、各部署に多大な仕事を増やしてしまっている事に大変申し訳なく感じる。

 別にここまで迎えに来る事に思うところがあって遠い目をしていたのではない。むしろ迎えに来る事は苦でもなんでもない。だって最近会えなかった弟に会えるんだよ?行くでしょ普通。

 そもそも役職的に迎えに向かわなければならない。相手は弟とはいえ『宰相閣下』でこちらは神聖ブリタニア帝国の植民地エリアの一つを管理補佐している副総督。そして副総督の補佐であるオデュッセウスはユフィが行くなら付いていかなければならない。クロヴィスは撃たれた傷も良くなってきているが大事をとって政庁で待機中。

 

 遠い目をしている理由は自分自身の不甲斐なさにあった。

 

 前回シュナイゼルの連絡を受けるまで神根島の件を見逃して、現在何の準備も出来ていない。原作通りなら何の問題も無い――なんて言ってられない!!だって下手したらユフィがハドロン砲に巻き込まれるんだよ!?

 と、いう事で急遽搭乗できる機体を用意しました。

 

 ……暴徒鎮圧用プチメデ…しかも一機。

 

 まぁ、プチメデの事は良い。戦い方によってはナイトメアとも十分に渡り合える。条件としては被弾ゼロが絶対だが。それより問題なのが我がユリシーズ騎士団はキュウシュウの仕込みの為に出払っているのと白騎士がいないことである。

 神根島の調査を知った伯父上様から連絡があって「ロロ借りるよ」だって。……恨みますよ伯父上ぇ。

 後はアリス達ギアスユーザーの部隊がいるが彼女たちはナイトメア受け取りの為にここから離れている。

 

 今回は特に準備する時間が無かった。

 もう少しシュナイゼルが連絡してくれるのが早かったら………いや、止めよう。完全に見逃していた自分が悪い。しかし騎士を決めてから三日もしないうちに神根島イベント発生しなくても…。

 

 「お兄様はどうされますか?」

 「――ん?なにがだい?」

 

 ひとり海岸沿いを眺めていたオデュッセウスに声をかけたのは副総督であるユフィである。ユフィの周りには特派のロイドにセシル、騎士になったスザクとユフィの警備についているSPがおり、そのすべての視線がこちらに注がれていた。

 

 「司令室に控え室を用意されているそうですがお兄様はどうされます?」

 「ユフィはどうするんだい?」

 「ここに入港するそうなのでここで待とうかと」

 「ならば私も待つよ。海を眺めながらゆっくりするのもいいだろう」

 

 と、私らしい回答を答えたがそれが本音ではない。これから黒の騎士団が襲う司令部に行くなど勘弁して欲しい。それに今私がここから離れるわけにはいかない。ポートマンでスザク君の下へ駆けるであろうユフィを止めなければならないのだから。

 

 焦る素振りを見せぬように心を落ち着かせようと行ったり来たりする波を眺めていると遠くから爆発音が響き渡った…。

 

 

 

 

 

 

 森林に囲まれた位置に神聖ブリタニア帝国式根島駐屯地が存在する。小さな島で人口も少なく、エリア11を守る防衛戦としても重要な地点でもないが為に、それほどの軍事力は有していない。主力のナイトメア9機ほどで戦車などの戦闘車両が大多数を占めている。ブリタニアの宰相閣下が式根島に来るとのことで本土より12機ほど補強されたが今の黒の騎士団の敵ではない。

 

 『イレブン風情が!!』

 「イレブンじゃない日本人だ!」

 

 防衛部隊のサザーランドの銃弾を最小限の動きで突破した新型ナイトメア【月下】――の先行試作型がサザーランドの頭部を肥大化した左腕部の輻射波動機構甲壱型腕で掴む。黒い電流のようなものが放たれたと同時に握られた頭部から変形させながら膨張させ、パイロットがコクピットごと脱出したと同時に爆散した。

 

 「これが月下…これが輻射波動か…。凄い」

 

 一時は日本解放戦線に移り、再び黒の騎士団に戻ってきたライはカレンに並ぶ操縦技術と卓越した指揮能力により特務遊撃部隊隊長の地位についていた。騎乗している機体はキョウト六家の皇 神楽耶の計らいでライ用にカスタマイズされた【月下先行試作型】。色は蒼色で左腕部は紅蓮の輻射波動機構のパーツを用いて簡易化された輻射波動機構甲壱型腕により驚異的なナイトメアに仕上がっていた。

 しかもパイロットはまるで精密機械が操っているかのごとく細かく動かす為に敵には弾丸がナイトメアをすり抜けていくように見えて脅威以上に恐怖を与えている。

 

 『先行しすぎだぞ!』

 

 追ってきた千葉の月下が弾丸をかわしながら廻転刃刀でサザーランドを素早く切り伏せる。背後から撃とうとした戦車部隊は別方向から現れた卜部の月下の掃射により壊滅させられた。

 

 『どちらも先行しすぎだと思うがな』

 『私は奴ほど周りを見ていない訳ではない。今のだって問題なかったんだ』

 

 確かにサザーランドを斬り捨てた辺りで左腕のハンドガンで狙おうと動いていたのは分かった。けれど解放戦線で一緒に戦った頃に比べれば落ち着きが無い。僕と同じで新型機に浮かれているのだろうか?いや、『浮かれ』というよりは『焦り』か?

 

 『まぁそうだろうな。しかし、なぁ……いや。止めておこう』

 『なんだ!途中で止めるな。気になるだろう』

 『ここにあの第一皇子はいないだろうからリベンジに燃えているなら無駄だと思うぞ』

 「あー…ナリタでの一件ですか」

 

 卜部に言われて思い出した。千葉はオデュッセウス・ウ・ブリタニアと戦いたがっている事を。

 前のナリタ連山で斬りかかったら一瞬で組み伏せられ、新品だった無頼改の頭部を跳ね飛ばされた。それだけで終わらず絶好のタイミングで不意打ちすれば腕を破壊され、新兵器であった廻転刃刀を奪われてしまう始末。

 あの時の借りを返すといって何度シミュレーターで相手をさせられたか。

 

 『分からないだろう。最前線に何の前触れも無く現れる皇子だぞ』

 「この前クロヴィスランドのプール施設解放日に海の家やってましたよ」

 『ちょっと待て。そいつ本当に皇子か?』

 「カレーライス美味しかったです」

 『くそ、何故早く教えてくれなかったんだ!』

 『うん。お前ら少し落ち着こうか。一応ここ戦場だからな』

 

 会話しつつも各々の能力が高すぎて戦車隊程度では相手にならない。もし彼らを止める戦力があるならそれはユーフェミアの騎士となったスザクのランスロットぐらいだろう。

 注意されたからには意識を戦闘に集中させて行動を開始する。現状基地の制圧は50パーセントを超えている。近くの駐留部隊には応援要請が掛かっているだろうがその頃にはゼロの作戦通りなら撤退できる。もし追撃されてもこの式根島に来たゲフィオンディスターバの副産物であるステルス機能を持った潜水艦で逃げおおせる。ただ潜水艦に積めるナイトメアには限りがあって持久戦は困難だが、今回のような短時間の奇襲なら問題ないだろう。

 

 レーダーに目を向けていると玉城の無頼の反応が消えた。基地方向の真逆から来たナイトメア反応は間違いなくランスロットだ。即座に作戦は次段階へ移行して基地制圧していた黒の騎士団は撤退を開始した。

 

 「千葉さん。卜部さん。後退します」

 『では、先に行く』

 『合流ポイントで合おう』

 

 別々に移動しながら森を抜けていく。向かう先の浜辺にはゲフィオンディスターバを設置した罠があり、ゼロがランスロットをそこまで誘導する事になっている。万が一の事も考えて範囲に入らないように無頼や月下など黒の騎士団のナイトメアが囲んでいる。ライが到着した頃にはすでに罠の中心でランスロットとゼロの無頼がゲフィオンディスターバの影響で行動不能に。

 

 『枢木少佐。出てきて話をしないか。

  捕虜の扱いは国際法に則ろう』

 

 少し間が空いてゼロの声に応じたスザクがランスロットのコクピットから姿を現した。

 

 アッシュフォード学園の友人であるスザクとは出来れば戦いたくなかった。記憶喪失で不安な時に損得勘定なしに心配し、いろいろ手を尽くしてくれている生徒会の皆。その中でスザクは差別意識の高い一部学生より虐めを受け、ある事件をきっかけにかなり和らいだとはいえ、大変な事に変わりないのに他人の世話を優先してくれた。

 カレンはゼロの為ならば戦うと断言したが僕はそうは出来ないだろう。だからゼロが任せてくれと言った説得を信じる。彼が仲間になってくれたらどれ程心強いか。

 

 距離もあって聞き取れない二人の会話が終わるのをライは期待と希望を抱いて待ち続けた。しかし、銃を奪われ捕らえられたゼロと遠くからこちらに向かって来ているミサイルの一斉掃射で一瞬にして打ち砕かれた…。

 

 

 

 

 

 

 「船は出せるかい?」

 「は?だ、出せますがこの状況で出せば危険かと…」

 

 ランスロットが襲撃した港では特派のヘッドトレーラー内に特派とユフィが詰めており、船の方でオデュッセウスがこれからの指示を出していた。

 艦長の男性はオデュッセウスの言葉に困り顔で答えたがオデュッセウスはにこやかに微笑む。

 

 「分かっているさ。少人数…もしくはオートで移動するだけで良い」

 「囮という事ですか?」

 「出来れば目立つようにで頼みたい」

 「了解しました。その囮役、謹んで拝命いたします」

 「死ぬことは許さないから。生きて戻ってくるように」

 「イエス・ユア・ハイネス!」

 「後は救援に来るであろう部隊の指揮を取れれば問題は――」

 「兄上!」

 

 頼み辛かった指示を覚悟を決めた表情で受領されたら不安で仕方がないのだが。そのまま死に急ぎそうで…。

 そんな不安感を抱いていると大声でユフィに呼ばれて振り向く。これまでの人生で見たことないほどお怒りなのだがどういうことでしょう?ああ、囮の件か。でも囮の件だとしてもユフィはまだ知らない筈なんだけど私の服に盗聴器でも付いてたか?

 

 「何故あのような命令を!あそこにはスザクも居るのですよ!」

 「うん?何の話だい?」

 「スザクにゼロを足止めさせてミサイルを――」

 「待って!それ私じゃないよ」

 

 移動経路や一時的に隠れておく場所の検討。それまでの時間稼ぎの囮など話をしている間に事態がそこまで動いていたらしい。ミサイルの話が出てきたということはスザク君がゼロを――ルルーシュを捕縛したところか。

 状況を理解したのは良いのだが誤解を早く解かないと…。

 

 「しかし、総督以上の権限がないと覆せれない命令なんて出せる人は限られています」

 「限られているけど私にそんな権限はないよ。だって今は副総督補佐官。ユフィより下なんだからそんな命令出せないよ」

 「では、兄上以外に誰が…」 

 「あー…この近くに居るのなら一人しか居ないよねロイド」

 

 トレーラーよりユフィを追ってやってきたロイドとセシルだが話をしている途中から思い当たる節があるのかロイドが俯いていた。

 

 「あはは…。シュナイゼル殿下ですね」

 「そんな!」

 「シュナイゼルは神聖ブリタニア帝国宰相だから総督以上の命令は下せるだろう」

 

 原作を知っているからそのまま答えても良かったが、反応を示したロイドに答えて貰うのが適切だろう。それにこの会話には時間稼ぎも含まれている。この後の展開はシュナイゼルがアヴァロンからガウェインのハドロン砲によってランスロットを含めて範囲攻撃を喰らわせる。本来ならハドロン砲は収束して撃つ為に真っ直ぐ飛ぶのだが、まだ未完成の為に散弾のように分散してしまうのだ。ユフィは迷う事無くスザクの元へ駆けていく。スザクはルルーシュのギアスで生きようと動いた結果、神根島に流れ着くのだがユフィはどうやってかまったく分からない。本当に原作通りになるか分からない状況でそんな危険は冒せない。

 

 「私からシュナイゼルに話を通してみようとは思うけど時間が―――あれ?ユフィは?」

 

 顎鬚を撫でながら通信機器のほうに視線を向けて、ユフィへと振り返るとそこにユフィどころかロイド達の姿もなかった。疑問符を浮かべながら隣に居た艦長に問いかける。

 

 「ユーフェミア皇女殿下ならあちらに――」

 「お戯れも大概に!!」

 

 船の外から大声が届き、ポートマンが急発進した。

 って、待て待て!

 大慌てで船外に出ると兵士たちがポートマンを追おうとしているし、セシルとロイドも困った顔をしている事から確実にポートマンにはユフィが騎乗している。船外まで出た道のりを戻り、格納庫へと走る。用意していたプチメデに飛び乗ると止めようとする兵士の制止を無視して飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 「全機動くな」

 『しかしゼロが!!』

 「分かっている。だが、近付けばゲフィオンディスターバの影響を受けるぞ」

 

 ゼロをスザクに捕らえられて焦りを隠せないカレンが今にも飛び出しそうなのを一応注意はするが、藤堂自身も焦っていることは本人がよく自覚している。だからと言ってゲフィオンディスターバを止めたらスザクはゼロを捕らえたままランスロットに騎乗し、今までの戦闘データから見るに逃げられる可能性が大きい。囲んでいるナイトメア部隊で救出作戦を行ないたいがやはりゲフィオンディスターバが鬼門となる。

 

 「くっ!歯がゆいな…」

 『藤堂さん!』

 「どうした朝比奈!」

 『ミサイル群がこちらに』

 「なんだと!?」

 

 言われたまま見上げると大量のミサイルがここに向かって飛んできているのがモニターに映った。どうもブリタニアはスザクごと黒の騎士団を排除しようと考えたらしい。ブリタニアに所属していても日本人の扱いはそれほど軽いものなのか…。

 

 「全機ミサイルを撃ち落せ!全弾撃ちつくしても構わん!!」

 

 藤堂の号令と共に月下に無頼が一斉に撃ち始めた。迎撃できるかどうか怪しい数だが今はやるしかない。ミサイルを中心に納めているモニターの端で紅蓮が突入して行ったのが見えたが止める余裕も無く、即座にゲフィオンディスターバにより行動不能に陥った。

 苦虫を噛み潰したような表情でミサイルを撃ち続けていると聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 

 『藤堂!』

 「この声……オデュッセウスか!?」

 『何でも良いからゲフィオンディスターバを解除しろ!』

 「何!?何故知っている?それよりどういう意味だ!」

 『ミサイル群よりもっと厄介なものがくる!死にたくなければ早く退避しろ!!』

 

 何故ゲフィオンディスターバーのことを知っているのか?とか、厄介なものとはなんの事か?とか聞きたいことは複数あるが、とりあえずは嫌な予感はするが…。

 

 「断る。なんの確証もない情報――しかも敵からの言葉を鵜呑みにして指示は出来ない」

 『だと思ってはいたんですけどね!!』

 

 答えるとレーダーに小さな反応が映って視線を向けるとナイトメアの半分以下の暴徒鎮圧のプチメデが森より飛び出して、ゲフィオンディスターバで囲まれた効果範囲内に迷う事無く跳び込んで行った。一瞬、動きが止まったがすぐに動き出した。どうやらあのプチメデにはサクラダイトが多少使われているがサクラダイトが切れた時用に別動力を持っていたのだろう。

 

 『藤堂さん!オデュッセウスが――』

 「馬鹿な!」 

 

 プチメデの搭乗者が即座にオデュッセウスであることを見抜いた千葉の言葉に藤堂は目を疑いながら目を凝らした。確かに搭乗者が本人である事を確認して驚きより呆れの感情が先に訪れた。それにしてもゲフィオンディスターバを知っていた事や対策をしている事などこちらの動きを知っているかのようだ。

 オデュッセウスの進行方向を見てみるとドレス姿の場違いな少女が駆けているのがモニターに映った。後姿だが資料で見たユーフェミア・リ・ブリタニアのような感じを受けるがまさかな…。

 

 「―――ッ!?なんだ!!………なん……だと…」

 

 大きな影が自身の月下を覆った事で視界をオデュッセウスから上空に戻すと、アニメや漫画、映画などに登場しそうな空を飛ぶ戦艦が頭上に浮かんでいた。こちらに向かって飛翔していたミサイル群と黒の騎士団が撃っている銃弾をバリアのようなもので防いでいる。資料にあったランスロットのエネルギーシールドだと推測できるが、これではまるでSF映画ではないか。

 戦艦の後部ハッチがゆっくりと開き、暗闇しか見えない内部から赤い輝きが発せられる。徐々に強くなる光にこれがオデュッセウスが言っていた厄介なものなのかと睨みつける。

 

 「全機散開!散れ!!」

 

 叫ぶと同時にゲフィオンディスターバ発生装置がほぼ同時に爆発し、後部ハッチから赤いエネルギー砲弾のようなものが降り注いだ。照準を必要としない面制圧用の兵器らしいがまだ掃射の量が少ないのと、範囲が広すぎた事でこちらの被害はほとんど無かった。

 

 「全機無事か!?」

 『紅蓮が停止したままですが…』

 「回収は千葉に任せる!カレンは?ゼロは?」

 『ランスロットの姿、確認出来ません』

 『分かりません。何処にも映っては――』

 『大変です!敵の増援がこちらに向かっております』

 「くっ、仕方がない。これより撤退する!全機撤退地点に移動せよ。仙波!」

 『はい、なんでしょうか?』

 「殿は任せる」

 『承知!』

 

 黒の騎士団のエースであるカレンと司令であるゼロを探す為に時間を作りたいが団員全員の命を危険に晒すわけにはいかない。二人の無事を祈りつつここは引くしかないと自分自身に言い聞かせて撤退地点まで急ぐのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 波の音が聞こえる。

 ゆっくりと……リズムを刻みながら…力強く浜辺に打ち寄せる波の音が耳に心地よく響く。

 温かい日光を浴びて背が温もり、足元は冷たい水に浸かって気持ちよく、塩っけを含む風が心地よい。

 ずっとこのまま横になっていたい。

 

 オデュッセウス・ウ・ブリタニアは覚醒しきっていない思考で、そう思ったがあまりの喉の渇きが襲ってきた為にゆっくり瞼を開けて、身体を起こす。

 

 自分が転がっている砂浜。背後は青く透き通った海で、前方は自然豊かな森。ゆっくりするには良い所なのだが私はどうしてこんなところで寝ていたのだろう。今日何があったかを思い出してみる。

 

 確かシュナイゼルが来る式根島に向かって、黒の騎士団の戦闘が原作通りに始まった。すぐに救援に向かったスザク君が捕まり、隙をついてゼロを拘束。ブリタニア軍はスザク君ごと葬り去る作戦を実行。スザク君を救う為に戦場に飛び込んでいったユフィを助けようとプチメデで追い掛けて………藤堂さんに頼んだが軽く断られ、自らユフィを助けようと跳び込んで行って…。

 

 上空から散弾のように降ってくる拡散したハドロン砲が直撃しないように回避していると近くに至近弾が着弾して爆風に巻き込まれ―――そこから意識が無い。

 

 うん。すんごく怖かった!文字通り死ぬかと思った…。

 

 トラウマになりそうな光景を忘れようと頭を振り、ユフィやスザク君の安否を心配しつつ、とりあえずの安全を確保しようと辺りを見渡す。前方の森は人の手が加わった様子はないものの果物はありそうだ。もしなければツルや木の枝を使った釣具を作って釣りをしても良い。一番重要な水だが海水なんてとんでもない。海水は塩分濃度が高く、逆に脱水症状を引き起こす。地下水や湧き水があれば良いのだがと森に視線を戻すとちょっと先に大きな滝が目に入った。

 

 「ふむ…水の確保も大丈夫そうだな………行くか」

 

 立ち上がって土を払い、ゆっくりと森へ向かって歩き出す。

 式根島っぽいが人が居るらしい建物や港は見えないことから違うだろう。運が良ければ神根島。それか式根島付近の孤島か。どちらにしても日本であることから黒豹やワニ、アナコンダは居ないけど蛇はいるだろうからよくよく注意しなければ。

 

 「――ン!カレ――シュタッ―――ルト!君は――」

 「そんな名――呼ぶ―!私は紅―――レンよ。――人の!!」

 「じゃあ――に…」

 「私は―――士団。今更隠す気は――」

 

 草木を掻き分け滝の音が近付いてくると共に人の声が聞こえてきた。どうやら無人島ではないらしい。滝の音と草木を掻き分ける音で何を言っているか所々聞き取れなかったが、どうやら喧嘩をしているらしい喧騒だった。少し落ち着くまで待って通信機器を借りられれば万々歳だ。

 

 視界が徐々に広がり上から勢いよく降り注ぐ滝に木々ではなく、小石が広がる広場が目に映った。大自然の光景に感嘆しそうになるが滝の手前の人物を見つめて隠れる事を忘れてそのまま茂みを抜けてしまった。

 

 

 

 そこには裸体の女性を押し倒しているスザク君の姿が…。


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