コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第35話 「午後のひと息と突然の知らせ」

 政庁の多目的室はパーティ会場や表彰式、会見場と幅広く使われている部屋である。

 クロヴィスが総督の時にはよくパーティ会場として使われたが、コーネリアが総督となってからは政庁から情報を発信する際の会見場ぐらいにしか使っておらず、パーティなどは片手で数えられる程度である。

 そんな多目的室にエリア11に滞在する貴族が勢揃いして、真ん中のレッドカーペットと奥の壇上を空けて左右に並んでいた。中には変わり者のロイド・アスプルンド伯爵やラウンズのノネット・エニアグラム卿の姿もあったが、一番目を引くのは最前列に立っている現エリア11の総督であるコーネリア・リ・ブリタニアだろう。

 

 …物凄く不満げな顔をしているが。

 

 「姫様…」

 「なんだギルフォード」

 「そんなお顔をされていたらユーフェミア様も困ってしまいますよ」

 「まさか認めてやれとでも言うつもりか?」

 「いえ…ただユーフェミア様の記念すべき場ですので…」

 「分かっている。分かっているのだが………兄上も余計な事を」

 

 最近は冷たい眼差しが多いが、ほとんどは優しい眼差しで見つめる対象であるオデュッセウスに忌々しそうに視線を送ってしまう。当の兄上は撮影班に事細かに指示を出している。後ろに付いている白騎士が視線に気付いて一礼する。

 

 鼻を鳴らしてそっぽを向いて白騎士の視線から顔を逸らす。

 

 私はあの白騎士という奴が気に入らない。

 兄上と親しいロイドも気に入らないがあれとは理由が異なる。

 ロイドは貴族としての自覚が足らなさ過ぎて見ていてイライラする。それと妙に馴れ馴れしいのが火に油どころかガソリンを注がれてキレそうになる。

 だが、白騎士に至っては存在そのものが気に入らないのだ。

 礼儀も覚えており、ナイトメアの実力もかなりのもので騎士にするのに問題はない人物だ。その人物が正体不明な事を除けばだが。

 誰も白騎士の正体を知らないのだ。兄上や姉上に聞いても知らず、オデュッセウス兄上に問い詰めてもそれだけは教えてもらえなかった。いつもなら何でも教えてくれるのだがガードは堅く、ヒントの類すら得られなかった。そのうえ兄上からの信頼はかなりのものらしく、用事があり執務室に行った際に二人でお茶をしていた姿を目撃した。

 …違う。羨ましいとかそういうのではなくて…。確かにエリア11に来てから忙しくて兄上とお茶をするような機会が少ないのは認めるが、だからと言って嫉妬など…。

 

 ―――コホン。何にしてもあの正体不明で兄上から信頼されている白騎士が気に入らない。

 それ以上にあの男が今は一番気に入らない。

 壇上にユーフェミアが立ち、静寂に包まれた室内を扉が開かれる音が広がる。皆の注目を集めたあの男は純白の騎士装束を身にまとって、レッドカーペットを踏み締めながらユフィの元へと歩んでいく。

 神聖ブリタニア帝国第三皇女、ユーフェミア・リ・ブリタニアの騎士となる枢木 スザクをコーネリアは忌々しく睨む。

 

 

 

 

 

 

 枢木 スザクの叙任式の三日前。

 政庁にはクロヴィスが造った屋上庭園があり、オデュッセウスは結構この場所を気に入っている。昔は何度も訪れたアリエスの離宮を模した庭園で、のんびりゆっくり過ごすには適している。お茶菓子に紅茶を用意して午後のひと時を過ごしてもいいし、暖かい太陽の日差しを浴びながら日向ぼっこするも良しなのだ。

 たまにクロヴィスとチェスを打つこともあるがいっつも勝ってしまい不機嫌になるのだ。

 

 今日は執務も粗方片付けてひと息吐いていた時にコーネリア達も同じくひと息入れていたので庭園に行かないかと誘ったのだ。

 誘ったのはコーネリアにユフィ、クロヴィス。そして身体が鈍っていたのかジャージ姿で駆け回っていたノネットの四人。

 お茶菓子に秘蔵の高級クッキーと紅茶を用意して向かったのだが熱い紅茶を一気飲みしているラウンズがいるんですけど止めた方がいいのか?

 心配をされていた事を知らないノネットは失った水分を得ようと紅茶に飛びつき、勢い良く噴出して咽ていた。手遅れだった事を悔やむ事なく視線をコーネリアとユフィに向ける。コーネリアは芝生の上に転がって、頭はユフィに膝枕してもらっている。

 とても絵になる光景だなと思っていると先にそう感じてキャンバスと筆を手にしていた弟がいるが、その道具はどこから出したのだろうか?常に庭園など自分が行くであろう場所には常備してあるのかな? 

 

 「そういえば兄上も膝枕して貰っていたことがありましたね」

 「ん?そうだっ――」

 「何処の馬の骨に頭を預けられたので?」

 

 思い出したかのように話し始めたクロヴィスの言葉に思い出そうとしたオデュッセウスは、眼光を鋭く輝かせるコーネリアの視線を受けて口が止まった。肉食獣よりも肉食獣らしい眼光を向けられてどうすれば良いのか分からず、助けを求めるようにユフィへと視線を向ける。意図を汲んでくれたのか微笑みながらコーネリアの頭を優しく撫でる。若干ながら眼光の鋭さが和らいだ気がする。

 

 「クロヴィス……。寿命が縮まる発言は控えて欲しいな」

 「今のは私の失言でした。あと付け加え忘れていました」

 「ああ!あの時のことですね」

 

 ユフィが思い出したことでオデュッセウスだけでなくコーネリアも思い出して顔を赤らめる。その表情を見たノネットの口元がニタリと笑った。

 

 「ユフィ!その話は…」

 「聞きたいですね。何があったのですか殿下?」

 「エニアグラム卿!?さ、さして面白い話ではないので」

 「私がアリエスの離宮で昼寝しようと芝生で転がっているとユフィが来てね」

 「兄上!?」

 「頭が痛そうだからと膝枕してくれたのだよ」

 「ほうほう」

 「そこに来たコーネリアが――」

 「わああああああ!?あああああ、兄上!」

 「お姉様。ジッとして下さい」

 「『私のユフィを盗らないで!!』と叫びながら突撃して行ったんでしたよね」

 「ぶふっ!見事なシスコンぶりですね」

 「クロヴィス貴様……後で覚えていろよ」

 

 肩を震わせて馬鹿笑いを我慢する様を見て不貞腐れながらも最後の一言を告げたクロヴィスにはしっかりと恨み言は残した。微笑みながら持ってきたクッキーをかじり、紅茶を飲んで文字通り一息吐いた。

 

 いつまでもこんな日々が続けば良いのに…。

 

 頭を過ぎった言葉を追い出すように顔を左右に振って考えをリセットする。『続けば良いのに…』ではなくて『続くようにする』。その為にキュウシュウの仕込みに行政特区日本設立時の対策を考えているんじゃないか。エリア11での兵力も確保し、力も得た。すでに情報を持っている点で未来がある程度見えているから後は自分の努力次第。

 多分忘れている小さな事はあるだろうがそれはその時に対処すれば良い。

 『情報を持っている点』と言ったがこの情報が何処まで信じて良いか分からなくなってきているが…。

 

 原作であった出来事が消滅した事案が発生した。

 藤堂 鏡志郎がブリタニア軍に捕まった事で黒の騎士団による救出作戦だ。これは内容的に助け出すだけの回ではなく、新機体である月下のお披露目、藤堂や四聖剣が主に活躍する場、数少ない挿入歌が使われたりといろいろあるが、一番はゼロの指揮でランスロットが圧倒されてコクピットが破損。パイロットが国内のブリタニア人・日本人問わずに知れ渡りルルーシュは困惑し、ユフィは記者の前でスザクを騎士にすると宣言する大きな場面。

 それが消失してしまったのだ。

 原因はロストカラーズのライと推測する。理由は監視をしていた四聖剣が連続で監視を撒いたのだ。ゲームで日本解放戦線編でそんな回があったし、間違っていない筈だ。彼の活躍によって藤堂は捕まる事無く日本解放戦線に合流し、その後に黒の騎士団に入ったのでした。めでたしめでたし……じゃない!!

 

 頭の痛い事案を思い出して蹲りたくなるのを堪えて、表情が微笑んだまま硬直していたオデュッセウスは紅茶をゆっくりと飲み干す。

 

 「騎士の件は決めたのか?」

 「………」

 「まだのようだな。リスト内に目ぼしい奴が居なかったか」

 「いいえ、皆さん立派な方々でした」

 

 少し考え事をしている間にユフィの騎士の話題へと変わっていたらしい。

 先日コーネリアが選んだ騎士リストを私も見せてもらったが見事な物だった。家柄や学歴は勿論として軍隊での活躍や性格や思考を分析した詳細なデータ。血筋を辿ってブリタニア人以外の血が混ざってないかまで調べ上げたリスト。

 誰を騎士にしても問題が起こる筈も無く、騎士を求める身としてはそれがどれ程の物かは一目瞭然だ。しかし、ユフィは乗り気ではない。けれどコーネリアの想いを汲んであげたい気持ちもあると見た。ここは兄として何とかせねばなるまい。

 

 「私も騎士のリストを作ってみたんだがどうだい?」

 「え?兄上もですか?」

 「私も気になりますね」

 「えーと……まぁ!」

 「ぶふぉ!!ぶははははははっ」

 「家柄も実力も確かだよ。ふふふ」

 

 懐から取り出したリストを渡すと気になったクロヴィスとノネットがユフィの左右から覗く形で見つめる。分厚い表紙をめくって中身に目を通した瞬間、ノネットは大声で笑い出し、ユフィとクロヴィスはクスクスと笑った。満面のオデュッセウスの笑みに何かを感じ取ったコーネリアがリストを見ると……。

 

 A四サイズのページに二枚ずつ幼少期から現在までのコーネリアの写真が貼られていた。

 

 「兄上!!」

 「ど、どうしたんだい」

 「なにを渡してって!いつの間にこんな写真を!?」

 「…家柄も実績もしっかりしていただろう?」

 「そういう事ではなくてですね」

 「おお!殿下にこんな時期が」

 「これは中庭で遊んでいた時のですね」 

 「こっちは軍学校卒業の時ですか」

 「くっ!没収です!!」

 「そんな!私の家宝の一つが!?」

 

 顔を真っ赤に染めながらリストと称したアルバムを奪われて涙を浮かべたオデュッセウスは袖で目元を覆う。袖で目元を隠したのは演技だが涙はマジである。没収されたのは布教用なので問題ないといえばないのだが悲しい…。

 

 「そこまでですか!?」

 「大事なコーネリアの成長記録がぁ…」

 「…あれ?同じようなのを前に見たような気が」

 「うん?ああ、私の私室に来たときだね。それぞれ仕分けしているから数も多くてね」

 「もしかして私のも?」

 「ユフィのもあるし、ギネヴィア、カリーヌ、マリーベル、シュナイゼル、クロ――」

 「全員分のがあるんですね」

 「私の分まであるとは」

 「さて――ユフィ」

 

 先ほどまでの多少ふざけた態度から一変して真面目な表情でオデュッセウスはユフィと目線を合わせる。いつにない真剣な態度に驚きつつ見つめ返す。

 

 「騎士にしたい人がいるね?」

 「え!?」

 「だけどコーネリアがユフィのことを考えてくれている気持ちを感じて言い出せないでいる」

 「……はい」

 「優しいねユフィ。

  ――でもこれは…こればっかりはユフィの問題なんだ。

  君が選ぶ、君の騎士なんだから。

  騎士とは君の矛であり、盾でもあり、剣だ。

  ただ賢いだけの知恵者でも、ただ武術に優れた武人でも、代々貴族の家柄の血筋を持っていたとしても駄目だ。

  確かに必要な要素ではあるんだけれどね。

  私は一番に必要なのは騎士が主を心の底から信じ、そして同じく主も騎士を信用出来る関係だと考えている」

 「信頼し得る相手…」

 「例えユフィがどんな決定をだそうとも私はユフィの意志を尊重するし、周りが否定してきても味方だからね」

 

 最後に頭を優しく撫でられて、微笑んだオデュッセウスの言葉に少しだけ目を閉じて決意して大きく頷いた。

 

 「姉様!私は決めました。私の騎士はスザク――枢木スザクさんに決めました」

 

 ユフィの発言にコーネリアとクロヴィスは反対するがスザクを知るノネットとオデュッセウスは大いに賛成した。

 その後も揉めに揉めたがユフィも中々頑固なところがあって一度決めたことは曲げなかった。反対して式にも出ないと豪語したコーネリアはオデュッセウスに説得されて顔だけだす事に…。

 

 

 

 

 

 

 式が終了してオデュッセウスは自室に篭っていた。先ほどの式を撮っていたテレビ局より映像データを貰い何度も、何度も、何度も見直していたのだ。

 スザク君とユフィの晴れ舞台で嬉しい事なのだが、涙が溢れてくる。なんて言えば良いのか………娘が父親に彼氏を紹介してきたような感じ?娘どころか嫁さんもいない身で体験したことはないけれど。

 

 溢れ出た涙をハンカチで拭き取り、ティッシュで鼻をかんでいると電話が鳴り出した。ルルーシュにばれてからナナリーの『にゃあ』から普通の着信音に戻している。

 

 「もしもし?」

 「お元気ですか兄上」 

 「おや?シュナイゼルかい。珍しいね君から連絡をくれるなんて。しかも携帯電話に」

 「兄上には早く伝えておいたほうが良いと思いまして」

 「早く?何かあったのかい?」

 「あったのではなく、出来上がりましたのでご報告を」

 「出来たって………もしかしてアヴァロンか!?」

 

 ロイドが開発したフロートシステムを採用したコードギアス一期では唯一の浮遊航空艦。武装はそれほどの物ではないがランスロットのシールドであるブレイズルミナスを展開した防御力は圧倒的である。ただ現段階では部分展開がやっとではあるが、それでもかなりのものだ。

 元々ロイドが主任を務める特別派遣嚮導技術部に共同出資している事からロイドから構想だけは聞いていたけれど開発はシュナイゼルの方で行なって、ロイドはランスロットに掛かりっきりでまったく建造している事を知らないらしい。

 

 「完成と言ってもまだ試験段階ですが」

 「では、前に頼んだ件も上手くいきそうかい?」

 「同時進行で進めていますので試験をクリア出来ればすぐにでも」

 「さすがシュナイゼルだ」

 「それで試験飛行を兼ねてそちらに行こうかと」

 「………はい?」

 

 はい?

 どういう事?

 神聖ブリタニア帝国宰相であるシュナイゼルが簡単に動ける筈は無い。最近ライ君の件に目が行きがちで大事な出来事が迫っている事を失念していた。

 

 「父上の命によりエリア11の神根島の調査に赴く事になりまして。それに特別派遣嚮導技術部の立ち位置の話もありますし」

 「…そ、そうだね。今回の件で余計ややこしい立場になったからね」

 「ええ。私が創設した部隊であり、兄上の出資先であり、ユフィの騎士を抱える部隊ですからね」

 「いろいろすまないね」

 「それに兄上には経過報告もしなければ―――兄上。先ほどから声色が良くないようですが?」

 「そ、そんな事ないよ。そうだ。久しぶりにチェスでもしないかい?」 

 「良いですね。楽しみにしています」

 「では、また」

 「はい」

 

 電話を切ったオデュッセウスは携帯電話をデスクの上に置き、静かに立ち上がった。能面のような微笑を浮かべたままのそのそと歩き、勢い良く両手・両膝を付いて項垂れた。

 

 神根島イベント忘れてたあああああああ!!

 

 声にしなかった叫びがオデュッセウスの脳内に木霊するのであった…。


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