コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第32話 「私とロロとマオ×2」

 僕は両親の顔なんて覚えていない。覚えていないどころか存在するのかさえ知らない。

 

 一番古い記憶は長年過ごしたギアス饗団での生活。自身に発現したギアスの実験に人を殺す訓練。言われるままに暗殺する日々だ。娯楽らしい娯楽はありもせず、ただただ実験・訓練・暗殺を繰り返すだけの日々。一般的な日常を味わっている人達から見れば悲惨な人生と嘆くかも知れないが、当事者である僕らはこの生活以外を知らないから苦ではなかった。いや、苦であっても何度も繰り返しているうちに慣れてしまったというのが正しいか。

 

 そんな何も無い僕だったが今は大事なものを手にしてしまった。自身のギアスが暗殺に向いている事から暗殺の任務をずっと受けていたが、ある日突然ギアス饗団の教主V.V.より『暗殺』命令ではなく『監視』命令を受けた。初めての任務で少し途惑ったがそれは最初だけだった。

 

 相手は神聖ブリタニア帝国第一皇子であるオデュッセウス・ウ・ブリタニア。雲の上の存在であり、貴族社会であるブリタニアの皇族である事からどれだけ傲慢な人物かと想像したものだ。しかし、当の本人に出会った時…

 

 『き、君が私の監視役かい?これから宜しくお願いするよ』

 

 そう言って握手を求めて来たのだ。相手に信頼させる為にもと思って素直に応じたが、僕の浅はかな謀など無意味であった。一緒にお茶でもどうかなと誘ってきたり、散歩に行かないかと二人で街を出歩いたり、ちょっとした事でありがとうとお礼を言いながら頭を撫でてくれたりと、今までになかった新鮮な体験に殿下の暖か味溢れる優しさに触れてこの生活を手放したくないと心の底から思うようになっていた。

 

 だから僕―――ロロは自身が犯した過ちに後悔していた。

 

 出来るだけ殿下の願いを叶えてあげたいと思っている。たとえそれが間違っているとしてもだ。狙撃銃をターゲットに向けた殿下はいつもと違った。平常心を乱して目の焦点さえあっていなかった。それでも拳銃と右肩に当てたのは見事としか言いようがない。精神的に不安定になった殿下に『ひとりにしてくれ』と頼まれ、渋々ながら許可を出してしまった。急いでターゲットを捕縛して殿下の下へ戻ろうと走ったのだが、10分も経たないうちに緊急用の携帯電話にとある病院の名前が打たれていた。何事かと思って連絡するが一向に繋がらず、殿下が居た場所へと戻ってみると殿下以外にもうひとりの足跡を確認した。

 

 何かがあったと大慌てで麓まで駆け下りて、乗って来たバイクに飛び乗って速度を出して駆ける。どうか無事であることを祈って…。

 

 

 

 

 

 

 オデュッセウスは駆け込んだ病院より貸し出された一室でずっとベッド脇で座り続けていた。ベッドには白髪の少女が休んでいる。名も知らぬ少女でどうしてこうなっているのかまったく分からないが放っておく事は出来なかった。

 

 と、いうのもナリタ連山でマオを狙撃した後の記憶が曖昧なのだ。狙撃した後に意識が混沌としたのかその場に倒れこんでしまっていた。何時間も太陽を浴びていたから脱水症状にでもなったのだろうか?一応水分補給もしていたのだけど。気を失って倒れたのは危ない状況だったけれど悪い事ばかりではなかった。

 

 流れるようにだが過去の事を見たのだ。走馬灯とでも言うのかオデュッセウスとしての過去と前世の過去が総集編みたいな感じで蘇ってきたのだ。蘇ったといっても一瞬の出来事ですべてを思い出せたわけではない。目の前の少女はナイトメア・オブ・ナナリーの登場キャラクターなのは思い出したが、名前やどんな子だったのかは思い出せていないのだから。

 

 意識を取り戻して起き上がって見ると目の前では頭を抱えて苦しんでいる少女。何が起こっているのかさえ理解する間もなく、少女も意識を失ってその場に倒れこんでしまった。慌てて少女の生命状態を確認して生きているかを確認し、背負ってナリタ連山を下山した。途中ロロに近場の病院の名前をメールし、ノネットに内密に病院に根回ししてもらう為に電話をかけた。病院では少女の身元もオデュッセウスの架空の身分も用意されており、何の問題もなく治療を受けさせてあげることが出来た。医師の話では脳に強いダメージと精神的ショックがあって気絶したのだろうと教えてもらった。ちなみに私の気絶は原因不明だった…。

 

 兎も角、脳のダメージは分からないが精神面の事なら癒しのギアスが通用するはずだ。なのでベッド脇の椅子に腰掛けて、両目のギアスを発動させながら少女の手を両手で握り締めている。

 

 「ご無事ですか殿下!!」

 

 大声を出しながら勢い良く扉を開けたロロに、驚いて肩をビクッと揺らして硬直する事しか出来なかった。目を丸くして見つめていると上から下まで心配そうに見つめられ、見終わるとホッと胸を撫で下ろしつつ安心していた。何事か分からないけれどとりあえず微笑みを向けると、物凄く睨まれたのは何故?

 

 「何をしているんですか殿下」

 「何をって、この子を病院に連れて来たんだけど…」

 「なら何でその事を伝えてくれなかったんですか!」

 「え?あっ!ご、ごめん…メール送った後でノネット卿にここの根回しで電話してて。そのぉ…」

 「僕!僕は凄く心配したんですよ!」

 「本当にすまなかったよ」

 「殿下の身に何かあったんじゃないかって。僕が離れたからとか散々悩んだんですから!」

 「いや、ごめんなさい…」

 「本当に…本当に…ご無事でよかったです」

 

 涙を流しながら座り込むロロに近付いてそっと抱き締める。服が涙や鼻水で濡れるがそんな事を気にせず、あやすように後頭部を優しく撫でながら泣き止むのをゆっくりと待つ。

 

 確かに今回の自分は無用心だったと反省する。前に父上様より叔父上様が危険視している的な話をされた事があったのを思い出した。実際叔父上は暗殺指令を下してロロを動かしていたりしたのだ。いつ自身に向けられるか分かりはしない。せめてギアス対策としてサングラスは持ち歩く事にしよう。

 

 10分ほど経った頃にロロは泣き続けた事で真っ赤に腫れている目を擦って、服より顔を離して落ち着きを取り戻した。笑みを浮かべるその表情に安心してハンカチを渡す。すでに遅いタイミングだが渡しといたほうがいいだろう。受け取ったロロは申し訳なさそうに頭を下げて感謝を表す。

 

 「ところで…彼女はどうしたのですか?」

 「ん?ああ…どうしたんだろうね」

 

 ベッドで横になっている少女の事を聞かれてそう答えるしかなかった。急に笑みを浮かべていた瞳が冷ややかなものになったのは気のせい―――じゃない!冷たい視線で見てくる。気持ちは分かるが落ち着いて欲しい。

 

 「殿下。彼女の名前は何て言うんですか?」

 「さぁ…なんて言うんだろうね」

 「彼女はナリタに居たんでしょう?殿下の居た地点に足跡が僕と殿下以外のものがありましたし」

 「うん、彼女はナリタ連山に居たよ」

 「では彼女は何をしていたのでしょうか?殿下に接触しようとしたんですよね?」

 「そうっぽいね。けれどその前に倒れてたし」

 「倒れた原因は?」

 「医者が言うには精神的なものと頭に衝撃かなと」

 「ふむ。では殿下は名も知らない。何者かも知らない。何をしに来たかも知らない。何故倒れていたかも知らないと」

 「……はい。あ、でもギアス饗団関係者なのは分かるよ」

 

 病院着に着替えさせられた少女が着ていたギアス饗団の紋章入りの服を見せる。見せるが視線はあいも変わらず冷ややかな目で見つめてくる。

 

 「そうですか。では殿下は見ず知らずの少女がギアス饗団のメンバーと分かっていながら危険性を度外視して助けたと」

 「…その通りです。はい」

 「もう少し立場を考えられたら如何でしょう?そもそも――」

 

 この後、ロロの気が済むまで怒られ続けた。あまりの怒気に自然と正座をして聞くしかなかったオデュッセウスは悲しんでいるロロより怒っていても活力があるロロのほうが好ましく、微笑んでしまった。

 

 「何を笑っていらっしゃるので?」

 「……いえ、すみません」

 

 

 

 

 

 

 頭に痛みが迸り、急に目が覚める。ゆっくり瞼を開けるとそこは真っ白な壁が広がっていた。いや、壁ではなく天井だ。自身が寝転んでいる事さえ、とっさに理解できなかったほど思考能力が低下しているのか。

 

 痛む頭を手で抑えつつ自身に何があったか。なにをしていたかを思い出そうとすると手に温かみを感じてそちらに顔を向ける。そこには優しげな笑みを浮かべた顎髭を蓄えているおじさんが手を握っていた。知らないおじさんに触れられているというのに不快感はまったく感じず、むしろ心の底から安らいでいる気がするほど心地よい。

 

 「ああ…目が覚めたのかい?」

 「――ッ!?」

 「す、すまない!すぐに止めるよ。それとまだ無理をしちゃあ駄目だよ。安静にしなきゃ」

 

 相手の瞳を見ると両目にギアスの紋章が輝いていた事に焦り、こちらもギアスを発動しようとしたが頭に痛みが走って発動しなかった。おじさんはボクを労わりながら、片手でサングラスをかけていた。頭は頭痛に襲われ、ギアスはサングラスにより無効化された現状では格闘戦ぐらいしかないが、仕掛けようとはまったく思えないのだ。先ほどのギアスで何かされたのだろう。

 

 「私のギアスは君に危害を加えるものじゃないから安心して」

 「そう言われて、はい、そうですかって安心できるとでも?」

 「出来ない…ですね。では…」

 

 サングラスを外すと瞳にはギアスの紋章が現れた。警戒するも何故か安心してしまう。相手のギアスがどのようなものか分からないのに危機感を感じないというのは違和感が半端ない。これがこの人のギアス?

 

 「私のギアスは癒しのギアスと言って、相手の心を癒すギアスなんだ……たぶん」

 

 今、この人『たぶん』って言った?

 

 「ははは、検証や実験を行っていないものだから本当にそうなのかと聞かれたら私も分からないんだ」

 「随分不確定なギアスですね」

 「まぁ、人が癒せると判明しただけで良いから。戦闘で使用できるものだったらそんなに使わないだろうし」

 「ふーん…そう」

 「あんまり興味なさそうだね…」

 「別に…もうどうでもいいから」

 

 そう…どうでも良い。もうボクには時間が無いんだ。

 

 「もしかして伯父ぅ…V.V.からの指示で動いていたのかな?彼の捕縛とか?失敗して怒られるとかだったら話してあげようか?」

 「そうだね。そうしてくれたら嬉しいな。ゆっくりした時間を過ごすのも良いかもしれない」

 「では、そうV.V.には話を通そう」

 

 ギアスを使用した時点でC.C.もしくはギアス饗団関係者とは思っていたが、以前のボクなら饗団側と知った時点で最悪と嘆いていただろう。ギアス饗団と深い繋がりを持つ特殊名誉外人部隊より抜け出した自分が見付かれば処分されるのは自明だ。目の前の男はどうやら饗団から『マオ』を捕縛する為の派遣員と思っているらしいが勘違いも甚だしい。

 

 ボク…『マオ』は『マオ』の協力者なのだから。

 

 C.C.細胞に蝕まれてボクは特殊名誉外人部隊から逃げ出した。人造ギアスユーザー製造の元となったC.C.を見つけ出し、何とかC.C.因子を取り込むか、無茶と無理をしたギアス発現から正式なギアス契約をする事で自身を蝕むC.C.細胞から解放される為に。その矢先に彼と出会ったのだ。中華連邦で出会った『マオ』はC.C.を知る手掛かりで、ボクが知る中で一番C.C.と繋がりを持つ人物。精神面も性格も歪んだ子供みたいで苦手だったがC.C.を見つける為には彼が必要だった。何しろ情報収集には彼の人の思考を読むギアスは最適だった。彼としてはボクと一緒に居たくなかったらしいけど、幸福な過去を見せられる『ザ・リフレイン』を知ると持ちつ持たれつの関係となった。朝と昼には彼と共に捜索や情報収集に励み、夜の寝ている間はギアスをかけて幸福な夢に堕とす。

 

 やっと!やっとのことでC.C.まで辿り着けると思ったらこの有様だ。C.C.細胞抑制剤も数が少なく、情報収集に役立った『マオ』は肩を撃たれて負傷後行方は知らない。もうボクは助からない…。

 

 ナリタの山での事をぼんやりと思い出し始めると目の前の男が異常な存在だった事も思い出した。この男にはギアスが通用しない。いや、ボクのギアスは通用しなかったんだ。確かにギアスをかけて彼の記憶を読み取って幸福な夢を流そうとした。するとボクの脳内にやけに絡まった記憶の渦に飲まれたのだ。まるで二人分の記憶を持っているようなあべこべな記憶で、多い情報量に頭がパンクしかけた。おかげでどんな記憶だったかは思い出せない。

 

 「そうだ!ゆっくり過ごすんだったら私の所に来ないかい?ゆっくりとは出来る筈だよ」

 「…短い間だろうけどね」

 「短い間?……そういえば君、アレルギーとか持ってるのかい?」

 「アレルギー?」

 「腕の発疹が凄かったからさ。ナリタで植物とかに触れたのかな」

 「腕の発疹って―――何でッ!!」

 

 アレルギーなんて持っていない。そう思いつつ腕に視線を向けると病院着から覗く腕は荒れ一つない綺麗な状態だった。ありえない。C.C.細胞に侵され崩壊寸前だった筈なのに、それがかなり引いている。腕全体がぼこぼこと膨らんでいたのが薄っすらと見えるぐらいまでに。

 

 「な、何をしたんだ!?」

 「何をと言われても…お医者さんは診断して個室を用意してくれただけだよ。後は私がギアスを使って心を癒そうとしたぐらいかな。それがどうかしたのかい?」

 「・・・お願いがあるんだけど」

 

 マオは真剣な眼差しで見つめる。こいつは自分のギアスがどのような能力なのかを分かっていない。もし自分の想像通りであるならと、今までの諦めと絶望の混ざった瞳ではなく、希望に満ちた視線でしっかりと見つめていた。

 

 「ボクを君の傍に置いて欲しい。お願い…します」

 「良いよ。伯父上様にはちゃんと言っておくよ」

 「伯父上様?―ッ!もしかして貴方は」

 「自己紹介がまだだったね。私はオデュッセウス・ウ・ブリタニア。V.V.伯父上の甥だよ。これから宜しくね」

 

 微笑を向けられながら差し出された手を握り締めて握手に答える。マオは久しぶりに心の底から安心して眠りに就いた。それを確認したオデュッセウスは携帯電話を取り出しながらクローゼットに隠れて警護していたロロと共に病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 オデュッセウスがナリタ連山でマオを発見した翌日の夜。トウキョウ租界のブリタニアの警察病院にある患者が運び込まれた。名前から年齢まで一切不明の中華連邦系の青年で、リフレイン中毒者で誘拐犯、銃刀法違反に殺人未遂、不法入国などなど数々の罪を犯した犯罪者。リフレイン中毒により錯乱して誘拐した少女を殺害しそうになったので警官隊が射撃したのだ。数十人による一斉射撃で死ななかったのは奇跡としか言いようがない。

 

 「あのガキィイイ!」

 

 一命を取りとめたマオは暴走したギアスの輝きを隠そうとせずに、真っ暗な通路を壁にもたれながらゆっくりと進んで行く。身体のほとんどは包帯で覆われており、安静にしなければいけない状態である。

 

 見張りに警官二人がいたがギアスでトラウマや人には話せない秘密を口にすると、すんなり意識を逸らしてくれた。簡単とはいかなかったが武器を奪って病室に括って放置している。後はこの病院を出るまで誰とも出くわさないようにするだけで、それはギアスを使えば嫌でも分かってしまう。

 

 「絶対!絶対C.C.をあいつの元から取り返すんだ。この僕の手で…必ず!」

 

 忌々しげに自分をズタボロのミイラ男のような姿にした元凶…ルルーシュの姿を思い出す。

 

 肩を撃ち抜かれ、協力関係にあった『マオ』とは行方知れずとなったが問題はない。肩は撃ちぬかれて痛いが腕は動くし、あいつは居ても居なくても良い。あの幸せな過去が味わえないのは非常に残念だがC.C.が戻ってきたらどの道用無しだ。ルルーシュの電話番号は入手出来たし、C.C.の呼び出しにも成功した。

 

 やっと…やっとC.C.が僕の目の前に戻ってきたんだ!録音した声なんかじゃなく、本当のC.C.の声だ。匂いも、体温も、感触も…存在を目の前にして有頂天だった。やっと本来の位置に帰ってきたんだ!!

 

 それなのにC.C.は僕を撃とうとした。銃口を向けて、トリガーに指をかけて。

 

 でも、良いんだ。C.C.が僕を撃てないのは僕が良く知っている。だってC.C.は僕のことを愛しているんだから。

 

 後はC.C.を連れてオーストラリアに向かうだけだ。しかしC.C.を持って行くには大きすぎるんだ。だからケースに入るようにチェーンソーでバラバラにしなきゃ。暴れられたら大変だから足と肩を撃って動けないようにした。普通の人なら死んじゃうけど僕のC.C.なら大丈夫だよね?

 

 後少しで持っていけたのに邪魔された!あのルルーシュ・ランペルージに!!

 

 奴は知っていた。僕が知らなかったC.C.の本名を!この僕だって教えてもらえなかったのに!なのにあいつは知っていた。しかも奴はC.C.の全てを知り、見て、感じたと。

 

 …許せない。僕のC.C.なのに!!

 

 ルルーシュが録画しておいた映像に、言葉になんの疑いもなく注意を引き付けられた。その隙に警官隊に囲まれ、C.C.は奪われ、僕はこんな姿に…。

 

 「奪ってやる!C.C.を取り戻す前にあいつの大事なものを奪ってやる!!確かナナリーとかいう妹を奴の目の前で無残に殺してやる!!」

 (それは無理だと思うよ)

 

 脳内に聞き覚えのある声が伝わってきた。協力を申し出てきた自分と同じ『マオ』の名前を持つ女。目を凝らすと正面の通路の真ん中にひとり立っていた。

 

 「へぇ、無事だったんだ。ちょうど良いや。僕ねぇ、C.C.を見つけたんだ。だから取り返すの手伝ってよ」

 (なんでボクがそんな事を?)

 「君はC.C.が必要なんだろう?だから協力するって君が―――ッ!?どういう事だそれは!!」

 

 協力者として接していた態度が一変して挑発的なことに違和感を感じて、思考ではなく深層心理を少しだけ覗くと奴が裏切った事を理解した。しかも僕をはめようとしている事も。

 

 「馬鹿だね君も。君のギアスは目を見なくちゃ意味がない」

 (そうだね。そのゴーグルをされていたらボクのギアスは効かない)

 「後ろから襲わせるらしいけど無駄さ。僕は相手の思考が読めるんだ。動きが分かるんだから対処なんて――何!?」

 

 普通に立っていただけなのに足元が揺らいで地面に倒れこんでしまった。何が起こったかさっぱり分からずに立ち上がろうとするが足に力が入らない。変わりに激痛が伝わり、慌てて足へと視線を向けると太ももにナイフが突き刺さっていた。

 

 「思考が読めるギアスと言うのは怖いものですね。ですが僕には通用しません」

 「貴様…誰だ!?」

 

 いつの間にか横に立っていた白い歩兵スーツで全身を隠している奴を睨みつける。顔は隠れているがマオのギアスは自身を中心にした範囲型の為に思考は読める。

 

 「人の体感時間を止めるギアスだって…そんな馬鹿な!だってあいつにはそんな仲間…そうか…そのオデュッセウスとか言うやつの差し金か!」

 「思考を読まれるのはどうも不快ですね」

 「触るな人殺しが!!」

 

 抵抗らしい抵抗が出来ないマオに白騎士は手を伸ばしてゴーグルとヘッドホンを奪い取る。そして代わりに通信機を渡した。

 

 『やぁ。マオ君だね』

 「誰だお前は!」

 『今、君の目の前にいる白騎士のお友達さ』

 「正確には僕の主です」

 「オデュッセウス・ウ・ブリタニアだと…」

 『正解だよ。面と向かって話をするべきなのだが、君の能力は厄介なのでね。こんな間接的な会話で申し訳ない』

 「お前たちはどうして僕の邪魔をする!」

 『君がこれから行うことは私が絶対に許せない行為だからだ』

 「どういう意味だ!お前とあいつに関係が…」

 『私が冷徹無慈悲な人間なら君を殺したりするのだろうけど。私はどうも人を殺すことは出来なくてね。勿論、君の目の前の白騎士にもさせたくない。だから――』

 

 白騎士が言葉に合わせて顔を掴み、無理やり瞼を開かせる。その先には裏切った『マオ』が目を輝かせながら笑っていた。

 

 『君を幸せの過去の牢獄に送る事にするよ。せめて夢の中だけでもC.C.と過ごすといい』

 「貴様!もう少しで…もう少しで僕の…僕だけのC.C.が取り戻せたのに!!」

 『本当にすまない。これは私の我侭だ。すまない…』

 「やめろおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 『マオ』は『マオ』のギアスにかかり、ゆっくりと意識を手放した。二人に運ばれるマオの顔は無垢な子供のように満面の笑みで溢れていた。


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