コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
第19話 「原作開始がいつなのか分からない件について」
円形状の回転式テーブルに並んだ料理の数々から、中身が透けるほど薄い皮で巻かれた春巻きに箸を伸ばしてひとつを摘む。潰さないように優しく持ち上げてゆっくりと口の中に含む。パリッとした感触が伝わると中からぷりっぷりの海老が口の中に広がっていく。
「これは美味しい」
満足そうに笑みを浮かべながらオデュッセウス・ウ・ブリタニアは呟いた。ブリタニア本国や自分の食事はほとんど洋食で、日本食は外交官として日本に向かった際に食べたが中華料理と言うのは三十一年ぶりだった。忘れかけていた味を味わいつつ息を吐く。
食事ひとつで幸せそうにする様子に、にこやかに笑っている少女の笑顔が目に入る。少女の名前は蒋麗華(チェン・リーファ)…と言っても分かる人は少ないだろう。この名はコードギアスのエンディングに流れなかった名で、分かり易い名で言えば天子様である。
現在オデュッセウスは中華連邦に緊張緩和の交渉の為に来ていたのだ。緊張緩和と言っても大層な交渉をする訳ではない。大宦官が喜びそうな品を送るだけである。勿論名目上は中華連邦内で貧困に苦しんでいる民に対する救済措置としてだ。原作を知っているオデュッセウスとしては原作前の荒事を回避しておく必要があり、神聖ブリタニア帝国からではなく個人として送っている。名目上とはいえ実際に食料や衣料品も届けなければいけないからかなり出費が激しいが、プチメデや個人的に手にした資金に中華連邦にギアス饗団施設を隠し持っている伯父様からも資金を貰ったのでそれほど苦にはならなかったから良かった。
「前菜のみで満腹になってしまいますぞ」
「そうなんですよね。毎回ここの料理は美味しくてメインディッシュに辿り着けた事がないんでした」
天子の横でこの会食に参加している大宦官が「ほほほ」と高い声で笑うのに対して笑みで返すが内心は表情ほど穏かではなかった。他国の民とはいえ圧政を敷き、ただただ我欲を貪る連中。彼らのような者を寄生虫と呼ぶのだろうか。シュナイゼルの爪の垢を煎じて飲ませたいほどだ。………訂正しよう。垢とはいえ彼らにやるのは勿体無さ過ぎる。
「いつまでも食事に現を抜かしていてはいけませんね。さて、今日は何のお話を致しましょうか?」
「先日申された日本という国の話が聞きたいです」
「分かりました。天子様」
正直彼らとの緊張緩和だけなら日帰りで本国に帰りたかったのだが、彼女と出会ってしまってからは別の意味で帰れなくなったのだ。交渉を行なう為に朱禁城に入った初日に天子様に謁見したのが始まりだ。純白の髪を揺らしつつ、小さな眉をハの字に曲げて困ったような少女は、不安や寂しさを纏っていた。今思えばエリア11の中華連邦大使館に黎星刻が行っていた事も原因のひとつだったのだろう。表向きの品と裏向きの品の受け渡しと軽い政治の話を済ませた私は会食の場で彼女に話しかけてしまったのだ。彼女が食い付きそうな朱禁城の外の話を。そしたら先ほどまで困った顔をしていた少女が赤い瞳をキラキラ輝かせて食い付いてきたのだ。面白いぐらい話に聞き入り、気になった事には「何故?」と可愛らしく聞いてきて、理解すると満足そうに笑みを浮かべたりと時間を忘れてしまうほどに話していて飽きないのだ。別れの時間が迫り、席を立とうとすると「明日もお願いしても?」と申し訳なさそうに聞いてくるのをどうやったら断れようか!それからずるずると一週間も滞在してしまった。別段本国の大きな役職に付いていないからと言って、エリア視察ならまだしも個人的理由で他国に滞在するには長すぎた。
原作のオデュッセウスは皇帝代行を務めていたがこの世界ではギネヴィアが務めている。これは役職を自ら放棄したわけではなく、父上様が大きな役職に就けて伯父上様に警戒されないようにしてくださっているのだ。嬉しい事なのだが伯父上様とはお茶をご一緒したり、食事に御呼ばれする仲になったからそこまで危険視する事はないとは思う。主観だから見えていないだけなのか?
純粋無垢な天子様の表情に癒され、またしても時間を忘れそうになるけれどもお別れを告げるためにも切りの良い所で話を終わらせる。出来ればこのまま話していたいところだが何分予定も入ってしまった。
「では、天子様。私はこれで…」
「また明日もお願いできますか?」
「すみません。明日の早朝にはここを発つので」
「そんな、せっかく初めてお友達ができたのに…」
目をうるうると潤ませながら悲しみを全面的に出されては行き難い。席を立って天子の横でしゃがみ、振り向いた天子の手を優しく包むように手を添える。
「確かにお別れです。ですがこれが今生の別れという訳ではございません。また次に会うときは外の世界のお話を持ってきます」
「本当ですね。約束ですよ」
「はい。約束されました」
ここで永続調和の契りは交わさない。あれは黎星刻のようなイケメンと行なうから絵になるのであって、十九も離れた私がしたら問題がありそうな絵になりそうでやらない。
オデュッセウスは見た目の事で判断したがそれ以上に妹達の反応がすごい事になる事を頭に入れてないのである。
天子と別れたオデュッセウスは朱禁城を出て専用の車で大使館に向かう。道中は警備の為に中華連邦のガン・ルゥ六機にブリタニアの暴徒鎮圧用にカスタマイズされたプチメデ十機が護衛についている。この一週間の行き来で慣れた光景を見つめつつこの七年の事を思い返す。
ブリタニアの日本侵攻前後は休みが無いほど本当に忙しかった。今では普通に休日が取れてゆっくりと休める。休める理由に優秀な者がオデュッセウスの下に付いた事も大きいだろう。まずはオデュッセウスの
しかし将軍の仕事もこなしていると技術部が疎かになる。ゆえに次に名が挙がるのはレナルド・ラビエ博士であろう。彼自身はナイトメアに関わっている訳ではなく、試作強化歩兵スーツの製作を行なっている。試作強化歩兵スーツは視神経から脳に特殊な信号を送り、人間の運動能力を飛躍的に向上させられるシステムを組んでおり、これを装着するだけで常人でもエース並みの動きを行なう事が出来る…筈だ。筈と言うのが装着相手を選ぶのだ。騎士団内でも装着出来るのはオデュッセウスとロロのみである事からギアスユーザーである事が関係していると思われる。レナルド博士は実験中の事故により半身麻痺状態で、娘のマリエル・ラビエが支えている。彼女は十八歳で既に大学を出ている才媛でレナルド博士と共に試作強化歩兵スーツを製作したひとりだ。ナンバーズに対して偏見は無いと言う所は特に気に入っているが、ぬけているところが玉に瑕かな。
新たな出会いがあった中で別れもあった。オデュッセウスの騎士であったノネット・エニアグラム卿はもうユリシーズ騎士団には所属していない。七年の中でエリアを増やす戦いに参加した彼女の実力は皇帝の耳にも届くほどで、ラウンズへの召集がかけられたのだ。皇帝の命だとしても最初は渋っていたが、小さな騎士団長として居るよりもっと高みに行って欲しいと願ったオデュッセウスの言葉を聞いてラウンズ入りしたのだ。ラウンズ入りした今でも交流はあり、たまに様子見と騎士団を鍛える為に来るぐらいだ。
ノネットが居なくなって大幅な戦力ダウンをしたが、ユリシーズ騎士団以外にもナンバーズの騎士団の『トロイ騎士団』も持っており、戦力的には弟達や妹達より大きい。ただトロイ騎士団はノネットの下へ向かわせている為に現状はユリシーズ騎士団のみだが。
そういえば一番変わった事を忘れかけていた。『癒しのギアス』の暴走が収まりました。サングラス着用の生活が始まって半年が経った頃になって気付いたのだが、私このままだと弟達や妹達をレンズ越しでしか見る事が出来ない事に。それに気付いてからは流れ星に願いを祈る以上に一年近くただひたすら願い続け、いつの間にか普通の瞳に戻っていたのだ。ただギアスを使うときに片目ではなく両目になってしまったのは隠し辛くて堪らない。ゆえに使っていたサングラスはギアス使用時にかける為に持ち歩いている。
「オデュッセウスお兄様!」
大使館に到着し、車から降りて大使館内に入ったオデュッセウスの胸に金髪のツインテールを大きく揺らした少女が飛びついてきた。驚きつつも優しく受け止めつつ頭を撫でてやる。「んー」と甘えたような声を漏らし喜びをアピールしてくる。
「今帰ったのかいライラ?」
「はい。お兄様も来られれば宜しかったのに」
「それはまたの機会にしよう」
「約束ですからね」
ふふふと笑うライラを見つめつつオデュッセウスは微笑む。彼女はライラ・ラ・ブリタニア。ブリタニア皇族の一人でオデュッセウスとは母違いの妹の一人だ。ミドルネームが『ラ』になっている事からクロヴィスの実の兄妹なのがお分かりだろう。本来ならメディアにも出さないように宮殿内に居るはずのライラがオデュッセウスと一緒に居るのは、クロヴィスより日本にライラを招こうとした際に本国の護衛だけでは心配だったのか、オデュッセウスに頼んできたからである。オデュッセウス自身は弟の頼みを断る理由も無く、そして久しぶりの日本行きをとても楽しみにしている。
「ロr………白騎士もご苦労だったね」
「いえ、これも任務ですので」
男性か女性かも分からない機械的な声を出したのは全身純白の試作強化歩兵スーツを着た人物だった。身体のラインに添ったゴム系の素材を使ったフィットスーツの上から、身体を守る薄い装甲板が関節などの駆動部分に重ならないように付けられている。顔は口元まで覆った丸みのあるヘルメットと目元を隠す色付きの強化ガラスで覆われ、背には真っ赤なマントをなびかせている。『白騎士』という名はそのスマートながらも西洋甲冑を想わせる姿とメインカラーである白からきている。
白騎士と呼ばれる彼はユリシーズ騎士団の騎士団長を勤めている。その正体はギアス教団からの監視役であったロロだ。ギアス能力を使用せずともロロのナイトメア操縦技術は騎士団内でも頭ひとつ抜きん出ており、アニメを見た感じでは四聖剣並みではないかと思うほどだ。白騎士の正体は最高機密並みに知られておらず、オデュッセウスを除けばロロの試作強化歩兵スーツを準備したラビエ親子のみである。
「そう言えばミルビル博士とラビエ博士はどうしたんだい?一緒だったのではなかったかな?」
「そうだったんですけどお邪魔みたいで…」
「ああ、たまには親子水入らず、そして夫婦としてか」
「だと思います。別にそう言われた訳ではないのですけどその方が良いかな。と、思いまして」
「ライラは優しいね。警備はどうしてる?」
「ユリシーズ騎士団第四中隊の第一、第二小隊をミルビル卿に。第三・第四小隊をラビエ博士に。各小隊には邪魔をしないよう警備・尾行させております」
「さすが白騎士だ」
ヘルメット越しに頭を撫でると表情は分からないが雰囲気で喜んでくれているのが分かる。空いている左手でライラも撫でつつ通信機材が置いてある部屋へと向かう。出立は明日だが前の日に連絡を入れていた方が良いだろう。部屋に入るとクロヴィスへの回線を開いてくれと頼み、モニター前に置かれている椅子に腰掛ける。ライラは隣におり、白騎士が引いた椅子に腰掛けた。白騎士がオデュッセウスの斜め後ろに立った所で準備が整ったのか回線が繋げられる。少し待つはめになるだろうと思っていたが、モニターはすぐに映った。
濃い紫色を基調とした袖が肩先で二つに分かれた独特なコートを着て、ライラと同じ髪色でふわっと柔らかそうに垂れた髪を片手で弄りながら笑みを浮かべたクロヴィスの姿が映った。
「これは兄上。突然の連絡…何かあったのですか?」
「いやいや、明日にはそちらに向かうから事前に連絡しておこうと思ってね」
「そうでしたか。では明日は盛大なパーティを行なう準備をしておきましょう」
「ははは、それは楽しみだ」
「ライラ、兄上に迷惑はかけてないだろうね」
「勿論ですクロヴィス兄様」
ライラは久しぶりにクロヴィスと話すのが嬉しいらしく今日の事から最近の事をクロヴィスに語り始めた。それを嫌な顔ひとつせず、逆に嬉しそうに聞くクロヴィスを見て妹想いの良い子に育ってくれたなと心から思う。まぁ、それはルルーシュやコーネリア、オデュッセウス自身にも当てはまるので皇族のほとんどがそうなってしまうが。
二人の会話を耳に入れながらクロヴィスの後ろに目をやると大勢の着飾った人がおり、それぞれがお喋りや上等なワインや料理を楽しんでいた。どうやらパーティの途中だったらしい。パーティと言えば原作の第一話を思い出す。確かあの時もクロヴィスはパーティを行なっていた記憶がある。が、このパーティがその時なのかがさっぱり分からない。年代的にはそろそろなんだがヒントがパーティだけではいつまでかは分からないんだよな。そもそも皇族はいろんな行事を行なうし、役柄的にパーティなんて山ほどするからヒントにもなっていない。とりあえず何かあったら伝えてくれと言ってあるから何とかなるかな…。
「殿下!」
「ん?……少し失礼します」
向こうのほうから結構お腹が出ている片眼鏡をかけた軍人…バトレー将軍が何かを耳打ちしている。会話中に無粋なと思いあきれた表情で聞いていたクロヴィスの表情が見る見るうちに険しい顔に変わり、「愚か者!!」とバトレーを一喝する。バトレーとライラは肩をビクリと揺らして、私は驚き目を見開いた。
「申し訳ありません兄上。少し野暮用が出来たようです」
「そ、そうか…何か大事なんじゃないだろうね?」
「ええ、大丈夫ですよ。ではまた夕刻にでも連絡致します」
「うん、待ってるよ」
モニターが消えて不安そうな表情をするライラを宥めるように撫でる。心中に一抹の不安を抱えながら……。
2017 a.t.b. 神聖ブリタニア帝国第三皇子 クロヴィス・ラ・ブリタニア 凶弾に倒れる…。
●トロイ騎士団を除いたオデュッセウスの戦力
オデュッセウス・ウ・ブリタニア ユリシーズ騎士団&トロイ騎士団総団長
ウィルバー・ミルビル KMF技術主任
将軍相当官
レナルド・ラビエ KMF技術副主任
試作強化歩兵スーツ班主任
マリエル・ラビエ 試作強化歩兵スーツ班副主任
白騎士(ロロ) ユリシーズ騎士団騎士団長
●ユリシーズ騎士団(オデュッセウス第一大隊)
第一中隊 ・グロースター士官機 四騎
・グロースター量産型 八騎
第二中隊 ・グロースター量産型 四騎
・サザーランド【バランス強化型】 八騎
第三中隊 ・グロースター量産型 四騎
・サザーランド【バランス強化型】 八騎
第四中隊 ・サザーランド【バランス強化型】 八騎
・サザーランド【電子戦型】 四騎
第五中隊 ・サザーランド【バランス強化型】 六騎
・サザーランド【一点突破型】 六騎
合計六十騎
●個人機体
・グロースター【オデュッセウス用カスタム機】
オデュッセウス用にカスタムが施された機体。射撃兵装は対NMF用スナイパーライフルにライフル。接近武器は軽量ランスとなっている。武装だけを見ると射撃戦メインのように感じられるが大幅な近接戦用のカスタマイズで接近戦のほうが優れた機体に仕上がっている。メインカラーは灰色。
・グロースター【白騎士専用】
近接戦と得意とした白騎士専用グロースター。接近武器には軽量ランス二本に、グロースターには付けられてないスタントンファーを両腕に追加している。射撃武器はライフルのみの基本兵装。運動性能を主に強化している。メインカラーは白色。
…ちなみにゲームのステータスで表すと
名前 :グロースター TYPE-O(オデュッセウス)
HP :1800
近距離:60
遠距離:45
装甲 :44
運動性:34
名前 :グロースター【白騎士専用】
HP :1700
近距離:52
遠距離:42
装甲 :35
運動性:40
名前 :グロースター士官機
HP :2000
近距離:46
遠距離:48
装甲 :44
運動性:32
名前 :グロースター量産型
HP :1500
近距離:44
遠距離:42
装甲 :38
運動性:30
名前 :サザーランド【バランス強化型】
HP :750
近距離:40
遠距離:40
装甲 :32
運動性:30
名前 :サザーランド【電子戦型】
HP :1200
近距離:45
遠距離:42
装甲 :40
運動性:36
名前 :サザーランド【一点突破型】
HP :1500
近距離:42
遠距離:50
装甲 :46
運動性:28
こんな感じです。