コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第18話 「胃が痛む事態が襲って来た」

 オデュッセウス・ウ・ブリタニアは執務室に三日間立て篭もり、書類の山と格闘を続けていた。

 

 日本侵攻作戦が行なわれてから6ヶ月が過ぎ、原作通りに起こった出来事にオデュッセウスは当時かなり胃を痛めていた。ただ見ていることなど出来ずに多少ながら行動を起こした。

 

 日本に対してはまず皇 神楽耶と枢木 ゲンブに対して亡命を勧めた。が、神楽耶からは丁寧にお断りされてしまった。ゲンブはかなり乗り気だったが政略結婚を進めて自身の保身に走ろうとしていた事が関係者にばれており、国外に逃げる事が出来なかったのだ。つまり日本ではほとんど何も出来なかったのだ。ただ神楽耶からは親身に心配してくださりありがとうございますと言われるほどの信頼関係は築けた事を実感する事が出来た。社交辞令の可能性は無視して、余計にオデュッセウスの罪悪感がすごい事になったが…。

 

 逆に神聖ブリタニア帝国では今までの用意が適用されまくった。まずはガニメデ用に製作した運用方法は多少アレンジを加えた感じで運用され、ギネヴィアに任せていた機動騎士団は初の実戦だというのにグラスゴーを見事に使いこなしていた。後は友人となったロイド・アスプルンドが作りに作った武装やシステムも有って原作以上に強化された。

 

 侵攻作戦はほとんど原作通りに進んでしまった。グラスゴーの機動性と攻撃力により現行の地上兵器ではまったく相手にならず、侵攻作戦開始から一ヶ月で戦争終結。亡命も政略結婚も叶わなくなった枢木 ゲンブ首相は自暴自棄になったのか戦況を見ずに徹底抗戦を唱え、最後には自決した事で日本はエリア11と名を変えた。その侵攻作戦の中でもブリタニアは結果的に勝ったが実質的には藤堂に負けた『厳島の奇跡』も起こった。

 

 ただし原作以外の事も起こった。ひとつは『東京決戦』と呼ばれる序盤に起こった戦いだ。日本軍参謀本部はオデュッセウスを海上戦力でゲンブを脅したときより危険視しており、今まで行なっていた政策を徹底分析と徹底解明しようとしていた。その中にはほんの一部だがガニメデの案件も含まれており、情報は限りなく少ないが関わっている事でナイトメアフレームの危険性をかなり高いレベルで認識し、首都東京に関東の地上兵器のほとんどを掻き集めて決戦を挑んできたのだ。どうも撃退もしくは一機でも鹵獲して対抗兵器を模索する狙いもあったらしいが狙い通りにはならなかった。ギネヴィアの機動騎士団と素性を隠して機動騎士団と合流したノネット・エニアグラムの活躍により東京に集められた戦力は壊滅、ほとんどの戦力を失った関東防衛網は機能しなくなり、数日のうちに東北や中部防衛網まで撤退して関東は僅か三日でブリタニアの支配地域となり、これは日本敗戦の最大の原因のひとつとされている。

 

 原作と違ったのは『東京決戦』だけでなく、ナイトメアにも起こった。ポートマンの前に海中用ナイトメアが作られたのだ。グラスゴーの脚部両膝から下を大型の可動式ハイドロジェット推進脚部、頭部ファクトスフィアがソナーに変更され、コクピット左右には小型可動式ハイドロジェット推進、ショルダーパックには姿勢制御用のヒレを装備。武装は二つの筒を横並びにした銃のような二連装魚雷発射装置とスラッシュハーケンのみ。その水中用グラスゴーは現行の海上戦力を凌駕したが問題も複数浮上した。ほとんどグラスゴーのパーツを使用した為に水中での抵抗が結構なものだったのと、スラッシュハーケンがあまり役に立たない事だ。事例を挙げると海中で潜水艦を発見した水中用グラスゴーが残弾を気にしてスラッシュハーケンを打ち込んだのだ。すると艦艇部に穴を開けて食い込ませると水圧と衝撃でスラッシュハーケンが抜けなくなり、危うく潜水艦と共に水中用グラスゴーが海の藻屑と消える所だった。これらの問題点は次の水中用ナイトメアであるポートマン開発までには改善されるだろう。

 

 それよりもオデュッセウス的に大事だったのはルルーシュとナナリー、神楽耶さんとスザク君の安否だった。スザク君は戦争終結後に名誉ブリタニア人制度で名誉ブリタニア人になっていて安否は確認できた。神楽耶さんも皇コンツェルンの方で確認が簡単に取れたから良かった。しかしルルーシュとナナリーは別だった。戦争前から付けていた監視員が見失ってしまった事で安否不明になってしまった。アッシュフォード家が日本に向かって学園を建設する際に接触してくるまで一睡も出来ないほど心配で仕方なかった。この事はアッシュフォード家の人間と私しか知らない。アッシュフォード家と強い関係を築いておいて良かったと本気で思った。

 

 四人の安否が確認できてホッとした頃にブリタニアで不幸な出来事が起こった。マリーベル・メル・ブリタニアの母であるフローラ・メル・ブリタニアと妹のユーリア・メル・ブリタニアが離宮で起こったテロで亡くなったのだ。しかも爆弾を隠した少年を離宮に通したのは、母親が妹ばかりに構ってつまらなくてちょっと困らせようとしたマリーベルだった。罪の意識に苛まれるマリーベルをオデュッセウスとオルドリン・ジヴォンの二人が付きっ切りで支えた。途中父上様から呼び出しがあって記憶改竄しようとしたのは必死に止めた。もはや記憶は曖昧なのだが記憶を改竄して何か悪い展開に繋がった気がしたからだ。だから仕事の合間を見つけては癒しのギアスを使用し続け、オルドリンと共に支えて何とか立ち直らせられた。けれどそれ以上にオルドリンが心の支えとなり過ぎて、なんと言うかかなりオルドリンに依存しているような気もするが立ち直れたのは大いに喜ばしい。

 

 現在のマリーベルなのだが母親を失ってルルーシュ達と同じように皇位継承権を失った。これは父上様が母親を失ったマリーベルを皇族争いに巻き込まれないように危惧しての行為だと信じている。皇位継承権を失ったマリーベルはオルドリンの母親であるオリヴィア・ジヴォンが当主を務めるジヴォン家の下で暮している。この前の連絡ではオルドリンと軍学校に通うと言ってきたっけ。

 

 胃に穴が開きそうな事態が連続で襲ってきて正直情緒不安定になりそうだった。そんなオデュッセウスは神聖ブリタニア帝国の自分の執務室ではなくエリア12の総督府に設けられた執務室に居る。まったくあの父上様は鬼か何かなのだろうか。ナイトメア開発局設立の資料を製作しながら日本の事で悩んでいると、次の侵攻先を指示してきたのだ。

 

 こちらの手札は本国からの与えられた兵力に親衛隊と兵力的には問題なかったが、ナイトメアにまだ不慣れなパイロット達にノネットが居ないなどクロヴィス指揮の日本侵攻軍に比べたら錬度的に劣っていた。それからは大変だった。開発局の資料作りと侵攻軍の指揮で徹夜続きで事にあたった。本来なら開発局の資料作りを後回しにしようかとしたが期限はそのままだったので必死にこなすしかなかった。侵攻軍には民間人を巻き込む作戦や略奪行為をさせないようにし、相手が持っている兵器を消耗・破壊するように作戦を組み立てる。途中降伏しようとしてきたが戦力が残った状態で降伏されると、日本のように敗戦後の抵抗力を残してしまう事になる。罪悪感は残ったが言い掛かりに近い文句や曖昧な記述を探しては小出しにするなど時間稼ぎして戦争継続して戦力を失わせた。おかげで二ヶ月ほどかかってしまったが後の事を考えると問題ないと思われる。

 

 「あぁ……終わらない…」

 

 声を上げてデスクに頭から突っ伏した。出来ればこのまま寝てしまいたいが、戦後の処理をきっちり済ませておかないと後々自分に降りかかってくる。これ以上何かが起これば確実に胃に大穴が開いてしまう。少し唸り声を上げつつ身体を起こす。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 いきなり突っ伏した事で心配そうにロロが見つめていた。この執務室には簡易的な机が持ち込まれており、私の仕事量を見て手伝うと申し出てくれたロロと自身の仕事を行なっているノネットが書類仕事をこなしていた。他にも来月よりこのエリアの総督を行うキャスタール・ルィ・ブリタニアとパラックス・ルィ・ブリタニアも居り、ロロと同じく心配そうな表情を向けていた。

 

 「ああ、大丈夫だよ。すまないね心配かけて」

 「少しはお休みを取られた方が宜しいのでは?」

 「もう少しできりが良いのでね。そこまでは…」

 「オデュッセウス兄様。ボクの記憶違いでなかったら昨日もその言葉を聞いたような気がするんだけど?」

 「キャスタールは記憶力が良いね。そうだった。きりが良かったのだが休まなかったんだった…」

 「少しは自分を労わって下さい。兄様に何かあったらと思うと心配で心配で…」

 「すまないね。今日の夜はゆっくり休むよ」

 「仮眠で済まさないでくださいね」

 「……………善処しよう」

 

 そう言いながらキャスタールとロロの頭をひと撫でしているとパラックスと目があった。瞬間そっぽを向いたのでパラックスも撫でてやる。満面の笑みで受け入れる二人の反応も良いが、嬉しいが照れて恥かしそうにそっぽを向いて受け入れているパラックスの反応も可愛いものだ。

 

 ノネットがそんな様子に微笑みながら飲み物を頼んで来ますと席を外す。廊下へ出る彼女を見送ってから再び資料に目を向ける。現在ノネットが行なっているのは新たな部隊の編成案と兵士の選定を行なっている。新たな部隊と言うのはブリタニア初となるだろう外人騎士団である。過去の戦争でも自国の主な人種ではなく、他国の人種で作られた外人部隊…。ブリタニア的に言えばナンバーズ部隊であろうか。ナンバーズ内でナイトメア適性の高い者を選抜し、性格や思考を精査してスカウトしていく。父上様に試しに申し出た時には無理だと思ったのだが、まさかの「好きにせよ」で一発で通ってしまったのだ。本当に良いのかと思っていたらギネヴィアには猛反対を喰らってしまったがね。いつの間にか自分のところだけみたいになっていたが。

 

 我ながら嫌な考え方をしてしまう。そもそもナンバーズなんて呼び方が嫌いな割りにこうして文書では躊躇いもなく使っているし、騎士に選んだ者のほとんどは性格や思考以外に家族構成を調べ上げている。母親が重病や家族を食べさせる為にお金が回らない者などに部隊に入れば名誉ブリタニア人以上の生活と報酬を受けられるなどと選択肢のない勧誘をするのだから嫌になる。己がのんびりライフ達成の為に他の誰かを食い物にしている気がする。

 

 自分の行動と考えに嫌気が差し、作業を止めて背もたれに全体重を預けて楽にする。デスクの端に腰を乗せたパラックスが窓より外を眺めながら見下すような笑みを浮かべる。

 

 「ねぇ、兄上」

 「なんだい?」

 「ナンバーズって臭くない」

 「そうなのかい?衛生面を見直したほうが良いかな」

 

 ただ単にナンバーズを馬鹿にした発言のつもりだったがそのまんまの意味にとられてカクンとこける。その反応に首を傾げるオデュッセウスを見て笑い合う。余計に何なのか理解できず頭の上に疑問符を浮かべる。

 

 「お兄様らしいですよね。そういうところ」

 「本当にオデュッセウス殿下らしいです」

 「んー、話についていけてないんだけれど…どういう事かな?」

 「何で兄上はナンバーズにそんなに優しいのかって話」

 「……優しくなんかないよ」

 「そんな事無いって。連日製作している資料なんてここのナンバーズの事ばっかりだし」

 

 だって私が居る時にしとかないと君達がやんちゃしちゃうからに決まってるでしょなどとは言えない。二人とも可愛い弟達なのだが幼さゆえの残虐性なのか生まれ持っての残忍性なのかは解らないが、とても危なく危険な側面を持っている。一回だけ作戦を任せたら住民を巻き込んだ大虐殺しようとしてたのは本気で驚いた。止めて大虐殺なんて事態は回避したけど結構危なかった。

 

 今作っているのは名誉ブリタニア人制度以外のナンバーズ向けの制度作りである。十歳までを対象にしたセカンドブリタニア人制度である。小さい頃から神聖ブリタニア帝国の思想を教え込んでブリタニア人側に引き込む政策で、受け付けた十歳未満から十八歳までの期間まで教育費と食費はこちら持ちでセカンドブリタニア人制度の学校で教育修了書を貰うとブリタニア人として登録されるのだ。

 

 他にも複数の事案を抱えているが全部ナンバーズ関係を保護するものばかり。だけど忘れていけないのはブリタニアはナンバーズは大前提としてきっちりと区別する。それは差別と言ってもいいほどに…。ゆえにこんな事案がブリタニア全土で通るわけもなく、このエリア12のみの運用とするだけでも至難の業。すでに外人騎士団を通してもらっただけでありえない事態ではあるけれど通さなければならない。キャスタールとパラックスが無茶をしない事とユフィの特区の下準備の為に。もしこの案が通れば特区制定の際には事例としてユフィの手助けになるだろうから。

 

 そう思えば嫌気が差した心にやる気が戻って資料に向き直る。かけていたサングラスをかけ直して万年筆を手に取る。

 

 日本との戦争でルルーシュとナナリーの身に何か無いかと不安になった日々に、マリーベルの母親が亡くなった件などこの数ヶ月でかなりの事態が襲ってきた。それなのに私の精神はかなり安定してしまっている。悪い事という物は続く物なんだと実感しました。

 

 ………癒しのギアスが暴走しました。

 

 母親を失って不安定になったナナリーとマリーベルを安定させようとしたり、自身が不安定になりかけたのでギアスで抑制しようと乱発しているといつの間にか両目にギアスの紋章が点きっぱなしになっていた。慌てて伯父上様に相談しようかなと思ったけれど何だか嫌な予感がして、カラーコンタクトとサングラスで目を隠す事でばれないようにする事にした。『人の心を読む』ギアスや『絶対遵守』のギアスのように周りや自分に害をなすギアスでは無かった為に実害は無くすんでいるが困った問題である。

 

 本当にどうしたものかな?


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