コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第16話 「僕らの一週間戦争」

 side:スザク

 

 俺の秘密基地が奪われた。秘密基地と言っても今は使ってない家の土蔵を遊び場としていただけなのだが、今は自由に遊ぶことが出来なくなってしまった。

 

 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとナナリー・ヴィ・ブリタニアという兄妹が人質として我が家に来たからだ。神聖ブリタニア帝国の皇子と皇女なのだから屋敷の一室でも用意するかと思っていたら、俺の秘密基地としていた土蔵で暮すように父さんが言ったのだ。さすがの俺でも失礼なんじゃないかと思ったけど、屋敷の中だと父さん達の会話を聞かれる可能性がある為に却下。かといって別邸やホテルを用意するなどは屋敷から距離を離してしまうからと却下。屋敷内ではなく、屋敷からそう離れていない事から土蔵を選んだと教えられたが、他にも含むところがあったらしいけどそこまでは聞かなかった。

 

 秘密基地を盗られてイラついたけど、あいつらが髭のおっさんの弟と妹ってことで仲良くしようとは思った。思ったのだが出会った当日に思いっきり喧嘩をしてしまった。あのルルーシュって奴が凄く賢いのだけど相手を怒らせることにその才能を使っているのかってくらい人の神経を逆撫でしてきやがって、殴り合いの取っ組み合いになってしまったのだ。結果は俺の勝ちだった。ひょろひょろで体力もないブリキのもやし野郎にそもそも負けるとは一ミリたりとも考えてなかったが、最初に一発だけ良いのを喰らっちまった。まさか殴りかかったらそれを避けられて頬に一撃入れてくるなんて誰が思うかよ!?まぁ、避け方も大仰だったから慣れてはいないんだろうけど。

 

 それからあの兄妹とはあまり近づけないで居る。ルルーシュは難しい事を言い張る為になにを言っているのか解らないが、あいつ自体が凄く妹想いなのは理解している。誰かを頼る事無く全て自分でこなそうとして、妹が危険に巻き込まれないように動いているのは見ていれば分かった。喧嘩した日から結構日も経って頭も冷めて、あいつに謝ろうと何度か会いに行ったのだがその度に口論になって謝れずにいた。

 

 そんなルルーシュ達に対して俺はイライラとモヤモヤが募っている。喧嘩が尾を引いているなどではなく、原因は俺の父親である枢木 ゲンブの発言の結果にある。昨日の枢木家の夕食には桐原のおじいちゃんが来て、父さんとまた話をしていたのだ。食べながらでも話を聞いているとどうやら父さんが婚約するらしかったので相手は誰かと訊いて見たんだ。すると相手はあのナナリーとの事だった。

 

 ナナリーの母親はテロリストに殺された。その現場を目撃して心に深い傷を負って目を閉じてしまった少女。けれど彼女はただ現実に悲観するだけの子ではなく、心の強い気高い子だった。ある日にルルーシュに謝ろうと土蔵に行ったらあいつは留守で、ひとり留守番をしていたナナリーに出会ったのだ。俺がルルーシュと初日に喧嘩した相手だと分かると『殴るのですか?私も』と聞いてきたのだ。その後『抵抗はしません。でも、私の心まで殴れないという事を』と震えながらも言ったのだ。その言葉に悲しみに近い感覚に襲われ、彼女の心の強さに震えた。

 

 ……その現場を目撃したルルーシュは、俺が何かをしたと勘違いしてまた口論になって謝れなかったが。

 

 俺は今ナナリーとルルーシュと一緒に居る。昨日の話をナナリーは何処からか知って怖くて逃げ出したのだ。だけど目も見えず車椅子が移動手段では遠くまで移動できず、しかも俺が掘った落とし穴……もとい二代目秘密基地に落ちてしまったのだ。ついでに焦っているルルーシュから聞いて捜索していた俺も落ちたが……。そこでルルーシュとナナリーがどんな目に遭い、ルルーシュがどれだけナナリーを守ろうと奔走していたかを知った。その後になってルルーシュが俺とナナリーを見つけて今に至るわけだが今では憎いとか苛立ちなんて感情はなかった。なんとしてもこの二人を守りたいと心の底から願った。しかし10歳の少年に何が出来る訳もなく、やれる事といったら父親である枢木 ゲンブを説得する事だがあの性格から考えて耳も貸してくれないだろう。

 

 気付けば枢木 スザクは携帯電話を取り出して、この状況を打破すべくある人物に連絡をいれていた。

 

 

 

 side:オデュッセウス

 

 青空広がる気持ちの良い天気の日にオデュッセウス・ウ・ブリタニアはとある室内でティータイムを楽しんでいた。

 

 場所はギネヴィアが管理している機動騎士団が本拠地を置いている帝都ペンドラゴン内にある軍事施設。今まではガニメデで想定された訓練だったが、現在はグラスゴーを想定した訓練へと変更されている。すでに量産化体制の準備に移行されたグラスゴーは原作通り実戦で使用される事になるだろう。訓練内容も運用方法もガニメデと多少違うものの騎士達は変更に何の問題も感じていないらしいから、ガニメデの時から訓練を始めた事は間違いでなかったと思う。まだ訓練のみだから実戦ではどうなるか解らないが。

 

 室内にある八台のシミュレーターに乗っているのは機動騎士の面々ではなく、貴族や軍事関係の十歳前後の少年少女である。これは訓練ではなく適正を見る為のもので、今後ナイトメアフレームが軍に正式投入された際に貴族・軍人の適性検査をするのではなく、今のうちに有力そうな子を探しておこうという考えなのだ。

 

 それにしてもギアス饗団の監視役であるロロが仕事をしてない件について。

 

 監視をしているといえばしているんだろうけどほとんど上の空。今だって私が渡した青い勾玉のネックレスを嬉しそうに見つめている。嬉しそうなのは私としても嬉しいのだがそれでロロが怒られないか心配だ。

 

 カップを口元へ運びながら適性検査を受ける子供達を見つめる。その中にはオデュッセウスが推薦したアーニャ・アールストレイムの姿があった。他にも多くの子供が居るがアーニャ以外で目を引いたのはひとりだけ群を抜いて背の高い少年、ジノ・ヴァインベルグだった。群を抜いているのは背だけではなく全ての適正も群を抜いていた。ジノの後ろには中性的な赤毛の可愛らしい男の子が追従していたのだが、見覚えはあっても思い出せないでいた。確か大企業の御曹司とは聞いたが。

 

 親衛隊の数名に囲まれながらひと時を楽しんでいるとノネットが室内に入ってきた。騎士になったノネットは戦ったり、護衛したりが仕事の全てではなく勿論書類仕事もたくさん発生する。今日一日は書類仕事で潰れると思っていたのに予想外に早く終わったらしい。

 

 「早かったね。慣れてきたという事かな」

 「残念な事にまだ書類仕事は終わっていないのですよ」

 「では急用でも舞い込んだかい?」

 「電話がきておりますよ。枢木首相のご子息より」

 「おぉ!スザク君からか。電話をここに」

 「そう仰られると思ってお持ちしました」

 

 差し出された電話を受け取り電話に出る。

 

 「スザク君かい?久しぶりだね。元気にしてたかい?」

 『久しぶり…』

 「どうしたんだい暗い声をだして。何処か調子が悪かったりするのかい?」

 『そうじゃなくてナナリーを助けてやってくれ』

 「どういう事だい?詳しく話を聞こう」

 

 話を聞いているうちに怒りで感情が染まっていく。怒りっていうのは冷静さを欠くものだと考えていたのだがそうではないのだね。逆に頭は落ち着き冷静そのものだ。内容は40超えたおっさんが政略の為だけに私の大事な妹を嫁にするという。呆れを超えて笑えてくる。すでに顔は今まで以上に笑顔だが。

 

 「スザク君。私に二、三日くれないかな?何とかしよう」

 『本当か』

 「三日後に会おう」

 『え?どういう―』

 

 電話の途中だったが何の躊躇いもなく切った。笑顔のままノネットへと振り向くと青ざめた顔で数歩下がられた。それは周りの親衛隊も同様だった。ただひとり勾玉を眺めていたロロだけは気付けなかった。

 

 「何かあったのかいノネット。私から離れていっているけれど?」

 「あ、いえ、私の気のせいかも知れませんが――――怒っておられますか?」

 「怒ってないよ♪」

 「―――ッ!?」

 

 ぞわわと鳥肌を立てるノネットはオデュッセウスの笑顔に絶対的な死の恐怖を感じ取った。有り得ないのだが一歩でも動いたら死ぬと直感が危険信号を発している。ゴクリと生唾を飲み込みつつ動く事が出来ず待機する。

 

 「ノネット」

 「は、はい!」

 「皇帝陛下に謁見を申し入れてくれないか?」

 「何時頃に致しましょうか?」

 「出来れば今日。出来なければ明日かな。それとシュナイゼルやギネヴィア達と連絡を取りたい」

 「謁見はなるべく沿うように致します。それと達と言うのはどの範囲で?」

 「コーネリアにユフィ、クロヴィスにマリーベル、キャスタールにパラックス、カリーヌを」

 「兄弟・姉妹勢揃いですね」

 「勢揃いではないよ。マリーの妹であるユーリアは呼んでないからね」

 「では準備に移りますが殿下はどうなされるので?」

 「私は日本の大使館でルルーシュとナナリーの為のパーティの準備をしようかなと」

 

 電話をかけだしたオデュッセウスの護衛はその場の親衛隊に任せてノネットは急いでその場を移動する。自分はオデュッセウス第一皇子の騎士である自覚はある。ゆえに命令には沿うように行なわなければならない。が、どう考えても異常な殿下の事を誰かに相談せねばならない。権力を持った人物が暴走すると周りに大きな被害が出てしまう。それが帝国の皇子ならなおさらだ。コーネリア殿下が一番話し易いが、もしもの対策を行なうとしたらシュナイゼル殿下しかいないだろう。

 

 駆けて行くノネットの心配を余所に事態は一本の電話ですでに動いていた…。

 

 

 

 side:ルルーシュ

 

 今、枢木 スザクや皇 神楽耶を含めた僕達は日本にあるブリタニア帝国の大使館に来ていた。ナナリーの件で枢木首相と交渉しようとしたのだが、スザクの奴がこともあろうにオデュッセウス兄上に連絡して助けを求めたのだ。兄上には多くの恩を受けており、これ以上手を煩わせるのは気が引けたのだが話に拠ればすでに大きく動いているらしい。スザクが電話をした次の日に来た招待状もそのひとつだろう。内容は僕とナナリーが息抜きにでもと書かれていたがそんな訳はない。

 

 ナナリーと皇はスザクと一緒にパーティ会場で楽しんでいる。スザクとは険悪だったが皇はいつの間にかにナナリーと仲良くなっていた。ここでも話題がオデュッセウス兄上の件なのはとりあえず置いておくとしてだが。

 

 「久しぶりだね。ルルーシュ」

 「はい。お久しぶりです兄上」

 

 まさか大使館にオデュッセウス兄上が来るとは露ほども思わなかった。窓をカーテンで締め切った応接間のソファに向かい合って座り真意を探ろうと観察するが別段普段と変わりない姿だった。ただ気になるのが笑顔に違和感を感じるぐらいだ。

 

 「元気でやっていたかい?怪我や病気は?それより何か飲むかい?いい豆が手に入ったんだよ。あ、紅茶の方が良かったかな?」

 「兄上はどうなさるつもりなのですか?」

 

 余裕があるならゆっくり話すのも良いのだがナナリーが関わっている為にどうしても気持ちが急いてしまう。あのお優しい兄上の事だから外交官を通した文書で抗議するかと予想していたが、ここに居るという事は自身で枢木首相に抗議するという事か。ならあまり期待は出来ない。もしもの時は取引で何とかするしかない。手立てもあるし、相手の考えも予想済み。

 

 思考しながら対面するオデュッセウスの言葉を待っていたルルーシュはノックをして入ってきた人物を見て固まった。同時に数年前のトラウマに近い地獄の日々を思い出した。

 

 「ビ、ビスマルク!?」

 

 入ってきたのは片目を塞いでいる神聖ブリタニア帝国最強の騎士『ビスマルク・ヴァルトシュタイン』。後ろにはノネット・エニアグラム卿を含んだオデュッセウスの親衛隊が並んでいた。しかも親衛隊は少数ではなく、各小隊長が並んでいる事からこの大使館には親衛隊が集結している。

 

 親衛隊は仕える主君と親衛隊長を務める騎士『ナイト・オブ・ナイツ』の色を濃く現す。ギネヴィアの親衛隊は貴族中の貴族から選出されていたり、シュナイゼルの親衛隊は知性が高い者が多い。比べてオデュッセウスもノネットも相手の位で人は選ばず、各々の性格と腕前で選んでいる為に皇族の親衛隊の中では一番の精鋭部隊である。しかも位の低い貴族や地位の貧しい者にも別け隔てなく接する為に忠誠心も高い。

 

 自分の予想と大いに外れた人物達を見て兄上がなにをしようとしているのかを理解して睨みつけた。

 

 「兄上は戦争をする気なのですか?」

 「率直に聞くね。いつものルルーシュらしくないね」

 「兄上!!」

 

 はぐらかそうとしたのか苦笑いを浮かべながら対応しようとした兄上は、困った顔をしていったん間を空けた。それから大きく息を吐き出して何時になく真面目な顔で口を開いた。

 

 「……私は争い事が嫌いだよ。戦争なんてするものじゃないよ。出来れば地位や皇位を捨てて自然豊かな土地に移って、ゆっくりのんびりと暮したい」

 「しかし、ラウンズ最強のビスマルクに精鋭中の精鋭である兄上の親衛隊全員を連れて来ていることからどう考えても戦争をする気でしかないと思えますが」

 「親衛隊とビスマルクだけでは日本と戦争なんて出来ないさ」

 「ではどうする気なのですか?」

 「最初は脅迫。次に内部分裂。……それでも聞き入れてくれない時には戦争になっちゃうかな」

 

 今まで知っていた……いや、知っていた気でいた優しい兄上はそこには居らず、悲しげでありながら本気で怒りを露にしている。驚きと共に先の笑顔の違和感を理解する。あれはいつもの優しげな笑みなどではなく怒りを隠す為の笑みだったのだ。

 

 「何ゆえ兄上はそこまでするのですか?」

 「んー…父上には名目上は日本との外交を円滑にすべく圧力をかけると言ってはあるがね…」

 「その言い方だと本命は別にあるという事ですか」

 「本命は勿論ナナリーを助ける為に決まっているだろう」

 

 あっけらかんとした表情で答えられた言葉に唖然としてしまう。妹を救う為に全力を尽くしてくれている事に感謝する半面、その為だけに戦争を起こそうとしている事に対して驚きを隠せない。もうこの感情を驚きでは表現しきれない。周りの親衛隊の面々は知ってか知らずか自慢げに笑みを浮かべていた。ここに居る僕とビスマルク以外はこれぐらいでは驚くどころか納得しているらしい。唯一怪訝な顔をしていたビスマルクは「ここでの会話は聞かなかった事にします」と言って口を閉じた。

 

 「私に聞きたい事もあるだろうし、私も聞きたい事がいっぱいあるが今はパーティを楽しむとしよう」

 

 気付いたら怒気は消え去り、嬉しそうに笑う兄上に手を引かれてパーティを行なっている大広間へと向かって行った。

 

 後でノネットに聞いたのだが大使館防衛戦力として兄上が持っていたガニメデ三機が内密に持ち込まれていたのには言葉が出なかった。

 

 ちなみにビスマルクは皇帝陛下に頼んだら『よかろう』の一言で借りられたとの事。

 

 

 

 side:スザク

 

 楽しくも心配の募る日々であった一週間が過ぎて俺達は大使館から家に帰る事に。本当はパーティに参加するだけだったのだが、髭のおっさんが父さんや皇家と話をつけており、二泊三日も過ごしていた。

 

 屋敷に比べて狭く、自由に外に出られなかったが大人の目もなく本気で遊びまくった。ルルーシュにナナリーに神楽耶だけではなく髭のおっさんも含めて鬼ごっこしたり、缶蹴りしたりと遊び尽くしの日々だった。夜に行なった枕投げでは皆して髭のおっさんを狙ったっけ。

 

 「は~い、では撮りますよ」

 

 今俺達は髭のおっさんを中心に右側にルルーシュとナナリー、左側には俺と神楽耶が並んで写真を撮るところだ。カメラを持っているノネットにそれぞれ笑顔を向ける。フラッシュの光により目を閉じてしまったがそのまま数枚撮られる中、俺は気になったことを聞いてみることにした。

 

 「なぁ、髭のおっさん」

 「せめてお兄さんにしてくれないかな?……で、なにかな?」

 「どうやって止めたんだ?」

 

 一番に知らせた身であっても何が起こったのかは終ぞ教えてくれなかった。ルルーシュは知っているようだったが聞かない方が身の為だとしか教えてくれなかった。

 

 「えーと…話せば解ってくれたよ?」

 「どうして疑問系なんだよ。それに内容を知っていた俺は協力するけど、神楽耶はどうして呼んだんだ?」

 「前に来た時に約束を破っちゃっただろ。だからその約束を守る為にさ」

 「だからって今じゃなくても…」

 「あら?仲間外れにするんですか?」

 「いや、だって事が事だし…家の問題もあるだろうし」

 「恋愛の問題に家もなにも関係ありませんわ。それに友達を見捨てるような薄情者に見えます?」

 「神楽耶さん」

 

 嬉しそうに微笑むナナリーに四人全員が安心しきった表情を浮かべた。そうだ。どんな事をしたかなんてどうでも良い。俺達は守れたんだから。

 

 「そうだルルーシュ。後で礼を言うんだぞ」

 「はい。スザクや皇、兄上には感謝して―」

 「あぁ、スザク君は勿論だがシュナイゼルやギネヴィア達にもだ」

 「シュナイゼル兄上にギネヴィア姉様も巻き込んだのですか!?」

 「二人だけじゃないぞ。兄弟・姉妹のほとんどに協力を」

 「兄上はやり過ぎという言葉を知らないのですか?」

 「大事な家族の為だから『無い』と断言しよう」

 

 胸を張って答えた答えに皆が笑う。髭のおっさんはその日に帰国して二日後にはその笑顔で溢れた皆と撮った写真が送られてきた。

 

 

 

 side:ゲンブ

 

 スザク達が写真を撮る前日である、スザクに話を聞かれて六日目。

 

 日本国首相である枢木 ゲンブは軍の司令室にて苦虫を噛み潰したような表情で椅子に腰掛けていた。

 

 理由はあの人畜無害そうな若造のオデュッセウスからの連絡である。何処からか聞きつけたのかナナリーと政略結婚を止めるようにと言ってきたのだ。今更それを止める気もないし、あんな若造に言われてはいそうですかと聞く気もなかった。

 

 それだけなら軍事施設に入る事はなかったが、連絡内容の最後には実力行使も辞さないと言っていた。どちらにせよ神聖ブリタニア帝国とは遅かれ早かれ戦争をする事になるとは考えている。だが、いくらなんでも今は早過ぎる。そもそも日本が十カ国を支配しているブリタニアに勝てるとは微塵も思っていない。ゆえにナナリーとの政略結婚を行なおうと思案していたのだ。つまりはひとり国や民を見捨てて自身の保身を行なっていた訳だ。

 

 後にサクラダイトの発掘を仕切る桐原 泰三もブリタニアに積極的に協力して同じ日本人からは裏切り者に見られるが、彼は反ブリタニア勢力の支持者となり積極的に支援する目的があった為に別である。しかも時期は戦時ではなく戦後であるから尚更である。

 

 兎も角、何の準備も出来ていないのに戦争が起こっては困る。しかし、帝国の第一皇子だからと言って早々簡単に戦争を起こすことは難しい。今回の辞さないというのは単なる脅しでアピールだけだろう。だからこの件は公表せずに軍の情報分析官に情報の精査を命じてある。

 

 「首相。ブリタニアに入った者から第一報が入りました」

 

 脇で待機していた将官クラスの軍人が資料を渡してきた。ざっと目を通すが総司令官の名前を見て笑ってしまった。総司令官の名前はクロヴィス・ラ・ブリタニア。戦闘指揮を執った経歴なしの十七歳の小僧っ子だった。

 

 「あからさまですな。確かに将軍を多く引き連れていますが戦力的にも侵攻以前に海上の防衛網すら突破できますまい」

 「やはりブラフか。普段どおりで守りきれるか?」

 「普段の防衛体制だと不可能ですが日本の海上防衛戦力を集中させれば壊滅可能です」

 「一応監視は続けておいてくれたまえ」

 

 これでブリタニアからの戦争の可能性は消えた。オデュッセウスからの脅しはもう一つあって枢木 ゲンブはナナリーと政略結婚して自身の保身を第一に国民と国を裏切るつもりだと情報を流す用意があるという。さすがに周りからの批判や国民からの非難を浴びる事になるが、そんなことは何とでもなるし、するしかない。

 

 イラつきながら鼻を鳴らして立ち上がると、ブリタニアに送った連絡員からの情報を受け取っていた兵士が慌てて立ち上がった。

 

 「大変です!他にも移動準備に入った艦隊を確認したと!!」

 「他にも艦隊をだすだと!!規模は?指揮官は誰だ!?」

 「規模はまだですがコーネリア・リ・ブリタニアとユーフェミア・リ・ブリタニアが現地入りしたのを確認したそうです」 

 「そっちが主力艦隊か…」

 「新たにキャスタール・ルィ・ブリタニアとパラックス・ルィ・ブリタニアにも動きが!!」

 「カリーヌ・ネ・ブリタニアも確認。ただし報告された艦隊とは別艦隊との事」

 「皇族のマリーベル・メル・ブリタニアがエリアより集められた予備戦力の指揮官として―」

 

 次々に入ってくる情報に室内が騒然とする。複数の皇族が多数の艦隊を別々に指揮を執って日本に向かおうとしている。机に広げられた地図にそれぞれの艦隊の予想進路が書き込まれていく。敵の艦隊を相手に出来るほどの力は無い。まさか脅しの為にここまでするのか?疑問は連絡文の最後の言葉を思い返して背筋が凍る。

 

 『実力行使も辞さない』

 

 まさかなと思いたいが現実はその反対に進んで行く。冷や汗が止まらずに息を飲み込んだ。そんな中でも何か現状を打開する手立てを模索するが相手の動きは艦隊だけではなかった。

 

 「居場所を探していたシュナイゼル・エル・ブリタニアの居所を掴みました」

 「何処だ!?まさかまだ艦隊の指揮を執っている訳ではないだろうな」

 「そ、それが…中華連邦に。現在は大宦官と会食中とのことで」

 「なん…だと…」

 

 ふと思った打開策にはブリタニアを良くは思ってない中華連邦に手を借りるというものもあった。出来れば借りたくない手ではあるが最終手段としてぐらいは思っていたのだが先に潰された。連絡には無かったがギネヴィア・ド・ブリタニアはEUが動く事がないようにEUとの会合を行なっていた。

 

 「オ、オデュッセウス殿下と至急連絡を取りたい!急いで準備を!!」

 

 急ぎ連絡を入れて政略結婚を行わない事を伝えると艦隊はすべて撤退していき、最悪の事態は避ける事は出来た。ルルーシュとナナリーにはブリタニアから派遣された連絡員が様子を報告するようになり、手出しは出来なくなった。こうなってはもう保身に走ることなど出来なくなった…。




 流れ

 一日目 スザクが婚約の件を耳にする

 二日目 ナナリーが行方不明だったのを見つける。父親に言うが相手にされない。
     まだ幼い貴族のナイトメア適性を調べるオデュッセウスにスザク君より連絡が来る。

 三日目 オデュッセウス、皇帝陛下に日本との外交が芳しくない為に脅しをかける許可を頂く。
     皇族の姉妹・兄弟を集めて協力を乞う。
     極秘に日本のブリタニア大使館へ向かう。

 四日目 大使館よりルルーシュやナナリーにオデュッセウスよりパーティを用意したとの事で仲の良いスザクと神楽耶も誘われる。

 五日目 大使館入りする。と同時にゲンブにナナリーと婚約するなどほざくのなら日本を数日以内に攻めると脅す。

 六日目 皇族がブリタニアより出撃する。
     大使館では内密に運び込んだガニメデを三機機動準備を始めて、連れ込んだ親衛隊は防衛体勢に入る。

 七日目 日本…ゲンブは要求を呑んで婚約をしない事を伝え、ブリタニアは軍を引く。

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