コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第137話 「ジルクスタンでの戦闘」

 シェスタールは余裕を持った態度で嘆きの大監獄を見つめていた。

 彼は黒の騎士団がオデュッセウス奪還などを警戒して、監獄の守備を固めるべく訪れたのだが、運良く(・・・)シャリオ国王と入れ替わる時間帯に侵入され、今は大監獄の奪還及び敵対勢力の殲滅戦を行うべく多少の待ち時間を潰しているところだ。

 相手は不埒者と言えど名門貴族フォーグナー家の嫡男としても、ジルクスタン王国の戦士としても戦をするのであれば作法を持ち入らねばならない。

 まず初めに逃がさないように周囲を包囲し、降伏勧告と少しばかりの猶予を与える。

 すんなり投降すれば命は(・・)保証する事と、もしも侵入した者の中に報告があった嚮祖様(C.C.)が居るのであれば国賓待遇で迎えたいとの意向を示す。

 無論投降するなど露とも思ってないし、寧ろ断ってくれた方が攻める事が出来るので有難い。

 超合集国などというふざけた機関が出来て以来は戦う機会が激減し、戦士の国であるジルクスタン王国はその力を振るえずにいる。

 だからこそこうして自国内で敵を相手に戦える機会は本当に有難く、喜ばしいものと感じる。

 とは言ってもシェスタールは強者を求めるタイプの人間ではなく、今回は戦闘と言う狩りを楽しむ気満々である。

 なにせ勧告してから大監獄よりビトゥル獄長を含めた内部に居た者ら全員が解放され、内部に侵入した人数も把握出来ており、敵が使用するであろう戦力も解かり切っている。

 人数で言えば目撃談から十人程度。

 多くても二十人未満と踏んでおり、奴らが戦える手段として用いれるのは小銃で対抗するか、格納庫に置いてあるゲド・バッカを鹵獲して使うぐらいである。

 対してこちらは親衛隊所属の精鋭達が操るゲド・バッカ一個大隊以上が待機している。

 勝負はもはやついていると言っても過言ではない。

 

 「隊長、時間です」

 「良し、突入」

 

 降伏勧告を出して与えた猶予が過ぎた事を知らされ、シェスタールは突入の号令を降した。

 嘆きの大監獄は大昔の遺跡の上に作られた施設で、周囲は崖となって円柱形のような大監獄を囲んでいる。

 大監獄へ出入りするにはどうしても正面入り口に掛かっている橋を通るしかなく、逆に言えばそこしか出入りする所が無いという事だ。

 命令に従って突入部隊が勢いよく突入していく。

 シェスタールは自身専用の愛機、ジャジャ・バッカを飛翔させて上から眺める。

 ジルクスタン王国のナイトメアフレームは独自の物であり、これまではブリタニアなどの技術を取り込む機会はそうは無かった。だが、超合集国の下で軍事力が黒の騎士団に一括された事で、技術は黒の騎士団内の技術屋の多くに浸透し、知る人間が多ければ金や秘密を理由に口を割る者も出てくるというもの。

 荒野と言う今回の戦場では嫌に目立つ青色で塗られ、上半身は人型というジャジャ・バッカはブリタニアで用いられていたフロートシステムを使用して飛行能力を得ているので、技術的な事ではあるがこれは黒の騎士団がなければ手に入らなかったろう。

 上から眺めていると大監獄の防衛機能である砲台と機銃が動き出し、橋を落とすと同時に橋手前で待機していたゲド・バッカが攻撃を受けて撃破された。

 どうやら敵にシステム面で優れた者がいるのだろう。

 無抵抗では面白みがないと思っていたが、歯向かって来るのであれば多少は楽しい狩りになりそうだ。

 地下内部のデータと自軍の部隊の反応、そして敵の動きを情報として送られ吟味する。

 敵の中には中々良い指揮官が居るのだろうが、運が悪いというかタイミングが悪いといか、良い手を打つも全部無駄に終わっている感じだ。

 まず最初に行った防衛システムをハッキングして、砲台や機銃を使っての攻撃。

 橋を落とす事でこちらの増援を断ち、突入する部隊を減らそうと画策したのだろうが、すでに突入部隊は入り切っており、今更橋を落としたところで遅すぎる上に自分達の退路を塞いだだけ。

 数の差を埋めようと発射砲台としてコード付きとは言え遠隔操作出来るようにゲド・バッカを配置したのは良いが、こちらは戦闘経験豊富な親衛隊。間に合わせの無人機如きに遅れをとる者など居る筈がない。

 最後に何機かは有人機として奇襲しているが、命惜しさかこちらが攻撃を行うとさっさと下へ下へと逃げていく。

 

 「勝ったな」

 

 勝利の愉悦から笑みが零れる。

 くすくすと笑うとシェスタールは、コホンと咳き込むと通信を開きながら、ジャジャ・バッカを前進させる。

 

 「マンデ・マディン・ズースー(大型陸戦艇)は守備隊と共に待機。突入部隊は継続して敵部隊を最下層へ追い込め」

 『シェスタール隊長は如何なさるので?』

 「私は迎えに行かねばなるまい」

 『単騎では危険かと』

 「問題ない」

 

 何故なら勝利は確実。

 負ける要素など無いとしかいう様な状況で、何が危険と言うのか。

 オデュッセウスが閉じ込められている個室は崖側の一室なので、大監獄と崖の間を降りて行けばすぐなのだ。

 ならとっとと優先順位の高い彼を捕縛して、確保した方が良いに決まっている。

 余裕を見せながら崖へと進ませ、降下させ始めたシェスタールは崖側面にナニカが居るのが見え、何だろうと確かめる間もなく大きく衝撃を受けるのであった。 

 

 

 

 

 

 

 嘆きの大監獄に敵部隊が雪崩れ込んで、下部へ下部へと進んでいく頃、オデュッセウス達は監獄内部ではなく外壁より飛び出て、崖に蝉のようにへばりついてタイミングを見計らっていた。

 

 オデュッセウスが提案した作戦は“バベルタワー”のアレンジだ。

 技量が高くても敵と同じ性能の機体では、確実に数に押されてエナジー切れを起こすだろう。

 以前九州事変の際にランスロットがそうなったように。

 なので敵中突破を避け、ゼロが行ったバベルタワーの策略を流用することにしたのだ。

 抵抗を見せつつも後退し、粗方誘い込んだところで中間部を置いてあったサクラダイトを用いて爆破。

 下部へ落下していくゲド・バッカは叩きつけられ、瓦礫に押し潰され、ほとんどが撃破か行動不能な状態に陥るだろう。

 “バベルタワー”では倒れたタワーを道にして逃げ切る事が出来たが、この監獄は倒すも何も地下空洞に建築されているので倒れても壁に凭れる程度。到底逃げ切れる道にはなりはしない。

 なので倒壊する監獄の反対側の壁に全員がゲド・バッカに搭乗してへばり付き、カレンとジェレミアを先頭に残存勢力を突破するという最後は力業の作戦だ。

 ルルーシュやシュナイゼルならもっとスマートで知的な作戦を組んだろうけどと自慢の弟達を思い浮かべていた。

 一応悟られないように無人機や自動砲台なんかを使って交戦の意思ありなように見せつけたりしたが、相手が自慢の弟妹達ならあっさり気付いていた事だろう。

 

 そんな事を想いながら青空を見上げていたオデュッセウスは目が合った気がする。

 青をメインカラーとしたゲド・バッカとは明らかに違う機体が頭上まで移動し、降下してきたのだ。

 戸惑いながらも瞬間的にオデュッセウスは動いた。

 爆破ボタンを押すと同時に壁上部に刺し込んでいたハーケンを巻き、ランドスピナーをフルスロットルで進ませる。

 閃光と爆炎を撒き散らす監獄に注意を取られたシェスタールは、壁を猛スピードで駆け上がるオデュッセウスのゲド・バッカに対応仕切れない。

 壁から空中へと駆け上がるとハーケンを壁から抜き、そのままジャジャ・バッカに取り付く。

 

 『なに!?こんなバカな事が!!』

 「左に一個、右に一個、正面に大型陸戦艇一に護衛に二個…残存勢力十二機に大型陸戦艇一!」

 

 驚愕するシェスタールを無視して上空より敵の配置を確認して簡単に伝える。

 するとカレンにジェレミアなどの戦闘経験のあるゲド・バッカが敵左翼に展開し、オデュッセウスは前衛である彼らを援護すべく、ジャジャ・バッカの上に乗るように落下して砲撃を開始する

 前衛として突入したのはカレンを筆頭にジェレミアにアーニャ、そしてギアスで動きを読めるマオと元々高い操縦技術を持っていたジュリアスの五名。

 後衛として機能しているのはオデュッセウスとナイトメア騎乗経験のあるC.C.ぐらいだ。

 ニーナに咲世子、ロイドとアノウも余っていたゲド・バッカに搭乗してオデュッセウスより後方で支援砲撃を開始するも、何処を狙っているんだと突っ込みたくなるほど明後日の方向に撃っていた。

 まぁ、威嚇ぐらいにはなるかなと放置し、敵機を狙ってトリガーを引く。

 放たれた砲弾は狙いをズレて掠りもせず地面に着弾した。

 

 「少し右にズレてるかな…」

 

 感覚で誤差を修正してトリガーを引くと、頭部を狙っていた砲弾が右腕に直撃する。

 やはりいつものライフルでないとこの距離は難しいかと顔を歪めていると、下敷きにしたナイトメアがもぞもぞと動き出す。

 

 『この!よくもこの私に…』

 

 圧し掛かったままの状態から脱しようとしているが、じたばたと手を動かすだけで退かされる気配すらない。

 というか何だろうこの違和感。

 見た目は人型だけどなんていうかバランスが悪い。

 違うな、見栄えばかり気にして機体性能を無視したのではないだろうか。

 飛行能力を持っていたり、明らかにゲド・バッカとは違う機体に指揮官機か特殊な機体かと思っていたのだが、どうやら当てが外れたらしい。

 見せ掛けだけの試験機か何かか…。 

 興味を失ったオデュッセウスは親衛隊隊長(・・・・・)シェスタールを踏みつけたまま、もし反撃されてもその時は足元の機体を盾にすればいいや程度に支援砲撃を開始する。

 発射されるキャノンの反動を押さえようとゲド・バッカの脚部が踏ん張る。

 すると踏みつけられていたジャジャ・バッカが大きく揺れて、コクピット内のシェスタールが前後左右に酷く揺さぶられる。

 ベルトをしていた為に機器に激突して大けがを負う事は無かった者の、あまりの揺れに気分が悪くなって構わず吐き散らしコックピットを汚す。

 

 「んー?反撃が無いなぁ……ま、良いか」

 

 下に親衛隊隊長で大将軍の御子息が居るとなれば下手に反撃は出来ず、救出したいが今や状況は一変してジルクスタン王国側が不利となっており、救出どころか立て直しすら危うい状態に陥っている。

 そうと知らないオデュッセウスは支援砲撃を続け、主戦力を掻いた上に黒の騎士団でも上位に当たるパイロットたちに技量で押され、指揮所でもあった大型陸戦艇までが沈黙するまでそう時間は掛からなかった。

 

 「皆、そろそろ撤退するよ」

 

 敵のナイトメア部隊を倒し、大型陸戦艇の足を潰したのを確認してオデュッセウスは撤退の指示を伝える。

 長居しても敵の増援が来るか補足される可能性が高く、やる事やったらとっとと逃げるのが一番だ。

 となるとゲド・バッカでの目的地までの移動は平地がほとんどのジルクスタン王国では目立ちすぎる。

 空を移動する手段があればと悩んだが、自分が下敷きにしていたモノを思い出して、上から退くと同時に関節部を抑えて、盾にでもしているかのようにして持っていく。

 

 この様子を離れた岩陰より眺めていたビトゥルは連れ去られたと心配するのではなく、エリート様が無様に引き摺られてやがると嘲笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ジルクスタンの聖神官であるシャムナは忌々しそうに遺跡と機械の混ざり合った()を見つめる。

 彼女はジルクスタンのギアスユーザーであった。

 能力は先読みという未来を覗けるというもので、これを予言として使用しジルクスタン王国を何度も救ってきた。

 ただこの能力は本来起きる未来を覗けるというものなので、幾度と弟のシャリオが国や自分を守る為に死ぬ様を見続け、それを回避すべく行動してきた。

 しかし超合集国や黒の騎士団の成立を阻止することは出来ず、ジルクスタン王国は死に体と成り果てようとしている。

 コードを継承してCの世界を用いて目的を果たそうと考えていたが、シャルルの“神殺し”が中途半端に終わってしまい、本来のシステムが異常をきたしてしまったのだ。

 おかげで継承は不完全となり、“先読み”のギアスが変質して“死に戻り”ギアスとなってしまった。

 この時点で計画は水泡と帰す筈だったが、コード所有者であるV.V.が訪れるのであれば希望が生まれる。

 最初の予定ではナナリーが難民キャンプに訪れる予定だった。

 ナナリーはマリアンヌによりC.C.細胞を埋め込まれているので、Cの世界の奥底に行くには問題ないだろう。

 それが大本であるコード所有者であればもっと上手く行く筈。

 計画を変更しつつ続行し、V.V.の誘拐には成功。

 しかし彼はコードを渡しており、コード所有者だった残り香だけ。

 対してナナリーと変わらないが計画を行うには充分。

 今は休息を取らせながらもギアスの遺跡と同じくCの世界への入り口を形成する機能を持ったシステムに繋がらせて計画遂行の駒として扱っている。

 予言者と言われてもこうも上手く未来を回せないとは…。

 

 「姉さん」

 

 深く考え込んでいたシャムナを現実に引き戻したのは最愛の弟であるシャリオであった。

 車椅子のレバーを引き、近付いて来るシャリオに満面の笑みを向ける。

 オデュッセウスを捕らえて以来、シャリオは嘆きの大監獄へ行くことが多くなった。

 元とは言え大国の皇帝を務めただけあって、王として興味を持ったのが最初で、今ではそれ以外でも話をしに赴いているらしい。若干弟が離れたようで寂しく感じるも一時的な物だろうと焦る気持ちを落ち着かせる。

 

 「今戻ったよ姉さん」

 「お疲れ様、シャリオ。どうだったの?あのオデュッセウスという男は?」

 

 内心の感情を表に出さないように気をつけながら労いの言葉を掛けながら問う。

 正直シャナムにとってオデュッセウスは割とどうでも良い人間だった。

 皇族や各国に強い繋がりを持っており、もし戦争になるのであれば脅しに仕えるな程度にしか思っていない。

 シャリオが興味さえ持たなければブラッドリーに引き渡しても良いと思う程に。

 

 「中々面白い人物だったよ」

 「面白い?」

 

 穏やかな微笑みを浮かべてシャリオが答え、シャナムはイラッとした感情によって眉がピクリと動く。

 何だろうこの感情は?

 最近構ってばかりいる相手に嫉妬しているというの?

 馬鹿馬鹿しい。

 けどシャリオの口から出て来る奴を認めているような言葉の数々に苛立ちは募る。

 

 「もしも彼と早く出会えていたら手を取る事も出来たかも知れないよ。姉さんとも話が合うかも」

 「…そう」

 

 最後にそう言われた事に、少し間を開けて短く答えたシャムナは、今までで最高の作り笑顔を浮かべるのであった…。


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