コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

137 / 150
第136話 「突入、嘆きの大監獄」

 一台の輸送車が乾いた大地を進む。

 側面にはポップな広告が張り出されているが、内部は緊張に包まれていた。

 それもその筈である。

 これより彼らはオデュッセウス救出のために敵地内部にて救出作戦を展開することになっているのだから。

 ホテルで襲撃を受けた後、一行はC.C.が泊まっていた宿に訪れると何とか逃げ延びてきたジェレミアと合流。

 戦闘での経緯から合流地点へ向かった流れ、さらに合流前にオデュッセウスが捕まり、奪還しようとしていたのだが嘆きの大監獄に別件で用事があり、向かっていたC.C.達と出会って今に至ると言う。

 オデュッセウスの居場所はジェレミア単体だと突撃してしまいそうなので、襲撃があった際にホテルに来なかったジュリアス・キングスレイ(LV-02)に調べさせ、嘆きの大監獄に収容された事は確かなようだ。

 調査に訪れたカレン達は情報を伝え、別動隊との合流を果たして作戦に当たると言う手段もあるにはあったが、ジルクスタン王国に動きを察知される恐れがあり却下。

 そこにC.C.にマオ、それとジュリアスは嘆きの大監獄下部にあるとされるギアス関係の遺跡を破壊しに訪れており、カレン達が行かなくても行くとの事。C.C.達の後となると警戒が強まって奪還は困難になるのは必須。そこに行くのであれば助けに行くとニーナとジェレミアも同行すると言い出し、であるならばとカレン達も向かう事になったのだ。

 

 「っていうかアンタたち三人でどうこう出来た訳?」

 

 狭い車内でカレンはC.C.に問いかける。

 一応輸送車であることから大型であるにはあるのだが、カレンにロイド、C.C.、マオ、ジュリアス、ニーナ、アーニャと当初予定していた人数より大所帯となった為に密度が増している。

 色々持ち込んだ中の看守用の制服を着て咲世子は運転し、ジェレミアは助手席に座って二人分空いたとしても七人も座れば狭く感じる。

 ちなみに強い意志から行くと言って聞かなかったニーナを除く、非戦闘員のディートハルト、メルディ、ミレイ、リヴァルは脱出地点へ向かい、暗号通信での外への情報提供を任せている。それ以上にこれにもう四人は狭すぎるしね。

 

 「なんとでもなるさ」

 「大した自信だこと」

 「それほどなんだぁ。少し興味が湧くねぇ」

 

 ノートパソコンを操作していたロイドが三人を眺める。

 ジュリアスは別に気にも止めずに腕を組んだままで、マオはヘッドホンの音量を最大音量で聞いているためにロイドの発言に気付いていない。聞いている内容はヘッドホンをしていても音漏れしており、何やら褒めているらしきC.C.の声が駄々洩れしていた。C.C.に限ってはあからさまに面倒臭そうにため息を漏らす。

 

 「ロイド、死にたいのか?」

 「あぁ、怖い怖い」

 

 運転席側よりジェレミアの一言でおどけた様に言い、ロイドはパソコン画面へと視線を戻す。

 これよりカレン達は大監獄内部へ侵入する為に手順を踏む。

 まずジルクスタン兵士に変装した咲世子に、囚人を装ったカレン、ニーナ、アーニャ、C.C.、マオ、ジュリアスが内部へ侵入。看守数人を連れて内部に入った隙に車内に残ったロイド博士がハッキングして監獄ないの監視カメラをダミー映像と差し替えてこちらの動きを悟らせないようにするのと、オデュッセウスの居場所の捜索などの支援作業。そして咲世子と同じく変装したジェレミアが監視室を押さえる。

 最後は別にする予定は無かったが、脱出の際にはどうしても監視室の看守達が邪魔になるのでジェレミアが提案したのだ。

 

 停車して予定通りに扉が開けられ外に出る。

 悟られないように緊張などを表情に出さないように注意しつつ、看守達に案内されるままにエレベーターに乗って地下に降りる。降りた先には長い通路の左右、そして見上げれば見える二階部分の左右にも独房が連なっていて、かなりの囚人たちが収容されていた。

 

 「―――ロイド博士…」

 

 咲世子が仕込んだ通信機でロイドと連絡を取り、ダミー映像を流しているかの確認をしているのだろう。

 小声で看守に聞こえず、カレンは大きく頷いた事で動くことを理解する。

 

 「皆さん。演技はそこまでで良いですよ」

 「はぁ?そりゃあどういう…」

 

 看守が首を傾げながら振り向くと同時に回し蹴りを後頭部に叩き込み意識を刈り取る。

 もう一人の方は意識がカレンに向いた瞬間に咲世子さんが変装に使っていたマスクを投げ、視界を一瞬ばかり奪った隙に一撃で刈り取った。

 周囲の囚人たちは各々に騒ぎ、揶揄う様な言葉を投げかけて来る。

 どうみても真っ当そうな者は居らず、元気だけは良さそうな連中。

 こいつらを解き放てば良い陽動や時間稼ぎになるだろう。

 気絶した看守より鍵を奪い、牢の中に投げ込もうとしたその時、ヘッドホンを外したマオに手を掴まれて止められる。

 険しい顔を向けて「なによ?」と問いかけるとニヤリと嗤われた。

 

 「あー…こいつら出さない方が良いよ」

 「何でよ?」

 「だってここの警備している連中だよ。そこの大男に至っては獄長だし」

 

 ヘラヘラと冗談のようなことを言い放つと、房の中に居た大男が目を見開いて驚きを露わにした。

 様子から本当の事だと分かったカレンが振り返るとサングラス越しに薄っすらと瞳が赤く輝いていたのが見て分かった。

 これがマオのギアスの力か…。

 

 「ッチ、なんでわかりやがった?」

 

 カレンが一人納得している間に、大柄の男―――ベルク・バトゥム・ビトゥル獄長は睨みつけながらマオに問い質すも、すでにヘッドホンを耳に当て直したマオに声は届かず、言葉だけが通り過ぎていく。

 わざとではないのだろうけど、しかとを噛まされたようで獄長は苛立ちを露わにする。

 

 「殺すか?」

 「放っておけ。ただ逃がさないようにな」

 

 そんな獄長を無視して淡々とした口調で問うたジュリアスに、これまた淡々とC.C.が答えた。

 ジュリアスが牢を撫でると凍結し、鍵穴を使えない状態にする。

 「なんだこれは!?」と驚きながら牢屋の中で囚人に紛れていた連中は出ようと隠し持っていた鍵を突っ込んだり、鉄格子に蹴りを入れたりを繰り返す。

 これがギアスかとカレンは恐ろしく感じると同時に凄い力だと感心した。

 

 「便利な力ね。ギアスって」

 「そうでもないさ。超常の力を得た代わりに代償を払っている者もいる」

 

 どことなく儚げな横顔に戸惑う。

 それは知っているというより実体験をしたからこそ得た重みの様なものを滲みだしていた。

 いつにない表情はすぐさま消え去り、いつもながらの不敵な笑みを浮かべる。

 

 「私達は最下層に向かう。そちらはそちらでやってくれ」

 「解ってるわよ。行くよニーナ、アーニャ」

 「はい!」

 

 C.C.はマオとジュリアスを連れて進んで行き、咲世子は内部の確認へ、カレンはニーナとアーニャを連れてオデュッセウス救出に向かう。

 警備システム自体はロイドにとっては簡単なものだったらしく、場所の捜索は案外あっさりと終了した。

 居場所を知って焦るニーナを抑えながら、周囲を警戒しつつ目的地へ向かう。

 電子ロックで監獄内と言う事もあってか、警備の人間は一応置いて置いた程度の人数でカレンとアーニャのみで対処は可能だった。

 見張り役は排除したが中にも居るかもしれないと恐る恐る扉を開ける。

 

 「チェックメイト―――おや?」

 

 開けた先には囚人服を着ていたが元気そうにチェスに興じていたオデュッセウスがそこに居た。

 ニーナは声を発する前に走り出し、オデュッセウスに泣きながら抱き着く。

 倒れる事無く抱き締め、ニーナもオデュッセウスも謝りつつ、お互いの無事を喜びあっていた。

 感動的な光景なのかも知れないが同級生の惚気を目の前で見せつけられるカレンとしては苦笑いを浮かべるのが精いっぱいだった。

 

 「無事なようね?」

 「すまないね。手間を掛けさせて…」

 「この程度で済んでよかったけどね。アンタが関わると事が大きくなる気が―――」

 『ざぁんねんでしたぁ。すでに大きくなっちゃったけどね』

 

 大きくなる気がするものと言う前に、ロイドからの通信が入り、そのままとある音声が流される。

 内容は監獄外延部にナイトメアの大部隊が展開しており、さらにシェスタール・フォーグナー親衛隊隊長を名乗る人物より投降勧告が発せられたものだった。

 もう大きくなっていたかと頭を抱える。

 オデュッセウスを捕縛しているにしては警備が緩すぎると思っていたら、どうやら交代の合間だったらしい。

 しかも相手は親衛隊。

 練度も高い上にこちらは逃げ場も戦力もない背水の陣。

 

 「この監獄内部にナイトメアとかないの?」

 『調べたところ大量のサクラダイトに、防衛用にナイトメアが置かれているようだよ。位置データ送るから』

 

 一応戦える術はあるのかと思いつつ、端末を確認して場所とルートを確認する。

 最下層までいかずも下の方に格納庫があるらしい。

 未だに抱き合っているオデュッセウスとニーナに事態を知らせ、兎も角格納庫へと向かう。

 危機的な状況になったために最下層に向かったC.C.達は作業を終わらせ、ロイド達も警備室から格納庫へと急いで向かうとの事。

 道中、事の深刻さと状況を思い知ってかオデュッセウスはニーナを安心させるように努めながら、いつもと違った緊張感を漂わしていた。

 が、それも道中までだった…。

 

 「おお!ゲド・バッカ!!」

 

 急にハイテンションになったオデュッセウスが大声を上げた。

 何事かと皆の視線が集まるが、オデュッセウス自身は並んでいるゲド・バッカに視線を釘付けにしてる。

 

 ゲド・バッカとはジルクスタン王国の主力ナイトメアフレーム―――否、ナイトメアフレームもどきと称するべきか。

 まず人型のナイトメアではなく足は四脚で歩行ではなく、ランドスピナーやホバーを用いた走行を行い、武装は両肩のキャノン砲のみ。接近戦の事も考えられて手にはブレードタイプのスラッシュハーケンが搭載されている。

 システムから武装まで実戦的な物で洗礼されている機体であるが、ロイドはこの機体をあまり快く思っていない。

 コクピットブロックが狭いためにモニターによる周辺確認がし辛く、それを補うために専用のゴーグルをつけなければならなかったり、頭部はむき出しのカメラアイだったりと中々遊びが少なく、自分が生み出し育て上げたランスロットとかけ離れた思想などで好んでいない。

 要は趣味に合わないのだ。

 が、オデュッセウスはそうではなく明らかな興奮状態。

 カレンもナイトメアフレームには詳しく、その手の話題に跳び付いてしまった過去もあるが、状況が状況なのでここで我を忘れて跳び付く事は無かった。

 

 「こんなものに(・・・・・・)興味があるんですか陛下?」

 「興味はあるさ。ナイトメアフレームを最初に作ったのはブリタニアだが全部が全部人型である必要も無し。遮蔽物がなく、広い平地が戦場のジルクスタン王国では長射程こそものを言うからね。道も整備されてない所が多いから二足歩行より四脚のランドスピナーの方が有効だし、全高が低いから当たる面積も少ない。ブリタニアのナイトメアには無い特徴ばかりだよ。いやぁ、これ私のコレクションルーム……じゃなかった。博物館に持って帰れないかな?」

 「お土産コーナーではないのですが…」

 

 これにはさすがにジェレミアもアーニャもニーナも呆れ顔。

 ようやく皆の視線に気付いてコホンと咳払いし、少し照れ臭さを残しつつ真面目そうに表情を整える。

 ロイド達もC.C.達も格納庫へ到着しており、その全員を見渡した。

 

 「戦闘可能なパイロットは私を含めて六名か」

 

 外部の監視カメラの映像から敵は一個大隊規模のナイトメア集団。

 それもシェスタール親衛隊隊長が引き連れているなら、戦士の国内でも選りすぐりの精鋭であると予想される。

 たった六人での突破は厳しい。

 ここに紅蓮があればと思うが無いものは強請ってもしょうがない。

 何とか出来ないかと考えていると、ジェレミアが一歩前に出て提案を口にする。

 

 「私が逃げるまでの時間稼ぎを――」

 「却下。逃げるなら全員でだよ」

 「でもこれ何とか出来るわけ?」

 「ルルーシュやシュナイゼル、マリーベルなら何とでも出来るだろうけど、私は策士ではなくパイロットだからね。さすがに楽にとまでは難しいさ」

 

 腕を組みながら考え込むが装備も人員も足りない状況。

 これを覆すのは難しい。

 ゼロのように奇策を用いれば可能性は大きいかも知れないが、ここに居る者の中でそういった奇策に精通した者はいない。

 絶望的な状況を諦めきれずに考え込むオデュッセウスは頭を掻きながらため息を漏らす。

 

 「なんにしても逃げる為に敵中を突破しないと。出来ればヴィーの居場所を突き止められたら良いんだけど」

 

 そう言ってコンソールを眺める。

 ジルクスタン王国の施設だけあって器材からシステムまで整っている。

 ロイドにニーナが居るのだからハッキングして多少の情報を得ることはできるが、欲をかいて誰かを失う事態は避けるべきだ。

 思いっきり悩んでいるオデュッセウスに同じ部屋にいた男が恐る恐る手を挙げる。

 

 「あのぉ…物資の流れで分かるかも」

 「本当かい!?それなら助かるよ」

 「以前、補給部隊に飛ばされた事があるものである程度なら…」

 

 苦々しい思い出らしく眉をハノ字に曲げながら苦笑する。

 その言葉に何かしら思う事があったのかオデュッセウスは目を見開いて驚きを露わにした。

 

 「ピエル・アノウ中佐!?」

 「え?あ、はい、元中佐ですけど…」

 

 戸惑うアノウに驚愕したままのオデュッセウス。

 彼が何者か知らないが、現状そちらに気を取られて時間を無駄に消費する訳にはいかない。

 

 「今はそれどころじゃないでしょ」

 「兎も角そっちは任せたよ。私は策を―――いや、ゼロの力を借りる(・・・・・・・・)としよう」

 「ゼロの力を?」

 

 不敵な笑みを浮かべるオデュッセウス。

 何故だろうか。

 頼もしい言葉にも聞こえるがオデュッセウスが言うと妙な胸騒ぎと不安が過るのは…。

 同様の心境を味わう一行であったが他に策もなく、その指示に従って行動を開始するのであった。 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。