コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第135話 「復活の“Z”」

 オデュッセウス・ウ・ブリタニアが正体不明の武装勢力に襲われ、行方不明になったニュースは全世界を駆け巡り、世間は騒がしくなり超合集国評議会は荒れに荒れた。

 ユーフェミアやギネヴィア達みたく血のつながりのある者、神楽耶や天子のようにオデュッセウスと親交のあった者はすぐさま行動に移ろうとするも作り上げた巨大な超合集国が枷となって動けずにいる。

 だが沈黙を通すわけにはいかない。

 黒の騎士団首席補佐官を務めるシュナイゼル・エル・ブリタニアは、すでに事件を起こしたとされる()に当たりを付けており、秘密裏にだが手を打った。

 一つはカレンに咲世子、ロイドの調査隊の派遣。

 次に“火消し”を行うオルフェウス達へ情報収集から最悪の場合は火消し作業を行う様に通達。

 そして調査しているカレン達の回収から事態によっては奪還作戦を行う潜入部隊の編成から準備。

 すでに調査隊は黒よりの情報を暗号文で通達し、火消しはその裏付けを行っている途中。

 中間報告だけでもシュナイゼルの予想は的中。

 潜入部隊の派遣が世間には知らせぬように超合集国評議会にて可決された。

 本当なら大軍を率いての作戦を実施したい所ではあるが、相手が相手なだけに大きな戦争に発展するのではと不安がるの代表も居る為に少数精鋭での作戦実施となる。

 

 敵は“戦士の国”ジルクスタン王国。

 少数でブリタニアの大軍を打ち破った軍事力に秀でた国家。

 兵士の質は高く、戦場は彼らが生きてきた大地。

 質も数も地の利も得ている敵に対してこちらは少数での作戦実施。

 到底不可能にも思える作戦だ。

 しかも眉唾な話になるがジルクスタン王国には予言(・・)なる力が存在し、それがブリタニア侵攻を防いだとも言われている。

 予言が何なのかは断定できないが、高いレベルの戦略・戦術家がいるのか…それともギアスユーザーが居るのか…。

 どちらにしても適当な人選ではあっと言う間にやられてしまうのが関の山。

 後の事を考えると今はまだ動けないシュナイゼルは、植民地エリアだった日本をブリタニアから解放するばかりかブリタニア対連合国家を作り上げた人物に指揮官を頼み込んだ。

 

 ―――オデュッセウス兄上が行方不明になったのは自分のせいだ。

 

 ルルーシュはため息を漏らした。

 ニュースを見たナナリーはそう言いながら涙を流した。

 俺も悔やんだ。

 ナナリーが危険だからと言うなら俺が行けばと後悔が過る。

 ロロも付いて行けばと後悔を滲ませていた。

 アリス達も同様に何かしら想いもあり、もしも兄上に何かあったらと最悪の事態が脳裏に浮かぶ。

 俺はそれらを解消する為にも行くのだ。

 もう着る事はないと思っていたゼロの衣装に身を包む。

 

 シュナイゼルより潜入部隊の総指揮官として頼まれたルルーシュは断ると言う選択肢はなく、一つの条件を提示すると速攻で引き受けた。

 条件と言うのはユーフェミアの騎士である枢木 スザクの参加。

 少数精鋭での作戦を遂行するには彼の参加は絶対であり、気の置ける人物と言うのは支えになるから。

 

 アタッシュケースに納められたゼロの仮面とマントを手にするルルーシュが居るのは黒の騎士団が所有するアジア・ブリタニア軍事基地の一つ。

 ここで輸送機に武器や装備一式を積み込む、途中超合集国中華で補給を受けた後にジルクスタン王国の国境ギリギリの場所に降下する手筈となっている。

 ゆえにすぐ側の倉庫で隠すように輸送機にコンテナが積み込まれていく。

 ロイド博士がランスロットの基礎設計より改良した“ランスロットsiN”

 現地のカレンに届けるラクシャータが改良した紅蓮タイプの最新鋭機“紅蓮特式”。

 ミルビル博士が持っていけ押し付けてきた“ランスロット・リベレーションブレイブ”。

 そして三機の追加装備である“フレイムコート”。

 世界屈指の技術力の塊である機体と、オデュッセウスを除けば世界最強クラスのパイロット。

 数で劣るこちらとしてはこの選択肢を選ばない手はない。

 他のラウンズ達にも声を掛けたかったがさすがにそこまですると敵に動きが読まれ、潜入のメリットがなくなる可能性が高い。

 三機では作戦の遂行は難しいので少数と言えど数が必要。

 そこでコーネリア貴下の部隊が潜入部隊の数を埋める事になった。

 コーネリアとギルフォードの超合集国がグロースターを発展させた“クインローゼス”が二機と、グラストンナイツのサザーランドタイプの新型機“サザーランドⅡ”五機。

 あとはゼロのナウシカファクトリーで完成したばかりの“真母衣波 零式”と“月虹影”。それとジェレミアのサザーランドJを改修したサザーランド・ローヤルに、ロイドの趣味で改良された“モルドレッド・ビルドアップ”などなど。

 ナイトメアフレーム十四機の約一個中隊。

 パイロットと機体性能は非常に高いが数としては不足を感じる。

 それでも成功させなければならない。

 何としても。

 何をしても。

 

 「ルルーシュ。準備が出来たよ」

 

 スザクの一言にルルーシュは覚悟を決める。

 漆黒のマントを羽織り、懐かしい仮面を被った。

 全ては平穏な日常を取り戻し、皆で作り上げた平和を維持する為に。

 この作戦を後世に“戦争”と呼ばせない為に。

 ナナリーの後悔をあとで笑って語れる思い出に変える為に。

 

 「だから俺は―――今はゼロに戻ろう」

 

 ルルーシュ―――否、ゼロは再び戦場に向かう。

 

 

 

 

 

 

 ジルクスタン王国のギムスーラ平原に存在する大監獄“嘆きの大監獄”。

 思想犯や山賊を収容する監獄で、秘匿性も高い事からこの監獄にオデュッセウスは収容されている。

 最初は一般の独房に詰められていたが、今はスイートルームとも言える特別に扱えられた個室にて監視状態。

 不満も不自由もあるがそれでも逃げ出す事も出来ないオデュッセウスはお喋りなどで暇を潰すしかなかった。

 ニーナ達の事が気になってはいたが、V.V.(ヴィー)を捕まえた以外に何も無いらしいので無事であることを祈り、アーニャとジェレミアが付いているだろうから大丈夫だろうと自身を落ち着かせる。

 そうして焦る精神を何とか保つ。

 

 オデュッセウスは車椅子に腰かけた少年―――ジルクスタン王国シャリオ国王と向かい合う。

 まだ幼さが強く残るシャリオはオデュッセウスから見れば敵である。

 今回の襲撃事件の襲撃犯のリーダー。

 平和を乱そうとする火種の片割れ(・・・)

 けど何故か敵意を向ける事は出来なかった…。

 

 シャリオが身体が不自由で車いす生活を余儀なくされ、瞳に障害があるのかあまり見えない事に同情している?

 無いと言えば嘘になるのでしてはいるのだろう。

 目が見えずに車椅子生活を余儀なくされている点を考えればナナリーを連想するのもあるかも知れない。

 

 ナナリーやロロと変わらない年齢で王と言う立場、責務を負わされている憐れみから?

 違うな。それは絶対ない。

 彼は幼くもしっかりと民や国の事を考え憂いており、王の立場から逃げた私や自分勝手で他を顧みなかった父上(シャルル)以上に王らしい。

 

 ならば何故か? 

 多分私の甘さからだろうな。

 話をすれば質問攻めにされる半面、こちらからも話を聞く機会があり、彼は国や国民、特に姉の事を語る時の表情が感情豊かに変化する。

 愛し、愛された姉弟なのだろう。

 だからこそ敵である彼を敵と認識できていない。

 ヴィーを客人待遇で扱っているという言葉を信じようとするぐらいには彼を信じてしまっている。

 ルルーシュやシュナイゼルだったらどうしているだろうなと思うと苦笑いを浮かべてしまう。

 

 シャリオ国王がここに来る用件は決まって私から情報を聞き出す事が目的だ。

 最初は“V.V.”や“C.C.”の居場所を聞いてきたが、ヴィーが捕まってからは自身が強くなるにはどうしたら良いかなどが主な話だ。

 王としての責務があるだろうによく来るものだ。

 身体が不自由な分、部下やお姉さんが手助けしているらしいけどもそう簡単に王が玉座を離れていいものなのか…。

 私が言っても多分ブーメランのように返って来るので口にはしないけどね。

 

 「神経電位接続を行えば脳から手に、手から操縦桿への行動が脳から直接機体に送信できる。これにより反応速度は倍以上に跳ね上がる」

 「ほぉ…」

 

 真剣に話を聞き、瞳を怪しく輝かせる。

 彼は強さにおいて非常に高い興味を示す。

 難民キャンプに参加していた彼の機体は新型機らしく、あの機体の動きからして確実にラウンズクラス。

 それもカレンちゃんやスザク君に近しい力だ。

 すでに十分すぎる力だと思うが、彼はそれでも力を欲する。

 国を、民を、そして最愛の姉を護る為に。

 

 「それを行うにはどうしたらいい?」

 「これに関してはブリタニアが技術を秘匿し、黒の騎士団には渡していない。知れば人体実験や非合法な兵士を創り出そうとするからね」

 

 護る者を多く抱え、同時に多くの問題を圧し掛かる彼はどん欲だ。

 それら為ならば自らがどうなろうと良いという覚悟が見受けられるが、まだ見ぬ彼の姉は話を聞いた限りではそうは思うまい。

 ま、戦場に跳び出していた私が言えた立場ではないと思うがね。

 

 「ブリタニアが秘匿したか。なら知っているのだな」

 

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる様子が予想通りだっただけに肩を竦める。

 彼の想いを組んでやることも出来るが、やはり大事な弟妹を持つ身としては言うべきではないだろう。

 その前に私がその技術を知っていても手順や必要な物などを知らないので教える事は叶わないが…。

 

 「知れる立場であるのは確かだよ。けどあの施術を行うにはブリタニアのサイバネティック医療が必須となる。自慢になるが我が国のサイバネティック医療は死に体であっても生者にすることが出来るものだから」

 

 私の解答に明らかに落胆し、それでもまだ何かないかと思案している。

 彼とは長い時間過ごした訳ではないが、話しの変え方は心得ているつもりだ。

 

 「この前の話を聞かせて貰えるかな?」

 

 これだけで良い。

 強さを求めているためにそちら関係の話を主にする彼ではあるが、それ以外にも色々と話はしているのだ。

 元とは言え国を治めていた皇帝なのだからと国や民の為にどうしたら良いか。どうすれば良かったなどの相談も受けている。

 話を変える際の口上と解っていながらもシャリオはそれに乗り、前の話の続きを行う。

 今回はお姉さんとの話でぱぁっと笑顔を輝かせながら語りつつ、所々で表情が曇る。

 それでも彼の語りは止まらない。

 私も私でちゃんと聞いて相槌や返答をするので余計に彼の話に熱が籠る。

 

 「あの時の姉さんは――――なんだ?」

 

 楽し気に語っていると士官が側により耳打ちする。

 小声で何を話しているかは聞き取れないが、彼の表情から何かしらあったのだろうとは推測できる。

 

 「ここを離れることになった。手荒なことはしたくない。くれぐれも逃げ出そうとは思わないように」

 

 手短に注意して退室するシャリオを見送ったオデュッセウスは何も出来ない自分を不甲斐無く感じながら溜め息を漏らし、奥に置いてあったチェス盤に近付き、近くの椅子へと腰かけた。

 対面の椅子には対局者は居らず、部屋の隅でガタガタと震えていた。

 

 「チェスの続きでもするかい?」

 「あ…は、はい…」

 

 部屋隅で震えていた男はふらふらと反対側に腰かけて、チェス盤を覗き込む。

 この男は最初に収容された際に同じ独房に居た囚人で、何でもユーロピア辺りで旅芸人の集団と行動を共にしていたのだが、今回はこちらに出て来たところで彼だけ迷子になり、身分証明する者が無かった彼は警官に不法入国者と言う事で連行されたとか。

 本来なら私だけこの部屋に移される筈だったのだが、気弱そうな彼は他の囚人から苛めを受けていたらしかったので、話し相手に連れて行っても良いかと許可を問うと素直に情報(強さに関する)を話すのならとあっさり受諾された。

 苛めに合っていただけなら注意を促すだけで済んでいた。

 けど私は彼を知っている気がするんだ。

 短く切り揃えられた髪に伸ばした顎髭。細長い身体に頼りない表情…。

 何処で会ったのだろうかと記憶を頼りながら暇潰しに駒を動かすのであった。


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