コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第131話 「オデュ、式を挙げる」

 オデュッセウスは微笑の仮面の下でどっと溢れそうな疲れと緊張を押し込めていた。

 結婚式というものには招待されたことあれど、裏側を今まで見る事も知る事も無く、今日に主役として招くことになった事を思い悩む。

 式を挙げる事に後悔がある訳ではない。

 何かしら不満を抱いている訳でもない。

 寧ろ式を挙げれた事は幸せすら抱いている。

 なら何を思い悩んでいるのかと言うと、自分の準備の不備と知識の無さに嘆き、慌てふためくような日々とこのめでたい晴れ舞台にて緊張で胃が痛いのだ。

 皇子時代も皇帝時代も大勢に対して何かしら発言したり、多くの目に晒されることはあった。

 戦場に跳び出して緊張するどころか命を危険にさらしたことだってある。

 けれどこれは違う。

 一切慣れの無い事柄が雪崩のように押し寄せてきた。

 

 最初は招待客の選定だけども私もニーナも身近な人だけ呼べばいいかななんて思っていた。

 なにせ皇帝の座をさっさと妹に明け渡して一般人に降りた身だ。

 別段そう気を使ったり、情勢を鑑みる必要はない筈だと…。

 

 ―――結果、ギネヴィアに怒られました…。

  

 元とは言え皇帝を務めた人物が身内だけで済ませれるわけがないでしょう―――と。

 弟妹とニーナの両親、神楽耶など親しい人だけに用意していた招待状を一気に増産。

 大貴族に他国の国家元首、各方面で功績を挙げた人物など。

 客の半分以上が何かしらの情報媒体で見たことあるかな程度の人で埋まったのには、ニーナと一緒に眉にしわを寄せてしまったよ。

 ギネヴィア監修の招待状送りが完結すると、次は料理やお酒などのメニュー決め。

 それって料理人任せでは駄目なのかい?と問えば、任せるにしても方向性や希望を伝えないと駄目でしょうとシュナイゼルに諭されるように言われてしまった…。

 アレが良い、これが良いと二人して口にすればバランスが崩れ、彩も似通ったコースが出来上がり、まるで食べ放題の店にでも来たのかというものが出来上がる始末。

 簡単な方向性を伝えて後はシュナイゼルとカノンがコース内容を数種類パターンを組んで提案してくれて、その中からどれが良いかと見比べて決定した。

 

 式場の飾りつけまで決めないといけないと知ったのは、疑いの眼差しを向けていたクロヴィスによって発覚。

 やっぱり考えてなかったんですねとため息交じりに言われ、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったよ。

 ついでに式での服装を教えて欲しいと頼まれて見本より見せると、先帝陛下として地味過ぎると駄目だしされてクロヴィスが式でのスーツを選び、式場の飾りつけはクロヴィス監修が決定した。

 

 ここまで人に頼りっきりで二人して申し訳ないと縮こまった…。

 

 本格的に準備が進み、式の進行の説明や予行が繰り返されて先帝陛下とその妻として恥ずかしくないように大きな動きから小さな動作まで叩き込まれた。

 始動するときのコーネリアは映画やアニメで見たような鬼教官だったな。

 

 そうしてようやく訪れた本番。

 集まった大人数に祝福され、その視線を集めた中での誓いのキスは緊張で何が何やら頭がパンクしそうになり、二人して茹でたこのように真っ赤に染まり、指輪をはめる際にはMVSのように振動していた。

 醜態を晒せば弟妹達が苦笑いし、客の中には笑い声が聞こえる。

 …玉城君は笑い過ぎではないだろうか?

 中央より後ろに位置していたのに私達にまで聞こえるってどれだけ大声で笑っていたんだか。

 それから披露宴会場に移り、入場やら私達の紹介、挨拶、乾杯、ウエディングケーキ入刀などなど進み、今はゲストによる余興になるのだろうか。

 各国のお偉いさんも居る事だし、変なのはないだろうと思い込んでいたのだが、まさか裸踊りぶっこんで来る阿呆(べろんべろんに酔っている玉城)が居るとは…。

 勿論の事だがそんなものを見せる様な場でないのは黒の騎士団関係者の誰もが理解しており、脱ごうとした瞬間に藤堂やカレンを始めとした黒の騎士団関係者に取り押さえられた。

 未成年も年頃の女性もいるのだからもう少し考えて欲しかったな。

 というか彼には今後誰かの式に参加する際に監視が必要では?

 後で天子様の隣で側仕えとして座らされているショタ星刻に相談しておこう。

 

 さて、余興も次々に披露され、会場は結構な盛り上がりを見せていた。

 各国のお偉方も歓声を挙げるほど熱狂し、楽しんでいるのは何よりだ。

 だけどこれを“余興”で済ませてよいものかどうか…。

 

 オデュッセウスの視線にはどの方向からでも見えるように複数用意されたモニターがあり、コース内を駆け巡りながらぶつかり合うナイトメアが映し出されていた。

 

 マリーベルが初めに顔出してから姿を見ないなと思ったら、余興として近場のスタジアムより競技ナイトメアリーグ【ジョスト&フォーメーション】を行って中継していたのだ。

 中継直前に司会より資金面はカリーヌが用意し、試合の調整などはマリーベルがしたと説明があったけどここまでやってくれるのか…。

 方やマリーベルのチーム“グリンダ・ナイツ”で、もう片方はリーグ屈指の強豪である“ファイヤーボールズ”。

 この組み合わせは非常に人気があるもので、スタジアムでやるなら通常席でも数千の倍率になるのは間違いなし。

 各国首脳陣も魅入る筈だ。

 眺めながらチームの連携を評価する。

 元々マリーの騎士団所属で私も参加した訓練を受けたオルドリンとソキアの連携はかなり良いが、トトは中々に仕上がっているけどもダモクレスでの戦闘後に入団したマリルローザはまだまだ荒く、未熟なところが目立つので強豪チームに対してどれだけ喰らい付けるか。または周りがカバー出来るかに掛かっているだろう。

 チームは五人で残る一人は喰らい付いているが大きな問題がある。

 

 その一人と言うのはカレンに紹介して貰った赤城 ベニオという子なんだけど…今“チャンピオン”と“ブレードギャング”の二つ名を持っているアレッサンドラ・ドロスに真正面から突っ込んでぶっ潰された。

 

 いや、彼女の持ち味は相手がどれだけ強者であろうが、自分が不利な状況でも決して諦めず、気合と根性でみっとも無かろうとも足掻きに足掻いて喰らい付く―――っと、カレンから聞きはしたけど、挑む姿勢は良いけど怪我はしないようにして欲しいな。

 “クラッシャー”の異名を持つソキアは流れを読み、客に見せる演出も込みで自機をクラッシュさせる。が、彼女の場合は全力全開で相手に挑んだ結果にどちらかがクラッシュしてしまう。

 …あの完全大破した機体の修理費は何処が出すのかなとぼんやり考えると、出資している私だよねと当然の答えに苦笑いを浮かべてしまう。

 企画した妹達に協力してくれた皆に感謝の念を抱きながら、眺めているとスタッフの一人が近づいてきた。

 

 「ワインのおかわりは如何でしょうか?」

 「あ、あぁ、頂こうかぁ!?」

 「どうし……え!?」

 

 色々あり過ぎて喉が渇き、いつの間にか飲み干していたワインに気付いた給仕の者がおかわりを持って来てくれたのだと振り向き、変な声を挙げて固まってしまった。

 隣で小さいながらも奇声を挙げたら嫌でも気づく。

 ニーナは何事ですかと振り向けば同様に固まる。

 それもそうだろう…。

 伊達眼鏡を掛け、髪型を変えたマリアンヌ様がスタッフの衣装を着てそこに居るのだから。

 何してんの貴方!?

 空になっていたワイングラスにワインを注ぎ入れると軽くお辞儀し、顔を上げるとペロッと舌を出してニヤッと笑っていた。

 寿命が数十年は削られたような感覚のオデュッセウスとニーナに、マリアンヌは悪戯成功と満足げに帰っていく。 

 確かに十年近く前に亡くなった皇妃…しかも庶民出と言う事で騎士時代に比べてメディア出て居らず、認知度は低くく変装をしているとしても解かる人には解かるというのに。

 ほら、遠くでジェレミア卿が目を見開いてこっち見てるよ。

 ルルーシュも気付いて膠着してるし、シュナイゼルなんて困惑の表情を浮かべて――――あ、これは珍しい表情が見れた。写真撮っておこう。

 幸いコーネリアやラウンズメンバーは気付いていないようで助かったけど、悪戯に命張り過ぎですよ。

 

 「今のって…」

 「考えないようにしましょう」

 「いえ、だって…」

 「他人の空似です」

 

 ニーナに言い聞かすというよりは自身に言い聞かせて落ち着かせようと感情も無く本人であったことを否定する。

 意図をだいたいであるが察したニーナは黙ったが、不安と焦りから嫌な想像が過って口を開いた。

 

 「そっくりさんと言う事で来たりしないですよね…シャr」

 「言わないで…現実になりそうなので」

 「は、はい…」

 

 本当に来られたらもう収集が付かないような気がする。

 そっくりさんで通るなら私もってマリアンヌ様があちこち駆けまわるのが容易に想像できるのですが…。

 考えると頭が痛くなり、今が式の最中でなければ寝込んでいたところだ。

 

 「なんだか凄い式になっちゃいましたね」

 

 話題を逸らす為か困り顔で言われた一言にオデュッセウスは申し訳なく感じてしまう。

 自分もそうだったが楽しみだったろう。

 それがこうも

 

 「すまないね。なんだか落ち着きのない式になってしまった」

 

 謝罪の言葉に一瞬キョトンと驚かれ、少し声を漏らして笑われた。

 どうしたのだろうと首を傾げているとニーナが微笑みかける。

 

 「謝られる事ではないですよ。寧ろ…その…“らしく”て良いではないですか」

 

 ―――らしい…か。

 そう言われると納得するしかなくなってしまう。

 なにせ今までが今までだっただけに否定する材料がないのだ。

 いやはやまったくもって言い当てられて笑みが込み上げてくるよ。

 

 「そうだね。騒がしく慌ただしい。全くもって“らしい”」

 「えぇ、もの凄く“らしく”て私は好きですよ」

 

 二人して微笑み合い、これからも“らしい”未来になるんだろうなと楽し気に想いを馳せるのだった。


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