コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
今日より二週間に一回の投稿に戻そうと思います。
ハワイを訪れて二日目。
初日は挨拶や食事で一日が過ぎ、二日目はマリアンヌの提案で海に行くことに。
しかしながらオデュッセウスもニーナも水着を持参しておらず、まずは買い物へと言う事で朝食を済ませてすぐに出かける事になったのだ。
ちなみにシャルルとビスマルクはオデュッセウスと並ぶと余計に目立つという事で留守番である。
何店かショップを巡って買い物を終えた一同は、出店で買ったポケ丼という醤油やスパイシーなものなど様々な味付けをした海産物をご飯の上に乗せた弁当を手にしてベンチに腰かけて食べていた。
一口二口と食べながらニーナ・アインシュタインはため息を漏らす。
食べながら漏らしたが決して原因がこのポケ丼にある訳ではない。
先ほど終えた買い物にある。
より詳しく言えばオデュッセウスさんを挟んで座っているマリアンヌ様にあるのだ。
視線に気付き、ため息の訳に感づきニヤリと微笑まれる。
優し気なオデュッセウスさんの微笑とは違った意地悪い――子供が悪戯を思いついたような笑みに嫌な予感しかしない。
「さっきの事を根に持っているのかしら?」
「そんな事…ないです…」
「可愛かったわよね。恥じらいながらオデュッセウスに見せる姿なんて愛らしくて。ねぇ?」
「えぇ、本当に。綺麗だったよニーナ」
「―――ッ!?も、もう!止めて下さいよぅ…」
「あらあら、また真っ赤になった」
真顔で褒められたのと思い出してしまった恥ずかしさで真っ赤に染まる。
マリアンヌ様がわざわざ選んでくれると仰った時は、親切な方なんだなどと勝手な思い違いをしてしまったのを今更ながら後悔する。
出会って一日という短い時間でも彼女が悪戯好きという事は解かれたというのに…。
オデュッセウスさんは白い生地にいろんな柄が描かれたメンズ用の水着を早々に購入していたので待たせる訳にはいかないと早く買おうとしていると「丁度良いからオデュッセウスにも見て貰いましょう」と言って、何故か水着ショーみたいなことをさせられることに。
最初は自身で選んだフリルや布地の多い水着だったのだが、途中からマリアンヌ様が選んだ水着となり、三角ビキニやトップスは背中が、ボトムスは横部分が布地ではなく紐という水着などなど露出の高い物へと変わり、有無を言わさない勢いで全部着替えさせられた…。
試着室で着ては見せて、着ては見せてを繰り返した。
本当に恥ずかしかったです。
しかも私の水着姿を見て頬を赤らめながら褒めて来るから余計に意識してこっちも赤くなるし…。
何より恥ずかしかったのが一回試着した水着を戻すのが恥ずかしくって、それを察したオデュッセウスさんが試着した水着全部の代金を払ってくれた事だ。
ゆえに私の隣には試着させられた大量の水着が収まった袋がずしりと腰かけている。
「お互いに恥じらっている辺り初々しいわ。歳を重ねて行くとそう言う感情も薄れて当たり前になって来るから大事にしなさいね」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなのよ」
何処か懐かしむように呟かれた一言が妙な感覚を与えて来る。
まるで無邪気な子供のように笑い、悪戯を実行する面が強まっていた為か、凄く大人びた横顔に同性ながらも魅入ってしまった。
我に返った私は一口含みながら山の様な水着が入った袋を眺めつつ、現実的にこれらをどうしようかと悩む。
食べながらどうにか出来ないかと考えても案は浮かばず、結局どうしようかと相談しようと決めた。
「水着どうしましょう」
「帰ったらどこかプールとか行こうか」
「別に海やプールに行く時だけってことないでしょ水着って。
「…ん?――――ッ!!」
「――ブッ!?」
呆気からんと放たれた言葉の意味を時間差で理解したニーナは顔を赤く染め、オデュッセウスは盛大に咽た。
そんな反応を見てニヤニヤと嗤っている様子に揶揄われた事に気付いたのであった。
熱い日差しが降り注ぎ、温まった砂浜が素足に暑さを押し付けてくる。
座っても焼けないようにビニールシートを敷き、熱い日差しを防ぐビーチパラソルを刺し、水分補給のためにスポーツドリンクやジュースのペットボトルを収めたクーラーボックスを置いていた。
周囲には楽し気に泳ぐ者。
少し離れたところでサーフィンをする者。
砂浜で遊ぶ者。
皆が皆、好き好きに時間を過ごしている。
買い物を終えてシャルルとビスマルクと合流したオデュッセウス達もその中に居た。
「皆元気だねぇ」
「ですねぇ」
アロハシャツに短パン姿のオデュッセウスと白のビキニにパレオを巻いたニーナはパラソルの日陰で座り込み、のんびりとした様子で辺りをボーと見渡していた。
こうしてビーチに出た訳なのだが二人共海による気配が微塵もない。
クーラーボックスより取り出したジュースのペットボトルのキャップを外して口をつける。
日差しを避けて座っているだけと言っても周りの暑さから汗を掻き、身体の方は水分を欲していたので冷たい飲み物に身体が喜んでいる。
ゴクリと飲み込むとただただ周りを眺めていた視線をサーファインを楽しんでいるシャルルに向ける。
波に乗ったボードの上で不動のように体勢を少しも崩さずに、鋭い眼光で正面を睨みながら楽しんでいるのだろう。
「本当に元気ですね。確か六十は超えていらっしゃいましたよね?」
「うん、そうだよ。職務から解放されて活き活きとまぁ…計画に向けていた熱意が趣味に行ったんだな」
「貴方に潰されたのだけどね」
ふらりと背後より寄って来たマリアンヌを見上げる。
日差しの生か顔の半分ほどが影で隠れ、普通に笑っているだけだと思うのだが、怒気を含んだ笑みに見えて仕方が――――いや、違う!日陰のせいだけではない。
先の言葉を思い出せ。
平然を装って放った一言のようで、思い返せば怒りが含まれていたように感じる。
今までと違って冷や汗をたらたらと垂らしながら愛想笑いを浮かべる。
「えーと、怒ってます?」
「怒ってないわよ」
「根に持ってます?」
「持ってませんよ」
「い、苛ついてません?」
「可笑しな子ね。私は怒ってないし、根に持っないし、苛ついてもいないわよ―――ただ少し戯れましょうか」
「え?ちょ、待っ…」
にっこりと笑いながら腕を掴まれ引き起こされる。
勿論マリアンヌも水着。
それもマイクロまでもいかないとしても、ニーナのビキニより露出の少ない水着だ。
露出している柔らかな双丘が直に押し当てられる。
鼻の下は伸ばさないように気を張りながら、変な反応を示さないように思考を回転させる。
熱いはずなのにゾクリと寒気が走る。
原因がニーナかと思って視線を向けるが、ニーナは何処とは言わないが見比べて落ち込んでいるようだ。
ニーナでは無いとすると…。
―――貴様、マリアンヌと何をしておるのだぁ!!
そう言いたげな鋭い視線が海上より向けられる。
ボードの上で仁王立ちした父上様からのプレッシャー。
「後が怖いわね」
「他人事みたいに…」
「でもまぁ、先のことなんだから良いじゃない」
「へ?どういう…ファ!?」
マリアンヌが居る反対側にビスマルクが現れ、二名によって持ち上げられ海へと引き摺られて行く。
困惑の色を徐々に強くするオデュッセウスは足が水に浸かる前に持ち上げられ放り込まれた。
人口の皮膚で覆われているが身体の半分以上は機械仕掛けのマリアンヌに、鍛えに鍛え上げられたビスマルクの二人が力を合わせたら成人男性一人投げるのに何の苦労もなかった。
宙を舞うオデュッセウスは頭から海に跳び込まされたのだ。
眼前に広がる海を掻き分けて海面へと浮上する。
「ゲホッゴホッ…なにするんですか!!」
入った海水を吐き出しながら慌てて空気を吸い、叫ぶが届いていないのかゲラゲラと笑っている様子しか見えない。
心配しているのはニーナ君だけ…。
そこで可笑しなことに気付いた。
確かに心配してくれているっぽいのだが、投げられた事を心配しているよりも別の何かを―――…。
「先ほどマリアンヌとなぁにをしておった」
「ぎゃああ!?」
海中より現れた海坊主―――じゃなかった水で長髪をだらんと垂らしたシャルルに驚き悲鳴を挙げる。
冗談でなくマリアンヌに悪戯されていたオデュッセウスに嫉妬心を露わにして、怒気を纏ったシャルルが大きく水を掻き分けながら突き進んでくる。
傍から見れば面白であるが、真正面から迫って来るのを見たオデュッセウスにとって心霊体験に匹敵するほどの恐怖体験である。
「おおお、落ち着きましょう!話をすればすぐに誤解だと…」
「なら何故逃げる!」
必死に逃げ惑うオデュッセウスはすぐに体力切れになり、砂浜に戻って来たがぐったりと疲れ切って動く様子が無かった。
そんな様子に腕を組んで見下ろすシャルルはフンと鼻を鳴らす。
「軟弱な。この程度でダウンするとは何たることか」
「逆になんでそんなにお元気なんですか?」
「……あれから遊び回っているから自然と体力面が鍛えられたのでしょう」
微笑ながらどこか遠い目をするビスマルク。
察するに相当遊びまくっていたのだろうな。身体を動かす分健康的で良いのだけれども身バレを恐れたビスマルクの心労は多大なものだったに違いない。
「飲み物どうぞ」
「ありがとう」
さっとニーナが差し出してくれたジュースに口を付けると、身体中に染み渡る感覚にかなり水分を失っていたんだなと自覚する。そのままごくごくと一本飲み干して一息つく。
飲み切ったのを確認したマリアンヌは遊び足りないと皆で何か遊びましょうと誘う。
「日本では海に行くと必ず西瓜割りっていうものをするのでしょう?」
「必ずではないですけどそういうのありますね」
「西瓜ってあるのでしょうか?」
「なければココナッツにでもしましょう」
「確実に棒の方が砕けそうですが…」
「なら鉄棒にすればいいじゃない」
そんな話をしながらもオデュッセウスとニーナは遊びに付き合わされる。
泳ぎは勿論、ビスマルク&マリアンヌ組とのビーチバレーやビーチフラッグなど遊びに遊びまくった。
疲れたが楽しい一時であった。
ただ西瓜の代用で行ったココナッツ割りは、マリアンヌが叩き割ったココナッツの殻がクレイモアのように周囲に飛び散ったので、もう二度としないとその場の全員が固く誓ったのであった。
ビーチから戻ってシャワーを浴び、軽めの夕食を取ったオデュッセウスは溜め息を漏らした。
遊び疲れて今すぐベットで眠りたい気持ちに鞭打って思考を働かす。
帰って早々緊急連絡用の携帯に暗号化された文章が届いており、どうやらオルフェウス君がブラッドリー卿を発見して交戦したが取り逃がしてしまったらしい。詳しい詳細は戻ってから受け取るとしても最悪の事態である。
ただの戦闘狂ならまだよかったのに、彼は名の知れた戦闘狂。
それも旧ブリタニア支持者は現政権を疎んでいるからそれらの支援を受けやすい。
表立って暴れたいのなら釣る事も出来るだろうが、どうもニュースにもなってない事から裏で動いているので対処も後手に回る。それに恨まれている自覚があるのでその対処も必要だ。
自宅の警備の強化に無人ナイトメアでも配置した方が良いのか?
強固なシェルターを用意しておこうか?
うんうん唸っているとビスマルクが通りがかって足を止めた。
「如何なされました殿下」
「いや、別に…」
何でもないと言おうとしたところで待ったをかけた。
ブラッドリー卿が旧ブリタニア勢力と関わっているならシャルルの存在を知ったら確実に動くだろう。
マリアンヌ様とビスマルクの二人は白兵戦において負ける可能性は少ないだろうが、対ナイトメア戦となると問題である。さすがに生身でナイトメアを相手にするというのは分が悪すぎる。
この周辺で父上は有名な“そっくりさん”で通っているけども、それが通っているのは本人に会ったものがいないから本物と気付かないだけで、謁見した事のあるブラッドリー卿が顔を合わせて少し会話すれば本物だと気付かれるだろう。
そうなれば絶対兵を向けて来るだろう。
迎えなのか拉致目的なのか解らんが。
「…ブラッドリー卿が旧ブリタニア勢力と動いているって報告があった」
「未だに戦場を渡り歩いておりましたか。らしいと言えばらしいですな」
「無いとは言い切れないから警戒しておいてね」
「畏まりました。この事は陛下とマリアンヌ様には?」
「父上には伝えて欲しい。けどマリアンヌ様はNGで。絶対何か余計なことをするだろうから」
最後の一言にビスマルクは大きく同意する。
下手したら「なら私が狩ってくるわ」なんて言って世界を飛び回りそうで…。
「もし攻めて来るようでしたら避難場所が必要です」
「帰り次第用意しよう。飛行機も置いて置いた方が良いかな…マリアンヌ様とは別にビスマルク用にナイトメアも持ち込んだ方が…そうなると資金をどっかから持ってこないと」
頭が痛くなる思いで脳内で計算を始める。
こちらで資金を用意しなければならないのもあるが、オルフェウス君達にも戦力強化のために資金や武装面での支援を行わなければ。
確実に一人では解決するべきではないし、弟妹達へと黒の騎士団に注意喚起すべき事案だな。
「兎も角父上とマリアンヌ様の事を頼んだよ」
「身命を賭しても」
頼もしくもあり、不安も残る言葉に想うところはあるものの任せるしかなくオデュッセウスは話を切り上げて部屋に戻る事にする。
それにしてもどうして厄介事が舞い込むのだろうか。
原作の出来事も終了したのだからゆっくりさせて貰っても罰は当たらないだろう。
…そう言えば
今度中華連邦に出向いた時にでも対処しとかないとあの子を泣かしちゃうしな…。
やる事いっぱいだなとため息漏らしつつ、割り触れられた部屋に戻ってベットに腰かけると、先に戻って疲れて眠っていたニーナの寝顔を眺めて、可愛いなぁと思いながら頬を撫でる。
死なない程度に頑張らないとなとやる気を露わにしつつ、ベットに腰かけた事でどっと忘れかけていた疲れが押し寄せてきた。瞼が重くなってそのまま横になり、眠気に誘われるまま夢の中へと堕ちて行った。
「あやつらは寝たか」
ソファに腰かけたシャルルはワイングラスを傾けながら問う。
背もたれに凭れながらシャルルが手にしたワインを取って、口にしたマリアンヌは微笑みを浮かべながら頷いた。
「幼子のようにぐっすりよ」
今の生活は楽しい。
地位や立場が無くなった事で自由の幅が広がり、好きなことをして過ごしていける。
皇族であれば味わえなかった生活だ。
それに意識でしかなかったマリアンヌを一個の個体として甦らせ、こうやって触れ合えるのだから。
「何時まで経っても子供なんだから」
「……儂は突っ込んだ方が良いのか?」
「お好きに」
どちらとも取れる笑みに肩をすくめながらシャルルはグラスを受け取り、残っていたワインを飲み干す。
空にしたワイングラスとまだ使ってなかったグラスを並べて、ボトルよりワインを注いで片方をマリアンヌに手渡した。
つまみに用意させたチーズを摘まみながらシャルルもワインを口にする。
二人揃って沈黙しながら酒を飲む。
そこに気まずさはなく、逆にお互いを認識できる心地よさが広がる。
静けさの中でワイングラスを傾け、多少酔いもあってかシャルルは前々より抱いていた問いを口にした。
「どうとも思っていないのか?」
「何のことかしら……なんて解らない振りをすることもないわね。計画のことでしょ」
言葉足らずな問いであったがマリアンヌはすぐに理解し、少し悩む様な仕草を取るがそれが演技であることは見るまでもなく理解出来た。
本人もそれを解っていて、そう振舞う事を楽しんでいる。
「そうねぇ、今でも思うわ。あの計画が実行されていればってね」
それはシャルルも思う。
嘘のない世界をオデュッセウスに否定され、納得はしたものの“もしも”という考えが過る。
通り過ぎた夢と笑い捨てたと思ったがどうも未練がましく考えてしまう。
自分がそうならと思っていたがやはりマリアンヌもそうだったらしい。
「けど今更何もすることもないし、私は今の生活を結構気に入っているのよ」
演技ではない純粋な笑みに見惚れ、発せられた優し気な雰囲気に呑まれる。
「前は立場があってこうやって触れ合う事も出来ず、計画に全てを注いで趣味に費やす時間なんてあまりなかったでしょ」
確かにこうやって二人でただ時間を潰すような時間はほとんどなかった。
思い返せば皇族であった頃には子を成した以外は夫婦らしいことをした記憶がない。
全てを計画に傾けて、時間を消費していた分余計にだ。
「貴方はどうなの?不満があるのかしら」
「言うまでもない」
「解っているわよ。けど言葉で聞きたいの」
意地悪そうに微笑まれるが、そんな彼女を眺めると
ポツリと本音を漏らす。
「―――心地よいな」
「なら良いじゃない」
「そうか」
「そうよ」
二人は微笑み合いながら穏やかな時間を楽しみ、深夜に渡るまでワインを傾けた。
これからの投稿についてですが一月末までは二週に一回の投稿ペースを続け、二月よりもしかしたら週一投稿に戻すかも知れません。
復活のルルーシュの発売日も決まりましたし、二月よりそのあたりの話を書いていこうかと思っております。