コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第120話 「流れる資金」

 久しぶりにナウシカファクトリーを訪れたオデュッセウスはゆるやかにカフェエリアでお茶を楽しむ間も与えられずに連行されてしまった。

 ここは世界屈指の技術研究所。

 最先端の技術と秘宝と呼ぶべき頭脳が集結する地。

 彼ら・彼女らは自らの欲と趣味からアイデアを吐き出しては形作り、満足げに眺めては斬り捨てて次のアイデアへと思考を切り替える。

 しかしながらその工程を繰り返すには頭脳だけではどうにもならないものがある。

 それは資金。

 潤沢な資金がなければ形作る事は出来ないし、思索に没頭する間の生活費も必要となる。

 

 つまりオデュッセウスを有無を言わさずに連れ去った理由は、ナウシカファクトリーの全権を握っているオデュッセウス=研究費を出してくれる財布という概念が研究者にあるからに他ならない

 

 「連れて来ましたよ」

 「あ~、ご苦労様」

 

 褐色の美女に引っ張られるがまま連れてこられたオデュッセウスを待っていたのもやはり褐色の美女であった。

 ロイドが元紛争地域の調査に勝手に出向いている現状下のナウシカファクトリーで、最もナイトメア技術力を持ち、豊富な資金を使う一団…。

 黒の騎士団にて技術開発担当であり、超合集国科学長官の座についているラクシャータ・チャウラーが率いるナイトメアフレーム開発チーム“パール・パーティー”。

 正直に彼女らに声をかけられて碌な目に合ったことがない。

 アレは誰だったか…何処か冷めたような印象を受ける少女が、私がナイトメアが好きだという話を聞きつけてやって来たのだ。

 最初はナイトメアの話をしていたのだけれども、途中からロボットの話となって、前世の記憶で覚えているアニメなどのロボットを語ってしまったのだ。

 小さな女の子には退屈な話かなと思いきや、意外にも目を輝かせて喰らい付いてきたのだ。

 喰いつきが良くて、気分が良くなった私は饒舌に話し過ぎてしまったよ。

 

 …うん、たぶん私が悪かったんだよね。

 まさか次に会った時にネオ・ジオ●グみたいな設計図を持ってこられるとは思わなかったなぁ…。

 しかも「資金出してくれるよね?」と小さな女の子が小首を傾げて聞いて来るんだよ!?断ったら泣き出しそうだし、そもそも私が話した結果でこうなったと思えばなんか罪悪感が…。

 あの子にかなりの予算を食われたんだよね。

 まぁ、彼女達の研究の大半を合集国が買うから“パール・パーティ”で考えれば元が取れているだけ文句はないけどさ。

 

 ついでに説明しておくと超合集国ではナイトメアの研究を行っていない。

 研究には大きな予算が必要になり、その予算に加えて黒の騎士団に配備させる事も考えればまさに国が買える予算が必要となる。科学長官がストッパーになれば良いのだが、ラクシャータである以上は間違いなく研究費で予算を食い尽くす。

 そこで超合集国は研究を民間に任せて、そこから良い物を買おうと考えたのだ。

 ただし誰でも良いという訳ではない。

 情報漏洩を考えると下手な所には頼めない。

 諸々の条件を兼ね揃えていたのがオデュッセウスのナウシカファクトリーであり、超合集国はナウシカファクトリーより良い研究成果を買い、黒の騎士団などが運用しているのだ。

 

 稼ぎ頭&出費頭のラクシャータに諦めを混ぜたため息を漏らす。

 

 「今度は何だい?」

 「聞く気はあるのね」

 「…予算の話は頭がいたい。けれど興味はあるからね」

 

 ロボットは好きだ。

 好きというより大好きだ。

 でなければナイトメアの博物館を作ったりはしない。

 

 ニンマリと嗤ったラクシャータはキセルを吹かして煙を周囲に広げる。

 私を引っ張ってきたラクシャータの弟子であるネーハ・シャンカールか、ラクシャータ本人が説明をしてくれるのかと思いきや奥より黒の騎士団技術部に所属している加苅サヴィトリが資料を手にしてやってきた。

 

 「これは紅蓮タイプ?」

 「はい。ランスロットの再設計計画同様紅蓮を再設計する計画書です」

 

 ぺらりとページを捲っては内容を理解して行く。

 現在は世界が平和だからと言って備えをしない訳にはいかない。

 水面下ではシャルル派残党が動いているという情報をギネヴィアから聞いているし、最高戦力であるカレンの機体の強化必須だろう。

 ……ただ想うところがあるとすればシャルル派残党の連中だ。

 ユフィの現政権に不満を持つ事は腹正しいが、それ以上に哀れでならない。

 彼らは父上が皇帝だった頃こそ真なるブリタニアであると謳っているが、その旗印だった本人は別段気にせずにハワイでサーフィンしてるよ。

 この前マリアンヌ様からメールが来たら、肌をこんがり焼いてアロハシャツの父上が高波に乗っている姿が添付されていた。身バレを恐れてか巻いていた髪がロングヘアになり、サングラスで目元を隠していたが何をしているんですかね本当に。

 

 「詳しい詳細をお聞きになりますか?」

 「いや、聞く必要なないね。予算は用意しよう。ロイドと同じ具合で良いかい?」

 「えぇ、話が早くて助かるわぁ」

 「代わりに白炎の件は頼んだからね」 

 「任せておいて。約束は守るわよ」 

 

 思ったよりも出費が少なくなりそうで良かったと安堵する。

 現在ナウシカファクトリーでは複数の計画を進めており、ただでさえ出費が激しい時期なのだ。

 先に出たようにスザク君のランスロットを最初から見直して強化するロイド博士の“ランスロット再設計計画”。

 ミルビル博士とパール・パーティ共同のランスロット・リベレーションの改修

 アレクサンダの指揮官機とドローン数十機の新規作成。

 黒の騎士団向けの機体の開発などなど。

 

 この計画の中で経営者として一番注視しているのは黒の騎士団向けの機体開発である。

 なにせ他の計画は一機のみの受注生産であって利益は然程でもない。が、黒の騎士団向けの機体が良ければ多くの部隊に配備されることになり、多くの利益を生み出すことが出来る。

 黒の騎士団向けと言っても正確には黒の騎士団に所属しているブリタニア兵向けの機体になる。

 というのも通常の兵士では扱えないランスロットを元に操縦性を向上させたヴィンセントでも使い辛いという意見があり、もう少し操縦性を安定させる必要が出て来たのだ。

 そこでヴィンセントを改修するよりより多く配備されているグロースターの改修キットの制作を検討し、すでに試作品を作って主にコーネリアの部隊がデータ収集に励んでいる。

 ちなみにだが私の趣味であるが、ヴィンセントも良い機体なので逆にピーキーな機体への改修も行っている。

 

 多岐に渡るナイトメア計画にオルフェウス君に極秘で送るナイトメア強化…。

 やる事が多すぎて資金が幾らあっても足りないよ。

  

 「はぁ、お金というのは羽でも生えているかのように飛んでいくのだね」

 「新技術となると今も昔も変わりなくそうでしょうね」

 「しみじみと実感したよ―――っと、私はそろそろ行くよ」

 

 愚痴を一つ漏らしたところで気分を切り替えたオデュッセウスは晴れやかな笑みを見せる。

 

 「もしかして予定があった?」

 「久しぶりにマリーと会うんでね」

 

 

 

 

 

 

 元対テロリスト遊撃機甲部隊“グリンダ騎士団”を率いていたマリーベル・メル・ブリタニアは新たに創設した競技ナイトメアフレームリーグ(KMFリーグ)のチーム“グリンダ・ナイツ”の面々と共にナウシカファクトリーに訪れた。

 メンバーは元グリンダ騎士団より構成されていて、オルドリン・ジヴォンにトト・トンプソン、ソキア・シェルパなどの騎士達が今回のお供として居り、さらにはもう一人追加で同伴している。

 計四名を連れたマリーベルはカフェエリアにて目的の人物を待っているのだが、中々姿を現さない。

 いつもなら待ち合わせの時間よりも先に到着しているのにと不安を感じながら、二杯目の紅茶が空になりかけた頃合いになってその人物は現れた。

 

 「お兄様」

 「あぁ、久しぶりだねマリー」

 

 皇帝の座から退いてからは会う機会が減ってしまったオデュッセウスに会えて、マリーベルは心の底から嬉しそうに笑みを零した。

 今までの習慣から不動の姿勢でオズ達が敬意を表するが、お兄様は席に座るように勧めながら向かいの席に腰かける。

 戸惑う一同だが触れ合って性格を知っているオズとトトが先陣を切るように座った事で、他二人も腰を下ろした。

 席に付いた事を確認したお兄様は心配そうに口を開いた。

 

 「元気でやっているかい?」

 「えぇ、今のところは(・・・・・・)順調ですよ」

 「今のところは(・・・・・・)…か」

 

 一言で察したのか困った表情を浮かべられた事に理解力の高さを感心すると同時に、困らせた事に対して僅かながらの罪悪感を感じる。

 グリンダ・ナイツはリーグ参加チーム内では新顔でありながらも最新の整備施設を保有している。

 施設というよりグリンダ騎士団が使用していたカールレオン級のグランベリーを着陸させて、そのまま使っているだけに過ぎないが。

 おかげで新たに施設や機器を準備する手間はなくなった。

 しかしながら最新の整備施設に高い居住性を備えたグランベリーでも足りないものはある。

 それは整備や人件費にも掛かる莫大な資産だ。

 今日はその問題を解決するべく、お兄様にスポンサーになってもらおうと思い訪れたのだが、こうも簡単に言い当てられては妙な対抗心が擽られてしまう。

 

 「私を訪ねたのは支援を求めてかな?」

 「あら?お兄様に会いに来たとは考えられないのですね」

 「それだけならここにではなく我が家に来るだろう」

 「まさかそれだけでその考えに至ったのでしたら少し早計では?」

 

 少しばかり意地悪な言い方をしたのだが、気にするどころか逆に受け入れて嬉しそうな笑みが返ってくる。

 

 「はははは、それこそまさかだよ。私が大事な弟妹達の状況を知らないとでも思っているのかい」

 「軍からも手は引かれたとお聞きしましたがさすがですねお兄様。お兄様のお察しの通りでお兄様にスポンサー契約を結んでいただきたく参りました」

 「やっぱりかい。まぁ、とりあえず彼女の紹介をしてくれるかな?」

 

 当然と言わんばかりの解答に頬を緩ませつつ、初対面の彼女を説明を行う。

 

 「彼女は以前“マドリードの星”に所属していたマリルローザです」

 「マ、マリルローザ・ノリエガです。先帝陛下にお会いできてきょ、恐悦至極に存じます!」

 「固くならないで大丈夫だから。それにしてもそうか…マドリードの星からか」

 

 グリンダ騎士団によって潰されたスペインのレジスタンス組織“マドリードの星”。

 潰されたというより降伏させて解散させたというのが正しいか。

 その後にお兄様の策によってブリタニア側に付かせ、友好的な関係を築いたテストケース。

 結果は想像していた以上に上手く行き、彼女に至ってはその中でも特例的な関係性を築けたレアな人材である。

 マドリードの星のリーダー“フェルナンド・ノリエガ”の妹で、スペイン(エリア24)の管理をしていた私達との連絡役として接する機会が多く、その中でオルドリンと仲良くなったようだ。

 私としては私のオズがテロリストと仲良くなるなど面白くない光景ではあったものの、お兄様の策通りに最高の結果を出せたと思えば留飲も幾らか下がった。

 なんにしてもこうして得れた最良の結果を見てお兄様も喜んでおいででしょう。

 

 マリーベルの考えとは別で、オデュッセウスはマドリードの星のメンバーとも仲良くなった事と、漫画ではありえなかった光景に喜んでいた。 

 

 「彼女を加えて五人か。これが正式に主力メンバーかな?」

 「いえ、私は監督に徹するつもりなので選手として参加するつもりはありません」

 「ほぅ、これは意外だったね。概ねの状況は知っていたがマリーがリーグに出場しないとは」

 「私は監督として皆の活躍を見守らせて頂くつもりです」

 「で、本音はどうなのかなソキア君」

 「皇女様はオズの活躍を眺めたいそうですにゃ」

 

 「やっぱりね」と言わんばかりの視線が突き刺さり少し照れてしまう。

 だって私のオズが活躍する所を見たいと思うのは通りではないですか?

 むぅ、と頬を膨らますがトトは微笑ましそうに、ソキアとお兄様はにやにやと笑い、オズは何処か照れたようにそっぽを向く。

 

 「に、しても欠員が居るのはまずいな。新たに育てるのかい?」

 「いえ、知り合いに声を掛けてみようかと」

 「例えば?」

 「ノネッt……」

 「ちょっと待とうか。引き抜く相手が元ラウンズって卑怯臭くないかい」

 「戦争と恋にはルールは無いと聞きましたけれど?」

 「誰から聞いたとかは置いておくとして戦争ではなく競技でしょうに」

 

 呆れられたようなため息に首を傾げるが、どうもオズ達からも同様の視線を感じるのでおかしなことを言ってしまったようだ。

 悪い案ではないと思ったのですけれど…。

 確かに現皇帝の護りを固めているエニアグラム卿を引き抜くのはまずかったですね。ならお兄様の所にいるアールストレイム卿なら大丈夫でしょうか。

 考えをまとめているとオデュッセウスが小さく唸り声を漏らした。

 

 「あー、分かったよ。新規の人物はこちらで目積もっておこう。スポンサーの件も了解したよ」

 「ありがとうございますお兄様」

 「なぁに、可愛い妹の頼みだしね」

 

 予想通り以上の結果にマリーは喜びながら、オデュッセウスとお茶を楽しみながら会話に花を咲かせた。 

 後日オデュッセウスより誰かおすすめの子は居ないかと尋ねられた紅月 カレンより一年間という限定で推薦された赤城 ベニオという少女が新たなメンバーとして到着したが、それ以上にシャーリーからカレン経由で伝わった“オデュッセウスとニーナのデート計画”を耳にし、面白そうと興味津々で参加を表明するのであるが、オデュッセウスは気付くことは無かった。


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