コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第116話 「ダモクレス突入戦」

 今や味方の支持も失い、仕える騎士達は逃げ出し、悪逆皇帝と後世に名を残すことになるシャルル・ジ・ブリタニアの最後の居城である天空要塞ダモクレス。

 強大にして絶対の防御力と攻撃力を持つこの牙城をたった数機のナイトメア隊で攻略しなければならないゼロはフレイヤの発射口を睨みつける。

 

 『全ては皇帝陛下の為に!!』

 

 最終防衛ラインを死守する構えを見せるシャルル一派のナイトメア部隊。

 シャルルと合流した者の中で生き残っても後の世に災いしか生まないであろう輩を、記憶改編のギアスにより頭の中を弄って忠実な駒にしたブリキの兵隊。

 文字通り命を賭した猛攻をカレンの紅蓮聖天八極式とスザクのランスロット・アルビオンが凌いでゼロの蜃気楼を死守する。

 

 『戦う意思のない奴らは引っ込んでな!!』

 『喰らえ忠義の嵐!』

 

 周囲の敵機に向けてサザーランド・ジークとC.C.の暁 直参仕様が弾幕を張って掻い潜って来た者はスザクとカレンが撃破して行く。

 ゼロといえば中央を陣取って周辺情報を読み込みながらフレイヤ発射口を凝視する。

 ダモクレスは全方位対応型のブレイズルミナスを張り続けているので入ろうにも入り込めず、こちらの武装で突破しようにも出力が違い過ぎて突破できない。

 そんなダモクレスにとって唯一の入り口がフレイヤ発射口前なのである。

 ブレイズルミナスを展開しているという事は外部からでなく内部からの物体も防いでしまう。そのためにフレイヤ発射の際には解除する必要がある。が、そこを通過するのは不可能。ブレイズルミナスを解除したところに突っ込んだとしてもフレイヤ、もしくはフレイヤによって消滅させられた空間に戻る空気の流れに飲み込まれるのがオチだ。

 不可能を可能にするためにはフレイヤを無力化するしかない。

 

 フレイヤ・エリミネーター。

 フレイヤを開発したニーナを始めとしてロイド達が協力して完成させた対フレイヤ兵装。

 刻々を変化し続けるフレイヤに真逆の反応をぶつけて無力化するというもの。

 

 『発射口に動きがあったぞ!』

 「―――ッ!!来たか」

 

 ダモクレス下部の発射口が動いてこちらに向けられ、ブレイズルミナスの一部が解除された。

 ルルーシュはキーボードを引っ張り、環境状況データと発射口を睨みつける。

 フレイヤが発射されると同時にデータを読み取って慌ただしくキーボードを打ち鳴らす。

 瞬き一つする間も惜しんで瞳はデータを追い求め、指先は入力のみに専念する。

 目標地点に到達したフレイヤより光が放たれようとした時、データ入力を終えてフレイヤ・エリミネーターを切り離し準備に入る。

 

 「枢木 スザク!!」

 『了解した!』

 

 ランスロット・アルビオンがフレイヤ・エリミネーターを掴み、投擲し易いように槍状に伸びると輝きを広げ始めたフレイヤへと投げつけた。

 先端から光の中に消えて行ったフレイヤ・エリミネーターの代わりに広がる輝きは霧散し、安定した空間と開いたままのブレイズルミナスが姿を現す。

 

 「良し、フレイヤは防いだ!突入部隊集結!!」

 

 フレイヤが消滅した事でフレイヤ発射の為にブレイズルミナスが解除されており、無防備なフレイヤ発射口が露わになっている。そこへ狙いすました弾丸が吸い込まれるように飛び込んで発射口が爆発を起こした。

 撃ったのはオデュッセウスのランスロット・リベレーション。

 一端別行動を取っていたオデュッセウスは攻略の為に伏せていた戦力を連れてダモクレスへ向ってくる。

 ロロの金色のヴィンセントにコーネリアとギルフォード専用のヴィンセント、ナナリーの騎士であるアリスのギャラハットに仲間のサンチア、ダルク、ルクレツィアのヴィンセント・ウォード隊にネモのマークネモ、それと暁とガレスで構成された部隊などが上がって来る。

 中にはギャラハットに搭乗するマオ(・・)も居るのだが、これはマオ(女性)のギャラハットにマオ(男性)が乗り込んでいる。マオちゃんよりもマオの方が戦闘時に強みを持っており、この方が有効活用してくれるとの判断からマオちゃんはお留守番でマオが戦場に出て来たのだ。

 

 対してダモクレスは中に入れまいとブレイズルミナスを閉じようとする。

 蜃気楼の絶対守護領域であれば幾らか防いで、一瞬だけ道を作る事は可能だが全機が飛び込めるほどでは無い。

 

 『―――ッ!?ゼロ様、下から何かが上がって…』

 「まさかあの形状は!?」

 

 可変しているランスロット・リベレーションを追い越してダモクレスに肉薄しようと突っ込んだのは白色に染め上げられ、所々に桃色のラインが描かれているジークフリートであった。

 

 「ジェレミア!アレは確か…」

 『神経電位接続ですから私以外に扱えるのはV.V.しか…』

 『違うな。間違っているよジェレミア君』

 

 まさか記憶を失っているV.V.が参戦したのかと思ったがルルーシュの言い回しを真似したオデュッセウスが否定する。

 確かにアニメではそうだった。

 ジークフリートに乗れるのは改造手術を受けたジェレミアとV.V.のみだが、コードギアスシリーズを通してみれば三人目が存在するのだ。

 閉じる前の隙間に飛び込めたジークフリートは四方に大型スラッシュハーケンを飛ばして、大きなブレイズルミナスを円形に展開させて閉じかかった隙間を無理やりに押し返して入口を広げた。

 

 『スザク!ゼロ!今の内です。早く中へ!!』

 「『ユフィ!?』」

 

 そう、携帯ゲームで最初に登場したコードギアスではユーフェミアがジークフリートに搭乗するのだ。

 驚きの援軍にスザクとルルーシュが目を見開く。

 

 『ちょっと!どうやってここに…というかその機体は』

 『いやぁ、ユフィに強請られちゃってさぁ。でも身の安全第一という事でブレイズルミナスを装備させて徹底的に強化させたから防御力は凄まじいものがあるよ』

 『このシスコンは…』

 「全機突入せよ!!」

 

 ゼロの命令で全機が動き出そうとした瞬間、レーダーに新たな機影が映し出された。

 識別信号は無いが望遠で映し出されるシルエットはあのカリバーンであることは間違いない。

 

 『お前はダモクレスへ』

 「しかしアレには…」

 『時間を稼ぐだけだ。アレをブレイズルミナス内に入れなければ良いのだろう』

 「……分かった。ロロ。そしてマオ。C.C.と共に迎撃に当たってくれ。無理に攻めるなよ」

 『期待には応えてみせるよ』

 『ボクはC.C.の為だけどね』

 「無理はするなよC.C.」

 『誰に言っている?』

 

 蜃気楼を先頭にランスロット・アルビオンに紅蓮聖天八極式、ランスロット・リベレーション、マークネモにギャラハット、ヴィンセント・ウォード隊が続き、コーネリアを指揮官としてギルフォードとジェレミア、暁とガレスの部隊が防衛線を展開する。

 一騎当千の強者揃いと言えども数で押されれば非常に不味い。

 内部に敵機が入り込んだのなら味方を内部に入れて迎撃するしかない。それを防ぐためにコーネリア達に敵機が入り込まない様に作業中は抑えて貰う事になっている。

 ゼロが振り返るとカリバーンにロロが突っ込んで行くところであった。

 

 『如何に強くたって!』

 

 相手は人工知能ではなく人だ。

 ならばロロのギアスの影響を受けない筈がない。

 唯一マリアンヌを一騎で止めれる可能性のあるロロの突撃はあっさりと食い止められることになる。

 カリバーンの胸部装甲が弾け飛んで、中より天愕覇王荷電粒子重砲が姿を現して放たれた荷電粒子重砲によって脚部が蒸発した。機体が機体だけに予想できた武装であるが、今まで一切使わなかった事と接近戦に重きを置いて戦っていた事から失念してしまっていたとルルーシュは苦虫を噛み潰したような苦々しい顔をする。

 脚部を溶かされて意識がカリバーンから離れた一瞬をマリアンヌは引き寄せ、最高速度で通り過ぎて行く。

 慌ててギアスを発動して止めるが物理は止められずにそのままの速度で範囲外へと飛び出していく。

 続いて足止めしようと前に出たのはマオだ。

 マオのギアスは思考を読むギアス。

 このギアスを戦闘で使うと凄まじい力を発揮する。

 なにせグラスゴーでガウェインに一騎打ちを仕掛け、撃破寸前にまで追い込んだほどなのだから。

 

 『C.C.下がって!奴の狙いは―――』

 『良い動きね。ギアスユーザーかしら?』

 『マオ!?』

 『動きが単調過ぎて面白みがないわね』

 

 思考を読んで大型のアサルトライフルで迎撃しようとしても全く相手の動きに追い付いておらずに、避け切られた上で通り様に真っ二つに斬り捨てられた。ロロもマオもコクピットブロックを射出させたので無事ではあるが、時間稼ぎになっていない。

 ユフィのジークフリートが避けて内部に突入を開始する。

 あとは最後尾が通り抜け、ブレイズルミナスが閉じるのを待つのみ。

 

 最後にC.C.が立ちはだかる。

 

 『もうよせマリアンヌ!お前たちが戦う理由など…』

 『あらC.C.。私が大人しくするとでも想って?』

 『あり得ないな。大人しいお前など気持ちが悪い。しかし掻き回し過ぎだ』

 『これでも足りないぐらいなのだけれども』

 

 斬りかかったC.C.の一撃は剣ではなくブレイズルミナスを展開した蹴りで受け止められ、弾かれた次の瞬間に一振りで柄も巻き込んで両手が吹き飛ばされた。宙を舞っている刀身に易々と蹴りを入れて暁 直参仕様の頭部に突き刺した。

 爆発する前にC.C.も脱出し、撃破したカリバーンは追撃をすることなく閉まりかけのブレイズルミナスの隙間に飛び込んだ。

 入られた事に舌打ちしながらも速度は落とさない。

 こうなったら強行してでも内部に入るしかない。

 

 『早く取り付こう』

 「あぁ―――ッ!?気を付けろ!!」

 『なにっ!?』

 

 叫び声に反応して顔を上げたランスロット・リベレーションに大剣エクスカリバーを振り上げたギャラハットが斬りかかってきた。咄嗟に対応して鞘より刀を抜き放って上段からの一撃を何とか耐え凌ぐ。

 

 『ビスマルク!?』

 『お久しぶりです殿下(・・)

 『一応神聖ブリタニア帝国の皇帝になったのだけど…』

 『存じておりますが、私はシャルル皇帝陛下(・・・・)の騎士。おいそれと認める訳には参りません』

 

 上段の一撃は防げても上空から降下しての勢いは殺しきれずに押される。

 援護しようとスザクが動こうとするが、オデュッセウスが制止させる。

 

 『誰も手を出さないで。これは私とビスマルクの………師弟の問題だ』

 

 その一言を聞いて動きを止める。

 オデュッセウスは刀で無理に払って多少距離を取り、ダモクレス内部へと駆けて行く。

 それに続くビスマルクのギャラハットは任せるとしてもC.C.達を倒して入り込んだカリバーン―――否、マリアンヌの方が問題だ。

 

 「カレンにスザク。二人でアレを止めてくれ」

 『私も行くよ。アレはただものじゃない』

 『なら私も行こうか』

 

 スザクとカレンだけでなく自ら名乗りを挙げたネモとアリスがカリバーンに対峙する。

 ここは任せるしかない。

 

 「ではカレン、スザク、アリス、ネモの四機に任せる。残りはダモクレス内部に侵入せよ」

 

 ルルーシュはダルクとサンチア、ルクレツィアの三機と共に内部へと入って行く。

 このアドリブ塗れの戦いを終わらせる為にシャルルの元へと向かうのである。

 

 

 

 

 

 

 ダモクレス内は広大である。

 絶対的な防御力を誇る要塞であっても燃料・物資が尽きてしまえばただの鉱石の塊。

 全方位対応型の強化されたブレイクルミナスに大出量を空高くへ浮かばせれるフロートシステムを使用可能とするエネルギーと予備のエネルギー源、機械を整備し運用する人員にその人員が働ける環境と作る為の人員、人がいれば食糧はいるし、排出物を処理する施設も必要。さらに長期間の仕事と成ればストレスも溜まるので娯楽も必須だろう。天空要塞というからには戦力を維持しなければならないので複数のナイトメア格納庫に航空艦が入れるドック。武器弾薬に修理パーツなどなど運用する為にはそれだけ多くのシステムと施設が必要である。

 中にはナイトメアが悠々と通れる物資搬入用の通路も作られており、戦闘を行っている現状もその通路を走るナイトメアの姿があった。

 

 一機は帝国最強の座についていたナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインのギャラハット。

 対するは現ブリタニア皇帝のオデュッセウス・ウ・ブリタニアが乗るランスロット・リベレーション。

 

 通路を後ろ向きで進みながら二丁の短機関銃を撃ち続けるが、未来をギアスで読まれて弾丸を上手く弾かれてしまう。

 追うギャラハットの勢いは変わらずにそのまま突進してくる。

 オデュッセウスの技量は高いが一番の得意分野は長距離からの狙撃であり、近接戦闘は苦手でもないけれども得意でもないというどうにも微妙な感じで、あらゆる近接武器を使い熟せる上に機体の武装を剣一本に絞るなど近接戦に絶対の自信があるビスマルク相手に近接戦闘で挑もうとは思えない。

 だから避けるスペースの少ない通路を探して入り込んだというのにこれでは意味がない。

 

 『殿下。それで終わりですか?』

 「終わりにはしたくないね」

 

 距離を詰めたギャラハットの一撃が持っていた短機関銃に届き、衝撃でぐにゃりと変形させながら弾き飛ばした。刃を反して二撃目と行きたいところであったが、ここで油断できないのをよく知っているビスマルクはエクスカリバーの側面を向けて盾に使用する。

 案の定弾き飛ばした右手でなく、左手にあった短機関銃の銃口がすでに向けられており、放たれた弾丸が襲い掛かって来た。

 撃ちながらオデュッセウスが行う行動は――――。

 

 「空いている右手でケイオス爆雷ですか」

 『――――ッ!?』

 

 予想通りに手にしたケイオス爆雷が投げつけられるがそっと剣の腹で払って前に出る。

 狙いはギャラハットに設定されている為に位置的にランスロット・リベレーションもケイオス爆雷の射線上に立ってしまっている。慌てて機体が可変させてケイオス爆雷から離れようとするが、その前にギャラハットの手が背中を掴んだ。

 ケイオス爆雷より発射されたニードルを届くより先に離れた二機だが、取り付かれた事に気付いているオデュッセウスはギャラハットを壁に叩きつけようと速度を出しながら寄せる。そうはさせまいと翼へと手を伸ばしてへし折る。

 体勢を崩した二機はそのままの速度で正面の壁に激突して、壁を破ってナイトメア格納庫へと躍り出た。

 

 「貴方に戦い方を教えたのは誰ですか?剣の振り方から足運びまで何度も付き合い鍛え上げたのは?」

 『カハッ…やっぱり強いなビスマルクは…』

 

 転がりながらナイトメアへと変形したランスロット・リベレーションは距離を取って回転式拳銃を構える。が、構えるだけで撃たない事に違和感を感じながら斬りかかる。

 上段からの振り下ろしを身を捻るだけで躱され、床に激突した衝撃も利用した下段からの切り上げは向けられた銃口よりエクスカリバーに放たれた弾丸一発で逸らされ、今度は片足を軸にスピンしながら横薙ぎの一撃を振るうとすでにランスロット・リベレーションは地面に這い蹲って避け切った…否!読み切ったのだ。

 

 『確かに私は教わって来たさ。貴方の技術を何度も何度も何度も挑み学習し続けてきたんだ』

 「なるほど…こちらの動きは理解しているという事か」

 『あぁ…だけどこれでは勝てないかな』

 

 幾度と剣を交えたのだ。

 こちらがあちらを知っているようにあちらがこっちを知っていて当然。

 当たり前といえば当たり前の事だ。

 何ら驚愕するほどの驚く事ではない。

 そうだとも。

 殿下は昔からそうだったとも。

 子供にしては能力が高く、それに天狗になる事もせずに何らかの目標を持って高みを目指し続けた。

 でなければ私に技術を請うたり、マリアンヌ様の無理な訓練に自分の意志で付いて行く事も出来なかったろう。

 ……半分は仕方なくや無理やりといった感じもしたが…。

 

 懐かしい幼い殿下の姿が眼前のランスロット・リベレーションと重なる。

 拳銃を仕舞って両足を肩幅に開き、左手は刀の鞘と鍔にかけて右手は柄を掴むか掴まない位置で留める。

 

 「ほぅ…居合抜きですか」

 『私は剣術で君に敵う事は無い。だから不利を突くよ』

 

 ……不利ではあるか。

 言われた言葉に納得する。

 ビスマルクの獲物は大剣で重さも含めた威力は絶大だが、大きさから取り回しが難しく振りの速度は遅い。

 逆にオデュッセウスの武器は鞘の形状から刀だろうと推測でき、威力は劣るものの速度に小回りでは大剣に勝ち目はない。

 そこに抜刀から最速の一撃を振るう居合い。

 達人であるビスマルクの目にはランスロット・リベレーションを中心に刀の射程が映っており、一歩でも足を踏み入れれば即座に両断されかねない。

 が、刀の長さよりも大剣の方が長く、剣の射程はこちらが有利。

 

 「私が殿下の射程外から斬りかかるとは思われないので?」

 『それは絶対にない。私の師であり、帝国最強の騎士が真正面からの斬り合いを避けて勝ちだけを奪いに行くなんて事は』

 「……ふ、そうですな」

 

 笑みが零れた。

 懐かしい気持ちに触れて身体が若返ったように軽い。

 モニターの映像に記憶の一部が上塗りかける。

 宮殿に設けられた訓練場で向かい合う二人。

 連日怪我をして服の袖より薄っすらと打ち身を覗かせ、負けるものかと闘志を燃やして睨みつけて来る殿下。

 相対するビスマルクはラウンズのマントを脱ぎ去り、訓練用の木製の大剣を握り締めて野球のバットを振るう様に構える。

 

 「手加減はしませんよ」

 

 頬を緩ませながら呟いた一言に自身が苦笑してしまう。

 まったく私は何を言っているのだろうか。これは本当の戦いだ。その戦いにおいて手加減など許されない。

 

 『無論だとも!今日こそ勝って見せるよ』

 

 何処か嬉しそうに弾んだ声が返って来た。

 声色とは違って二人を覆う空気は何の感情も含まず冷たく静かなものとなり包む。

 じりじりと間合いを詰めながら睨みを利かせるビスマルク。

 射程内に入り込むのをじっと待ち構えるオデュッセウス。

 

 勝負が決まるのは一瞬だ。

 

 ビスマルクはギアスで未来を読んだ。

 鞘より抜き放たれた刀の刀身が振られる軌道が浮かぶ―――――事は無かった。

 その眼に映ったのは柄が頭部に向けられ、次の瞬間には柄が顔面に迫る未来。

 気付いた時には鞘が発光して柄が撃ち出されていた。

 鞘内のレールを最大で撃ち出した事で刀身は砕け散り、その速度を持って柄はギャラハットの頭部へと向かい飛翔する。

 

 未来を読めても反応できなければ何の意味も無い。

 だがブリタニア最強の騎士として、シャルル陛下の騎士として、そして何より目の前の教え子の師として負けそうだからと諦めるなど出来る筈がない。

 無理やりに反応させて頭部をずらして躱そうとするが、躱しきれずに頭部の半分が激突によって砕かれた。

 頭部カメラからの映像が途切れたが、途切れる前の動きと位置から当たりを付けて剣を振るう。

 手応えはあった。

 

 が、それ以上に自機の被害の方が酷いのだろう。

 身体を大きく揺らす衝撃と出力が一気に低下した事実が何よりの証拠だろう。

 実際映像が途切れた後、鞘より柄を撃ち出したランスロット・リベレーションは鞘を捨てて、身体を大きく捻りながら一歩踏み込んで左手の一撃がギャラハットの胴体に一撃。マニュピレータは折れ曲がり、砕けたりしたが腕は胴体に食い込ませたのだ。

 爆発する事は無い損傷だが戦闘不能にするには充分すぎる一撃。

 代わりに最後の一振りで頭部を刎ねられ、この戦闘で左腕と頭部、そして手持ちの武装のほとんどを失ってしまった。

 

 「お見事です殿下。まさかここまで来て剣の戦いを捨てられるとは…」

 『すまないね…。私では君に剣では勝てないから。使える手はなんでも使わなきゃ。これもビスマルクと手合わせする中で想い至った戦い方だよ』

 「なるほど…はっはっはっ、殿下も大きくなられた。道理で私も衰える訳ですな…」

 『ビスマルク…』

 

 どこか心配げな声色に苦笑いを浮かべる。

 いつも怪我をされて心配していた私が心配される日が来ようとは…。

 

 「行ってください殿下。まだやるべき事が残っております」

 『しかし君は…』

 「コクピットは動きます。ですので私の事は気に賭けずにお進みください――――陛下(・・)

 『―――っ……分かった。行ってくるよビスマルク』

 

 モニターの映像は途切れて見えないが遠退いて行く音だけは聞こえ行った事を理解する。

 負けた…。

 騎士としては不名誉なものであるが今はとても気分が良い。

 すこぶる良いのだ。

   

 「あぁ…こんな気分はいつ以来か」

 

 クツクツと笑いながらビスマルクはコクピットより降り、自分の剣として戦った愛機を一撫でし、その場より立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 ダモクレス外延部ではブレイズルミナス内に飛び込んだナイトメア複数とカリバーンが戦っていた。

 近接戦に特化しているからと言って長距離戦で勝てるとは限らない。

 寧ろこちらが射撃すれば容易く躱されて無暗にエナジーを減らすだけの結果となっている。ならば奴の土俵に立つことになるが少しでも勝率のある近接戦闘を行うのが得策だろう。

 

 『喰らえ!!』

 

 外延部に取り付いたカリバーンの側面より輻射波動を叩き込もうとカレンの紅蓮聖天八極式が襲い掛かるが、ブレイズルミナスを展開した右足による回し蹴りが完全に輻射波動を受け止める。

 ナリタでの紅蓮がランスロットと戦った際であればブレイズルミナスごと掴むことが出来たが、カリバーンにはその手が通じない。

 

 『輻射波動の出力を上回るの!?』

 『良い子でしょうこの子は』

 『厄介過ぎるほどにね…』

 

 押しきれなかった反動が両者を襲い紅蓮の右手が大きく弾かれる。

 隙が生まれた事を逃すような相手ではないが、それよりも反対側よりアリスのギャラハットが迫る。

 以前のような急速な加速で距離を詰めてメーザーバイブレーションソードを振るう前に、弾かれた右足を床について反動を利用した左足による回し蹴りが決まった。予期してなかった攻撃にくの字に曲がるギャラハットの手を掴んで紅蓮へと投げ飛ばす。

 縺れるように転がった二機を守ろうと頭上よりマークネモが襲い掛かる。

 

 『良いわ!本当に良いわ!!』

 『この化け物が!!』

 

 自動追尾ではなくネモの意志により襲い掛かるブロンドハーケンが次々と躱され、折り畳み式のブレードを展開して接近される。ネモはギアスを用いて反応速度を一気に上昇させながら太刀で斬りかかる。

 まさに化け物だ。

 ギアスの力で格段に強化された反応速度にカリバーンはついて行った。

 これは機体の性能ばかりでなく、マリアンヌ自身の反応速度と長年の経験と勘によって生み出された先読みからなるものである。

 太刀とブレードがぶつかり合って火花を散らして激突する。

 そこを離れた位置を飛行しているランスロット・アルビオンのエナジーウィングより刃状のエネルギー体が発射される。

 自分ごと撃つように指示しておいたネモは飛び退いて回避し、マリアンヌはブレードで弾き、回避しながら上空へと飛翔する。

 

 『くっ、なんて動きだ!』

 『口を動かすより手を動かす』

 『解ってる』

 

 紅蓮とランスロットが追うが機動力が違い過ぎて追い付ける筈がない。

 しかし、マリアンヌは楽しみたいがために全力を出さずに追い付くのを待つ。

 舐められていると気付きながらも二人は冷静に相手に斬り込む。

 ダモクレス周辺を紅と黄緑の光が真紅の輝きを追っては何度もぶつかり合っては離れてを繰り返す。

 もはやただのエース程度では乱入する事すら難しい戦闘にアリスもネモも睨みながら突撃する。

 

 『このッ…落ちろ!』

 『まだよ!まだ遊び足りないもの!!』

 

 円盤状の輻射波動を投げつけるとブレードで弾かれ、ランスロットへと向けられた。スザクも咄嗟に反応してメーザーバイブレーションソードで弾き飛ばす。

 そこを接近したカリバーンがブレードを振り上げる。

 やられたと思った矢先、側面より体当たりを敢行したギャラハットの一撃で再び外延部に着地する羽目になったカリバーンは、体当たりの衝撃で天愕覇王荷電粒子重砲を破損して電気を発していた。

 

 『やるわね』

 『私はナナリー・ヴィ・ブリタニア皇女殿下が騎士アリス!ここで見っとも無い真似は出来ない!!』

 『猪武者ね。でも対処法は―――』

 

 ギアスの力をフルに発揮してメーザーバイブレーションソードを構えながら真正面から突っ込む。

 ただ突っ込んで来る相手に対してカリバーンはブレードを突き出し、通り様に横腹を掻っ捌こうとするが…。

 

 『それを待っていたのよ!!』

 

 メーザーバイブレーションソードを投げつけ、さらに加速したギャラハットの腹部にブレードが突き刺さる。引き抜こうとされる前に両手で掴んで離れ無くし、アリスはコクピット内で微笑む。

 

 『まさか狙っていたの?』

 『負けっぱなしって訳には行かないのよ』

 

 アリスは自爆コードを打ち込み、脱出用のレバーを思いっきり引いた。

 狙いが自爆と察したマリアンヌは突き刺さっている左腕のブレードを折り畳み箇所ごと切り外して距離を取る。 

 追いついた紅蓮が輻射波動を今度こそ叩き込もうとするが同じくブレイズルミナスで防がれ、さらには反動を利用した後ろ回し蹴りを受けて右腕部の一部が破損した。

 

 『なんて腕前なのよ!?』

 

 驚きを隠せないカレンに追撃の一撃を入れようとしたカリバーンは背後より現れた機体に気付いて動きを止めた。

 

 『なんかすごい音がってうわぁ!?』

 『あら、悪い子(オデュッセウス)発見しちゃったわね』

 『ヒィッ!?』

 

 偶然にも外に出ようと通路を通って来たオデュッセウスのランスロット・リベレーションがカリバーンの背後を付いた形となったが、本人も予定外の遭遇に怯んでしまっていた。

 

 『陛下御下がり下さい!ここはボクが!!』

 『邪魔しないで』

 

 斬り込んだランスロットの一撃を受け止めてから流し、蹴り飛ばす。

 振り返ってオデュッセウスに狙いを付けようとしたカリバーンに今度はネモが襲い掛かる。

 

 『早々好きにさせてたまるか!もう自由に手が掛かってるんだから』

 

 太刀を突き出しながらブロンドハーケンを放つマークネモにカリバーンは今まで使用してなかった両肩のブレードハーケンを射出。避けようとするも反応速度を挙げようと直撃は間逃れずに両肩に深々と突き刺さる。

 

 『ネモ!このぉおおおおおお!!』

 『逃げずに向かってくるのね。じゃあ、お仕置きしてあげるわ』

 

 振り絞ったランスロット・リベレーションの拳にブレードを合わせて振るう。

 ルミナスコーンも展開していない腕などブレードに触れた瞬間から両断されてしまう。

 が、オデュッセウスのランスロット・リベレーションには特殊兵装釘打ち機(パイルバンカー)が取り付けられている。

 

 勢い良く飛び出したパイルバンカーの先端はブレードの刃に激突し、真っ二つに切断されていくがその衝撃はブレードをへし折るには充分すぎた。

 確かにリベレーションの右腕を破壊したもののブレードをカリバーンは失ったのだ。

 

 『ぁあ…やったぁ…やった!マリアンヌ様に一撃入れれたんどぅわっ!?』

 

 喜びの余り次の行動も行わずに腕を伸ばしっぱなしだったランスロット・リベレーションは一本背負いの要領で投げ飛ばされ、頭部より床に激突して頭部は粉砕されてしまった。おまけとばかりに逆さま状態のリベレーションの背中に蹴りを入れて蹴り落とした。

 

 『オデュ!?』

 『仕方ない。私が受け止めに行く。あんたらはあの化け物を』

 

 落下していくリベレーションを追いかけて両腕をやられて戦闘不可のマークネモが降下して行く。

 残ったのは輻射波動機構を破損された紅蓮聖天八極式とエナジーウィングからの攻撃でエナジーを想った以上に消費したランスロット・アルビオン。

 そして楽しそうに笑い声をあげる武装零のカリバーン。

 

 『あははは、そう!あの子が私に一撃当てれる日が来るなんて。長生きはしてみるものね。それで貴方達はどうするのかしら?』 

 『そんな事決まっているでしょ!』

 『貴方を倒してこの戦争を終わらせます』

 『あー良いわ。来なさい二人共』

 

 紅蓮とランスロットは共通の敵目掛けて突っ込む。

 カリバーン内のマリアンヌはそれを楽し気に受け、もう暫しの戦いを満喫するのであった


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