コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~   作:チェリオ

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第113話 「ジヴォン家」

 敵中突破または敵陣突破。

 航空艦船でもナイトメアでも数は自分達の何十倍もの大軍。

 数的劣勢に臆して足が、手が止まりそうになる。

 されど止まれば鴨打確定。

 ならば先に進むしかないのだ。

 全員が一丸となって突破を図る。

 一度突っ込めば四方八方が敵だらけ。

 逆に言えば敵にとって撃ちづらい状況でもある。

 下手に撃てば同士討ちが発生しかねない。

 奇襲で混乱している隙を突かれたのも相まって敵の反撃は遅すぎた。

 

 オデュッセウスはペーネロペー下方を飛行し、周囲に目を配る。

 アヴァロン級であるペーネロペーには勿論ながらブレイズルミナスが装備されているがダモクレスやモルドレッドのように全方位対応型ではない為、動力炉が狙える後方と艦橋がある正面に重点的に展開。左右上下にはアレクサンダ・ヴァリアント・ドローンが展開し、ペーネロペーの盾兼弾幕要員として機能している。

 弾幕要員と言えばペーネロペー上部ではアレクサンダ・レッドオーガに搭乗するアシュレイ・アシュラ率いるアシュラ隊がアレクサンダ・ヴァリアントⅡにて弾幕を張っている。

 そしてアキト、リョウ、アヤノ、ユキヤの四人はドローンに紛れながら敵機の撃破に努める。

 

 「レイラ!被害状況はどうなっている?」

 『ドローンの損耗率三十パーセントを超えました。有人機は無事ですがペーネロペーの推力では突破は難しいかと』

 「致し方なし。増設ユニットの破棄を急いで。切り離しと同時に最大船速!」

 『了解しまし……陛下!敵機接近!機体照合からパーシヴァルかと』

 「ブラッドリー卿か…こんな時に」

 

 レーダーに表示された方向をモニターで拡大するとパーシヴァルを中心に一個中隊のヴィンセント・エアが追従する。

 舌打ちしながらオデュッセウスはランスロット・リベレーションを前に出す。

 今回のみの重装備。

 小型ミサイルポッドを積みに積みまくった為に速力は落ちたが、広範囲へのミサイル弾幕が可能となっている。

 ミサイル全弾誘導目標を自動マーキングでなく手動で入力し、増設された後部ナイトメア格納庫を切り離して速度を挙げつつあるペーネロペー前に出ると全弾撃ち尽くし、ミサイルポッドを放棄する為にも切り離す。

 ミサイルはオデュッセウスが入力したフロートシステムや脚部に向かって次々と撃墜して行く。その中でブラッドリーのパーシヴァルはハドロン砲を撃って迎撃し切った。

 

 『見イ~つけた。今度こそお前の大事なものを散らさせてもらう』

 「下品な…だから私は君が好かないんだ!」

 

 対ナイトメア用短機関銃二丁を構えて連射するがさすがはラウンズと言うべきか呆気なく回避されてしまう。

 険しい表情を浮かべているとアラートが鳴り響き、次いで接近警報が表示される。

 何事かと確認すると斜め後方よりトリスタンが向かってくるではないか。

 

 「クソっ…挟み撃ちか」

 『陛下。後方はお任せを』

 「―――ッ!?分かった。任せるよアキト君!!」

 

 飛行形態で突っ込んできたトリスタンはナイトメアへと変形し、遮ったアキトのアレクサンダ・リベルテ改に斬りかかる。

 

 『オデュッセウス陛下。聞こえますか?』

 「聞こえてるよジノ君」

 『私はシュナイゼル殿下より陛下の様子を伺う様に言われています』

 「すこぶる良いよ。体調面はね」

 

 オープンチャンネルでジノより向けられる言葉に答えながら近づいて来るパーシヴァルに対して短機関銃を投げつけて、腰より日本刀を模したメーザーバイブレーションソードを抜くと同時に斬りつけた。

 鞘に仕掛けが施してあり、トリガーを引くことによって内部に設置されたレールが稼働して刀を押し出す。その速力を用いた居合はブラッドリー卿が対応仕切れない速度であり、一撃でミサイルシールドごと左手を切断したほどだ。が、二撃目は許されずにルミナスコーンで防がれる。

 

 『あははは、そうではなくてですね。コードRと言えば解りますか?』

 「コードR!?そうか…それでシュナイゼルと君はそっちに付いたか。ならノネットとオリヴィア卿もか」

 『エニアグラム卿はそうですけど――っと!』

 

 ジノの攻撃を防いでいたアキトが攻勢に転ずる。

 我武者羅そうに見えて中々研鑽された攻撃を行う。が、ジノはその上を行っており全てを捌きつつ反撃をちょこちょこ入れて来る。

 リョウ達が援護したそうにするも周囲の敵機の相手で手一杯。

 アシュラ隊の面々は弾切れを起こして補給中。

 代わりに出て来たハメル隊は弾幕を張るので精いっぱい。

 

 『戦闘中に無駄話とは―――余裕があるようだな!』

 

 ルミナスコーンを解除してパーシヴァルは振り下ろそうとしたランスロット・リベレーションの右腕を掴み、頭部のスラッシュハーケンが矛先を向けて来る。

 

 「五月蠅い!!」

 

 矛先を掴むのではなく空いていた左腕をパーシヴァルの頭部に押し当てる。

 次の瞬間、金属音が手の甲より放たれるとパーシヴァルの頭部が粉砕され、一本の釘が飛び出してきた。

 ランスロット・リベレーションの特殊兵装釘打ち機(パイルバンカー)

 オデュッセウスの我侭……要望で装備された新兵装であるが一撃しか放てないので量産化はされないらしい。

 一撃の反動で緩んだ手を振り払って今度こそ刀を振り切る。

 胴体と下半身が解れたパーシヴァルのコクピットブロックが射出されてブラッドリー卿が脱出していった。

 別段気に留めることもせずにアキトの援護に向かう。

 

 『陛下は陛下の意志でここに居られますか?』

 「…いやぁ、私の意志もあるんだけど正直巻き込まれた感があるよ…」

 

 二対一となって少し距離を取ったトリスタン。

 疑いがあるのか会話が途切れ間が開く。

 小さく笑い声が漏れた。

 

 『あははは、やはりというか敵中突破を図った辺りから殿下らしいと思ってましたよ。シュナイゼル殿下の予想は外れでしたか』

 「はははって笑っている場合じゃないんだよねこっちは!」

 

 談笑して居られるならしていたいけどそうも状況が許さない。

 アキトとの挟撃なら何とか押し切れないかと頭に過り始めたその時、ペーネロペー後方で爆発が発生した。

 目を見開いて振り返ると黒煙を撒き散らすペーネロペー後方にモニカ・クルシェフスキー卿のフローランスがハドロンブラスターを構えた状態で狙い続けていた。

 

 「ペーネロペーを!?」

 

 ハメル隊が弾幕を張るがフローレンスと距離があって有効な攻撃は行えていない。

 狙撃銃で牽制しようとしてもジノが気がかりで咄嗟に動けない。

 放たれた二射目のハドロンブラスターはペーネロペーに直撃することなく、割り込んだ機体によって片手で防がれる。 

 驚いて目を見開いたジノは警報で我に返り、刃状のエネルギー体が降り注ぐ光景を目撃した。

 トリスタンは変形して回避しつつ一気に距離を放して行く。

 

 ペーネロペーを挟む形で現れたのは紅蓮聖天八極式とランスロット・アルビオンの黒の騎士団と神聖ブリタニア帝国軍のエースであった。

 

 『陛下はお下がりを!ジノは僕が相手をします』

 「助かったよスザク君。カレンちゃん」

 『ちゃん付けは止めて。それよりさっさと行く!』

 

 どうやら連合軍中央軍が混乱に乗じて前進し、ギリギリ合流出来たようだ。

 カレンとスザクを先頭にライの蒼龍弐式改やアリス率いるナナリーの騎士団が次々と周囲の敵を蹴散らして行く。

 ホッと安堵する間もなくランスロット・リベレーションを降下中のペーネロペーに寄せる。

 

 「レイラ!無事かい?」

 『フロートユニットをやられました。これよりペーネロペーは予備推進力を用いて不時着を試みます。その後は現存戦力と共に地上支援に回ろうかと思います』

 「出来るんだね?」

 『問題ありません。ですので陛下は先へ―――陛下にしか出来ない事があるのでしょう』

 

 残存ドローンはすでに20%を切っている。

 有人機はまだまだ健在だが地上は識別反応を見る限りシャルル一派が優勢のようだ。

 不安は残るがここで自分が抜ける訳には行かない事は重々承知している。だから―――。

 

 「レイラ・マルカル大佐!これが最後の戦いなんだ。絶対皆で生還しよう」

 『勿論です。誰一人欠ける事無く戻ります』

 

 レイラ達を信じ、オデュッセウスが一旦最前線より後方のアヴァロンへ向かう。

 この最後の戦闘を終わらせる為に。

 

 

 

 

 

 

 この戦いを連合軍有利に進めていた。

 中央軍は混乱しているシャルル一派を押し返し、左翼は相手の攻撃を凌いで押し止めている。

 そして右翼はグリンダ騎士団のマリーベル・メル・ブリタニアの指揮の下ですでに敵の三分の一ほどを撃破してしまっていた。

 さすがはマリーと専属騎士であるオルドリン・ジヴォンは自らの主を褒め称え、指示通りに次々と敵機を穿つ。 

 たった(・・・)10機のナイトメア隊が立ち塞がるがそんな数はオルドリンの―――否、オルドリン達の足止めにもなりはしない。

 

 『行っくよーオズ』

 「えぇ、行きましょうソキア」

 

 フロートユニットを内蔵し、武装に機体そのものを強化したオルドリンのランスロット・ハイグレイル。

 エニアグラム卿所有の開発ラインで製造された電子戦特化のシェフィールドをソキア用に調整・強化したシェフィールド・アイ。

 獅子のようなフォルムへと変貌した頭部に大幅に武装を強化したレオンハルトのブラッドフォード・ブレイブ。

 ゼットランド左肩にマルチエナジーデバイスを取り付け、改修したティンクのゼットランド・ハート。

 この四機はキャメロット主導のエメラルド・プランに基づいて強化された訳だが、他の機体と違う特性を保持していた。

 それはハイグレイルを中心に合体機構が備えられているという事。

 

 ランスロット・ハイグレイルにT字の変形したシェフィールド・アイが合体したグレイル・ワルキューレ。

 ドルイド・ウァテスシステムにより向上した索敵能力が10機全てを正確に捉え、ドレスのように広がる腰部ユニットに収納されている半自律型武装ACOハーケン12基が目標を貫く。

 被弾しながらも突破出来た一機は有効打を与える事無く、構えられた二本のシュロッター鋼ソードとオルドリンの腕前から呆気なく撃破される。

 

 僅か10秒も満たない短時間で十機を撃破したオルドリンは次の敵機を求めて前進……したいところをぐっと堪えて指示があるまで現状維持に努める。

 戦力が同じでも質で勝っている連合軍は通常戦闘だけ考えれば圧倒して然るべきなのだ。けれどもフレイヤ弾頭の存在がそうはさせてくれない。敵機を全滅へ追い込めば相手は容赦なく撃ちこんでくるだろう。だから敵を壊滅させぬように徐々に押し込んで行かなければならない。

  

 『早すぎですよオズ!』

 『レオンもですよ!』

 『いや二人共言えた事じゃないと思うぞ』

 『あはは…でもやっとお嬢様と合流出来ましたね』

 

 先行し過ぎたオズとソキアに追い付いたレオンたちは隊列を組む。

 ブラッドフォード・ブレイブにゼットランド・ハート、ヴィンセント・エインセルにヴィンセント・グリンダ(グリンダ騎士団用の真紅のヴィンセント)

 真紅のナイトメア部隊に挑もうと向かってくる者も居たがオデュッセウスの特訓を耐え、幾つもの戦場を駆け抜けた彼女・彼らに敵うものはそうはいない。

 ゆえに彼女が対峙するのは当然だった。

 

 『オルドリン』

 

 無線からポツリと聞きなれた声が聞こえた。

 振り返るとそこにはカールレオン級浮遊航空艦足場にして立ち構えるヴィンセント―――いや、グリンダ騎士団で開発されたヴィンセント・グラム。それを真紅に塗られたヴィンセント・グラムルージュ。

 誰が乗っているか確かめずに察したオルドリンはドッキングを解除した。

 

 『オズ?』

 「ごめんソキア。私……」

 『うん、行って来て。周りは私達が何とかするからさ』

 

 離れたソキアはレオン達と共に周辺の敵機に対して戦闘を開始した。 

 横目で確認したオルドリンはヴィンセント・グラムルージュに対峙するようにカールレオン級に着地する。

 ただこちらを向いているだけというのに肌がピリピリするほどの威圧感を感じ身構える。

 

 「お母様……なのでしょうね」

 『えぇ、そうよ』

 

 ヴィンセント・グラムルージュよりオリヴィア・ジヴォンの声が届く。

 言いたい事は山ほどあるけれどぐっと堪えて剣を抜き放つ。

 見た限り武装はメーザーバイブレーションソード一本のみ。

 だからと言って侮れない。

 剣一本という事は近接戦重視のカスタマイズが加えられているのは容易に想像できる。

 ゴクリと生唾を飲み込む。

 冷や汗がたらりと流れて頬を伝う。

 

 静けさすら感じるこの場を乱したのはオリヴィアでもオルドリンでもなく別の者であった。

 

 二人が立って居たカールレオン級下方部で爆発が起こり、上部まで貫通したハドロンが二人の間を通り過ぎ、大きく空いた風穴より白炎を改修に改修を重ねた業火白炎が飛び出し、それを追う様にアグラヴェインが姿を現す。

 

 「お兄ちゃん!?」

 『よそ見とは…』

 

 一瞬の隙。

 それを見逃さずにオリヴィアは距離を詰めて剣を振るう。

 慌てたもののすぐさま冷静に剣を振るって対処する。

 お互いの剣がぶつかり合う。

 反動で弾かれて隙間が生まれ、オルドリンはもう一方の剣で斬りかかる。

 体勢は崩れていて威力こそ低いものの有効な一撃になると判断しての攻撃。

 しかしそうは問屋が卸さない。

 剣を握っている右手でなく、左手を覆う様にルミナスコーンが展開され、オルドリンの一撃を受け止める。

 

 『背は追い付かれたけれどまだまだねオルドリン』

 「いつまでも昔のままの私じゃない!」

 

 二刀同士の剣戟が交わる中、その頭上ではオイアグロとオルフェウスが交戦を続けていた。

 エウリアの仇であるオイアグロを殺そうとするオルフェウス。

 オイアグロ・ジヴォンは正直殺されても良かった。

 復讐を遂げさせても良かった。

 けれども言われたのだ「ただ殺されても相手は満足しない。そもそも彼に一方的な復讐を許せば彼はそこで終わってしまうよ。だから精一杯足掻いてほしい。全力でぶつかり傷つけ合い殴り合って、言葉と刃を交してから彼の好きなようにさせてやってくれ」と…。

 だからオイアグロは全力で相手をしている。

 放たれたハドロン砲が肩を掠めて、コクピット側面が多少ながらも焼かれる。

 内部には多少熱気が発生する程度で済み、業火白炎はそのまま突き進む。

 

 『どうした!お前の怒りはこんな程度か!!』

 『―――ッ!?オイアグロォオオ!!』

 

 怒りを露わにして突き進んだ業火白炎の拳がアグラヴェインの頭部に決まる。

 ビキリと罅割れた頭部を気にすることなく、右手のハドロン砲が業火白炎の腹部を捉える。

 回避は不可能と見て発射ギリギリ左足で砲門へ蹴りを入れる。

 ゼロ距離で発射した為にハドロン砲発射機構がへしゃげて爆発し、アグラヴェインは右肘から先が、業火白炎は左脚を失った。

 咄嗟に距離を取りつつ左手のハドロン砲を放つがその手を読んだオルフェウスは回避しつつ七式統合兵装右腕部を展開させる。

 怨嗟の籠った戦いを繰り広げられていても気にする暇もないオルドリンは改めてオリヴィアの技術の高さに驚きつつ、それを超えようと懸命に剣を振り続ける。

 

 『……良い剣を振るう様になったわね』

 「いつまでも昔の私じゃないもの!」

 『そうかしら?昔と変わらずマリーベル皇女殿下に依存している。いつまで言われるがままの人形でいるつもりなの』

 『―――ッ!?』

 

 剣筋が変わった。

 先ほどまでの一振り一振りが美しい軌跡を描いていた剣戟とは打って変わり、命を狩り獲ろうと禍々しさを纏った一撃が悪寒を誘う。

 

 『これが皇族の影として陰惨で凄惨な薄暗い道を歩んできたジヴォン家の剣よ。貴方は私(ジヴォン家の剣)を超えられるかしら』

 「超える…超えて見せる。マリーの為にも!いや、皆の為にも!!」

 

 オルドリンは一刀一刀に想いを乗せる。

 多分これからもマリーに依存した関係は変わらないと思う。

 それでも昔とは違う。

 信頼できる仲間達に知り合ってきた人達。嫌なものも良いものも経験しマリーベルだけだったオルドリンは周りを見渡せるようになり、マリーだけのではなくなった。

 人形のつもりはない。

 もしもマリーが道を違えれば時には支え、時には叱咤して間違いを正す。

 自分にそれが出来なくても皆が居れば出来る。

 

 ルミナスコーンを解除したヴィンセント・グラムルージュは両手で柄を握り締め突っ込んで来る。

 これが最後の一振りとなる。

 そう悟ったオルドリンは自分の全てを二振りの剣に込めて振るった。

 双方の剣が激突し、刀身が砕け散った。

 

 

 柄と鍔だけとなった剣を握り締めたまま膠着しているヴィンセント・グラムルージュの喉元に二振りの剣が向けられている。

 

 『それは仄暗いジヴォン家の剣ではない。ようやく私を超えたのねオルドリン』

 「お母様…私…」

 

 優し気なオリヴィアの声にオルドリンは笑みを浮かべる。

 オリヴィアがシャルル一派に付いたのは皇族の影たるジヴォン家の役割を果たすこともあったのだろうけど、それよりも自分を見極めるためにこうして立ちはだかった。

 歴代のジヴォン家当主と同じ道を歩まないかを見定める為に…。

 

 『エウリアの仇!!』

 

 響き渡ったオルフェウスの怒声に頭上を見上げながらオルドリンは止めないと行けないと飛ぼうとしたがオリヴィアに制止される。

 

 『これは二人の問題。私達が出る幕ではないわ』

 

 確かにそうだろうけれど二人の殺し合う姿は見たくない。

 理解していても納得できずに悶々としながらも見守るしかない。

 オルドリンの気持ちを知らずオルフェウスもオイアグロも己の命をすり減らすように攻撃し合う。

 

 『お前の復讐人はここに居るぞ!』

 『お前は!お前だけは!!』

 

 アグラヴェインが放ったハドロン砲を輻射障壁を発生させる絶対障壁左腕で受け止め、四式熱斬刃を展開させた七式統合兵装右腕部を構えている。

 ハドロン砲の射線から脱した業火白炎は絶対障壁左腕で余波を防ぎながらハドロン砲すれすれを突き進む。

 近接戦に備えて左腕ハドロン砲をパージし、中より現れた手が剣を握る中、取り付けられた合計14発ものミサイルと四連スラッシュハーケンが襲い掛かる。

 障壁で防ぐと爆煙で視界が遮られ、目標を見失ってしまった業火白炎は斬り込んできたアグラヴェインにより左腕を切断されてしまった。四式熱斬刃を振るおうとするも先に剣先が右腕に食い込む。

 

 『勝負あったなオルフェウス』

 『あぁ、俺の勝ちだ。ゲフィオン・ブラスター(指向性輻射波動装置)!!』

 

 業火白炎の頭部より放電したかのような輝きが発せられる。

 ゲフィオン・ブラスターはゲフィオン・デイスターバーのようにサクラダイトに干渉して機能を停止させるような物ではなく、対象のサクラダイトを融解させ破壊するもの。例えゲフィオン対策を施していても効果は無く、直撃を受けたアグラヴェインは強制的に内部から機能を破壊されたのだ。

 飛行能力もなくなったアグラヴェインは業火白炎と共にオルドリンとオリヴィアが乗っているカールレオン級に堕ちた。

 二機ともボロボロでもはや動く事すら出来ないだろう。

 オルフェウスがコクピットより姿を現し、同じく姿を晒し自身の死を受け入れて抵抗する素振りを見せないオイアグロに銃口を向ける。

 トリガーに指が掛かり、憎しみに囚われ瞳が濁る。

 今にも撃ちそうなオルフェウスから目を離さなかった。どんな結果になろうとも目を背けてはいけない。

 ゆっくりとトリガーは引かれ、弾丸は銃口より放たれた。

 

 「―――何故、外したのだ」

 

 弾丸はオイアグロを傷つける事無く飛んでいった。

 銃口を下げたオルフェウスは俯きながらぽつりと漏らした。

 

 「エウリアは…エウリアは復讐なんて望まない」

 

 仰ぐように顔を上げ、目元より涙が零れ落ちるオルフェウスを見つめていると薄っすらと、本当に薄っすらと優し気で幸せそうな笑みを浮かべた女性が寄り添っているように見えた。

 

 「俺の復讐は終わったんだ…」

 

 女性は――エウリアはオルフェウスの言葉を聞き終えると満足そうにすぅーと消えて行ったのであった。


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