コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
今年もよろしくお願いいたします。
と、新年早々一時間の遅刻。
申し訳ないです…。
「皇帝なんて嫌だぁ…」
ソファに突っ伏したオデュッセウスは気怠さ全開で呟いた。
デスクに山積みにされた書類にうんざりとした視線を向け、そっと目を逸らして顔をうずめた。
父上に反旗を翻して計画をぽしゃらせたのは良かったのだけど、そのまま私が皇帝になるなんて聞いていないよ。そりゃあ反乱を成功させれば皇帝の座は空席になる。私はギネヴィアかシュナイゼルが座るものだとばかり思っていたら全員が私を推してくる。結果私が皇帝の座につくことに…。
どうしてと疑問に思ったけれども皇族間のまとめ役が行え、軍部にも技術部にも顔が利き、各エリアからの支持も厚い。
ギネヴィアから説明されて納得した。
そりゃあ皇帝になるよねぇ…と。
――だが、のんびりライフを諦めた訳ではない。今は出来ないだけで…。
「あぁ…眠い…」
最近というか皇帝になってからの一か月は忙し過ぎた。
まずユーフェミアの汚名を雪ぐことも考えて皇帝補佐官として皇族復帰。
勿論反発の声が挙がったが【エリア11で起きた虐殺事件の首謀者はシャルル・ジ・ブリタニアであり、ユーフェミアは知らずに利用されただけ】と公式に発表。理由などはルルーシュと父上様が用意したものをそのまま使ったので説得力が高い。
ルルーシュはゼロとしての仕事があるから黒の騎士団へ。父上は今後の予定があるのでカンボジアへと向かわれ、ユフィの汚名を晴らす――否、汚名を埋める手伝いを行うのは私の役目となった。
ブリタニアとエリアの住民との差別&格差を無くすためのナンバーズと名誉ブリタニア人制度の廃止。
領土を示すためにブリタニア領を最初に付けないといけないが各エリアを番号で呼ばずに国名で表記する事。
各エリアのゲットーの復興事業。
最終決定権はブリタニアが持った各エリアの自治権の回復と防衛隊の創設。
などなど周りからしたらナンバーズびいきと言われても仕方がないが、ナンバーズに不信感を持たれた虐殺事件を塗り替えるとなればこれぐらいやった方が良いだろう。
これらは全部皇帝補佐官のユフィが発案し、私が許可した形で配布した。
実際は私の案なのだけれど別に私の名を売りたい訳でもないし、大事な妹が救われるなら例えナンバーズびいきと言われようがどうでも良く感じる。まぁ、ブリタニア人向けの何かを行わなければならないのも事実だし、その辺はもう少しして考えるとしよう。
あー…そういえばユフィが提案した案が一つあった。
“エリア解放案”
簡単に言うと多数決を取って過半数を超えれば帝国からの独立を行えるというもの。
勿論租界の住人や企業には手出しさせない条約は結ばせた。
多くの貴族が馬鹿なことを――と思っていたらしいが存外に馬鹿に出来ない。
法案を発表すると同時にブリタニアを良く思わないエリアが独立の為の決議を取った。街頭演説で自由な国家を!誇りある我らの暮らしを!と自治代表たちは独立の機運を高めて民衆を独立へと導き、各エリアは瞬く間にブリタニアから独立した。
が、独立したのは良いが廃墟となった街の復興に貧困にあえぐ市民への施しなどなど出来上がったばかりの代表たちにこれらの問題を解決することは不可能だった。お金も無いしね。
そこでどこかの国が縋ったのは合集国。
ブリタニアに匹敵し、ブリタニアを好まぬ国ならば同じ自分達を助けてくれるだろうと…。
結果は満場一致で受け入れの拒否。
何故ならば一国が合集国に入り支援を施せば、他の国も俺も私も僕もと支援を求めて来る。それらすべてを救う事は合集国とて出来ない。
今まで以上の貧困に喘ぐことになった彼ら・彼女らは独立の機運を作り出した代表団を糾弾。怒りを露わにした民衆が暴徒となって租界の裕福なブリタニア企業を襲い出す。
その前に租界のブリタニア市民はブリタニア大使館に退避。各企業は貧困に喘ぐエリアの住民の為に炊き出しや支援を行い恩を売り出した。
最終的に独立したエリアは代表人が入れ替わり、ブリタニアの元に戻ってきた。
反ブリタニア精神を露わにしていたエリアが親ブリタニアとなって帰って来たのだ。
狙ってやっていたのなら策士なのだろうが、ユフィは今まで縛っていたブリタニアから解放されたいのなら解放してあげようとしか思っていないのだから…。
ちなみに優し気に支援を行った各企業への根回しは私が行いました。根回しと言っても助言と支援の半分の資金を払ったぐらいだ。しかし企業のトップたちは強かだったな。暴動が起こって襲撃されるかも知れないと聞いといて「良い企業の宣伝になる」なんて言い出す者も居るんだからなぁ。
「んー…駄目だ届かん…」
ソファの前にある長机に乗せてあるコーヒーを取ろうとしたが手が届かずに諦める。
終えた仕事も多いが終えてない仕事が圧倒的に多すぎる。
このまま寝る訳には行かないのに身体が動かない。
いっその事寝てしまおうかと思いもするが、あとでレイラが怒るのでストップがかかる。
新皇帝となって新しい動きを見せると案の定反対勢力が生まれた。
ナンバーズに差別的な貴族達に私を皇帝と認めたくない旧皇帝派。
私には人望こそあれど、人々の心を鷲掴みにするようなカリスマ性は持ち得なかったという事だ。
父上が動くとそれに呼応して貴族達やその私兵、軍部の一部が帝国から姿を消した。
これに関しては予想通りというか父上が後の憂いを断つために動いたのだけれども……。
“ナイトオブワン”ビスマルク・ヴァルトシュタイン、“ナイトオブツー”オイアグロ・ジヴォン、“ナイトオブスリー”ジノ・ヴァインベルグ、“ナイトオブフォー”ドロテア・エルンスト、“ナイトオブファイブ”オリヴィア・ジヴォン、“ナイトオブナイン”ノネット・エニアグラム、“ナイトオブテン”ルキアーノ・ブラッドリー、“ナイトオブトゥエルブ”モニカ・クルシェフスキーとラウンズのほとんどが専属部隊と共に皇帝に付いて行ったのは痛かったな。
ビスマルクは理解出来る。
オイアグロには
ジノとノネットはシュナイゼルが連れて出て行ったとの報があるのでシュナイゼルの考えによるものなのだろう。
オリヴィアは……本当になんでか分からない。
そして帝国に残るラウンズはアーニャのみ。
スザク君はユフィ復帰と共に騎士に戻らせた。
なんにしてもラウンズやロイヤルナイツも抜けた事で軍部が混乱している。
今はコーネリア達に任せているがあとひと月、いや、二週間と持つかどうか。それまでに掌握したいものだがそこまで手が回らない。ギネヴィアは内政を任せているし、他に軍部や政治に強い弟妹と言えばシュナイゼルとマリーベルだけれどもシュナイゼルは先のようにジノとノネットを連れて理由も告げずに姿をくらました。マリーベルは各エリアのほうを任せて軍までは手が回らないだろうし。
あぁ、やる事が山のようだ。
けど眠い…。
おや、誰か来たね。
ギネヴィアだろうか?それともコーネリアかな?
あぁ、起きないと…でも眠い。
ギアスで状態を―――駄目だ。私のギアスはコントロールしないとどうなるか分かったもんじゃない。
目が覚めたら赤子だったなんてシャレにもならない。
意識が…遠のいていく…。
……シュナイゼル…何処に行ったんだい…。
オデュッセウスはソファに転がったまま夢の中へと落ちて行った。
青空が広がる大空を見上げながらユーフェミア・リ・ブリタニアと枢木 スザクは草をクッションにして並んで横たわっていた。
暖かな太陽の光を浴び、穏やかな気持ちのまま腕を伸ばす。
こつんと指先が隣のユフィに触れると心がホッと落ち着く。
「どうしましたスザク」
安堵した表情を浮かべてユフィを見つめていたら微笑み返された。
くすぐったい程純粋な瞳に魅せられ何処か恥ずかしくなる。
「いや、本当に君が生きていてくれて良かった」
心の底からそう想う。
ブラックリベリオン時に彼女が死んだと聞いた時は我を忘れるほど悲しみ怒った。
ゼロがルルーシュと分かっていても殺そうとするほどに。
彼女が居たから僕は歩き出せた。
光を見出すことが出来た。
父を殺した時から死に場所を探すように自身の命を死地に追いやり、誰かの為に死のうなどと考えていた僕に未来を与えてくれた。
ユフィはそんな大仰なことではないと否定するかも知れない。
それでも僕は彼女に救われ、彼女に惹かれている。
だからそんな彼女を失ってから僕は酷いありさまだった。
ルルーシュの言葉に耳を傾けず、ラウンズ入りを叶える為の手柄として皇帝陛下に突き出した。
白ロシア戦線では今までのような人を殺さない戦いでなく、敵を倒すための戦いを行った。
多くの人間を殺し、僕は屍の上を歩き始めた。
時折夢を見る。
無数の人の死体を築き上げた地に立ち、怨嗟の声が押し寄せて来る。
どうしようもなく耳を塞ぎ蹲り、ぎゅっと瞼を閉じていると肩をポンと叩かれる。
恐る恐る瞼を開けて振り返ると暗闇の中にルルーシュと父さんが立って居て…。
―――よくも儂を殺したな…。
―――よくも俺を売ったな…。
二人の顔を見る事が恐ろして俯くとそこには血みどろのユフィの亡骸が…。
そんな夢を見始めたのは僕の――俺の手が血で汚れ始めてからだ。
否定はできない。
もう僕の手は血で汚れ切っている。
だけどもう汚れる事は恐れない。恐れて大事な誰かを失うのはもっと怖いから…。
神根島からお戻りになられた殿下は何度か見た程度の姫騎士と僕を連れてペーネロペーの一室へと案内された。
どういう意図か把握できないままついて行くとそのまま二人っきりにされ、姫騎士が仮面を外した時には思考が追い付かずに頭が真っ白になった。
優しく僕の名前を呼ぶ死んだはずのユフィがそこに居た。
嬉しさや驚きが一気に高まり、涙が溢れ出して困らせてしまったっけ。
ひとしきり泣いた僕は涙を拭った手を見て彼女に触れる事すら躊躇った。
こんな血に塗れた手で触れていい訳はない。
そんな思いが態度や雰囲気、表情に現れてしまいユフィが気にかける事になった時は、前にルルーシュがお前は感情が顔に出やすいから賭け事には向かないなと言われたのをふと思い出してしまったよ。
ユフィは僕の想いを聞いて困ったように笑い、両手で僕の手を包み込んだ。
やはり彼女は輝かしく眩しい太陽のように僕を照らしてくれた。
こんな僕でも共に居たいと言ってくれるのだから。
心の奥底から思った言葉をユフィはクスリと微笑んだ。
「もう、スザクったらそればっかり。でも私も良かったと思っているの。またスザクと一緒に居られるのだから」
触れた手を握られ彼女の体温を感じながら今のこの幸せを噛み締める。
二度と手放さない様に…。
私、ニーナ・アインシュタインは困惑している。
以前より進めていた帝都ペンドラゴンの防衛手段計画【アイアスの盾】も順調に進み、今は対フレイヤ用の兵装を組み立てている。ロイドさんにセシルさんの手助けも受けながら順調…とは言えないものの何とか理論だけは出来上がった。
その詳細を記した書類を殿下――いえ、陛下にご覧頂こうと来たのだけれども…。
ソファに転がって安らかな寝息を立てているオデュッセウス陛下。
これは書類を置いて帰った方が良いのだろうか?それとも起こした方が良いのだろうか?
でも最近は忙しそうに脱走もせずに籠りっきりってレイラさんが言ってたから相当疲れが溜まってたんだろうし、あんなに気持ちよさそうに寝ているのに起こすのは悪い気がする。
そっとデスクの上に書類を置いて部屋を後にしようとするが、どうしても気になって足が止まってしまう。
そのまま寝るにしてもなにかしら掛け物でもしといた方が良いだろう。風邪なんかひいたら大変そうだし。
デスク前の椅子に毛布が掛かっており、それを手に取ってオデュッセウスが寝ているソファに音を立てない様に近づく。
ゆっくりと起きない様に毛布を掛けるとピクリと反応して横を向いていた顔が上を向く。
あまりに気持ちよさそうな寝顔を見ているとちょっとした出来心から携帯電話を取り出した。カメラ機能へ切り替えてすかさず一枚撮った。
あとでアールストレイム卿かユーフェミア様に見せようとふと思っての行動で、カメラのシャッター音が鳴るのをすっかり忘れてしまっていた。
自分の迂闊さに後悔していると瞼を擦りながら陛下の瞼が開いた。
「あ、あの…お疲れの所すみません。その…書類をデスクにお持ちしましたので…えと」
慌てて携帯を隠しながら本来の要件を伝えるが、寝起きだから焦点があってないのだろう。
眠気眼の陛下は眉にしわを寄せてこちらをじっくりと見つめて来る。
多分だが私が誰だか判別も付いていないのだろう。
むくりと腕が動いたと思ったら頬を優しく撫でられた。
「…おはよう」
「――――っ!!おおおおお、おはようございます」
認識しようとしていたのもあって顔が妙に近い。
一気に身体中の体温が沸騰したかのように熱くなるのを感じる。
こんなところを誰かに見られたら…。
「――陛下。新たなロイヤルナイツのリスト案を……」
ノックして入って来たアールストレイム卿と目が合いお互いに硬直する。
何故陛下の返事もなく入って来たのかとか思ったが私も別に気にせずに入って良いよと言われていたのでそのまま入室したんで人の事は言えない。
そんな事よりこの状況をどういったものかと思考をフルで働かせていると唇に人差し指を当てて静かにしているようにと指示される。
寝ぼけていた陛下はこてりと再び眠ってしまったようだがアールストレイム卿には好都合だったらしい。
ソファに腰かけて陛下の頭を軽く上げて膝の上に乗せる。
流れるような動作に呆気に取られていると携帯を渡され、言われるがまま写真を撮った。
「あのぉ…良いのでしょうか?こんなことして…」
オデュッセウス陛下の事だから別段何も言わないと思うが、これって傍から見たら陛下で遊んでいるとして不敬罪で訴えられるのではと考えが過るがどうなのだろうか?
「――バレなければ問題ない」
「さっきの写真をアップしたらバレるのでは」
「――言い直す。バレても大丈夫」
「いえ、そうではなく…」
「――?あぁ…心配しなくても良い。次は貴方の番」
撫でり撫でりと陛下の頭を撫でていたアールストレイム卿はゆっくりと頭をソファへと降ろし席を譲って来た。
どうしようと悩む間もなく押されるがまま座らされ、そのまま膝の上に陛下の頭を置かれ、緊張のあまり固まるがそれでは絵にならないと手を陛下の頭へと置かされふわりとした感触が掌から伝わってくる。
短いながらもさらさらとしつつ多少癖のある髪が指に微かに絡み、なんとも心地の良い感触を知らず知らずに楽しみ始めてしまう。
気付くとアールストレイム卿に一枚撮られ、自分がやってしまった事に後悔する。
これは不味い。
非常に不味い。
私とギネヴィア皇女殿下は仲が悪い。
ブラックリベリオンで私を落ち着かせる為とはいえ抱き締められた事を知ってか、態度があからさまに威圧的なのだ。
オデュッセウス陛下直属の技術士という事で実害はないが、はっきり言って目が怖い。
あの鋭く冷やかな視線が自身を捉える度に背筋が凍り付く感覚を味合わされるのだ。
もしもギネヴィア皇女殿下の耳にこの事が入れば…。
ゾッとして背筋が震え、今度は体温が下がって行くのを感じる。
「――どうしたの?」
「こ、この事がギネヴィア皇女殿下に知られたら私…」
「――それも問題ない」
震える私に突き出されたアールストレイム卿の携帯画面には私とアールストレイム卿がオデュッセウス殿下を膝枕している画像が掲載され、【皇帝陛下執務室で膝枕の写真撮影中】とサブタイトルが貼られていた。
ほどなくして扉が勢いよく開かれ、よほど急いで駆け付けたであろうギネヴィア皇女殿下が肩で息をしながら姿を現した。
その後は私たちと同じように写真を撮り、見た事の無い穏やかな表情で陛下を撫でながら「私の兄上は~」と自慢話に付き合わされながらお茶をした。
……これは仲良くなれたと思ってよいのだろうか?
入った時より困惑するニーナは満面の笑みを振りまきながら語り掛けるギネヴィアの話を聞きながら相槌を打つのであった。
後日、アーニャのブログを見たオデュッセウスはいつの間に撮られたのだろうと首を傾げるのである。
この調子でいけば早ければ二月後半。
遅ければ三月中旬ごろに終わりそうです。