コードギアス~私が目指すのんびりライフの為に~ 作:チェリオ
18時までに投稿すると書いておいて二時間半も遅れてしまいました。
神聖ブリタニア帝国のカルフォルニア基地には多くの輸送機が待機していた。
中には砲撃戦用ナイトメアフレームのガレスなども含まれている。
サザーランドやグロースター、ヴィンセント・ウォードが輸送機に積み込まれていく様子をビスマルクはただただ眺めていた。
「まさか中華連邦へ攻め入る予定が、防衛線に回されるとは思いませんでしたねヴァルトシュタイン卿」
声をかけられ振り向くとそこにはニタニタと嬉しそうに笑い、ナイフを弄りながらルチアーノ・ブラッドリーが寄って来る。
背後にはナイトオブテン直属のグラウサム・ヴァルキリエ隊の面々が追従している。
ここに集っている戦力はこれより数時間後にはエリア11に向かって行く援軍。
シュナイゼル宰相閣下によれば黒の騎士団は中華連邦と協力して反ブリタニア連合国を誕生させようとしているとか。そうなれば一番に狙ってくるのはエリア11―――日本奪還の可能性が極めて高い。
その為、帝国最強の騎士ナイト・オブ・ワンのビスマルクまで出向くことになったのだ。
すでにエリア11にはスザク、ジノ、アーニャの三人のラウンズが居るというのに二人も向かうという事は前代未聞だろう。
……いや、ラウンズ四人が揃った事はあったな。
確か
「いやはやエリア11とは面倒ですな」
「そういう割には楽しそうだなブラッドリー卿」
「っはは、そりゃあ気兼ねなく人殺しが出来るのですからねぇ」
人殺しの天才…。
ブリタニアの吸血鬼…。
これらは人を殺す事を――命を奪う事に関しては狂気的才能と能力を発揮する事から付けられたブラッドリーの二つ名。
敵にしたら厄介だが味方にすれば心強いという言葉があるが、この場合はどちらにしても厄介と言うべきか。
味方であろうとも盾にするし、射線に間違ってはいれば躊躇わず攻撃するし、動けなくなった味方を有効利用すると言って囮や攻撃手段に用いる事も度々だ。それでも奴がラウンズに居るのはそれだけの力を持っている証。
その実力を持った殺人鬼がほくそ笑んでいるのだ。
敵からすれば嫌なことこの上ないな。
「あまり羽目を外し過ぎるなよ」
「分かってますって。それにしても良いですよねぇ」
「またいつものか?」
「いえいえ……まぁ、人の大事な物を奪えるというのは間違ってないですが、今回はそれ以上に楽しみなんですよ」
「卿が戦闘以外に楽しみにするようなことがあったか」
「えぇ、有りますとも―――なんたって今回の戦場はエリア11。オデュッセウス殿下が贔屓にしている国で私が暴れるんです。そう聞いた時、どんな表情をするのでしょうね?」
大きくため息を漏らす。
犬猿の仲とはこの二人をさす言葉なのだろうなと納得してしまう。
ブラッドリー卿は相手が皇族である事から公言はなるべく控えているがオデュッセウス殿下を嫌っている。どちらも互いの性格が気に入らないのだ。殿下がはっきりと嫌っているのを私も耳にした事があるから確かだろう。
人の命を奪う事に喜びを感じるブラッドリーと戦場でも極力殺さない様に務めている殿下。
「エリア11では水と油というのだったか」
「なにか?」
「いや、その言葉を機内で…特にコーネリア皇女殿下の前では言うなよ」
「勿論。私もそんな理由で殺されたくも、皇族殺しもしたくはありませんからね」
「…輸送機ごと落とされないか不安なのだがな」
呟きながらひと睨みすると、クツクツと笑いながらブラッドリーは踵を返して行った。
視線を輸送機の方へと戻すと、エリア11で騒動が起こるというのなら必ずオデュッセウス殿下は来るのだろうなと思い息をつく。
昔は剣術指南やマリアンヌ様の暇潰しに巻き込まれて接する機会は多かったが、最近では会って話す事すら少なくなっている。
こう思うのは失礼かも知れないが、我が子のように成長を見てきたつもりだ。
だからこそ無茶をするだろうことは容易に想像できて苦笑いを浮かべてしまった。
「……あれからどれくらい成長なされたかな」
もう二十年以上も前になる思い出を思い返し、自分も歳をとったなと実感しながらこの場を後にした。
コーネリア・リ・ブリタニアはオデュッセウスの工廠であるサンフランシスコ機甲軍需工廠【ナウシカファクトリー】に出向いていた。
ギアス饗団を崩壊させた後、何をするかなどまったく考えていなかった。
そもそもがユフィをあんな目に合わせた奴に後悔させてやろうと行動に出たので、ギアス饗団を倒した以上オルフェウス達に協力する理由も無くなってしまった。
何かと不自由な日々ではあったものの意外とあの日々も中々性に合っていたのだなと今では思い返してしまう。
で、どうしようかと悩んでいた所に自身のするべき事を済ませたオデュッセウス兄上が「帰っておいでよ」と言ってくれたのだ。
黒の騎士団と中華連邦が動き出したことでエリア11の情勢も慌ただしくなることだし、姫騎士と合流してほしいと言われれば二つ返事で承諾した。兄上に帰っておいでと言われただけでも嬉しいのに久々に会えるのだから逆に断る理由が皆無である。
しかし、ブリタニアに戻るのなら今まで何をやっていたとか、エリア11の総督が一切連絡なしに職務を放棄した責任を負わなければならない。そうなればエリア11に向かうのが遅れるどころか向かう事すらままならなくなるだろう。
ただ私は運が良いらしい。
ちょうど父上が行方不明となって皇帝陛下不在という状況で私の責任云々は後回しになったのだ。
兄上が姉上に掛け合ってくれたのもあったのだろうが、おかげで私はエリア11に何の気兼ねなしに向かう事が出来る。とは言っても機体を持たぬ私達が行ったところで間に合わせの機体を何処かの部隊から調達しなければならない。
なのでコーネリアはギルフォードを連れ、オデュッセウスの専用機を受け取りに同行したアンナ・クレマン少佐を始めとした親衛隊所属の技術班と共にナウシカファクトリーに出向いている。
出迎えは貴族であり技術者として名を馳せているウェイバー・ミルビルに多くの技術職員達と用意されたナイトメアである。
「ようこそコーネリア皇女殿下。行方不明と伺っていましたがお元気そうで何よりです」
「久しいなミルビル卿。何度か顔を合わせた事はあったな」
軽い挨拶を済ませた二人は並び立っている機体へと向き直る。
「それでこれが殿下より用意しておくようにと言われた機体です」
「ランスロット―――の量産機か?」
「はい。ランスロットをベースに量産機として試作されたランスロット・トライアルより開発されたヴィンセント。それの指揮官型をコーネリア皇女殿下仕様に調整・改修したものとなっております」
色合いは赤みがかった紫色をメインカラーに純白のマントを羽織ったヴィンセントに、黒みがかった紫色をメインカラーに黒いマントを羽織ったヴィンセントが並んでいた。
「兄上が私の為に…」
「誰のとは申されませんでしたが皇女殿下が使っておられたグロースターと同色の機体を用意させていたという事はそう言う事なのでしょうね」
「もう一機のほうは?」
「黒みがかった紫色はギルフォード卿にと」
「私の機体まで!?―――いえ、姫様を護るためにですね」
嬉しそうに機体を見上げるギルフォードより前に出たコーネリアはオデュッセウスが用意させたヴィンセントに触れる。
皇族機としては装飾が少ない気はするが、そこまで装飾に拘らない兄上らしい感じでどこか安心してしまった。
そして奥にある武装に目を惹かれた。
「ミルビル卿。あの槍は?」
「銃と槍の機能を合わせた
「やはりか。それならば扱い方は心得ている」
ジークフリート改との戦いで使った槍。
合流した際に兄上から受け取り使用して使い方は理解している。
その事を思い返し、一言呟くとミルビルは納得して大きなため息を漏らした。
「試作品を持って行ったと思えばそういう…」
「他にも何か武装が組み込まれているのか?」
「残りの武装は一般的なヴィンセントと何ら変わりません。強いて言うなら打突武装ニードルブレイザーの位置が変わっている事ぐらいですか」
話を聞き終えたと言わんばかりにコーネリアは頬を緩めつつ振り返った。
振り向かれたミルビルはその笑みに何かしらやらかす前のオデュッセウスと重なって嫌な予感を覚える。
無茶ぶりはないと信じたいが何かしら面倒ごとが起こると予想がつく。
「今すぐ慣らし運転をしたいのだが?」
「やはりですか…」
「どうせなら模擬戦形式で……」
「皇女殿下。慣らしはまだ良いですが模擬戦となると場所と相手が――」
「相手をせよギルフォード」
「イエス・ユア・ハイネス!」
「話を聞いてはくれぬのですね…」
とても大きなため息を吐き出したミルビルは諫めるのを諦めて、試験場の一角を用意するように職員を走らせる。
さらに破損させるのは
エリア11に向かう輸送機に間に合わすために修理や再設定などの後の作業の事を考えると徹夜かと項垂れるミルビルを他所に、コーネリアもギルフォードも嬉しそうに自分の愛機に搭乗するのであった…。
ペーネロペーにあるオデュッセウスの自室にてV.V.はこれまでの社会での流れや情勢、出来事を知ろうと色んな情報デバイスより知識を収集していた。
本当に記憶を失った少年なのかと疑いたくなるような様子なのだが、ルルーシュやシュナイゼルも同年代ぐらいでやろうと思えば出来ただろうからと無理に納得させる。
目を覚ましたV.V.は記憶を失っていた。
それも自身の母親が亡くなる以前にまでだ。
つまり眼前のV.V.はギアス饗団どころかシャルルが皇帝になった事すら知らないのだ。
これらの原因は頭部の大怪我を直そうと
見た目通りに幼くなってしまった伯父上様なのだけれども、どう扱って良いのか…。
まんま子供として扱えば良いのか、今まで通りに扱った方が良いのか。
いっその事、脳に集中して力を使って最近までに戻すかだが、この場合は伯父上の危険度が今の何千倍は跳ね上がる。それ以上に脳だけとなると直接触れる事になるので勘弁こうむりたい。
「
「……え?あ、はい、なんでしょうか?」
V.V.から呼ばれた事のない呼ばれ方に一瞬戸惑って返事が遅れてしまった。
すでに伯父上には父上に何があって何をしようとしているのか伝えてある。
皇族争いで母親を亡くし、嘘にまみれたこの世界を嘘の無い世界にしようとしている事。
生と死に関係なくすべての人の心と記憶が集まる
その為に必要な遺跡を手中に収める為にも戦争を起こして植民地にしている事。
計画が完遂したら死者にも会えるという事で子供がそこに居ても戦争を仕掛けるほどの非情な選択を行えるようになっている事。
伯父上が計画の邪魔になると判断して父上が一番愛し、計画にも参加していた女性を殺め、嘘をついて隠そうとした事…。
話した…。
話してしまいました。
伯父上は最初は信じられないと言った風に聞き、色々な情報を知識として飲み込んで行くと一つ一つ納得していった。
あの反応からして幼いとは言え伯父上なんだ。
予想だけれども伯父上は父上の計画に同調し、それを望んでいる。
「オデュッセウスさん。ボクは貴方の意見を聞きたい」
「私の意見……ですか?」
「あぁ、そうだよ。オデュッセウスさんはどんな未来だと良いんですか?」
そういわれて真っ先に思い浮かんだのは自身が幼い頃より想い描いていた未来だ。
平和な日常を、ゆっくりとした生活を…。
「皆が皆、笑ってゆったりとした日々をのんびりと過ごしたいですねぇ」
クロヴィスとライラと共に美術館巡りしたり、シュナイゼルやルルーシュとチェスを打ったり、ギネヴィアとコーネリアは大きくなってから頼る事も多かったから今度は思いっきり甘やかしてあげよう。
カリーヌやナナリー、パラックスにキャスタール、カリーヌともしたい事ややりたい事はあるんだ。
他にも友人関係となった皆とも…。
「強いて言うなら争いの無い世界ですかね」
想いを文章化出来ずに苦笑いを浮かべつつ答える。
すると伯父上はニヤリと微笑んだ。
「シャルルとボク…が作ろうとしている世界は憎しみも争いもない世界だ。それは貴方が思い描く世界に通じる筈だ。だから―――」
「違いますよ伯父上」
言葉を遮るように否定する。
私の望むものが父上たちと同じとは絶対に認めない。
なにせ私は過去でなく未来を求めている。
伯父上や父上の計画とは真逆。
「私は―――私は自分に都合のいい優しさだけの世界なんて求めておりません。
確かに人と人は完全に分かり合えない。
人は自分が持っていないものに興味を示し、欲し、妬み…そして争う。
父上様や伯父上様の御母君もそういった争いの中で死んだのは重々承知しています。
でも、私はお二人の理想とする世界を否定する。
十人十色…千差万別…人は人の数だけ違いがあり、意志を持っています。
中には衝突してしまう者や生理的に受け付けない者も居ります。私にも毛嫌いする者がいますしね。
だからこそ私は良いのだと思うんですよ。
嫌いな人間も居れば、違うからこそ愛せる者も居るんです。
その…えっと…何が言いたいかというと…うーん…」
何を言おうとしていたのか分からなくなったオデュッセウスは頭を捻って考えをまとめようとする。
想っている事、考えている事を真っ直ぐ言葉をこうも組み立てて話すのは苦手だ。
ルルーシュやシュナイゼルなら上手い言い回しで相手の心を鷲掴みにするように言えるのだろうが…。
一人うんうんと唸っているオデュッセウスにV.V.は眉を潜める。
「ではボク達の理想は間違っていると思うかい?」
「いいえ、それもそれで一つの答えでしょう。
私が想っているのも伯父上達が想っているのも結局のところ各々の我儘を誰かに押し付けているだけなのですから」
己の意志を貫くのであれば相手の主張を捻じ曲げなければならない。
そう思っていたV.V.は面食らってしまう。
「否定しないんだ。でも邪魔するんだよね」
「ですね…」
「ボクは邪魔する者にはどうしたのかな?」
「……容赦なく排除してましたね」
「君はどうするのかな?」
「私には伯父上のような事は出来ません。ですから―――」
オデュッセウスは正座をして姿勢を正し、床に手をついて頭を深々と下げた。
自分には相手を排除してまでも事を貫くことは出来ないのは理解している。だからこうしてお願いするしかないのだ。
「お願いです伯父上。
どうか私の―――私が愛している皆の未来を―――どうか…どうか奪わないで下さい」
深々と土下座をするオデュッセウスをV.V.は見下ろし、ぼそりと「そっか…君も兄なんだね」と一言漏らした。
どこか悲しそうで後ろめたそうな声色に顔を伏したままだったオデュッセウスはつい顔を上げてしまった。
辛そうで泣き出しそうになっている伯父上と目が合い、ふいっとそっぽを向かれる。
ごしごしと袖で拭う仕草を見てポケットよりハンカチを差し出す。
無言で受け取られたハンカチで目元を拭い、目元は赤いままニコリと笑みを浮かべて振り向いた。
「兄弟って本当に良いものだよね」
「えぇ、私もそう思いますよ」
心の底から微笑み合った二人はクスリと笑った。
V.V.は大きく息を吐き出し困ったような表情を浮かべるが、すぐさま真剣な表情で正面から見つめる。
「―――分かったよ。
ボクは兄としてシャルルを止めるよ。決して嘘のない世界を否定する気はないよ。でも結果的に同じになってはボクはボクではなくなり、シャルルはシャルルでなくなる。そんなのは嫌だからね。ボクはボクでシャルルはシャルルだ。だから止めるよ」
「…伯父上」
「けれどボク自身にシャルルを止める術はない。だからオデュッセウスさん!ボクに力を、一緒にシャルルを止めて欲しい!」
オデュッセウスは大きく頷き、伯父上―――V.V.より差し出された手を握る。
弟妹や
――――例えどんな結末になろうとも…。
「ところで伯父上の本名って何なんですか?」
「………あれ?」
「え?」